第327話オークの巣

327.オークの巣






朝食も食べ終わり、ノルやカズイ達に声をかけた。


「今からオークの殲滅に行くんですが、討伐の確認はどうしましょうか?」

「討伐の確認?」


「はい。今回の依頼はギルドを通すわけではありません。本当にオークを倒したかは、僕の言葉だけになってしまいますので」

「あ、そっか。今回はノルさん達からの直接依頼になるのか。直接依頼は依頼者が確認するのが普通だけど……どうします?」


カズイが話を振ると、ノルは眉を寄せて難しい顔で答えた。


「同行して確認したい所だが、私ではオークから自分の身を守る事は出来ない。全てが終わった後で確認に行くのも生き残りがいる可能性がある……」


ノルが言うように、ただの猟師ではオークを討伐したかの確認は難しいだろう。

一般的に直接依頼は、領主や大商会がお抱えの冒険者に対して行う事が殆どだ。


魔物数匹程度であれば、人の好い冒険者が討伐したと言う話を聞く事はある。

しかし、ある程度育ったオークの巣を、無償に近い金額で討伐する者など普通はいるはずが無い。


それ故、今回のようなケースはレアケースであり、ノルも自分で確認するのは難しいと言っているのだ


「大丈夫だ。私達が護衛していけば何の問題も無い!」

「ちょっと待ってよ、ラヴィ。僕達でも見学は危ないんじゃないの?」


「カズイ、この2年弱、アルドに鍛えてもらっただろう。私達ならオークの5匹や6匹どうとでもなる」

「それはそうだけど……アルド、どう思う?」


2人の言う事はどちらも正しい。どこまで安全マージンを取るかと言うだけの話なのだ。

であれば、これはオレが口を出すのは違うだろう。


「カズイさん、ラヴィさんの言うように、カズイさん達には見学であれば同行する実力はあると思います……」

「ほら見ろ!さっそk……」


「但し!ラヴィさんも言ったように、処理出来るのはオーク5、6匹が限界でしょう。ましてやノルさんと言う護衛対象もおり、僕も巣の討伐中は助けに向かう余裕は無いと思います」

「……」「そうだよね……」


「ですので僕はカズイさん達の判断に任せます。最悪は殲滅した後に、もう一度ノルさんを連れて行けば良いだけですから」


カズイもラヴィも何も言わずに、お互いの顔を見てからメロウを連れて小屋から出て行った。

きっと外でどうするのかを、3人で相談しているのだろう。


「彼等は巣の討伐には参加しないのか?」


いきなり話しかけられて少し驚いてしまったが、ノルは探るように聞いてくる。


「そうですね。巣の討伐は僕1人で行います」

「そうか……」


少しだけ打ち解けつつあったノルの眼に、再び警戒の色が浮かんできたのをオレは見逃さなかった。






10分ほど経ってから、再びカズイ達は小屋に中に入ってきた。


「アルド、2人と相談したんだけど……巣の討伐を見学させてほしい」

「僕は構いませんが、良いんですか?」


カズイはバツが悪そうに、ラヴィとメロウを覗き見てから口を開く。


「ラヴィとメロウに言われちゃった……僕は少しアルドに頼り過ぎてたみたいだ。確かにアルドと僕達では実力が全然違うんだけど、心構えだけは対等で無いとそれはパーティとは言えないって2人に諭されちゃったよ」

「……」


「それで客観的に自分達の実力を考えてみたけど、見学だけなら付いて行けると思うんだ。だから同行させてほしい」

「分かりました。カズイさん達が自分で決めた事なら僕は何も言いません。ノルさんもそれで良いですか?」

「私はお願いする立場だ。断る理由が無い」


こうしてオレが巣の討伐をして、カズイ達とノルが見学する事に決まった。

因みにラグは、この小屋でキキとククと一緒に留守番である。ホッとした顔をしていたのは見なかった事にしようと思う。






オークの巣を目指して1時間が過ぎた頃、何匹目かのオークに遭遇した。

騒ぎになっても面倒なので、オレはバーニアを吹かすと首を薙いで一瞬で始末していく。


「これで3匹目です……そろそろ巣が近いみたいですね」


オレの言葉にカズイ達とノルは、言葉を出さずに小さく頷いている。

そこから5分も歩くと森が大きく切り開かれており、沢山のオークが原始的な建物を建てていた。


一通り全体を覗いてから”後退”のハンドサインを出すと、全員がゆっくりと下がっていく。


「あの巣の大きさなら、オークは30~50匹ぐらいでしょうかね?」

「それぐらいかな……ねぇ、本当にアルド1人で倒せるの?」


ここにきてカズイは心配になってきたようだ。


「大丈夫ですよ。上位種がいなければ問題ありません。それよりも皆さんはどこで見学してもらうか……」

「うーん、隠れられそうな場所は無さそうだね」


考えた結果、オレの案を交渉するべくノルに話しかけた。


「ノルさん、これから見る出来事を、誰にも他言しないでもらいたいんですが約束できますか?」

「む? もしかして毒でも使う気か? ここは村の水源にもなっているんだ。そんな事は許せない!」


「いえ、毒なんて使いませんよ。これから僕の使う技術を誰にも言わないでほしいだけです」

「技術……秘伝の技術か何かか……分かった。その代わり、森に影響が出るような物は使わないと約束してくれ」


「分かりました。森には何もしない事を約束します」


オレが何を言いたいのかカズイ達は途中でピンときたらしく、呆れた顔でオレとノルを見ていた。


「では皆さんを運びたいんですが、カズイさんから良いですか?」


オレのいきなりの言葉にもカズイは苦笑いを浮かべながら口を開く。


「ハァ、良いよ。でもなるべく大きな枝が良いな。万が一落ちると死んじゃうから……」


流石カズイだ。オレが何をしようとしているのか言葉にしなくても理解している……まぁ、旅の途中でも、何度か木の上に避難してもらったことがあったから分かったのだろうが。

それからカズイ>ラヴィ>メロウの順番で、空間蹴りを使い大木の枝へと運んでいった。


その間、ノルはと言うと大口を開けて固まっており、何も言葉を発する事は無い。


「次はノルさんの番ですよ」


動き出す様子が無かったので、そのままノルを担いで空を駆けあがりカズイ達へと渡してきた。

今は木の上からギャーギャーと声がするので、必死にカズイ達が宥めているのだろう。


これで準備は整った……このまま巣に正面から突っ込んでも良いのだが、これ以上やり過ぎるとノルが怖がって逃げ出しそうである。

であれば、今回はなるべく隠密での戦闘で倒して行く事を決めた……断じて隠密戦闘を試してみたかった、なんて理由では無い。


早速、気配を極限まで殺し、地面スレスレを空間蹴りとバーニアを使って移動していく。

殆どのオークは背後から首を落とされた事に気が付く事は無く、稀に気が付く者も声を出す前に投擲で確実に殺していった。


改めて思うが、無音で気配を殺して高速移動してくるとかサイレントキルじゃないか……オレがやられる方だったとしたら、こんな恐怖は無いだろうな……あ、恐怖を感じる時には死ぬのか……

そんな緩い考えの間にも、オークの死体はどんどん増えて行く。


ここで問題が発生した……100キロを軽く越すオークの死体をいちいち片付けてなどいられるわけも無く、当然ながらとうとうオークに見つかる事になってしまった。


「ガァァァ!ゴア、ブホブホ。グァァァ!」


いきなりオークの叫び声が辺りに響き渡る。

何を言ってるのかは全く分からないが、何故かこれが言葉なのだとハッキリ感じられた。


「見つかったか……ここまで数を減らせたんだから及第点かな」


独り言を呟いてから、先ずはは500メードの範囲ソナーを打った……オークの残り17匹。その内、上位種は1匹だ。魔力の大きさからオークウォリアーかファイターだろう。

各個撃破でも良いが正直面倒臭くなってきた……オレは中央の建物の上に空間蹴りで駆け上がると、オークに聞こえるよう大声で叫んだ。


「オレはここだ!待っててやるから集まってこい!!」


オークに言葉など通じるはずもないが、挑発された事は分かるらしく怒りのボルテージを上げたオークがみるみる集まってくる。

カズイ達をチラッと見ると、何故かラヴィがロープを使って枝から降りようとしており、カズイとメロウが必死に止めているのが見えた。


何をやっているのか……聞こえなくても状況が手に取るように分かるので、後でラヴィにはキツイ修行メニューを用意しなければ。

そんな中、生き残ったオークが怒りに震え雄たけびを上げている。


相手もバカでは無いので恐らく先に上位種を倒すと、残りのオークは恐怖で逃げ出してしまうだろう。

いたずらにオークを散らせると、後々ノル達に被害が出ないとも限らない。


であれば、先にノーマルオークを倒して、最後に上位種を倒すのがベストなはずだ。

オレはウィンドバレット(魔物用)を10個纏うと、オークの中へ吶喊していく。


オーク達はみるみる減って行く仲間に恐怖を張りつかせていたが、上位種がいるからだろう、最後の1匹まで逃げる者はおらず、勇敢に戦って散っていった。

魔物とは言え、その勇気には少しだけ敬意を払いたいとすら感じられてしまう。


そんな中、最後に残されたオークウォリアーは、何を考えているのか武器の大剣も放り出して逃げ出したのだ。


「お前が逃げ出すのか……それはダメだろう?」


人の世でもある事とは言え、責任者が責任を放棄して逃げ出すなんて……少しだけ散ったオークに同情しながら、逃げるオークウォリアーの背中に魔力武器(大剣)を突き入れた。

オークウォリアーの眼は驚きに染まっていたが、空間蹴りにバーニアを吹かせばオークの逃げる速さなど止まっているのと変わり無い。


こうして全てのオークを倒して巣の殲滅は終了したのだった。






カズイ達とノルを木の上から降ろして、オークからは魔石を取らせてもらった。

建物を再利用されてまた巣を作られても困るので、森に飛び火しないように気をつけながら全ての建物を燃やしていく。


「ノルさん、約束通りオークを殲滅しました。街までの道を教えてください」

「わ、分かった。約束は守る……お、お前は最近噂になっているリベンジャー『復讐者』なのか?」


復讐者? 魔族の上位精霊グリムには何かしらやり返さないと気が済まないが、そんな事を誰かに話した覚えは無い。


「僕はそんな呼ばれ方をした事はありませんよ。人違いじゃないですか?」

「そ、そうか……最近、隣のザージバル領に空を飛べる冒険者がやってきたと、噂になっていたからな……てっきりお前の事かと勘違いしてしまった」


「人が空を飛べるんですか?!」


オレが驚きながらノルに聞き返すと、訝しそうな顔で返されてしまった。


「何故、お前が驚くんだ? お前も空を飛んでいるだろうが……全く、意味が分からん」

「いえ、僕は空を歩いてるので……どんな理屈で飛んでるのか興味があります」


「ハァ、オレは噂で聞いただけだ。グレートフェンリルから流れてきた冒険者が空を飛んだってな」

「そうなんですか……」


「そう言えば種族は魔族だって聞いたな……」

「魔族ですか……因みに復習者ってのは?」


「何でも人を探しながら世界中を旅しているそうだ。探している相手は男らしいからな……よっぽど恨みがあるんだろうって話だ」

「なるほど……それは怖いですね」


「オレはそれ以上は知らない。気になるなら自分で調べるんだな」

「分かりました」


こうしてきな臭い噂を聞きながらも、オークの巣の殲滅は無事に終わった。

空を飛ぶ魔族……一瞬、懐かしい顔が浮かんだが、空間蹴りの魔道具は3ヶ月の縛りがある。


ここまで来られるはずは無い、と頭を振って考えを振り払った。





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