第147話鎧の改造

147.鎧の改造




迷宮から帰った日の夜に爺さん、父さん、オレ、エルの4人で風呂に入った。

食事の時も迷宮での報告をしていたが、風呂の中でも同様だ。


意外だったのは父さんが思いの外、探索での話を聞きたがった。

これからの事より迷宮内の様子やら魔物の種類。罠など、まるでお伽話を聞く子供のようだ。


途中、爺さんから窘められなければ未だに続いていたかもしれない。

爺さんには超振動やバーニアの練度、食事の改善、アオから聞いた地竜の攻撃をエルが防げる件、実際の迷宮に対する感想、そして最後に”やっていけそうか?”と心配そうに聞かれてしまった。


やらなければしょうがない。のだが心遣いは素直に嬉しい。

”大丈夫です”とエルと一緒に返して、取り敢えずの報告は終了した。


それと屋敷に帰ってきて驚いた事が1つある。

なんと屋敷の庭に風呂の建設が始まっていたのだ。


今は基礎工事だが順調にいけば新学期が始まるぐらいには建物は建つらしい。

そこから内装と魔道具でもう暫く時間はかかるだろうが……新しい風呂、楽しみだ。


オレ達が風呂から出る時に宿舎を見るとジョーがノエルと楽しそうに話をしていた。

傍から見てると仲睦まじい恋人同士に見えるのだが……


「おーい。ジョー風呂が空いたぞ。良かったらノエルと一緒に入っていけ」


オレの声にジョーもノエルも呆れた顔を見せただけで肯定も否定もしない。

うーん。リア充爆発しろ。で良いのか?


その日は疲れも溜まっていたので早めにベッドに入って眠りについた所でアオに起こされた。


「僕が一生懸命に仕事をしてるのにアルドが寝てるっておかしいよね?…………」


そこから暫く何か言っていたがアオはオレが寝ぼけている様子を見て呆れて帰っていった。


「ハァ、もう良いよ。”問題なし”僕も帰って休もうっと……」


半分、夢の中でそんな声が聞こえた気がする。

まどろみの中で思ったのは、久しぶりの布団は天国かと間違えるほど気持ち良かった。





次の日の朝、朝食を摂り、身支度を済ますとオレは厨房へと脚を運んだ。

昨日の風呂での報告で爺さんから了承は貰っている。オレは料理長にこの時期に食べられる果物をなるべく沢山、種類を集める様に頼んだ。


次はソーセージだが……料理長に豚に近い動物を聞くとボア?と返された。確かにイノシシなのだから豚に近い。

爪牙の迷宮にも沢山いるし腸の確保の目処は立った。次は挽肉だが料理長は露骨に嫌な顔をする。


「挽肉は何か問題があるのか?」

「挽肉と言うのは要はクズ肉って事でしょう?骨や皮の部分の肉をこそぎ落として集める……」


「あー。まあ、そうなるのか?」

「クズ肉は平民でも更に下の者が食べる肉です。貴族様に出したりしたら首を跳ねられてしまいます」


「そうか。そこはちょっと考える。ボア以外で美味い肉は何がある?」


料理長はマサラ、ボア、プレの肉が一般的だと言う。話を聞くとマサラが牛、ボアが豚、プレがニワトリに近いと思われる。

プリンに使った卵はプレの卵らしく王都の郊外に養鶏場もあるらしい。


「取り敢えずボアの腸と肉、香辛料と塩を手配しておいてくれないか?」

「分かりました……量はどれ程を?」


「そうだな。肉は30センド×30センド、腸は1匹分を頼む」

「分かりました。香辛料は適当にめぼしい物を選んでおきます」


「頼む」


取り敢えずはこれぐらいで良いだろう。7日と言う短すぎる日程を考えると保存食、無理かもしんない……泣ける。

それとは別にパン、卵、牛乳、挽肉、が何とかなるならハンバーグが食べたい。


挽肉に抵抗があるなら話した後で爺さん、父さん、にも食べさせてみようと思う。

母さんは野営で直火のボア肉を齧ってた人だ。文句を言う訳がない。


野営の食事だが最悪は干し肉の塩を洗い流して乾燥させた野菜と一緒にスープにしても良いはずだ。

お湯は魔力で作れるし、温度も上げれる。乾燥シイタケなんて良いダシが……


材料が揃ったら色々と試してみよう。次はボーグの所か。少し気が重い。





オレは防具屋へと向かっている所だ。何故かエルとアシェラとマールも一緒にいるが……

アシェラとオレは平民の服、エルとマールは貴族の服を着ている。


こうして歩いていると平民のカップルと貴族のカップルが一緒に街へ遊びにきたかの様に見えるだろう。


「防具屋に用事か?」

「はい。兄さまの後で良いので僕の鎧にもバーニアの改造をお願いしようと思います」


「エルもバーニアを?」

「僕の戦闘には合わせ難いですが予備のナイフは持ってますし、手札は多い方が良いかと」


「確かになぁ。盾も最悪は捨てたって良いもんなぁ」

「僕が超振動を使う時は兄さまの様な戦闘スタイルもありかと思ってます」


エルがおもしろい事を言った。


「面白そうだな。一回それで模擬戦をやってみるか?」

「それ?」


「オレ:短剣二刀 VS エル:短剣二刀  オレ:片手剣、盾 VS エル:片手剣、盾  オレ片手剣、盾 VS エル 短剣二刀で」

「おもしろそうですね……」


「だろう?」


エルとの会話にアシェラも入ってきた。


「そこにボクも入れて。ボクは格闘1本で!」

「お前が全部、勝っちゃうじゃん」


「だってボク、魔力武器で剣、作れないしー」

「そうなのか?」


「うん。魔力武器を修行してたら何故か魔法拳が出来た」

「マジか!」


「うん」

「因みにアシェラは防具屋に何の用事があるんだ?」


「バーニアを修行してみたら思った以上に使い易い」

「ローブから鎧に替えるのか?」


「それも含めて聞いてみたい」

「そうか。ボーグはお世辞を言わないからな」


「あの人は信用できる」

「そうだな」


「マールも防具屋に用事なのか?」

「わ、私は……しょ、将来のために市場の価格調査を……ごにょごにょ……」


「あー。スマン。何でも無い。帰りは別々に帰ろうか。アシェラ、帰りは少し市場に寄ろう」

「市場?」


「ああ。迷宮の食事を改善したい」


エルとアシェラが驚く程の早さで反応した。


「兄さま!食事が何とかなるんですか?!」

「アルド。それは一番大事。絶対に市場に行こう!」

「わ、分かった。ただ7日で出来るか分からないからな。出来なくても怒るなよ」


エルとアシェラは大きく頷くがこれは絶対に納得してなさそうだ……

2人の謎の勢いにマールは眼を白黒させオレを見てくる。


「まぁ。それぐらい食事が酷かったんだよ……」


そう言って苦笑いを浮かべるしか無かった。





4人で話ながら歩くと何時の間にかに防具屋へ到着していた。

店に入ると相変わらずボーグが暇そうに店番をしている。


「アルド。久しぶりだな」

「ああ。久しぶりだ……ボーグ、スマン。ファイアリザードの皮を手に入れられなかった」


「あ?そんな事か。出来るだけって言ったろ。何時か取ってきてくれるんだろ?」

「ああ。頑張るよ」


「今日はどうした。大勢で」

「実は……」


オレは前に改造して貰った鎧を、さらに改造して欲しいと説明をした。


「なるほどなぁ。前にもか」

「ああ。前にも欲しい」


「分かったぜ。これなら今日中には何とかしてやるよ」

「助かる。7日後にはまた迷宮探索だからな。試す時間も要る」


「明日以降ならいつでも良いように準備しておいてやる」

「助かる。後、幾らかかる?」


「うーん、そうだな。白金貨3枚でどうだ?」

「白金貨3枚?安くないか?」


「この前のミスリルが少し余っててな。それを引いた金額だよ」

「それは、お前の儲けになる部分じゃないのか?」


「細かい事は良いんだよ。オレが白金貨3枚って言えば3枚なんだよ」

「……ありがとう」


ワイバーン狩りで稼いだ金も少なくなってきていた。正直、非常に助かる。

オレの話は終わり交代でエルが話し始めた。


「すみません。それが終わってからで良いので僕の鎧にも同じ仕掛けをお願いしたいです」


エルの話にボーグは興味深そうに聞いていたが少し問題があった。

エルの鎧は上腕の部分と背中に魔力盾を出す仕掛けがある。


オレと同じ場所に噴射口を付けようとすればお互いが干渉してしまうのだ。


「同じ場所は無理ですか……」

「そうだな。時間がかかっても良いなら盾は今の場所から移動させて、アルドが言う噴射口をメインに位置決めした方が良いな」


「どれぐらいかかりそうですか?」

「あ?そうだな……期間は4日、金額は神銀貨2枚って所か」


オレの金額と殆ど変わらない。魔力盾の移動の金額、本当に入っているのか?


「分かりました。お願いします」


そう言いオレとエルは手に持ったバッグごと鎧をボーグへと渡した。

勿論、お金も即金で払う。


「また即金かよ。お前等幾ら持ってるんだよ……」

「ワイバーンの稼ぎがこれで吹っ飛んだよ」


「そうか。じゃあ次のでかい獲物を狩らないとだな」


ボーグはそう笑っていたが、それは壮大なフリだぞ……

最後はアシェラだ。アシェラの場合は相談なのだが、ある意味一番の問題だった。


「アルドみたいな改造をするなら鎧しか無いんじゃねぇか?」

「ボクは格闘メインだから軽くて邪魔にならない物が良い」


「この前から思ったが嬢ちゃん本当に格闘術をつかえ…………」

「ボーグ!それ以上はダメだ」


アシェラの右手に活性化させた魔力が集まっている……ワザと見せてるんですね。分かります。


「アシェラの実力はオレが保証する。1対1ならオレは勝てない」

「マジか?!」


「ああ。3人の修羅の内の1人だしな」


ボーグがアシェラのつま先から頭の天辺まで見ながら驚いた顔を晒している。


「修羅か……アルドが勝てない……嬢ちゃん、すまなかったな」

「分かってくれれば良い」


ボーグがオレの方に向き直りしみじみとこぼし出す。


「こんなお人形さんみたいな娘が修羅ねぇ」

「あぁ。オレも同感だ」


オレ達2人はアシェラを改めて見て、そのギャップに感心するのだった。


結局、アシェラのバーニアは鎧に付ける事になったのだが、肝心の鎧が無い。


心の中で地竜の皮で鎧を作るのが良いと思うのだが、そうなると爪牙の迷宮探索の間はドラゴンローブと言う事になる。

地竜に挑むのに適当な装備と言うのは……また腕でも落としたら。そう思うと心の中のモヤモヤが晴れない。


悩んでいてもしょうがないので正直にボーグへ話すとアシェラのドラゴンローブは防御だけならワイバーンレザーアーマーより上と言われてしまった。

左腕が破損してワイバーンの皮を使ってあるが、それ以外は問題ないらしい。


アシェラの鎧については今後の課題となった。ボーグ以外の4人は地竜の皮を筆頭で考えているのだが今は内緒だ。



こうして防具屋での用事を終わらせ、エルとマールともここで別れる。


「アシェラ、市場へ行くか」

「うん」


まずは魚を買おう。調味料も醤油とミリンと味噌が欲しい。

それに米があれば最高だ。オレは絶対に無いだろうな。と心の中で思いながらもワンチャンに期待して市場への道を進んで行く。




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