第168話プレゼン part1

168.プレゼン part1




風呂が完成して小規模な修正が終わり、いよいよプレゼンをする事になった。

爺さん、父さん、セーリエと相談してまずは懇意にさせて貰っているサンドラ伯爵家を招く事に決まる。


「お爺様、サンドラ伯爵が来られるのはいつでしょうか?」

「今度の闇の日に朝から来て貰おうと思っている」


「では午前中に男性、午後から女性が使うと言う事で良いですか?」

「そうだな。それで頼む」


「風呂の入り方の説明ですが、男性を僕とお爺様、女性をマールと母様がすると言う事で良いですか?」

「むう、マールはエルファスの婚約者で問題無いが、ラフィーナか……仕方あるまい」


「ではそのように用意しておきます」


オレは執務室を出ようとすると爺さんが更に仕事を言いつけてくる。


「昼食と夕食はこちらで用意する事になる。昼と夜それぞれに、お前の料理を1~2品とデザートの用意を頼む」


おいぃぃぃぃ!闇の日まで後3日しか無いじゃないか……昼と夜で料理3~4種類とデザート2種類とか……無理じゃね?

オレが渋い顔をしていると爺さんが話し出した。


「サンドラ卿には伝えておくので1品はフランクフルトを出してくれ」

「……分かりました」


これで後は料理2~3種類。デザートの1つはプリンで良いだろう。デザート1種類。

挽肉が良いならハンバーグ……フライ物……


昼食はハンバーグメインにフライ物を添えてデザートはサッパリしたシャーベットを作ろう。

夕食はフランクフルトに唐揚げでも作るか、デザートはプリンだ。


煮物でも良いのだがどんな食材があるのかイマイチ分からない。

フライは最悪、カツでも良いし鳥肉があるのは知っている。重い物ばかりになるが、いきなり言う爺さんのせいにさせて貰うか。


早速、執務室を出て厨房へと向かう。料理長へ爺さんからの話を伝えるとオレの料理が見れると喜ばれた……解せぬ。

料理長に必要な食材と道具を頼んでおく。




闇の日の朝------------




朝からサンドラ伯爵家の一行がやってくるのでオレ達は玄関の外で待機中だ。

暫く待っていると数台の馬車の音が聞こえてきて屋敷の前で止まった。


馬車は全部で3台。最初の馬車にはサンドラ伯爵、第一夫人、オリビア、オリビアの弟だろうかクララと同じぐらいの男の子の4人が降りてくる。

次の馬車からは第二夫人だろうルイスと似た褐色の肌に真っ赤で燃えるような髪色の夫人が降りてきた。


夫人は155センド程でオレよりも背が低いが眼には鋭さがあり、一流の戦士の風格を漂わせている。

何故か挨拶前であるのに真っ直ぐに母さんの前まで歩いて行き2人は殺気をぶつけだした……何やってるのコイツラ。


「アンタが”氷結の魔女”だね……」

「ええ、そう言うアナタは”鮮血”ね?」


「ああ、ウチのルイスベルが世話になったらしいね……」

「あら。ウチのアルドの方がお世話になってるみたいよ?」


「ハッ。魔力操作や魔法、身体強化まで教えてくれたらしいじゃないか」

「外弟子よ。時間が無くて最低限しか教えられなかったわ」


「それでも見違えるように強くなった。これなら私が直接、扱いてやれる。ありがとよ」

「いえいえ。どういたしまして。これからも息子の良い友人でいて欲しいわ」


この2人、何で殺気出してるんですかね?この会話の内容で殺気を出す理由が何処にあるんですか?


謎の殺気を出している2人に他の全員が呆れていた。


「母様、殺気を抑えてください。今日は僕らがホストです。最悪はお爺様の恥になります」


オレが氷結さんに苦言を呈すると”鮮血さん”が今度はオレに殺気を放ってくる。

いきなりの出来事に驚いて、つい殺気を返してしまった……


サンドラ伯爵家の騎士が剣を抜き、母さんもオレに抱き着いて動きを抑え込んでくる。

殺気を当ててしまった”鮮血さん”に至っては滝の様な汗を流し2メードほど跳び退いていた。


「すみません……殺気を向けられて、つい反応してしまいました……」


オレはすぐに貴族式の礼で謝罪を述べる。


「アルド、気にするな。誰彼構わず殺気を向けるからこうなるんだ。ドラゴンスレイヤーに殺気を向ければこうなるに決まってる」

「ルイス……」


馬車からルイスが降りて来て自分の母親の”鮮血さん”に苦言を呈していた。


「ルイスベル。この子がアルド君かい?」

「ああ。母さんもいい加減殺気を抑えないとアルドが本気を出しても知らないぜ」


”鮮血さん”は一瞬、オレを見て目を見広げ殺気を消していく。

自己紹介をしたいが爺さんとサンドラ伯爵の挨拶が終わっていない。オレはすぐに何事も無かったようにブルーリング家の列へと戻った。


爺さんとサンドラ伯爵が、お互いに苦笑いを浮かべながら挨拶をはじめる。


「サンドラ卿、今日は来て頂けて大変ありがたく思います」

「こちらこそ、ブルーリング卿。今回は無理を言って申し訳ありません。オリビアとルイスベルが絶賛する風呂を是非、体験させてください」


こうして必要の無いトラブルもあったが和やかに風呂のプレゼンはスタートした。

午前中は男性の番だ。オレ、爺さん、サンドラ伯爵、ルイスの4人で入る。


オリビアの弟はまだ5歳と言う事で母親である第1夫人と一緒に入る事になった。


「まずはここで服を脱ぎます。籠の中に衣類を入れてください。風呂に入っている間にメイドが着替えを入れてくれるはずです」


オレの説明を爺さんもルイスも軽く聞き流しサッサと服を脱いでいく。

サンドラ伯爵だけが初めての事で少し恥ずかしそうにしていた。オッサンの照れとか……誰得。


ここからは一通り体験して貰う。なるべく沢山売りたいので出来れば全部買ってくれると助かるのだが。

ルイスはジェットバスや露天は喜んだがサウナはあまり気に入らなったようだ。


逆にサンドラ伯爵はジェットバスとサウナを気に入っていたが露天はどうも落ち着かない様子だった。

露天の魅力は冬の夜だと説明すると、ルイスや爺さんに冬の露天の感想を聞いていたので興味はあるようだ。


説明が終わるとそれぞれに好きな風呂に入って貰う。大体、全部で1時間ほどだろか。

ルイスもサンドラ伯爵も満足してくれたようで風呂を出る事になった。


脱衣所に戻ると新しい着物が用意され、牛乳が置いてある。

体を拭き着替え終わるとキンキンの冷やした牛乳を全員に配った。


汗をかいた後の牛乳は言葉に出来ないほどに美味い。オレも含めた4人は満足そうに屋敷へと戻っていった。





時刻は11:00だ。オレは風呂から出て、その足で厨房へと走って向かう。

爺さんの無茶ぶりの件だが昼食はハンバーグとエビフライを作る事にした。お子様ランチの定番だな。


昨日のうちに仕込みをしてマヨネーズは作ってあるので、ゆで卵と玉ねぎでタルタルソースを作る。

正直、ブルーリング家8人、サンドラ家6人、エルフ客人3人、計17人分とか……時間がキツイ。


ハンバーグは焼くだけ、エビフライも揚げるだけまで仕込みをしておいて本当に良かった。

何とかギリギリだが間に合いそうだ。ハンバーグのソースはオレの好みで和風にしておいた。


醤油と酢と砂糖でソースを作り、大根おろしを入れれば完成だ。

柚子に似た果物があったので軽くかおり付けもしておく。


オレは白衣を着て、料理を運ぶメイドの後ろを料理長と一緒に付いて行く。

大テーブルにブルーリング家とサンドラ家が対面に座っている。エルフチームは申し訳ないが末席だ。


ブルーリング家のメイドが料理を並べて行く間にオレと料理長がそれぞれの料理の説明をしていく。


「今回の料理の1つ、ハンバーグですが材料にクズ肉を使っております。ただ骨からこそぎ取った本来の物では無く、最高級の肉をわざわざ細かく切ってクズ肉にしました。きっとお口に合うと思いますので1つの調理方法として楽しんで頂けると嬉しく思います」


サンドラ伯爵には先に話を通してあり笑顔で頷いていた。オリビアやルイス、オリビアの弟、第二夫人も興味深そうにハンバーグを見ていたが、第1夫人だけは困ったような表情を浮かべている。


「では頂きましょう」


爺さんの言葉で一斉に食事が始まった。


「美味しい……アル、こんな料理を隠していたのね」

「美味しい……お師匠、アルドにもっと料理をさせるべき」


「そうね。3食作って貰おうかしら」

「うん」


師弟で恐ろしい事を言っている。


「美味しい……」

「美味しいですね。マール、良かったら僕の分のハンバーグも食べますか?」


「じゃあ、エルファスには私のエビフライをあげる」


この2人は最近、どこでもイチャつくなぁ……

クララとファリステア、ユーリ、アンナ先生の4人は”美味しい美味しい”とひたすらに食べている。


第二夫人は行儀良く綺麗に食べているがスピードが異様に早い……このペースだとすぐに無くなりそうだ。


「オリビア。これは胃袋を掴むんじゃなくて逆に掴まれるんじゃないのか?」

「うるさいわね。ルイスは黙ってなさい」


「はいはい……」

「でもこれは考えないといけませんね……」


オリビアとルイスも相変わらずだ。


第1婦人も最初は恐る恐る食べていたが、1口食べてからは、笑みを浮かべて息子と一緒に喜んでいる。


最後は爺さんとサンドラ伯爵だ。

サンドラ伯爵はエビフライを口に運んで何かを考え、ハンバーグも同じように口に含んでは何かを考えていた。


「サンドラ卿、お口に合いませんでしたか?」

「あ、いえ。とても美味しいです」


「それは良かった」

「少し気になって……これはアルド君が作ったのですよね?」


「はい」

「料理だけで無く、風呂もアルド君が作ったと聞いています」


「確かにアルドも案を出しました……」

「……そうですか。しかも先日は地竜を討伐したと……」


「……はい」

「アルド君はまるで”精霊”に愛されているかのようだ」


「……」

「出来れば我がサンドラ家としても縁を持たせて頂きたい」


「それはどう言う意味でしょうか?」

「後ほど内々で打診しようかとも思ったのですが……オリビアをアルド君に娶って貰えませんか?」


「それは……アルド、サンドラ卿はこうおっしゃってるがどうだ?」


爺さんがオレに振って来た……おいぃぃぃ!逃げただろ!爺さん。


「私には既にアシェラと言う婚約者がいます。それに私は15歳になったら貴族の籍を抜くつもりなのです。お言葉は嬉しいのですが私にオリビア嬢は勿体ない……」


オレが15歳で貴族の籍を抜く事を知っているのはアシェラ、エル、マールぐらいだ。

爺さん、父さん、母さん、までもが驚いた顔でオレを見た。


「アルド君は貴族籍から抜けるのか……」

「はい。ですのでアシェラ1人を養うので精一杯です」


「ではサンドラ領に来るつもりはないかい?騎士でも魔道具職人でも冒険者でも好きな職と地位を用意しよう」

「……何故、そこまで私を買って下さるのですか?」


「私はこう見えて貴族の当主だ。目の前に英雄がいれば引き入れる事に躊躇いは無いよ」

「……私は英雄ではありません。買い被りです」


「そうかな?まあ今はそう言う事にしておこうか。但し、アルド君が貴族の籍を抜けたとしても、オリビアを娶って貰いたい事には変わらないがね」

「……」


サンドラ伯爵はオレから視線を切って爺さんへと向き直る。


「勝手な事を言い、申し訳ありません」

「いえ……」


「アルド君が了承すれば、オリビアとの結婚は許して貰えるのでしょうか?」

「アルドが了承すれば……その時は老いぼれが口を出す事ではありません」


「分かりました。ありがとうございます」


こうして昼食は終わっていく。

昼食の後、アシェラとオリビアとマールが嬉しそうに話しているのを見て、オレは自分に選択権が本当にあるのか不安になってくるのだった。




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