第400話脳筋の国 part4
400.脳筋の国 part4
団長との話を終え、今は用意された客間でやっと一息ついている所である。
「何とか休める場所は確保出来た。ただ何時まで安全かは分からない以上、直ぐにでも魔力の回復をしよう」
「そうだな……確かに魔力枯渇で気を抜くと、意識を持ってかれそうだぜ」
「オレも眠くて体がだるいんだぞ……」
「僕は魔法使いだから、魔力が無い今は完全にお荷物かな」
「悪いが3人共 先ずは2時間だけ休んで魔力を回復してくれ。その後にオレも2時間休ませてもらう」
「ちょっと待てよ。魔力の回復ならお前が先だろうが。魔力枯渇なのは全員が一緒のはずだろ?」
あ、そうか、ルイス達はオレの魔力が4割近く残ってるのを知らないんだった。
「それなんだがな、実は早朝に一度起きて「魔喰いの首輪」を改造したんだ。それから1~2時間は眠れたからな。今の魔力は4割を少し切るぐらいは残ってる。そんなわけで、お前等には先に魔力を回復してほしい」
「マジかよ……あの首輪を改造って……空間蹴りの魔道具を作ったお前ならそんな事も出来るのか……」
ルイスだけで無く、ネロとカズイも驚いた顔でオレを見つめている。
「分かったよ。そう言う事なら今のオレ達は完全に足手纏いって事だな。お前の言う通り先に休ませてもらうぜ」
「ああ、安心して休んでくれ。この2時間オレが絶対に守ってみせる」
「心配してねぇよ。お前が護衛してくれるなら、これ以上の安全は無いだろ、ドラゴンスレイヤー様よ。じゃあ、時間が惜しい。ネロ、カズイさん、念のため装備は着けたままで、直ぐに寝ましょう」
「分かったんだぞ。アルド、任せてごめんだぞ」
「そうだね。アルド、魔力を回復したら直ぐに交代するから。少しだけお願いするよ」
「気にせずゆっくり休んでください」
こうして先ずはルイス達に魔力を回復してもらうため、休んでもらう事になったのである。
ルイス達が寝息を立てている間、定期的に20メードの範囲ソナーを打って不意打ちに備えている。
正直、あまり魔力を無駄遣いしたくは無いが、敵地でもあるこの場所で奇襲を完全に防ぐにはこうする他は無かった。
これが2人であれば、対象を挟むように守れるのでソナーまでは必要無いのだが……
「しかし、どうするか……他国の権力争いに首を突っ込むとか、オレの立場的に絶対にやっちゃいけない事だろ……」
思わず声が出てしまったが、使徒であるオレは本来 権力に対して干渉してはいけない。
そうで無ければ、他国で活動する際 余計な警戒をさせてしまう。
マナスポットで自由に飛べる以上、相手からすれば喉元に刃物を突き付けられているのと変わらないのだから……
更に失敗したのは、こちらの身分を明かしてしまった事である。
ググの領主からグレートフェンリル王家へ話が上がり、フォスターク王国へ抗議が行くようなら……オレ達がマナスポットで飛んでいる以上、時間的な辻褄が合わないのがバレてしまう。
その時には、もう独立まっしぐらなわけで……
「あー、どうしよう……こうなると魔力を回復して、サッサと逃げる事も出来ないよなぁ……この状況での最善手はやっぱり団長に付いて迷宮を踏破する事か……その後はグレートフェンリル王家と個人的に話が出来れば最高の形に出来るかもしれない……副団長には恨みを買うだろうけど、そこは必要経費として割り切るしか無いのか……」
ルイス達にも相談したい所ではあるが、今は魔力回復が最優先だ。
こうして、恐らく解決策は1つしか無いだろうと内心 理解しつつ、今 取れる最善手に悩むのであった。
「アルド、何とかお互い魔力は回復できたな」
「ああ。これでやっと一息つける。って言ってもスタートラインに立っただけだけどな」
オレの言葉に、ルイス、ネロ、カズイは苦笑いを浮かべて小さく頷いている。
交代で2時間の休憩を2セット取り、オレ達4人の魔力が完全回復した事への言葉だ。
そんな少しの緊張の中、ルイスが申し訳なさそうに口を開いた。
「それと話し合う前にオレは獣人語を話せないからな。悪いが最初から説明してもらえないか?」
「分かったよ。最初に起きた時…………」
そこからはオレが体験した一通りを、順序立てて説明していった。
「…………って事で今に至るんだ」
「なるほど。要はここググ領で起こっていた、騎士団長の席を巡っての権力闘争に巻き込まれたって事か」
「ああ、その通りだ。しかも今のオレ達は、現団長側に庇護されている。しかも副団長からは「首を刎ねる」とまで言われたからな。もう中立なんて言ってられない状況だ」
「そうか……」
「今思うと身分を明かしたのは失敗だったかもしれない……このまま逃げた場合には、最悪フォスターク王国に抗議が行く。正直 八方塞がりだ」
「そうだな……今出来る最善手は、団長を手助けしてグレートフェンリル王家への伝手を作る事か……」
「ああ。ここまで巻き込まれると、それ以上に良い手が思いつかん」
「ハァ……ネロ、カズイさんはどう思いますか?」
「オレはバカだから良く分からないんだぞ。何で逃げたらダメなんだ?」
「だから今 説明したろ。逃げた時点で最悪の場合、グレートフェンリルからフォスターク王国へ抗議が入る。そしたら数か月前までブルーリングにいたオレ達が、何でグレートフェンリルにいるのか? って話しになるだろ。そこから過去に遡って調べれば、ミルドの件も時間的に辻褄が合わないって話しになるだろうし……王国もバカじゃない、使徒である事も芋づる式にバレると思った方が良い」
「そうなのか……アルドやルイスはそんな先の事が分かるなんて凄いんだぞ!」
ネロはオレとルイスを尊敬の眼差しで見つめてくるが、こちらとしては眉根を下げる事しか出来なかった。
「カズイさんはどう思いますか? 率直な意見を聞かせてください」
「僕? 僕は貴族の世界の事なんて分からないから……権力闘争って言われてもピンとこないよ。でもアルドとルイス君の言う事は納得できるし、やっぱり団長さんに肩入れするしか無いんじゃないかな?」
これで団長側に付くのを賛成したのはオレ、ルイス、カズイの3人になる。残りのネロは、まぁ、ほら、あれだから……
「決まりですね。条件にもよりますが、明日の話し合いでは基本的に迷宮探索の依頼を受ける事にします。後は迷宮についての詳しい説明を……」
そこからは、迷宮探索について具体的な話し合いを行った。
迷宮に潜るには、個の強さは当然として知っておかないといけない事が沢山ある。
今までは凡そ全ての準備をナーガさんに任せていた事もあり、オレ達だけで探索に挑むのはかなりのリスクがあるのは当然だった。
「迷宮探索は単純に個人の武があれば良いって物じゃない。オレがナーガさんから最初に教わったのは、意識の割き方だった。何日も潜る以上、警戒し過ぎても疲労が溜まるし、気を抜くと足元を掬われるんだ」
「要は程よい緊張感を持てって事だろ? それなら野営と同じじゃないのか?」
「ルイスの言う通り、確かに基本は変わらない。ただな、変化の無い景色に徐々に強くなる敵、時間が経てば素材や大事な荷物さえ迷宮に飲まれるんだ。更に迷宮には罠がある。地上での狩りより数段 神経をすり減らす事になるはずだ」
「罠か……確かに地上の魔物狩りで、罠に注意する必要は無いな。因みにどんな罠があるんだ?」
「代表的なのは落とし穴だな。他には毒、麻痺なんかのガスが出る物もある。その中でも最悪なのは転移罠だ。この罠にかかった者は迷宮の何処かに転移させられる。1人で飛ばされでもしたら、恐らくは助からない……」
「そりゃ、当然だな……迷宮の中に1人取り残されるとか……個の武があっても、休憩が取れずに疲弊して最後は飲み込まれるだろうな」
「ああ、オレが聞いた中で一番 死亡率が高い罠だそうだ」
迷宮探索を少し軽く考えていたのだろう。ルイス、ネロ、カズイの3人は真剣な顔で何かを考えている。
「だからな、明日の話し合いで「鱗の迷宮」に転移罠があるようなら断ろうと思ってる。他の罠ならオレとカズイさんが回復魔法を使えるが、転移だけはどうしようも無い。そこまでの博打をするくらいなら、外交問題に発展するとしても逃げた方がマシだ」
「お前がそこまで言うって事はそれだけ危険な罠って事か……」
「ミルドの時みたいな開放型の迷宮なら空間蹴りの魔道具も使えるし、転移があってもそこまで脅威にはならないだろうけどな」
「なるほど。どっちにしても明日の交渉次第って事か」
「ああ、基本的には協力するとしても、それとは別にしっかりと迷宮の情報はもらう。その上で「無理」だと判断した場合は、申し訳ないが逃げさせてもらうしかない。急な事態になる可能性もあるからな。3人には心構えだけでも備えておいてほしい」
「分かったぜ。オレは獣人語を話せないからな。悪いが任せる」
「分かったんだぞ。急に逃げる事になっても直ぐに動けるようにしておくんだぞ」
「本当は話し合いに参加できると良いんだけど……僕は貴族との交渉なんてできないから。でも逃げる時には足手纏いにならないよう気を付けておくね」
こうして何とか全員の意思疎通をして、明日の団長との話し合いに備えたのである。
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