第245話親友 part1

245.親友 part1






オリビアとキスをしてから、ルイスの部屋へと案内された。


「遅いぞ、アルド。全く、女は話が長いからな……」


ルイスよ、返事をし難い事を言うのは止めてくれないか?この部屋に案内してくれたのはオリビアだぞ……恐らくは今のお前の声も聞こえていたはずだ。


「話が長くてすみませんね……」


やはり聞こえていたのだろう、オリビアがルイスの部屋のドアを開けて文句を言ってくる。

ルイスは降参とばかりに両手を上げているが、オリビアの怒りは収まってはいない……


「ルイス。良い機会だから言いますけど、アルドに余計な事を吹き込まないでください!」

「ああ、分かったよ。アルドには、お前がどれだけアルドを好きなのかを、言って聞かせるから安心しろ」


「な、何を。。。。」


真っ赤になったオリビアはルイスとオレを交互に見て……


「ばか!!」


そう言って走ってどこかへ行ってしまった。


「おい、どうするんだよ。コレ……」


ルイスは肩を竦め、半笑いを浮かべている。


「それより行こう。エルファスも迎えに行かないとだしな。魔道具を使うぞ」

「分かったよ……」


ルイスはワイバーンレザーアーマーを着こみ、空間蹴りの魔道具を着けて窓に足をかけた。


「おい、本当に大丈夫なんだよな?落ちるなよ?」

「大丈夫だ。冬休みの間、ずっと練習したんだぜ」


言葉のままルイスは窓から飛び出し空中を駆け出した。

ルイスの後ろを追って行くと屋根の上にオリビアの姿が見える。きっと空間蹴りの魔道具で登ったのだろう。


オレ達もだが、何かあると屋根の上と言うのが決まり事になってきた気がする。

さっきの事を気にしているのだろう、恥ずかしそうにこちらを見ているオリビアに、大きく手を振ってから叫んだ。


「オリビア、オレも好きだ!行って来る!」


オリビアを驚いた様子を見せたかと思うと満面の笑みで、大きく手を振ってくれた。






ルイスと2人並んで空を駆けている。


「しかし、大変だな。お嬢様のご機嫌を取るのは……」

「そう言うなよ。お前はどうなんだ?」


「うーん、オレはまだ良いかな。これからの人生を考えるので手一杯だ」


ルイスが言うのは種族の事もあるのだろう。魔族であるルイスは将来、魔族の国に帰るのか、それとも人族の国であるフォスタークに腰を据えるのか。

フォスタークに住むとしても、サンドラなのか王都なのか、果てはブルーリングなのか。


思い返せはルイスは入学したての頃、差別があると言っていた……オレ達の間ではそんな物は無かったが、きっと些細な事は今でも生活の中で端々に感じるのだと思う。

そうでなければ将来を悩む必要など無く、この国に住めば良いのだから……


そんな事を話していると、直にブルーリングの屋敷に到着した。

さてエルはどこにいるのか……メイドに頼んでも良いのだが、直接行った方が早い。オレは100メードの範囲ソナーを打ってみる……いた、居間にマールや母さん、アシェラ、ライラ達と一緒にいる。


「居間にいる。ルイス、行くぞ」

「おい、窓から入ってそのままとか……」


「オレと一緒にいるんだ。気にするなよ」

「ブルーリングは貴族家だろ……本当に良いのかよ……」


ルイスはブツブツ言うが知らん顔で進んで行く。

居間に到着すると、さっきのソナーでオレがくる事は分かっていたらしく、皆が待っていた。


「あら、ルイス君じゃない。良く来たわねぇ、こんにちは」


母さんは正式な貴族家の奥方であるのに、この適当な雰囲気は近所のオバハンのようである。


「突然の来訪、申し訳ありません。この度は…………」

「あー、そう言うのは良いから。この焼き菓子美味しいのよ。座って一緒に食べましょう」


ルイスはオレに助けを求めるかのように見つめてくる……オレにどうしろと……


「母様、ルイスと一緒にネロの所に行こうかと思ってるんです。時間も時間ですし泊って来るかもしれません」

「ふーん……ネロ君の所にね……」


氷結さんは特に興味も無さそうにしている……


「エル、お前もどうだ?一緒に行かないか?」

「はい、行きたいです」


「じゃあ、念の為、武装だけしてこいよ」

「分かりました」


エルが急いで自室へ向かう中、オレはルイスと居間の隅で話していた。


「なぁ、教会に食料も持ってくか?」

「そうだな、もう夕食の時間だしそれが良いかもな」


「それなら、ちょっと待っててくれ。マッドブルの肉があるんだ」

「何だそれ?美味いのか?」


「ああ、ついでに酒も持ってくか?」

「良いな。教会なら雑魚寝する場所ぐらいあるだろうしな」


オレ達はそのまま厨房へ移動して行き、料理長に酒とマッドブルの肉、切り野菜を箱に詰めてもらった。


「こんなに食べきれないだろ……」

「教会にはチビ達もいるからな。目の前でオレ達だけ食べる訳にはいかないだろ」


「そりゃそうか。チビ達もなら少し少ないか?」

「どうだろうな。向こうは向こうで料理を始めてるだろうし、これぐらいで良いんじゃ無いか?足りなければオレ達が屋台にでも行けば良いしな」


「そうだな」


居間でオレたちが厨房にいると聞いたのだろう、ルイスと話してるとエルがやってきた。


「お待たせしました」

「じゃあ、行くか」

「おう」


オレ達は箱をエルとオレで1つずつ持って空へ駆け上がっていく。

見られると面倒なので、いつもより高度を取って駆けているとルイスが恐る恐る話出す。


「この高さは逆にあまり怖く無いな……」

「ああ、ある一定まで上がると恐怖は減って行くんだ」


「なるほどねぇ。しかし、改めてこの魔道具の凄さを感じるぜ……」

「まあな。攻撃が届かない高さまで登れば、一方的に攻撃できるわけだしな」


「……言われてみて気が付いた。考えてみると、恐ろしい魔道具だな」

「ああ、最近、爺さんが口酸っぱく言う理由が分かって来たよ」


「だろうな。それはブルーリング卿が正しい」


3人で駆ける空は夕焼けで真っ赤に染まり、まるで炎の中を駆け抜けているようだった。


「そろそろ北区だな。教会は……」

「色街の隣だろ?灯りで目立たないか?」

「あそこですか?あの一角だけ明るくなってます」


「色街を目指すぞ」

「色街か……」

「……」


何故か急に無言になる3人の思いは、きっと1つであったに違いない。

徐々に近づく灯りを見つめる3人の気持ちは幾ばくか……今ならネロも金貨の1枚や2枚どうという事は無い筈である。


3人はお互いの顔色を窺いながら、教会への道を駆けて行く。


「ネロー!いるかー」


教会の扉を開けていきなりコレである……これでは小学生が友達の家に遊びに行った時と変わらない。

オレの後ろでルイスとエルは苦笑いを浮かべている。


「おー、いるぞ」


直ぐにネロは奥の扉を開け、大声で答えてくる。


「ネロ、帰ったぞ」

「おかえりだぞ!アルド、エルファス」


ネロには偉く心配をかけてしまったようだ。

特にルイスにはサンドラ伯爵への報告がてら詳しい事を話してあったのだが、ネロには軽く挨拶だけで別れてしまっていた。


「ネロ、心配をかけてすまなかった」

「無事なら良いぞ。それで翼の迷宮はどうなったんだ?」


「まあ、待て。順番に話してやるから。先ずは飯にしよう」


それからオレは運んできた木箱を開け、料理の準備をしていくと、珍しいのか教会から神父と子供達がゾロゾロと出てくる。


「お久しぶりですね」

「ご無沙汰してます」

「お久しぶりです。神父様」

「お久しぶりです」


かなり前に流行り病にかかったと聞いたが、神父は元気そうに見える。

きっと、今は完治して問題はないのだろう。


「実家から食材を持ってきました。子供達に食べさせても良いですか?」

「ありがとうございます。とても助かります」


「いえ、迷宮を踏破したついでに狩って来た物ですから。マッドブルという魔物の肉で、美味しかったので持ってきました」

「マッドブル……高級食材ではないですか」


「そうなんですか?狩った物なので元手はタダですよ。先ずは神父様と子供で食べてください。オレ達は後からゆっくりと頂きますので」

「本当に申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます」


神父の許可が出た。これで大手を振ってバーベキューができると言う物だ。

焼け始めた肉や野菜が暴力的な匂いを出し始めている……オレは自家製焼肉のタレを小皿に入れていき、子供達に手渡した。


「今日はバーベキューだ。沢山食べろよー」


オレは持ってきた鉄板だけじゃ無く、教会の調理器具も使いどんどん肉と野菜を焼いていく。


「美味しい!」「何これ。美味しい!「この肉スゲー」「凄く美味しいー」「美味しいー」


子供達は美味しい美味しいと喜びながら肉を食べていく。

肉ばかりじゃなく野菜も食べさせねば……子供達の皿へ野菜を入れてやると露骨に嫌な顔をするが、野菜を食べないと肉を入れて貰えないと分かると、全員が必死に野菜を食べていた。


しかし、やはり子供にこの量はキツイらしく、満腹になったお腹を撫でながら、残念そうに肉を見つめている。


「マッドブルかは分からないけど、また狩ってきてやるよ」


その言葉に子供達は笑顔を浮かべて教会へ戻っていった。


「さて、オレ達も食べるか」

「おう」「はい」「腹が減ったぞ」


オレ達は3人で鉄板を囲みながら、肉と野菜を食べて行く。


「それじゃあ、最初から話すからな……」

「ああ、頼むぞ」


ミルドの街で何があったのかを、最初から順を追って説明していった。


「…………ってことでミルドの英雄として街を後にしたんだ」

「……お前等、風竜を倒してレッサードラゴンまで倒してきたのかよ」


「ああ、レッサードラゴンは大した事無かったが、魔瘴石を食べた風竜はオレ達では手も足も出なかった」

「そうですね。あの速さは今の僕達では対処できませんでした」

「お前等でもか……」

「……」


「何とか完全回復薬があったから助かったが、運が悪ければ何人か死んでいてもおかしく無かったんだ」

「その完全回復薬ってのはどうやって手に入れたんだ?簡単に手に入るなら沢山用意しておいた方が良いんじゃないか?」


ルイスの素朴な疑問に、オレとエルは〝しゃべり過ぎた”と嫌な汗が噴き出してしまう。


「あー、うーん、そうだ、迷宮の宝箱から出たんだよ。だから1個しか無いんだ」


ルイスはオレとエルの態度に眉根を寄せながらも、深くは追及して来ない。


「まぁ良い。結局、犠牲は無かったんだよな?」

「ああ、そうだ」


「それなら良かった」

「そうだな……」

「良かったぞ!」

「そうですね……」


焼肉を食べながら軽くエールを飲み、4人の夜は更けていく。

4人の隣には色街の灯りが妖しく灯り、ふとした瞬間、眼に入ってくるのだった……






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