第65話修行

65.修行






ブルーリング領に帰って1週間が過ぎた。


オレはブルーリングに帰ったらアシェラと街に出かけたり、ピクニックに行ったりするのを楽しみにしていたのだ。




しかし現実は…




「「アルド、次は何をすればいい?」」


「ああ、身体強化でダッシュだ。本気で走って、合図で逆に走る。これで瞬時に身体強化を行えるようになるはずだ」




「おお、頑張るぜ!」




ルイスとネロが気合十分で頑張っている。




「ベレット!すまんが2人の掛け声を頼みたい」


「判りました。最初だけ要領を教えて頂けると…」




「分かった」




最初の1~2回の合図をやってみせる。一番体に負荷がかかりそうな瞬間に掛け声をかける。




「なるほど。分かりました」


「慣れてくると同じ場所で掛け声をだしがちになる。そんな時程、タイミングをずらせ。徐々に楽しくなってくるぞ」




「分かりました」




真面目なベレットならきっと上手くやってくれるだろう。


さてルイスとネロはベレットに任せて…アシェラは。








「アルド、一緒にお茶にしましょう」




オリビア、ファリステア、アンナ先生に捕まった。


ホストである以上は蔑ろには出来ない。特にオリビアはサンドラ伯爵の娘でファリステアはエルフの外交官の娘だ。アンナ先生?うん。




「さあさあ、座ってください。アルド」


「ありがとう」


「今、ちょうどアルド君の話をしていたんですよ」


「アルド イソガシイ」




「やっとゆっくり話せます」


「放っておいたつもりは無いんだが、すまない」




「大丈夫です。ファリステアやアンナ先生と親しくなれましたから」


「それは良かった」


「そうですね。出来ればマールさんやアシェラさんとも仲良くしたいのですけど」




アンナ先生からの提案にマールはともかくアシェラは同性の友人が少ないのに気が付いた。




(色々な人と知り合って見聞を広めるのは悪くないな…)




「判りました。アシェラとマールに話しておきます」


「しかしアルドとアシェラ嬢が婚約とは…10歳の誕生日でも仲良さげに踊っていましたが…」


「オリビアさんは昔からアシェラさんやマールさんと知り合いだったのですか?」




「アルドとエルファス様の10歳の誕生日パーティに参加させて貰ったんです」


「そうだったんですか。アシェラさんとは、その頃から婚約者だったんですか?」


「いえ、半年程前にちょっとした事件がありましてその時からです」




「半年前?学園に入る少し前ぐらいですよね?」


「今年の1月、、正式には2月だったかな?」


「そうだったんですか…その事件の事、じっくり聞きたいですねぇ」




「それはオレの口からはちょっと…アシェラに直接聞いてもらえると」


「分かりました。アシェラ嬢とのお茶会が楽しみになってきました」




それから暫くの間、お茶会を楽しんでいるとルイスとネロがやってきた。




「アルド、ブルーリングにも冒険者ギルドはあるんだろ?」


「そろそろ実戦を体験したいぞ」


「確かに逃げるぐらいの身体強化は出来るのか…ちょっと父様に聞いてみる」




オレはその場をお暇して父さんの執務室に向かう。


執務室の扉にノックをして扉ごし話しかける。




「父様、アルドです。お話をさせて頂きたいと思い、伺いました」


「……ハァ、入ってくれ」




扉の向こうから特大の溜息が聞こえた。何かデジャブが。




「どうしたんだい?」




父さんが疲れた顔で聞いてくる。




「父様、お願いがあります」


「何を言われるか怖くてしょうがないよ」




「大した事ではありません。ルイスとネロと一緒に冒険者の依頼を受けたいのです」


「冒険者…何故だい?」




「いくつか理由がありますが1つ目にルイスは15歳になったら冒険者になって家を出るそうです。それまでに鍛えるとオリビアに約束をしました」


「そうか、王都では冒険者の依頼をしていたのかい?」




「僕はノエルと一緒に何度か依頼をこなしました。ルイスとネロは身体強化が未熟と判断し、冒険者登録だけして依頼はさせてません」


「ブルーリングでなら良いと?」




「身体強化が最低限のレベルに達したと判断しました」


「自分が暇だから…なんて理由では無いんだね?」




少しだけドキっとしながら父さんの質問に返す。




「はい。護衛を付けてもらっても構いません」


「分かった。サンドラ領の騎士とも相談させてもらう」




「分かりました」




そうして執務室を出てルイスの元へ戻った。




「ルイス。父さん個人としては良いみたいだけど、サンドラ領の騎士と相談して決めるそうだ」


「そうか。分かった」




そこからは何かあっても逃げられる様に、身体強化は走る事を重点に修行する。


そうこうしてるとアシェラがそろそろ帰る時間と言う事でオレは家まで送る。護衛はタメイが少し離れて付いて来た。




「アシェラ、今日オリビアとアンナ先生からお前とマールをお茶会に誘いたいと言われた」


「お茶会…ボクはあまり興味ないかも」




「まあ、そうだろうな。ただ同じ年代の同性の友達は貴重だぞ。視野が広がるし悩みなんかも似てくるから相談もできる」


「うーん」




「どうしても嫌なら無理にとは言わないが…オレは折角、誘ってくれたなら参加したらどうか。と思うぞ」


「分かった。参加してみる」




「そうか。マールはさっき聞いたらOKだったから夕食の時にでもオリビアやアンナ先生に話しておくよ」


「分かった…」




アシェラを家まで送って行き、とんぼ返りで屋敷に戻る。


今日はキス出来なかった…悲しい。








その日の夕食-----------








父さんは早速、サンドラ領の騎士に話を通してくれた様だ。




「アル。サンドラ領の騎士と話して冒険者の依頼を条件付きで認めるよ」


「条件ですか?」




「ああ。まず依頼の内容を確認させて貰って妥当か判断させて貰う」


「分かりました」




「次にパーティメンバーが妥当か確認させて貰う」


「はい」




「最後にサンドラ領の騎士1人、ブルーリング領の騎士1人を同行させて貰う。ただし騎士は依頼に対して一切の助言、助力はしない」


「はい」




「後は、まあ前日の内には行くかどうかは知らせてほしいね」


「それは、そうですね」




父さんから依頼を受けるOKが出た。




「ルイス、ネロ、父様からOKが出たぞ」


「ああ、聞こえていた。早速、明日にでも行かないか?」


「オレも行くぞ」




「そうだな、行こうか」




オレはルイスとの会話が聞こえているだろう父さんに話しかける。




「父様。聞こえたと思いますが、明日にでも依頼を受けたいと思います」


「判った。騎士に話しておくよ。時間は朝食後でいいかな?」




「はい、大丈夫です」




そこからは夕食を食べながらルイスとネロが、遠足の前日の子供の様にはしゃいでいた。




夕食を終え、自室に戻り明日の装備を確認する。そういえば短剣を打ち直せないか聞くんだった。


オレは居間に戻り母さんに短剣の事を聞いてみる。




「母様、短剣を打ち直したいのですが誰に頼めばいいですか?」


「そうねぇ、ローランドに言えばいいんじゃないかしら?」




「判りました。後で聞いてきます」




ローランドに聞く前にふとルイスとネロの装備について思い至った。




(そういえばあいつ等の装備ってあるのか?王都のサンドラ伯爵邸ではルイスは自分の装備を持ってたがこっちに持って来てるのか?ネロに至っては装備を見た事がない)




オレは急遽、ルイスとネロの部屋を訪ねて装備の事を聞いてみる。




「ルイス、ネロ、明日の依頼だが装備ってあるのか?」


「あ、そう言えばそうだな。アルド、適当な装備を貸してくれよ」


「オレは装備なんか持ってないぞ」




「マジか…」




オレは明日の依頼は無理と判断して2人に話す。




「ルイス、ネロ、手に馴染む武器、動きの邪魔をしない鎧、何かあった場合の2日分の食料、ロープやナイフなんかの装備が絶対に必要だ」


「武器と鎧だけじゃダメなのか?」


「何とかなるんじゃないか?」




「ハァ、今、言ったのは最低限の装備だ。明日は中止で装備を集める」


「えー装備なんて適当なので良い。依頼を受けようぜ」


「なんなら素手でもいいぞ」




「これは決定だ。装備を舐めるな。死ぬぞ」




オレが本気で言ってるのが通じたのだろう。2人は渋々ながら従った。


急遽、予定が変更になった。まずは父さんに報告しなければ…




執務室の前まで来てノックをする。




「アルドです。宜しいでしょうか?」


「…入ってくれ」




中からの父さんの声に扉を開けて部屋に入る。


部屋にはありがたい事にローランドも一緒にいた。




「父様。申し訳ありませんが明日の依頼は中止にします」


「ん?どうかしたのかい?」




「ルイスとネロが装備を持っていない事が分かりました」


「装備?非常食やナイフか何かかい?」




「全てです」


「は?武器や鎧も?」




「はい。ネロに至っては素手で良いと言ってました」


「素手…」




「明日は1日かけて装備を整えようかと思います」


「分かった。アルは中々すごい友人を持ってるね」




「装備で少し相談があるのですが」


「…何だい?」




「まず、僕の短剣がそろそろガタが来てるので打ち直し出来ないかと」


「新しいのは嫌なのかい?」




「10歳の遠征から使ってる物で手に馴染んでまして」


「そうか。ローランド手配は?」


「はい。明日でよろしいですか?」




「うん、どうすればいい?」


「そうですね、では明日の昼食後に騎士団の演習場に来てください」




「分かった」




「あとの装備はどうするつもりだい?」


「あの2人がお金を持ってるとは思えません。騎士団のお古から選んでどうしても無い物だけ買おうかと。勿論、騎士団のお古にもお金は出します」




「アルはそんなにお金がある?」


「王都の依頼で少し稼いだもので。金貨5枚程ならあります。足りない分は貸して貰えれば…」




「アルの装備はブルーリングから出す。ルイス君の装備はサンドラ伯爵に請求する。ネロ君の分だけ出して欲しい」


「ありがとうございます」




「もうちょっと僕達を頼って良いんだ。そんなに早く独り立ちしようとしないで欲しい…」


「はい…ありがとうございます」




もう一度ルイスとネロの所に戻って、2人に父さんとの話を伝える。




「ルイス、ネロ、父様と話を付けて来た」


「「どうなった?」」




「明日、騎士団のお古から2人の装備を見繕う。足りない分だけは街に出て買い物だ」


「お古かよ…」




「金が無いと思ったから無理を言って騎士団のお古を譲ってもらう様にしたんだが余計なお世話だったか?」


「いや、助かる。確かに金は持ってない」


「オレは、金は無い…素手で良いぞ」




「金はブルーリングからは貰わない。オレが個人的に出す」


「すまない」


「オレは返せる当てが無いぞ」




「貸すだけだ。金は依頼の分け前から引いて行く。ちゃんと取り立てるから安心しろ」


「それなら。助かるアルド」


「すまない…」




「2人共、明日までに戦闘スタイルを決めろ」


「「戦闘スタイル?」」




「ああ、武器は何を持つのか?予備の武器は?盾は持つのか?鎧はフルプレートかハーフかレザーアーマーか?どの部位を守るのか?」


「「……」」




「最低限、武器の種類、予備の武器の種類、盾の有無、攻撃を躱すのか耐えるのか、これぐらいは決めておいてくれ」


「分かった…」」




「相談には乗るぞ?」




ここから2人の戦闘スタイルを話し合う。


ルイスはやはり両手剣を使うらしく盾は無し、鎧を重装か軽装か程度だった。


困ったのはネロだ。ケンカ程度はしても本格的な戦闘は初めてなのだ。武器を決める所から話し合う。




どうもオレの二刀流に憧れた様で二刀を使える武器が良いらしい。


そうなると短剣、片手剣、片手斧、片手棍ぐらいか…当然、盾は無しだ。


明日、その4種類の武器を実際に持って決めてもらう事になった。




明日は装備を決めて明後日には依頼を受ける予定だ。






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