第328話カナリスの街 part1

328.カナリスの街 part1






オークの巣を殲滅してから次の日、ノルの村にお邪魔させてもらい、約束の干し肉をもらったり香辛料の種類と食べ方を教わったりと忙しく過ごしていた。

そんなオレ達を村人達は最初こそ遠目に見ていたが、旅人が珍しいのだろうか、害が無いと分かると子供から老人まで色々な人か話しかけてくる。


「兄ちゃん、ストロの実を持ってきたけど食うか?」「良いんですか? 頂きます。ありがとうございます」


「オレ、エルフと獣人って初めて見た。ねぇねぇ、耳触って良い?」「ハハハ……良いけど引っ張らないでね……」「おお、良いぞ。獣人の耳は全種族で一番良く聞こえるんだ!」


「最近、ボアが良く出てねぇ。畑を荒らして困ってるんだよ……」「あー、後で近くを見てきますよ。もし、見つけたら駆除しておきますね」「悪いねぇ」


こうしてオレ達は村人に歓迎?されていたのだが、魔族のラヴィだけは村の若者から求愛を受けており、ラヴィの前には数人の列が出来ていた。


「旅は大変だろう。よかったらオレの所に来ないか?」「ん? 武者修行の旅だからな。楽な旅では修行にならん。それと何故お前の所に行かなければならんのだ……意味が分からん」


「アナタみたいな綺麗な人は初めて見ました。僕とこの村に残ってくれませんか?」「そうか、私は綺麗か……やはりカズイやアルドに私の魅力を認識させんとな……くっくっく……それと、村に残るとかお前は何を言っているんだ」


「おい、お前、オレが貰ってやる。一緒にこいよ」「ん? お前にやる物など無い。勝負ならいつでも受けて立つぞ!」


横にいたので全て聞こえていたのだが……ラヴィさん、何と言うか……もう少し断り方って物があると思うんですけど……

断られた男達は振られる以前の話に、肩を落としながらうなだれて家に帰って行く。


その煤けた背中を見ながら村の女の子達は、意地の悪い顔でニヤニヤと笑っているのが酷く印象的だった……






オレ達は村人から思った以上に受け入れられ、村長から村の外れに空き家を用意してもらえた。

そうして結局、なんだかんだで5日間も長居する事になってしまい、その間ボアを退治したり香辛料を摘んだりと、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす事ができたのだった。


アルジャナを旅発って既に1年ほどが経つ事になる。手探りの旅が続いて、自分で思っている以上に心も体も疲れが溜まっていたようだ。

こうして、この5日間の休みは、旅を始めてから初めてとった、しっかりとした休息となったのだった。


しっかりとリフレッシュさせてもらい、いよいよ村を旅発つ日の事。


「皆さん、ありがとうございました」

「本当に行くのかい? アンタ達がいてくれたら色々とありがたいんだけどねぇ……」「寂しくなるなぁ」「ボア退治、ありがとね。助かったよ」「また近くに来る事があったら寄ってくれ。歓迎するぞ」


オレが代表で挨拶をすると村人は惜しんでくれたが、ここに残るなんて出来るわけもなく……

恐らくオークの巣をタダ同然で討伐し、ボアの駆除も快く引き受けてくれる。


粗暴でも無く横柄な態度も取らないオレ達に、打算も多分に含んで言ってるのだろが、惜しんでくれるのは素直に嬉しかった。


「近くに来る事があれば、また寄らせてもらいます。ありがとうございました」


そう言ってオレ達は村を後にして、当面の目的地であるカナリスの街を目指していく。






先ずはカナリスへ向かって、ティリシアの冒険者登録をして旅の路銀を貯めなくては。

ノルからオークの巣討伐として、報酬の干し肉はもらったが、量はせいぜい2週間分と言う所である。


肉以外にも買い足したい物がある以上、気持ちは急くが、カナリスの街で路銀を稼がないと旅も立ち行かなくなってしまう。


「さぁ、カナリスの街向かいましょう。着いたら冒険者登録ですよ」

「そうだね。たしかこっちはABCDEFGで上がって行くんだったよね?」


「あー、それはフォスターク王国の冒険者ですね。ティリシアではどうなんでしょう?」

「国によって違うの?」


「そうですね。冒険者ギルドはそれぞれ各国家の下で運営されています。国の管理から外れた国家をまたぐ組織なんて、流石にどこの国も許さないですから」

「そっか……アルジャナとファーレーンも別々だったし、そりゃそうだよね」


「それにフォスタークでは冒険者ギルドの運営は、その土地の領主からの支援が大きかったはずです。ですのでCランク以上は緊急時の強制依頼を断る権利を持っていません。それと領によって治安維持への予算配分が違うので、同じ依頼でも領によって報酬が全然違うそうですよ」

「なるほどねぇ。土地によっては騎士団に多く予算を振り分ける所もあるって事か……」


「そうです。騎士団の方が細かな命令を出せますから。但し、大きな騎士団には固定費もそれだけ大きくなってしまいます。魔物の討伐だけであれば冒険者ギルドへの支援の方が、安くつくみたいですね」

「結局、最後はお金かぁ……」


そう言って呆れるカズイに、オレも頷いて返しておいた。

確かに現実は予算で決まるのだろうが、カズイと同じでオレにも割り切れない思いがあるからだ。


魔法がある世界でも最後は予算……何とも夢の無い話である。






ノル達の開拓村を出て5日。最初は獣道のような街道も、今では馬車が通り過ぎる事が出来るほど広くなっている。

街道のずっと先には城壁にらしき物が見えるので、恐らくあれがカナリスの街なのだろう。


「たぶんあれがカナリスの街っぽいですね」

「やっとだね。到着したら冒険者登録をして次は情報収集かな?」


「そうですね。後は長期滞在用の宿も探さないとですねぇ」

「そっか。長期なら家を借りても良いかもよ?」


「そうか、その方が安くあがるのか……」


暫く考えてからカズイに改めて聞いてみた。


「家を借りるとして、どうしても毎日の手入れが必要になります。僕は人並に片付けはしますけど、カズイさん達はどうですか?」

「僕も片付けはするけど……」


カズイはそう言ってラヴィとメロウを微妙な顔で見つめている。

あー、分かりました。もう何も言わなくても大丈夫です。確かにここまでの旅では、片付けは主にオレとカズイの仕事だった。


カズイが言いよどむと言う事は、きっとそう言う事なのだろう。


「分かりました。なるべく安くて綺麗な宿を探しましょうか」

「うん。それが良いよ!」


万が一、家を借りたりすれば、自分の負担が恐ろしい事になると思ったらしく、カズイは満面の笑顔で頷いたのだった。






特に急いだりはしなかったが、普通に歩いて昼過ぎにはカナリスの城壁に到着した。

オレ達の前には商人達の馬車が数台並んでおり、門番に1台ずつ積み荷を確認されている。


当初はじっと検査の様子を見ながら並んでいたのだが、荷馬車はまだまだ何台もあり まだだいぶ時間がかかりそうだ。

オレ達は相談した結果、検査が終わるまで門の横に移動して座って待っている事にした。


そんな様子を見た門番が申し訳なさそうに声をかけてくる。


「すまんな。オレ達もサッサと通してやりたいんだが、規則でな」

「いえ、分かってますから大丈夫です。お仕事頑張ってください」


門番は片手を上げて踵を返すと、馬車の荷物検査に戻って行く。

そんなオレ達のやりとりを見た商人の1人が、興味深そうに話しかけてきた。


「すみませんねぇ。お待たせしてしまって」

「いえ、しょうがないですよ。誰かが悪いわけじゃ無いんですから」


オレの答えが予想外だったのか、少し驚いた様子で更に話しかけてくる。


「冒険者の方ですよね?」

「はい。そうですが、何か?」


「いえ、普通は「遅い」だとか「何か寄越せ」だとか言われる方が多いので少し驚いてしまいました」

「あー、分かります。僕もよく絡まれますから……」


商人は少し笑ってから、気さくに話しかけてくるようになった。

どうやら因縁でも付けられ無いかと警戒していたようだ。


馬車の荷の検査が終わるまでの間、商人と話をしていたのだが、どうやらこの商人はティリシアでも中堅の商会に所属していて、他国まで商品を運ぶ事もあるそうである。

思わずフォスタークへ行く予定はあるかを聞いたが、先ずはティリシアの王都へ移動して荷物を積み替えるそうだ。


次の目的地は、王都で荷物を納めてから改めて決めるそうで、今の時点では不明なのだとか。


「そうですか……残念です」

「フォスタークへ行きたいのですか?」


「はい、フォスタークのブルーリング領へ帰りたいんです……ただ、道が分からなくて」

「ん? ここまで来た道を戻れば良いのではないですか?」


「あ、少し事情があって道が分からなくなってしまったんです」

「なるほど。であれば、ここカナリス領の隣のザージバル領へ行かれれば良いかと。恐らくグレートフェンリルまで行く商隊が最後の補給に立ち寄るはずですから」


「フォスタークに行くには、先ずグレートフェンリルに向かえば良いのですか?」


オレの質問に商人は眉根を寄せて、訝し気に聞いてくる。


「道には明確な目的地があります。ここからフォスタークへ直接向かう道はありません。ティリシアからグレートフェンリル。次はドライアディーネ。そしてフォスタークへと移動するしか方法は無いと思いますよ」

「グレートフェンリル……ドライアディーネ……そしてフォスターク……」


オレがぶつぶつと独り言を話していると、商人は呆れたように話を続けた。


「ここティリシアまで来たのなら当然、他の国も通って来たのだと思いましたが……何やら訳がありそうですな」

「あ、はい……詳しくは言えませんが、今は手探りでフォスタークを目指している状態でして……」


「僭越ながら少しだけお話を……我々、商人も道に迷う事はあります。そんな時はどうするか……これは私が先輩から聞いた話ですがね、同じ質問を別々の3人に聞くのです。3人が同じ事を言えばそれは正しい。2人が同じ事を言えば、1人は嘘をついている。3人がバラバラの事を言えば質問がおかしい、と……」

「なるほど……1人の言う事を信じ過ぎるなと言う事ですか」


「そうですね。それもありますが、重要なのは3人がバラバラの場合です。先ほど質問のようにフォスタークへの行き方であれば、人に寄ってはグレートフェンリルと答える者もザージバル領と答える者もいるでしょう。自分にとって欲しい情報は正しい質問によって得られると言う事です」

「なるほど。納得できる話です」


「いえいえ、差し出がましい事を。さて、そろそろ検査も終わるようです。私はこれで失礼させて頂きますね」

「勉強になりました。それと色々な情報を頂いてありがとうございました」


商人はニヤリと笑って商隊へと戻っていった。

思わぬ所で情報を得る事が出来た。ザージバル領……必要ならそちらで路銀を稼いだ方が良いのかも知れない。


どちらにしても先ずは冒険者登録をして情報を集めなければ。

手に入れた情報に頭を悩ませながらも、先ずはカナリスに入ろう……オレは瞬時に頭を切り替えると、人の良さそうな門番へ話しかけたのだった。





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