第311話グラン家 part1
311.グラン家 part1
お父さんとお母さん、お師匠と一緒に、お義父様からカシューとの戦争の話を聞かせてもらった。
ボクがふさぎ込んでいる間に色々な事が大きく動いていたようで、自分だけ取り残されたような感覚を感じている。
そして先ほどのグラン家の話を考えていると、いつの間にか領主館の中にあるボクの部屋に到着していた。
「アシェラ、悪いがお前の部屋を使わせてもらうぞ」
「うん」
部屋に入ってボクとお母さんが一緒にベッドに座り、お父さんは椅子に座ると苦い顔で口を開く。
「ルーシェ、さっきのヨシュア様の話、どうするつもりだ?」
「……橋渡しは受けるつもり。その上でクリス兄様にありのままを話すしかないでしょうね。グラン家には3つの道しかないって……」
「『騎士爵を奪われてブルーリングで回復魔法使いとして生きていく』か『騎士爵家として開拓に従事する』……そして『カシューの民として、ヴェラの街を奪われてカシューの街へ逃げ落ちる』の3つ……ブルーリングにも他の騎士爵家がある以上、無理を通せない事は分かるが……こんな時にアルド様がいれば……」
「ハルヴァ!」
「あ、すまない。そう言うつもりじゃ無かったんだ」
「大丈夫……アルドは絶対に帰ってくる。ボクはアルドを信じてる」
「そうか。強くなったな、アシェラ……」
そう言って安心したようなお父さんの顔が酷く印象的だった。どうやら色々な人に心配をかけてしまっていたらしい。
ボクはアルドの妻、アシェラ=ブルーリング。アルドのいない今だからこそ、ボクが頑張らないと……
「開拓はボクも手伝う」
「手伝うって……まさか魔の森に住んでグラン家を助けると言うのか?」
「違う。領主館から魔の森のマナスポットへ飛んで毎日通えば良い」
「それは……グラン家に全てを話さないといけなくなる。ヨシュア様がお許しになるか……」
「お師匠に相談してみる」
ボクには難しい事は分からない……お父さんとお母さんを部屋に残してボクはお師匠の部屋へと向かった。
「お師匠、アシェラです。少しお話があります」
「開いてるわ、入って頂戴」
お師匠の許しを得て部屋に入ると、お師匠は珍しく机に座り手紙を書いている。
ボクが物珍しそうな顔をしているのに気が付き、お師匠は苦笑いを浮かべながら話し始めた。
「これはね、昔の知り合いにアルの特徴を書いた手紙を送ってるのよ。見つけるのは難しいのは分かってるけど念の為ね……」
そう言うお師匠からは普段のフザケタ感じは感じられない。思えばお師匠も辛いはずなのに、ボクは自分の事だけで……
改めてお師匠の強さと優しさを感じる事ができた。
「それで用事は何かしら? さっきのヨシュアの件なのは見当は付くけれど」
「ボクも開拓に参加しようと思います。アルドも魔の森の開拓には賛成だったから」
「なるほど……でも、その様子では魔の森に住む気は無さそうね」
「はい。家に住んでマナスポットで飛ぶつもりです」
「って事は、私にグラン家へ全てを話す許可をヨシュアからもぎ取って欲しいって所かしら?」
「はい。ボクもアルドもグラン家には迷惑をかけました。アルドがいない今、ボクがアルドの分も恩を返さないと……妻であるボクが!」
「そう……私としては切り捨てるべきかとも思うのだけれど……アナタとアルが世話になったと言うのなら、母親として恩は返さないといけないわね。ハルヴァとルーシェさんはどこ?」
「ボクの部屋にいます」
「そう、2人を連れて執務室へ向かいましょう」
「お師匠!」
「きっとエルもアナタと同じ事を言うでしょうしね。だったら降参するのはヨシュアの方よ。但し、幾つか条件は飲んで貰うわよ。最悪は独立までの数年間、クリスさんには軟禁状態になってもらうわ」
お師匠の有無を言わせぬ言葉にボクは頷く事しか出来なかった。
早速、ボクの部屋でお父さん、お母さんと合流して今は執務室である。
「ヨシュア、アナタの負けみたいよ」
入っていきなりのお師匠の言葉に、お義父様は驚きながらもどこか諦めた空気を出しながら口を開いた。
「ふぅ……ラフィ、僕は何をすれば良いのかな?」
「グラン家との交渉はクリスさん1人だけと行うわ。その際には使徒の件と新しい種族の件を、全て隠さずに交渉をしてグラン家に選んでもらう。そして万が一カシューに残る判断をする場合は、独立後までクリスさんには軟禁生活を送ってもらうしかないでしょうね」
「なるほど。その条件でハルヴァ達は納得してるのかい?」
「これ以上の譲歩は、将来の自分達の子や孫を危険に晒す事になるわ。ハルヴァ、ルーシェさん、これがギリギリのラインよ。分かって頂戴」
「はい。私もアシェラの子や孫に危険が及ぶのは流石に許容出来ません……ルーシェ、この条件でクリス殿と話そう」
「はい。無理を言い申し訳ありませんでした。これで兄と話してきます」
「僕としても辛い役目を押しつける事になって申し訳なく思ってるんだ。それにグラン家の能力は評価してるつもりだよ。共に歩める未来を祈ってると伝えてほしい」
「必ず兄に伝えます。ありがとうございます……」
こうしてボク、お父さん、お母さん、お師匠の4人は執務室を後にしたのだった。
改めてお師匠も交えてグラン家との交渉の方法を考えてみたが、先ずはクリスさんにブルーリングで働くつもりがあるのかを聞かなければ進まない。
そもそもブルーリングに仕官するつもりが無いのなら、この話は成立しないのだから。
ブルーリングで働く意思があるのであれば、マナスポットで領主館に飛んで交渉する事になった。
恐らくは使徒だ、精霊だ、などと言っても信じてもらえない。それどころかヘタをすると騙そうとしていると取られかねないだろう。
マナスポットで飛んで、更にエルファスがアオを呼べば、流石にこちらの言う事を信じてくれるはずだ。
「じゃあ、決まりね。いつ向こうに経つつもりなの?」
「早い方が良いと思いますので、明日の朝にでも精霊様に飛ばしてもらおうと思います」
「そう、メンバーはハルヴァ、ルーシェさん、アシェラの3人で?」
「はい。あまり多くても警戒させてしまいますから。本当はルーシェとアシェラは待っててほしいんですが……きっと付いてくると聞かないでしょう」
「ええ、私の実家の事だもの。私がノンビリしていて良いはずが無いでしょ?」
「ボクがアルドの分まで頑張らないと!」
「ハルヴァとアシェラが居れば魔物の群れにだって遅れは取らないわね。明日は移動でしょうから……エルには明後日は1日、領主館にいるように話しておくわ」
「ありがとうございます」
「上手く交渉出来ると良いわね、ルーシェさん」
「はい、ありがとうございます」
こうして明日の朝に魔の森のマナスポットに飛ぶ事となり、お父さんとお母さんは領主館に泊る事になったのだった。
久し振りに食堂で食事を摂っていると、オリビアとライラがやってきた。
お互いの顔を見つめ合って、やつれ具合に思わず苦笑いが浮かんでくる。
「久しぶりね、アシェラ……」
「うん。オリビアとライラも久しぶり」
「うん……」
「揃いも揃って酷い顔ね。私達にこんな顔をさせるのはアルドしかいないわ」
「うん。アルドが帰ってきたら離れてた分もたくさん甘える予定」
「私も。アルド君を絶対に離さない……」
「ズルイですよ。私も絶対に離しませんから!」
お互いの顔を見て笑いが込み上げてくる。
「私はあの家を守って、それから将来の国のための勉強をしようと思います」
「うん、オリビアなら出来る。ボクは魔の森の開拓を手伝おうと思う。アルドが帰ってきたら驚かせたい」
「私はアルド君の知識……使徒の叡智を学んで、整理して体系化したい。未来にあの知識を受け継げるように……」
皮肉な事にボク達は3人共、いつの間にか『出来る事、やるべき事』を見つけていたみたいだ。
精霊王の分身で上位精霊でもあるアオは、アルドが帰るのに最長10年もの時間がかかると言っていた。
であればその間にボク達は、ボク達の出来る事をやろう。帰ってきたアルドに胸を張れるように……
「2人共、夜は家に帰ってくるのでしょう?」
「うん」
「うん……」
「3人でアルドを待ちましょう。私達はアルドの妻なのですから」
「今日はお父さんとお母さんがいるから領主館に泊るけど、帰ってきてからは家で寝る」
「私は昨日からアルド君のベッドで寝てる……」
オリビアとアシェラは雷が落ちたかのような顔でライラを見つめている。まるで『おまっ、抜け駆けか!』と叫び出さん限りに!
アシェラが帰ってからは結局、3人揃ってアルドのベッドで眠る事になるのであるが……自分の部屋とは一体。
次の日の朝、目が覚めると朝食を済ませ、お父さん、お母さんと3人で地下にある指輪の間へと向かって行く。
マナスポットに近づけば、使徒でなくとも精霊に話しかける事ができる。早速、指輪に向かってアオへ話しかけた。
「アオ、魔の森のマナスポットへ飛ばしてほしい」
ボクの声に反応して指輪からアオが現れる。
「アシェラか。元気になったみたいだね、良かったよ」
「うん。心配かけてごめん」
「元気なら良いさ。それで魔の森のどっちに飛ばせば良いんだい?」
「スライムの方」
「分かったよ」
アオがそう言うと1秒なのか1時間なのか分からない不思議な感覚の後、目の前には枯れた森が広がっていた。
以前と同じで森の木は枯果てているが、以前と違い足元には新しい木や草が芽吹き始めている。
ふと思ったのは、こちら側のマナスポットも開拓した方が良いのだろうか……ヴェラの街がどうなるかでだいぶ変わるはずだが。
勝手に触って迷惑になってもいけない。こちらはお義父様、エルファス、マールに任せようと思う。
「この感覚は何回体験しても慣れないな」
「そうね。全ての感覚が曖昧になる感じがするわ」
「うん。因みに、ヴェラの街は向こうのはず」
「分かった。アシェラ、案内を頼む」
「うん」
普通に歩けば、恐らくは今日の夕方にはヴェラの街へ到着するはずである。
道に迷わない事を祈りながら、先ずはヴェラの街に到着する事に注力しようと思う。
記憶を呼び覚ましながらヴェラの街を目指しているのだが、こんな道通った覚えが無い……『迷子』嫌な2文字が頭をよぎり、ボクは空からの探索に切り替える事にした。
「お父さん、少し上から見てくる」
「お前、まさか迷ってるのか?」
お父さんの声は聞こえないフリをさせてもらって、空間蹴りで周りの木より高くまで駆け上がっていく。
しかし悲しい事に上空から辺りを見回しても緑一色で、近くに街は見当たらない。
どうしようかと悩んでいると、不意に後ろから声をかけられた。
「アシェラ、大丈夫か?」
「お父さん……」
気が付かなかったが、お父さんの腰には空間蹴りの魔道具が付いており、危なげなく空を歩いている。
「あれは……」
「煙?」
「この時期は夏野菜に植替えの時期だ。恐らくは焼畑だとは思うが……」
「……」
「念のために少し急ごう。万が一があるといけない」
「うん」
こうして直ぐに地上へ降りると、煙が上がっていた方向へと急ぐのだった。
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