第246話親友 part2
246.親友 part2
ミルドでの件を話し終えると、次第に話題はこの3年間の事に移って行く。
エールを片手に話出せばDクラスの事、そしてやはりファリステアが話題に上った。
「ファリステア、元気にしてるかね?」
「大丈夫だろ、アイツも良い所のお嬢様だったはずだろ?」
「お嬢様ですか……政略結婚とかあるんでしょうか?」
「ファリステアは幸せにならないとダメだぞ!」
「ああ、そうだな。ファリステアは幸せじゃないとダメだな」
「そうだな」
「ファリステアなら、きっと大丈夫ですよ」
「アイツは強いから大丈夫だぞ」
もはや会話が意味を成していない……ほろ酔いで弛緩した空気の中で、いつも一石を投じるのはエルの役目だ……
「あー、灯りが綺麗ですねぇ……」
何気無く言ったのか、計算され尽くした言葉だったのか、それはエルにしか分からない。
しかし、1つだけ言えるのは、この酔っ払いの中に〝色街”という物を再び意識させたのだけは間違い無かった。
「お、おう。綺麗だな……」
「つ、ついフラフラと寄って行きそうになるな……」
「行くか?」
オレ達は全員でネロを凝視する。
「!!な、何だぞ。お前等、眼が怖いぞ……」
「ち、因みに、ネロは行った事はあるのか?」
「ん?あるぞ」
「「「!!!」」」
「この休みも掃除をさせられたぞ」
「「「……」」」
オレ達3人は心の中で、そういう意味じゃ無くて!!と突っ込んでいた。
「あー、ネロは女性と……その、関係を持った事はあるのか?」
「ん?あるぞ」
「「「!!!」」」
こいつ!やる事やってやがった!!
「いつ?」
「どこで?」
「誰と?」
3人の息はぴったりと合っている。
「冒険者で儲けた金で借金を返し終わって、15歳になった時に神父に連れてかれたぞ」
「「「……」」」
あー、あの神父ならやるわ……あのタヌキ、ネロの心の一部をこの場所に縫い付けやがった。
オレ達3人はお互いの顔を見つめ、誰からともなくゆっくりと頷き合う……
「ネロ、オレ達も大人の階段を登りたい!」
「頼む、案内してくれ!」
「お金ならあります!」
エル……お前はいつもストレートだな……そんな所、嫌いじゃないぜ。
「お、おう。あ、空いてるか聞いてくるから待ってるんだぞ……」
「「早くな」」「お願いします」
ほんの10分程がオレ達には1時間以上にも感じた頃に、ネロは帰ってきた。
「今日は忙しいみたいだぞ。でも店の終わり頃なら大丈夫みたいだぞ」
オレ達3人はネロの手を握り、男の友情を確かめ合う。
「いやっふーーー」「おっしゃぁぁぁぁ」「むふ、むふふ……」
こうして三者三葉で喜びを表して2時間ほどの時間を潰す事となった。
2時間後----------
そろそろ良い頃合いではないだろうか。
オレ達は無言のプレッシャーをネロに送ると、ネロはオレ達の気持ちを察してくれたようだ。
「そ、それじゃあ、聞いてくるぞ……」
そう言って席を外すネロの背中を、期待を込めた眼で追っていると、ネロが急に歩みを止めた。
暗がりから数人がネロに何かを言っている……何かの揉め事のようだ。オレ達は瞬時に気持ちを切り替え、戦闘体勢へと入っていく。
何かを言われたネロが、数人の人影を連れて戻ってくると、その人影達の姿が露わとなった。
「アルド、母ちゃん達も肉が食いたいみたいだぞ……」
何とネロは娼婦達に詰め寄られていたらしい。
話を聞くと、どうやら日が落ちた頃から辺りに、強烈に美味そうな匂いが漂い出し、娼婦や客の間で噂になっていたそうだ。
調べてみるとネロが、友達を連れて何やら美味そうな肉を食べている事が分かり、手が空いた者から仕事を早上がりしてやってきた、と言うわけらしい。
「あら、アンタ達は確かネロの友達だったかい。久しぶりだね」
そう言って前に出たのはネロカーチャンであるミミルさんだ。透けそうな服に身を包みエロさ300%である……
「ご、ご無沙汰しています」
「お久素振りです……」
「また会えて嬉しいです!」
オレとルイスはネロカーチャンの色気にやられ、前屈みになっていると言うのに……エルの野郎、堂々としてやがる!
「悪いけど、ご相伴に預からせて貰って良いかい?」
「「「どうぞどうぞ」」」
「……」
オレ達3人はこれからの事を考え喜んで招くが、ネロだけは渋い顔をしていた。
娼婦達は夕飯を食べているので、それほど沢山食べるわけでは無いのだが、兎に角、数が多い。
少し食べてはお礼を言って消えていき、次々に新しい娼婦がやってくる。
オレ達は誰にお相手して貰おうかと、値踏みしながら精一杯尽くしていると、直に新しい娼婦がこなくなった。
どうやら終わったようだ。いよいよ目くるめく官能の世界へゴーー!!
「「「よし、ネロ、行こう!!」」」
「……」
ネロはバツの悪そうな顔でオレ達から顔を背けてしまう……どうしたんだ、兄弟!オレ達を桃源郷へ案内してくれるんじゃないのか!
「どうした?ネロ」
「……皆、帰ったと思うぞ」
「「「…………」」」
「……」
「「「は?」」」
「皆、食べ終わったら店じゃなく家の方へ向かってたから……たぶん誰もいないと思うぞ……」
「「「はぁぁぁぁぁぁぁ??」」」
「小声で母ちゃんには言ったんだけど……困った顔をしただけで知らん顔されたぞ」
なんてこったい。オレ達はお姉さま方に喜んで貰って、サービスしてもらおうと思ったのに!
神は死んだ……オレ達3人は抜け殻のようになってしまう。
「こんな世界……滅べば良いのに……」
ボソッと呟いたオレの言葉にルイスとネロは過剰に反応した。
「お、おい。アルド、明日だ。明日もう一回こよう。きっとすっごいサービスしてくれるぞ」
「そ、そうだぞ、母ちゃんに一番人気のある子を付けるようにお願いしておくぞ」
こいつらは何を焦っているのか……ああ、そうか。使徒であるオレが絶望して世界を救わなくなると思ったのか……
「ハァ、冗談だよ。残念だけど、オレはこの国も街も好きだからな」
「そ、そうか」「明日は良い事があるぞ」
3人で盛り上がっている後ろで、本当に暗黒面に落ちた者が……
「楽しみにしてたのに……おろろぉぉぉん……もう何も信じられない……」
「おいぃぃぃ!エル、帰ってこい!お前には、マールがいるじゃ無いか!」
「はっ、そうだ。僕にはマールがいたんでした……兄さま、僕はもう少しで闇に落ちる所でした」
「マジか……」
オレ達のやり取りをルイスとネロが、乾いた顔で見ていたのだった。
「悪かったぞ……」
あれからオレ達は教会の離れを貸して貰える事になり、そこで飲みなおす事になったのだが、ネロが開口一番、謝罪を口にしたのだ。
話を聞くと、どうもネロカーチャンは娼婦達の顔役であるらしく、今回の事はネロカーチャンが音頭を取っての事だった。
ネロカーチャンもまさかオレ達が娼館に行くとは思っていなかったようで、ネロから話を聞いた時には娼婦を止められなかったらしい。
まぁ、オレ達を娼館に行かせれば肉を焼く係がいなくなる。娼婦達の息抜きに、と考えていたのに、やっぱり働けとは言えなかったのだろう……今回はタイミングが悪かったとしか言いようが無い。
「縁が無かったんだよ。初めては婚約者とってことだな」
ルイスがニヤニヤと笑いながらこんな事を言って来た。
「まるで、お前は明日にでも出直すような言い草だな」
「オレは特定の相手が居る訳でも無いしな。今日でお姉さま達に顔も売れただろうし……ネロに連れて行ってもらえる事も分かったし……うひひ」
ぐぬぬ……オレとエルは悔しさのあまり血の涙を流しそうだ……
「それとも明日、もう1日外泊して一緒に行くか?」
むううう……2日も外泊……アシェラにバレでもしたら……オレは背中に氷でも入れられたかの様な感覚を味わい、震えが止まらない。
「や、止めておく……」
「エルファスはどうだ?」
「……2日は無理です……止めておきます」
ルイスはオレとエルを見て、呆れたように溜息を1つ吐いた。
「救世主様でも女の尻に敷かれるのかよ。男には夢も希望もありゃしねぇな」
ルイス、流石にそれは言い過ぎだ!
「お、おま、いつかお前に嫁が出来たら、同じ事を言ってやるからな!」
「オレは尻に敷かれたりしねぇよ」
「ば、おま、尻に敷かれてなんかねぇってーの!なぁ、エル」
「僕は違うと思いますが、兄さまは……アシェラ姉に……」
「エル、おま、裏切るのか!」
「いえ、そんな事は。でもアシェラ姉が本気で怒ったら……」
オレ達4人は〝ゴクリ”と生唾を飲んで、この話題から離れる事にする。
「こ、この話題は止めておこう……」
「そ、そうだぞ。楽しい事を話そう」
「そうだよな。頻繁に会えなくなるんだし楽しい事を……」
「兄さま……」
おふっ、地雷を踏み抜いてしまったぜ……敢えて皆、話題に出さなかったのに。
ブルーリングに来るネロと違って、ルイスは簡単に会えなくなるのだ……
「おいおい、辛気臭いぞ」
「そうは言うけどな。お前は王都に残るんだろ?」
「あー、それなんだが……オレもブルーリングに行く事にした」
「「「は?」」」
「母さんが空間蹴りの魔道具を、返したくないって言い出してなぁ」
「「「あー」」」
オレ達の頭の中には、リーザスさんの姿が手に取るように想像できる。
「オレ自身も、もう少しこの魔道具を使いたいんだ。自分の中で納得出来る時が来たら、魔道具を返そうと思う」
ルイスは何に納得いかないのか……もしかして魔道具に慣れて、自前で空間蹴りを使えるようにならないかを、確かめたいのかもしれない。
「オレは、お前がブルーリングに来てくれるのは大歓迎だけど、サンドラ伯爵は許してくれるのか?特にリーザスさんなんて伯爵夫人だぞ……」
「オレに関しては応援してくれるみたいだが、母さんはな……絶賛、喧嘩中だ」
「マジかよ……」
「実際は母さんが一方的に言って、父さんが泣き付いてるんだけどな」
オレ達はその姿を想像出来てしまうだけに、3人で苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
こうしてルイスの嬉しい報告もあり、今までの3年間や、これからの事、そして使徒の事を、話疲れるまで続けるのだった。
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