第247話確認

247.確認






オレ達は結局、深夜までバカ話に盛り上がり、酔い潰れるまで飲んで、教会の離れで雑魚寝したのだった。

朝の喧騒が聞こえ、ゆっくりと意識が覚醒していく……眠い目を擦りながら起き出すと、エルやルイス、ネロも同じように起き出してくる。


「おはよう」

「おはよう……頭が痛い……」

「おはようございます」

「おはようだぞ」


「ルイス、多分二日酔いだ。だから止めとけって言っただろ」

「これが二日酔いか……なるほど、これはキツイな……」


「ほら、こっちに来い。回復魔法をかけてやるよ」

「スマン……」


朝食にと、マッドブルの肉の余りを焼いていたら、チビ達がやって来て肉を食い尽くされてしまった。


「しょうがない。帰りに露店で何か買おう」

「そうだな」「はい」


「ネロ、またな」

「学園でな」

「また会いましょう」

「まただぞー」


こうして楽しかった男子会はお開きになり、それぞれの自宅へと帰って行く。


「じゃあな、ルイス」

「おう、またな」

「また今度」


ルイスとも別れてエルと歩いていると、屋敷の前にはアシェラとマール、ライラが立っているではないか……


「ただいま、もしかして待っててくれたのか?」

「うん」


そう答えながら、アシェラとライラはオレに近寄りクンクンと匂いをかいでいる。

エルもマールから同じように、匂いを嗅がれていた。


「な、何だよ。匂いとか恥ずかしいだろ」

「お師匠から教えてもらった。香水の匂いがしたら高確率で浮気してきたって……」


いきなりのアシェラの言葉に、オレとエルは劇画調になって固まってしまう。


「匂いはしないけど、何か怪しい……」

「ば、オレ達の何処が、あ、怪しいって言うんだよ。なぁ、エル」

「そ、そうですよ。友人達と飲んで思い出を語っただけです……」


ライラは難しい顔をしており、どちらとも判断しかねているようだ。

マールは能面のような無表情で、何を考えているのか全く分からない……そんなマールが訥々と話し出した。


「エルファス……アナタを信じてるわ……」


ま、マールさん、その無表情は絶対に信じてないですよね?むしろ90%以上疑ってますよね?


「ま、マール信じてほしい。僕は絶対に綺麗な体だ!精霊に誓うよ」


エル……お前は確かに綺麗な体だろうが、自信満々で言われると、昨日を思い出して兄ちゃんモニョっとなっちゃうよ……それに精霊に誓うって、それアオの事だぞ……アイツに何か誓っても〝ふーん”で流す以外、思いつかないんだが……


「ネロが世話になってる教会の離れで、酒を飲んだだけだって。本当だ。信じてくれ」

「兄さまの言ってる事は本当です。信じてください」


アシェラ、マール、ライラの3人は、完全に信用したわけでは無さそうだが、一応の鉾は降ろしてくれた。


「分かった。でも浮気はダメ。絶対」

「お、おう」


「エルファス、ごめんなさい。でも私……どうしても心配で……」

「僕のマール、心配をかけてごめん。僕にはマールだけだ、信じてほしい」


「アルド君……浮気をしたら私は相手を許せる自信が無い……」

「だ、大丈夫だ。オレは浮気なんてしない」


オレとエルはこの時、同じ事を思っていた……何も無くて本当に良かった、と。






アシェラ達の追求から逃れ、取り敢えずはドラゴンアーマーから着替えるために自室へ戻ってきた。

今回は何も無かったが、このままではいつか間違いを犯してしまいそうな気がする……


ぶっちゃけた話、婚約者が3人もいてキスだけとか……15歳の体でこれはヘビの生殺しなのではないだろうか。

それに新居ももうすぐ完成する予定だが、その後はどうするのだろう……一緒に住むのだろうか。


オリビアなんてサンドラ伯爵家の長女だ……結婚前に一緒に住むなど有り得ない……そう言えばゴブリン騒動の後、母さんにアシェラとの結婚の段取りを頼んであった筈だ。あの時よりオリビアとライラが増えたが、どうなってるのか一度、聞いてみた方が良さそうな気がする。


これを放置しておいて、家が完成してもオレが1人で住む事になるとか……それは何の罰ゲームだって話だ。

着替えを終えると善は急げとばかりに、オレは母さんの部屋へと向かって歩き出した。






「アルドです。少しよろしいでしょうか?」


母さんの部屋の扉をノックして呼びかけてみる。


「はーい、開いてるわよ」

「失礼します」


扉を開けて部屋へ入らせてもらうと、母さんはベッドに寝転がりながら本を読んでいた。


「アルが私の部屋に来るなんて、珍しいわね」

「少し聞きたい事があるのですが……」


「何が聞きたいの?」

「以前、ゴブリン騒動の後、ハルヴァと母さんが話をして、学園を卒業したら直ぐに結婚と言ってたと思うんです」


「言ってたわね」

「もう卒業なんですが、結婚は何時するんでしょうか?」


「ん?卒業したら直ぐにするんでしょ?」

「あの時、母様が準備をしてくれると言ってたと思うのですが……」


「……アル、もしかしてアナタ結婚式をするつもりなの?」

「すみません、話が見えません、するんじゃないんですか?」


母さんは何やら思案顔でベッドから起き上がると、椅子に座りなおした。


「アル、アナタ、学園を卒業したら貴族籍を抜くのよね?」

「はい、そのつもりです」


「これは一般的な話として聞いて頂戴」

「はい」


「普通、貴族が結婚をする時には、親しい貴族を招いてパーティをしてお披露目をするわ。領地持ちの貴族なら更に領民へのお披露目もあるわね」

「はい」


「これは慣例もあるけれど、周りへの周知の意味が大きいの。結婚をして奥方になった事を知らずに、失礼な態度を取って処罰されるような事故を無くすためのものよ」

「なるほど、合理的ですね」


「それに対して平民はそんな事をする必要は無いの。普通の平民は、結婚をしても知り合いを呼んでご馳走を振る舞う程度よ。豪商なんかは自分のチカラを見せつける為に、大きな結婚式をする事もあるけどね」

「そうなんですか……」


「以前はアシェラとの結婚式の準備を進めてたけど、アルが貴族籍を抜くって言うから白紙にしちゃったわ。望むなら大きな結婚式をやってあげても良いけど、アルは派手なのを嫌がるじゃない」

「まぁ、そうですね……」


「それなら家が建ったら、親しい人や親族を呼んでパーティを開けば、それで良いのよ」

「なるほど……」


「但し、アシェラやライラは良いとしても、オリビアはサンドラ家を呼ぶ必要があるけどね」

「そうですね……」


「自分で言っておいて悪いけどサンドラか……サンドラ家の人達は、マナスポットで王都からブルーリングへ飛んでもらうのが良いのかしら……でも護衛は……うーん、アル、これは私だけでは判断できないわ。お父様に相談しましょう」

「分かりました」


そう言うと直ぐに立ち上がり、爺さんの元へ向かう……今は氷結の魔女モードみたいだ、頼もしい。






「お父様、相談があるのですがよろしいですか?」


母さんは執務室に到着すると、ノックをして扉越しに声をかけた。


「入れ……」

「「失礼します」」


中に入ると爺さんが1人で書類に何かを書き込んでいる。


「アルドも一緒か、どうした?」

「実は………………」


母さんが先程の結婚の件で、サンドラ家一向をどう扱うか爺さんにお伺いを立てている。


「サンドラか……」

「あ、そう言えば、ルイスとリーザスさんは卒業後にブルーリングで冒険者をするそうです」


「ちょっと待て。そんな話、ワシは聞いてないぞ」

「アル、私も初めて聞いたんだけど。どういう事?」

「実は昨日の夜、ネロとルイスとエルと僕の4人で酒を飲んだんです。その時に、卒業後の身の振り方を話していたんですが、リーザスさんが”空間蹴りの魔道具を返したくない”と言ってるらしく、それならブルーリングで冒険者をする、と言い出したそうです」


爺さんが頭を抱え、母さんも苦笑いを浮かべている。


「それは決定なのか?」

「どうなんでしょう。ルイスが言うには、その件でサンドラ伯爵と喧嘩中だとか……」


「ハァ……ルイスベル君とリーザス第2夫人はフォンを持たないとは言え、ブルーリングに滞在中、何かあれば責任問題になりかねん」

「そうなんですか?」


「一度サンドラ卿と話してくる。結婚の日程も含めて、この件はワシが預かる、良いな?」

「はい、お願いします」


「先ずは先触れを出す。2人は下がって良い」

「分かりました。よろしくお願いします」

「失礼します」


何か話が大きくなってきたが、1歩は前に進めたのではないだろうか……この件はアシェラとライラに伝えておいた方が、良い気がする。

早速、100メードの範囲ソナーを打ち、アシェラとライラの居場所を探す……いた、居間でマールと一緒にいる。


居間に移動するとソナーでオレが来るのが分かっていたらしく、空いている席にお茶が用意されていた。


「アルド、ここに座って」

「ありがとう」


アシェラの隣に座り、お茶を頂いてから先程の爺さんとの話を始めた。


「さっき、お爺様と母様に話したんだが…………」


オレは結婚の日程を爺さんと母さんに相談した件をなるべく細かく話し、今はサンドラとの調整で日程は爺さん預かりになった事を説明していく。


「結婚!」「結婚……」


アシェラとライラは2人して楽しみで仕方がない、と顔に書いてあるかのように嬉しそうだ。


「それで母さんに言われたんだが、平民は親族や知り合いを自宅に招いてお祝いをするそうだ。2人は結婚に当たっての希望はあるか?」

「うーん、ボクはそれで良い。あまり派手なのは、お父さんやお母さんに悪い」

「私は……呼べるような親族はいない……」


「そうなのか。でも知り合いぐらいいるだろう?」

「ブルーリングにはいない……」


「あ、そう言えばリュート伯爵領の出身って言ってたなぁ。来てくれそうな人はいないのか?」

「私はアルド君と結婚出来ればそれで良い。知り合いには手紙を書いておく……」


「分かった。じゃあ、オリビアに確認してからになるが、結婚には親族や知り合いを呼んでパーティーをするって事で良いな?」

「「うん」」


「ライラも気が変わったら、呼んでも良いんだからな」

「ありがとう」


後は爺さんから日程を出してもらえば、そこに向けて調整していけば問題ないだろう。

ハルヴァやサンドラ伯爵に〝娘さんをください”と言うのは今から考えても緊張してくる……ちゃんと言えるように練習しておかねば。


こうしてフワッとしていた結婚の話は、一気に具体的になったのであった。




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