第37話休息

37.休息




遠征から帰って1ヶ月が過ぎた。

もう少ししたら冬の気配が感じられる頃の事。


今日は闇の日でエル、アシェラ、クララ、オレで歩いて教会に向かっている所だ。

護衛はタメイとベレットの2人。本当はガルの予定だったが、二日酔いで急遽ベレットと交代したらしい。


「マールは先に教会にいるのか?」

「そうです。炊き出しの準備をしてるはずですよ」


「そうか、タブに会うのも久しぶりだし急ぐか」

「そうしましょう」


そう言い露店の通りを歩いていく。

何気に歩いていると、露店の1つに見慣れたイモを見つけた。


「オバチャン。このイモって何?」

「これはカライモだよ。焼くと甘くておいしいよー」


「いくら?」

「1個銅貨1枚だよ」


「じゃあ20個ちょうだい」

「はいよ。ありがとねー」


財布から銀貨2枚を渡す。

最近、外出していなかったので手元には残り2枚の銀貨が残ってる。


「何か箱とか無い?」

「そうだねぇ、この箱ならただで持ってって良いよ」


オバチャンは隅に放ってあったぼろぼろの箱を指差した。


「ありがとう。持ってくよ」

「また買っとくれ」


オレはカライモをボロ箱に詰めていく。

ボロ箱を担いで歩いているとクララが珍しそうに箱の中を見てくる。


「どうした、クララ。珍しいのか?」

「みたことないイモなので、どんなあじがするのかたのしみです」


「そうかー、クララが気に入るといいなぁ」

「おいしいといいです」


「教会に着いたら早速、焼き芋を作らないとなぁ」

「やきいも?やくんですか?」


「そうだ。甘くて美味いぞー」

「やいてあまい……そうぞうできないです……」


「ハハハ。出来たら一番に食べさせてやるからな」

「ありがとう。アルにいさま」


オレはちょっと人は多いが、妹デートを楽しんでいた。

暫くして教会に到着すると、タブとマールが炊き出しの準備を手伝っているのが見える。


「おーい、タブ。マール」


タブとマールがこちらに気付き、笑顔で頭を下げた。


「タブ。久しぶりだな」

「お久しぶりです。アルド様」


「いつも教会の炊き出し、ありがとう」

「いえ。アシェラ様の言葉を忘れずにいるだけですよ」


笑いながら答えるタブの顔、は誇りと自信に満ち溢れている。


「じゃあ、邪魔しちゃ悪いから、オレは向こうで焼き芋を作るよ」

「焼き芋ですか?」


“焼き芋”の言葉にタブは商人の顔で、聞き返してきた。


「カライモを買ってきたから、焼くだけだよ」

「そうですか。アルド様の料理はどれもおいしいですから楽しみですよ」


イモを焼くだけと聞いて、タブの眼からやっと商売の光が消える。

オレは焚火をしても問題無い、広くて燃える物が無い場所を探して移動していく。


オレに付いてきたのはアシェラだけ。

エルはすぐにマールの下へ、クララは友達のチキの下へと行ってしまった。


「アシェラはオレと居ていいのか?」

「ボクがいてあげないと、アルドが寂しくて死んじゃう」


「オレはウサギか!」

「ウサギほど、かわいくも美味しくもない」


オレはアシェラと軽口を叩きながら焚火に使う落ち葉や枯草を集めていく。


「アルド。何してるんだ?」

「お、ヤマトか。焼き芋作るから落ち葉や枯草を集めてるんだ」


「焼き芋ってなんだ?」

「イモを焼くんだよ。だから焼き芋だ」


「なるほど。美味いのか?」

「うーん、女子に人気があるかな」


オレの返答にヤマトが一瞬、考えてからアシェラに話しかけた。


「ア、アシェラも食べたいのか?」

「ボクは食べた事ないけど、美味しいなら食べる」


「そうか!落ち葉だな。ちょっと集めてくる」


そう言ってヤマトは教会の周りの落ち葉を必死になって集め出した。


(うーん。あれってやっぱりアシェラの事が好きなんだろうな……ヤマトもオレと同じ10歳。オレも初恋はこんな時期だったかなぁ)


日本での年を合わせると44歳。初恋の記憶も朧げにしか思い出せない。


(たしか近所の栞ちゃんが初恋だったなぁ。高校生になってから不良と付き合って、妊娠して高校中退してたけど……今頃はヘタしたらお婆ちゃんか……

ヤマトよ。初恋は実らないと言うが、精一杯 頑張れ。何年かしたら良い思い出になってるぞ)


自分の初恋は良い思い出じゃない癖に、他人には偉そうである。


「よし、落ち葉はこれぐらいで良いな。ヤマトもありがとな」

「ハァ、もん、だい、ハァハァ、ない」


息が切れる程に頑張ったヤマトだった。


枯葉をある程度集めて火をつけると、徐々に大きくなる火を枝を使って調整していく。

少し赤みを帯びた灰を横に分け、カライモを入れてやる。


「そろそろ良いかな」


イモを4個ほど灰の中に入れた。

そして、また枯葉を足して火の番をする。


「これ、時間かかる」

「そうだなぁ」


アシェラと並んで火の番をしながら、他愛ない事を話したり、無言で火を見ていたり……

20分ぐらいが経ち、イモに木の枝を刺して固さを確認した。


(中まで枝が通るし、大丈夫そうだな)


枝でイモを灰の中から取り出し、布切れで灰や埃を取り除いていく。

オレは焦げてしまった皮を剥いて、湯気が上がるイモに齧りついた。


美味い!焼きたてのイモはアツアツでホクホクだ。

アシェラも興味深そうに見ているので、食べかけの焼き芋を差し出した。


何故かイモを凝視したかと思うと、自分の手で持たないでそのまま齧りつく。


「オマエ、自分で持って食えよ」

「手が熱いから、ヤダ」


くだらない事を言い合いながらアシェラは笑っていた。

オレも何でもない事だが楽しかった。ずっとこんな時間が続けば良いと思ってしまう。


しかし、そんな時間が許される訳も無く……2人だけでイモを食べている所を子供達に見つかってしまった。

そこからは子供達がやってきて、カライモが無くなるまで焼き続ける羽目になってしまった。


日本でもそうだったが、焼き芋は女、子供に大人気だ。

意外だったのがベレットが1本食べきっていた。


幸せそうに齧りついていたと思ったら、最後の一口の時には悲しそうな顔で焼き芋を見つめていたのだ。

日頃の感謝に今度、騎士団に持っていってやろう。





夕方になり帰る時間になった頃、ヤマトから相談を持ち掛けられた。

ヤマトはどうやら騎士団に入りたいらしい。街の悪者を倒す手伝いをしたいそうだ。


以前の話だが、孤児院の金を盗まれた事があったらしい。

ヤマト曰く悪いヤツはドンドン牢屋に叩き込めば良いそうだ。


騎士団の入団試験は誰でも受ける事が出来る。

但し、試験は学科と実技があり、身体強化があると無いじゃ雲泥の差になってしまう。


次に来た時に魔力操作と身体強化を教える約束をした。

余談だが、学科は知り合いの爺さんに習うらしい。





帰る前にヤマトからアシェラを泣かしたらただじゃおかないと言われた……何故オレに言う……ヤマトよ。

最近、色々あったが、今日のようにのんびりした日も大切にしていきたい。





その日の夕食の時間、クララが焼き芋の美味さを大げさに話してしまい、母さんが自分も食べたいと駄々をこねだした。

仕舞いには今から走ってカライモを買ってこいと言い出す始末だ。


どこのジャイアンなのかと……無視してたら指先ほどの氷を投げてきやがった。

おま!魔法を使うとは!こうなったら戦争じゃないか!


オレ達は魔法で雪を出して家の中で雪合戦をしていると、鬼の形相のローランドに説教される羽目になってしまった。

本当に氷結さんに付き合うと碌なことにならない。


少し、かわいそうだったので後日、料理長にカライモを買ってきて貰って焼き芋を作ってやった。

母さんに食べさせたら、夕食の時に父さんが寂しそうな顔でオレを見てくる……


ブルータス、おまえもか!

今度は父さんにも食べさせないといけないらしい……面倒臭い。



どこにでもある?秋の日の出来事だった。



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