第66話装備

66.装備



次の日の朝食後


昨日の話の通りルイスとネロの装備を整えなければ。


「騎士団のお古を見に行くか」

「それなんだけど…アルドの装備、もう一回見せてくれないか?」

「オレも見たいぞ」


どうやら自分の装備を決める前にオレの装備を見て参考にしたい様だ。


「判った、オレの部屋に行こう」

「「「「「「うん」」」」」」


オレはルイスとネロに話しかけたのだが女性陣も返事をする。


「オリビアやアンナ先生も見るんですか?」

「私はアルド君の部屋に興味があります」

「私もです。普段アルドがどんな生活をしているのか…」

「アルド ヘヤ ミタイ」


どうやら女性陣はオレの部屋が見たいらしい。年頃の異性の部屋か…確かに興味あるな。


「良いけど、おもしろい物は無いと思うぞ」

「「「「「「はい」」」」」」


オレの部屋に移動する。オレ、ルイス、ネロ、オリビア、アンナ先生、ファリステア、エル、マール、アシェラ、氷結さんの10人だ。

エル以降、特に母さんが付いてくるのが謎だ。


「ここがオレの部屋だ。何も無いだろ?」


10人もいるので扉は開けっ放しだ。女性陣は物珍しそうにオレの部屋の中を見渡している。


「じゃあ、装備を出すぞ」


オレはクローゼットから装備一式を出して着替え始めた。


「アルド!何、普通に着替えてるんですか!」

「え?オレは気にしないぞ」


「私達が気にするんです!」


そう言ってオリビアを筆頭に女性陣はアシェラと母さんを置いて出て行ってしまった。


「ちなみに隣はエルの部屋だぞー」


オレの声に今度はエルの部屋に興味が移ったようで、無言のプレッシャーをエルに放っている。


「分かりました…どうぞ…」


女性陣をエルが案内するようだ。

オレはそのままブリガンダインを着こみ予備のナイフを右足の脛と左足の腿に仕込む。それから短剣を2本装備して完了だ。




「後はこのリュックだ。中身を出すから良く見ておけよ」

「「分かった」」


リュックの中にはロープ、ナイフ、毛布、雨具、手拭い、薬(麻痺、毒、混乱)、2日分の干し肉が入っていた。


「これに後は水筒だ。オレ達は魔法で水が出せるから良いが、出せなかったら水もだな」

「こんなに要るのか?」


「オレは要ると思う。魔力を回復するのに野営が必要だったり、仲間とはぐれて野営をしたり、何かあっても対応出来るようにする最低限だ」

「オレは回復魔法が使えない、薬には回復薬もいるのか…」

「ロープは何でいるんだ?」


「ロープは一番に使うぞ。一回、野営も経験してみるべきか…」


オレは2人がイマイチ判ってないのが不安だった。


「野営か。やってみたいぞ」

「オレも!ウサギを捕まえて焼いて食おう」

「今回やるか分からないが近い内に一度、野営もやってみよう」


後ろでアシェラと母さんが見てる。何が楽しいのか…謎だ。


「このブリガンダインだっけ?防御はどうなんだ?」

「スケイルアーマーは判るか?」


「ああ、分かる」

「あれの金属片が逆に着いてるのがブリガンダインだ」


「それならスケイルアーマーでいいんじゃないのか?」

「スケイルアーマーでも良いな。ただ動き易いのとメンテナンスが楽なんだ」


「動き易いのか」

「冒険者は動き易い方が良いと思うぞ」


「そりゃ騎士だって冒険者だって動き易い方が良いだろ」

「冒険者は全て自分でやるんだ。例えば冒険者はフルプレートなんて着ないだろ?1人で着けられない鎧は冒険者には合わないって事だ」


「なんとなく言いたい事が分かった。服に近い方が良いが戦闘でも最低限、耐えられる物って事か?」

「そうだ。後は体格なんかで、どこまで戦闘に寄せるかは人それぞれだな。戦闘に寄り過ぎて移動で白旗なんて笑い話にもならん」


「そうか移動か…1日歩く何て事もあるのか…」

「そうだな。じゃあ演習場に移動するぞ」


オレとルイス、ネロは演習場に移動した。そのすぐ後ろを母さんとアシェラも付いてくる…何故だ。

演習場の端にある倉庫にローランドが待っていた。


「アルドぼっちゃま。この倉庫の中の物なら好きに持って行ってください」

「分かった。ありがとう」


オレは倉庫を開け中を覗く。むわっとした空気が暑さを増幅させる。すぐにエアコン魔法を発動した。


「おお、涼しいな!」

「遊びに来たんじゃないぞ。まずネロの武器を決めよう。ルイスは両手剣と鎧を見ていてくれ。勿論、着てもいいぞ」

「分かったぞ」


まずは武器だ。装備する武器で戦闘スタイルが分かる。と言う物だ。

母さんとアシェラは倉庫の中の武器や鎧なんかを物色している…解せぬ。


「ネロ、気に入った武器はあるか?」

「片手剣、片手斧がいいな」


「なるほど…同じ武器じゃなくてもいいよな。右手はどっちにする?」

「右に片手剣で左に片手斧が良い」


「判った。二刀流なら盾は無しで…後は鎧だな」

「動き易い物が良いぞ」


「オレのブリガンダインはどうだ?」

「もうちょっと動き易い物が良い」


「ブリガンダイン以下か…身体強化の練度が上がれば重さは気にならなくなるから今回はブリガンダインでどうだ?」

「アルドが言うならそうするぞ」

「アルド、オレもブリガンダインにするよ」


「今回はブリガンダインで行って、合わないなら次は変えよう」

「「分かった」」


「次は予備の武器だ」

「予備か…短剣かナイフって所か?」


「ルイスは両手剣を背負うんだろ?」

「そのつもりだ」


「それなら片手剣、片手斧、片手棍も候補に入るな」

「そうか腰が空くのか…」

「オレは短剣かナイフになるのか?」


「ネロはそうだな。逆に両手剣を背負うか?」

「それも良いな」


「冗談だ。まずは普通に短剣かナイフにしよう」

「分かったぞ」


「オレも短剣にしておく。アルドが前に見せてくれた魔力操作で刃を伸ばせば片手剣になるからな」

「そうだな。オレも短剣にする」

「その理屈だと全員メイン武器は短剣になるんだが」


3人でお互いの顔を見て笑いあった。


「次はリュックと中身だけど…その前に決めた武器と鎧を装備してみろよ。慣れる必要もあるし小さいなら早めに直さないとな」

「「分かった」」


2人が装備している間にリュックとロープ、ナイフ、毛布、雨具、手拭いを集めた。後は薬と食料だな。

そうしていると、なんとか2人の装備が終わる。


「どうだ?予備の武器は邪魔にならなくて出しやすく敵から見えない場所が一番良いぞ」

「そんな場所あるのかよ?」


「無いな。だからオレは動きの邪魔にならない左の腿と右の脛に付けてる」

「動きの邪魔にならない場所か…オレは腰がよさそうだ」

「オレもアルドと同じ右の脛にする」


「そこで決定じゃないからな。不都合やもっと良い場所があれば変えろよ」

「「分かった」」


「次はリュックだ。そこに出しておいたから自分で使い易い様にリュックに入れてくれ」

「「分かった」」


2人は色々と考えながら入れている。実際は体験しないと分からないだろう。

暫くすると2人はリュックに詰め終わった。残りは薬と食料と水筒だな。


「確認だけど2人共、魔法で水は出せるんだよな?」

「…たぶん」

「オレは出した事ないぞ」


「マジか…ちょっと出して見てくれ」

「詠唱は…無しだったよな。ちょっと待てよ」

「むうう、むうう…」


「おい、ここからかよ…」

「出る、出るから。もうちょっと待ってくれ」

「むううううううう」


オレは母さんに向き直り話しだす。


「母様。2人に水の出し方を教えてやってくれませんか?」

「良いわよ」


「2人共、氷結の魔女から直々に教えて貰えるぞ。オレ、エル、マール、アシェラの師匠だ」

「その呼び方は止めてほしいんだけど…その紹介だと怒れないわね」

「「お願いします」」


「その間に街で薬を手に入れてきます」

「分かったわ。アシェラも連れて行ってあげて」


「はい。アシェラ行こう」

「うん」

「屋敷でローランドに護衛を手配してもらうのよー」


「分かりました。ついでに短剣も渡してきます。あと昼食に間に合いそうに無いので街で食べてきます」

「分かったわ」


そのまま屋敷に向かう。屋敷で街に向かうので護衛の手配とルイスとネロの2日分の食料の手配を頼んだ。

しばらく待つとガルがやって来くる。


「ガル、久しぶりだ」

「おう、久しぶりだな。アル坊」


「ローランド、ありがとう。それと短剣を渡しておく」


オレは2本の短剣をローランドに渡した。打ち直しと出来ればもうちょっと刃が長いと嬉しい。と希望を伝える。


「じゃあ行こうか。アシェラ、何が食べたい?」

「うーん。肉?」


「肉か。じゃあ屋台巡りでどうだ?」

「うん」


早速、街に向かおうと玄関に移動する。

玄関には甲冑が飾ってあり、腰には片手剣が刺さっていた。

オレは甲冑から片手剣を盗り自分の腰に装備する。


「ガル、どうだ?一端の剣士に見えないか?」

「全然ダメだな。お前が短剣を持った時の底冷えする怖さを感じねぇ」


「短剣は無いがナイフは2本隠し持ってるぞ」

「お前が持つと、その片手剣よりナイフの方が恐ろしいわ」


そんなくだらない事を話しながら街を歩いて行く。

オレ達を傍から見ると、ガル=護衛 オレ=鎧を着た子供…護衛? アシェラ=貴族の服を着た深窓の令嬢 のように見えるだろう。

そんな恰好に相応しくちょっとふざけてみる。


「お嬢様、何を召し上がりますか?」


オレの冗談にガルとアシェラが乗ってきた。


「そうね。この屋台の中で一番美味しいお肉を頂きたいわ」

「分かりました。おい、一番美味い肉はどれだ?お嬢様が所望である。我こそと思う者は名乗り上げろ」


オレ達の小芝居に周りの屋台のオヤジは”貴族の我儘に巻き込まれては大変”と明後日の方を見ている。


「困りました。しょうがないので私が選んで参ります」

「任せます」


そして一番近い屋台で串焼きを3本買ってアシェラの傍に戻った。

3人で笑いながら串焼きを食べていると、周りもやっと担がれたと気が付き肩を竦めて苦笑いをこぼす。


「アルドもガルも人が悪い」

「アシェラもノリノリだったじゃねえか」

「オレは本当に騎士で護衛だからな。何もおかしかねぇぞ」


ふと考えた。確かにアシェラはオレの婚約者だ。もしかして一歩間違えると本当に暴君って事になるんじゃ??


「アシェラ!恐ろしい事に気が付いた…」

「なに?」


「アシェラは領主の直系の孫の婚約者だ。さっきのって芝居じゃない。本当にあんな事がまかり通っちゃう」

「……本当だ」

「今頃、気が付いたのかよ。お前らはもうちょっと自分の立場を考えろ」


3人でバカな事を言い合いながら薬屋に到着した。

中に入るとフードを被った女の店員が1人て店番をしている。


並んでいる薬を物色し必要な薬を買う。

なぜか薬屋の女店員が妙に気になる。チラチラ見てるとアシェラに足を踏まれた。違うんだ…


薬屋を出てからアシェラに弁解をする。


「アシェラ、違うんだ」

「どうせボクはあんなにオッパイが大きくないし!」


「本当に違うんだ。オレはアシェラぐらいの大きさが大好きだ!」

「……」


「アシェラが一番だ」

「…本当?」


「ああ、本当だ!」

「じゃあ許しても良い」


後ろでガルが砂糖を吐いてる。


「ガル。一回、範囲ソナーを撃ってもいいか?」

「範囲ソナーって何だ?」


「簡単な索敵魔法だ。欠点は魔法使いがいれば相手にも魔法を使ったのがバレる」

「気になるのか?」


「ああ…」

「じゃあ、良いんじゃねえか?オレは魔法使いじゃねえから使われても分からねぇしな」


「助かる」


オレは範囲ソナーを1回だけ打ってみた。


「あー、なるほど…」

「どうした?」


「ちょっと薬屋に戻るぞ」

「どう言う事だ」


「行けば分かる」


そのまま薬屋に戻ると女店員が酷く殺気だっていた。


「オレは敵じゃない」

「黙れ。敵が自分を敵だと言うものか」


「それもそうだな」


女店主は逃走ルートを捜しているようだ。早めに伝えた方がいいか。


「ファリステアに会いたいなら合わせてやってもいいぞ」

「何を!」


「お前エルフだろ?さっきの範囲ソナーで分かった」

「やはりさっきの妙な魔力はお前か!」


「ファリステアに会いたくないのか?」

「……何を考えている」


「まずは腹を割って話そうか」


オレは飾りの片手剣を外し地面に置いた。


「何のつもりだ…」

「オレはファリステアの学園の友人だ。今回、ファリステアが困っていたからオレの実家まで連れてきた」


「お前は、アルド=ブルーリングか!」


後ろに下がり距離を取られた。


「そうだアルド=フォン=ブルーリングだ。ファリステアと同じクラスで同じ班だ」

「……」


「会いたいなら会わせてやるぞ。どうする?」

「……」


「……」

「その言葉…嘘は無いな?」


「ああ。但し、ファリステアの安全の確保の為に武装は解いてもらう」

「バカな事を。敵のど真ん中で丸腰になるバカがどこにいる」


「それならこの話は無しだ。邪魔したな」


店を出て屋敷に帰ろうとする。


「待て!」

「なんだ?」


「本当にお嬢様…いやファリステア様に会わせてくれるのか?」

「オレはたまにしか嘘はつかん」

「威張って言う事か」

「アルド、真面目にやる」


皆からボロクソに言われた…解せぬ


「どうするんだ?決心出来ないなら後日でもいいぞ」

「分かった…武装は解除する」


「そうか、じゃあ身体検査をしないとな」

「……」


「アシェラ頼む」

「ボク。今、本気で殴りそうになった」


「何でだよ!オレが身体検査するとでも??」


アシェラとガルがジト目で見てくる。女店員の身体検査は奥の部屋で実施した。

丸腰同士ならアシェラに勝てるヤツはそうはいない。オレなら秒でボコられる自信がある!


そこから屋敷へ向かって歩いていく。


「そう言えば名前を聞いてなかったな」

「なぜ、名乗らなければいけない」


「ふーん。オレは名乗ったけどな。エルフは失礼な種族って言いふらすわ。むっちゃ言いふらすわ」

「おい!やめろ」


「じゃあ名前は?」

「……ユーリサイスだ」


「おー、良い名前じゃないか。ユーリでいいな」

「誰が愛称を許した」


「まあ、固い事言うなよ。ユーリ」


何故かアシェラに脇腹を殴られた…しかもこれ毒入ってますよね?


「か、回復…」


なんとか毒を回復魔法で中和する。


「あ、アシェラさん…毒になったんですけど。しかも結構、重い毒だったんですが…」

「その重さはきっとボクの想いの重さ」


「いつの間にそんな返しを…アシェラ。恐ろしい子」

「……」


歩いていると屋敷に辿り着いた。時間は夕方前ぐらいだ。


「ファリステアを呼んでくるから待ってろ。アシェラ、今日はガルに送ってもらうか?」

「大丈夫、待ってる」


「分かった」


オレはガルとアシェラにユーリを任せてファリステアを呼びに行く。

ファリステアは居間でアンナ先生、母さん、オリビア、マールとお茶会をしていた。


「ファリステア、お客さんだ。ユーリサイスって知ってるか?」

「ユーリ? イルデスカ? ドコ?」


「判った。連れて行くから。アンナ先生一緒に来てくれませんか?」

「わ、私?嫌な予感がするんですが…」


「オリビアとマール、母さんは待っててくれ」

「嫌よ。私も行くわ」


「分かりました…オリビアとマールは待っててくれ。頼む」

「「分かりました」」


オレ、ファリステア、アンナ先生、母さんで玄関に向かう。


「玄関を開けるけど絶対に不用意に近づかないでくれ。通訳頼みます」


アンナ先生がファリステアに話している。

納得はしていない様だが言う事は聞いてくれそうだ。

必要の無い戦闘はしたくない。戦うなら殺してしまうかもしれないのだから…


ゆっくりと玄関を開ける。

ファリステアとユーリサイスがお互いを確かめると嬉しそうに名前を呼びあう。


「待て!よけいな戦闘はしたくない!信じてくれ!会わせてやっただろ!アンナ先生通訳を!」


アンナ先生が通訳しファリステアがオレを睨む…オレは頭を下げた。

”安全を確保してからだ”もう一度通訳してもらった。


「ゆっくりだ。ユーリさんゆっくりこっちへ…」


オレの言葉通りにユーリがゆっくりと1歩1歩近づいてくる。

やがてファリステアとユーリは手を伸ばせば触れ合える距離に近づいた。


「会話してもらって大丈夫です。アンナ先生、同時通訳を」


2人が嬉しそうに話し出す。アンナ先生は話の断片をマシンガンの様に話すがなんとな~くニュアンスだけでさっぱり分からなかった。

やがて2人はゆっくり近づき最後に抱きしめ合う。どうやら大丈夫のようだ。


取り敢えず父様に報告しないといけない。アシェラも送らないと。短剣の打ち直しも。ルイス達に薬も渡さないと。

ハァ…特大の溜息を吐いて1つずつ片付けていくしかない。



まずはアシェラだ。今日は謝ってガルに送ってもらおう。




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