第167話秘宝

167.秘宝





地竜を討伐して1ヶ月が経った頃。


オレ、エル、アシェラ、母さん、は夕食後、執務室へ来るように爺さんに呼び出された。

まるで学生の頃、職員室へ呼び出しを喰らった時の気分だ。


恐る恐る執務室の扉をノックすると奥から爺さんの声が聞こえる。


「入れ」


何故かオレを先頭にエル、アシェラ、氷結さん、の順番だ。

心の中で納得できない物を感じながらも爺さん、父さん、セーリエ、の前へ進み出た。


「お呼びにより参上しました」

「うむ。楽にしろ」


「はい」


オレ達4人はセーリエが用意したであろう椅子に座り爺さんの言葉を待つ。


「やっと地竜の全ての素材が売れた。皮と鱗の一部は防具に使ったと聞いている。残りを売った金額だが、神金貨8枚、神赤貨1枚、神銀貨6枚、になった」


8億1600万えん!!強かったのは確かだが、8億とか宝くじより高いじゃないですかーやだー


「王都で骨や牙、爪と肉の一部。ブルーリング領で肉と血を捌けたのが大きい。この場にはいないがタブが想像以上の働きをしてくれた」

「タブが……」


エルもマールの親の功績とあって笑顔を浮かべて嬉しそうだ。


「で、相談なんだが、この金はブルーリング領で使っても良いか?」

「ブルーリング領でと言うと魔道具作りや、次の商売に投資すると言う事ですか?」


「そうだ。リバーシの蓄えもあるが、これからの事を考えると少しでも現金を手元に置いておきたい」

「そうであれば僕は大賛成です」


「そうか。他の者はどうか?」

「僕も兄さまと同じで賛成です」

「ボクも将来への投資ならありがたいです」

「私も異論はありません。お父様」


「では、この金はブルーリング領で使わせて貰う」


爺さんがセーリエに眼で合図をだした。


「ここからは私が。前もってサブギルドマスターのナーガ嬢には口留め料も込みで、取り分として神赤貨を1枚渡す事で話が出来ています。本人は、地竜討伐に参加せず、足の早い血肉の運搬にも関わらず、多すぎると言われましたが、ラフィーナ様の旧友である事と将来ブルーリング領への移住を希望している事、使徒の件を知っている人物、以上の事から、この金額に決めました。ご容赦ください」


ナーガさんがいなければ、あれほど順調に爪牙の迷宮を踏破する事は出来なかっただろう。

迷宮探索は戦闘だけできれば良いと言う物では無い。


食料、地図、装備の手配から役割分担、パーティの実力を見て臨機応変に探索計画を変更する。

ナーガさんは本当に優秀なリーダーだった。オレには相場が分からないが、セーリエには誠意を持って当たって欲しいと思う。


爺さんはオレ達に不満が無いかを見渡してから告げた。


「では話はこれで以上だ。下がれ」

「「「「はい」」」」


オレ達は執務室を後にする。

不満は無いのだが、これで地竜の報酬は実質0になってしまった。爺さんが無駄遣いするとは思わないが報酬0は少し泣ける。


報酬と言えば……光る杖とミスリルナイフはどうなったのだろうか。地竜を倒したミスリスナイフだ。出来れば予備武器として手元に置いておきたい。

どうなったか母さんへと聞いてみる。


「母様、光る杖とミスリルナイフの鑑定はどうなったか知っていますか?」

「ん?そんなのもあったわね。私は知らないわ」


「そうですか。一度、ナーガさんに聞いてきます」

「任せるわ」


母さんは興味無さそうに、そう言うと居間へと移動していく。

オレは明日、学園が終わってからギルドで聞いてみる事にした。





次の日の放課後。

最近の自主学習はアンナ先生に魔族語を習っている。エルフ語、獣人語は話せる様になったので魔族語の次はドワーフ語を勉強するつもりだ。


今はまだ学生だが使徒になった以上、世界中を回る必要があるのだろう。

言葉を覚えて本当に良かったと思う。


オレは言語の勉強だがルイスとネロは身体強化の修行だ。改めて見ると2人は最初の頃よりだいぶ上達した。

冬休みの間もルイスは兎も角、ネロもしっかり修行していたのが分かる。


「ルイス、ネロ、だいぶ魔力操作の修行をしたみたいだな」

「ああ。毎日、みっちりやったぜ」

「オレも寝る前に魔力枯渇しそうになるまで修行したぞ」


「そうか。オレも今でも寝る前に魔力操作を修行して寝る。オレの母様も毎日やってるからな」

「氷結の魔女でも毎日、修行するのか……」

「オレも毎日続けるぞ」


その日も時間になるまでオレ、ルイス、ネロ、ファリステア、の4人とアンナ先生はそれぞれの自主学習を頑張った。


自主学習を終え校門で皆と別れて、オレだけギルドへ向かう。

ノエル、ファリステア、ユーリ、アンナ先生の4人でブルーリング邸へと帰って行った。


オレはと言うと、いつもの右足の脛と左足の腿にナイフを装備して、真っ直ぐにギルドへ向かう

道草を食わないと、思ったよりも早くギルドに到着した。


学園の制服を着てギルドに入ると、最近は余り注目されなかったのだが、静まり返る程の静寂で全員がオレをガン見してくる。

オレが制服を着てるのが、そんなに珍しいのだろうか……謎だ。


たまたまいたゴドが声をかけてきた。


「アルド……オマエ程の腕でも、そんな恰好してると学園に通ってるヒヨッコにしか見えねぇぞ……」

「実際、学園に通ってるヒヨッコだよ」


「ハッ。お前がヒヨッコなら俺らは何だ?卵か?」


オレは肩を竦めてゴドの前を通り過ぎナーガさんの列に並ぶ。

ナーガさんの列は相変わらず少ない。今は忙しい時間帯だろうに2人しか並んでいなかった。


すぐにオレの番になる。


「アルド君、今日はどうしましたか?」


口調は普通だが頬を染めて鼻息が荒い……さっき小声で”制服良い”と聞こえてきたのは、きっと何かの間違いだ。


「は、はい……聞きたい事がありまして……」

「なんでしょうか?」


「光る杖とミスリルナイフの鑑定ってどうなりましたか?」

「あー。鑑定は時間がかかるんですよ。ヘタすると年単位でかかる事もあるんです」


「そんなに……」

「早く鑑定して欲しい理由でも?」


「大した理由じゃないんですが……地竜を倒したナイフなので予備武器に欲しいと思いまして……」

「なるほど。そう言う事ならミスリルナイフだけ鑑定を取りやめましょうか」


「それだと金額が分からなくて皆に幾ら払えば良いか分からなくなります」


ナーガさんは少し困った顔をして話し出した。


「アルド君。ミスリルナイフは私達5人パーティの戦利品です」

「はい。そうです」


「なのでアルド君以外の4人が同意すればお金のやり取りなんて必要無いんです」

「いえ、流石にそう言う訳にはいきませんよ」


ナーガさんは溜息を吐いて手招きをする。

オレが近づくと内緒話をするようで耳に小声で話してきた。


「私はドラゴンローブを作って貰って、さらに神赤貨を貰うんです。ミスリルナイフ1本ぐらいどうって事無い報酬を貰ってるんですよ」


ナーガさんの言う事は尤もなのかもしれない。

内緒話を終えナーガさんに向き直る。


「分かりました。全員に聞いてきます」


ナーガさんがまた溜息を吐いた。


「アルド君、私以外は母親、弟、婚約者ですよね?」

「まぁ、そうです……」


「それなら私が了承した時点でミスリルナイフはアルド君の物ですよ」

「……」


「勿論、説明とお礼は個別にするのが礼儀ではありますが」

「はい……」


「私へのお礼は、お風呂に自由に入れる権利でどうでしょうか?あれはアルド君の物でしたよね?」

「はい。そんな物で良ければいつでもどうぞ」


「ありがとう。前に使わせて貰ってからずっと入りたかったの」


ナーガさんは心の底から嬉しそうに話している。

一瞬、モデルルームの風呂もどうか?と聞きそうになったがあれはオレの持ち物では無い。


爺さんかセーリエに聞いてからナーガさんに話そう。


「では鑑定を中断してミスリルナイフだけ返してもらいますね」

「はい。お願いします」


「帰ってきたらブルーリング邸に尋ねますので、その時にお風呂を使わせてください」


ナーガさんが可愛らしく話している。この人40歳越えなんだよなぁ……エルフ恐ろしす。


「はい。よろしくお願いします」


これでギルドの用事が終わったのだがナーガさんから、もう1つ話があった。


「それと地竜はブルーリング家から急ぐように言われてましたので先に査定をしたのですが残りはもう少しかかると思います。何せ数が多い物で……」

「残り?」


「ええ、地竜以外の残りの査定です。ミノタウロスやティグリスも結構なお金になるんですよ。まあ、そっちは運搬の人件費なんかで、だいぶ目減りしちゃいますけど」

「あ。地竜以外はまだなんですか?」


「はい。ブルーリング家から残りはアルド君達に払うように言われたので……違いましたか?」

「いえ。それで大丈夫と思います……」


オレ達は昨日の執務室にいた爺さん、父さん、母さん、セーリエにしてやられたらしい。

ナーガさんにお礼を言ってギルドを後にする。


外に出ると春ではあるが流石に薄暗くなり始めていた。

少しだけ足早にブルーリング邸への道を急いだ。





鑑定に出されたミスリルナイフは1ヶ月と言う時間では鑑定出来ていなかった。

普通、鑑定は魔法使いに依頼され総当たりで魔法具としての効果を調べられる。


その為、運が良ければ1日で判明するが、運が悪いと3年経っても効果が判明されないのだ。

しかしアルド達が持ち込んだミスリルナイフの効果は至って単純であった。


その効果は”自動修復”。魔力を込めれば刀身が自動で修復される。と言うものだ。

実は地竜への超振動を使った攻撃は、本来であればミスリルでも耐えられる物では無かった。


地竜と超振動のぶつかり合いに耐えられる素材となると恐らくはオリハルコンクラスが必要になったはずである。

ミスリルナイフが耐えられたのは魔力武器を出しているお陰で魔力が供給され続け、絶えず修復されたからに他ならない。


武器には様々な素材があるが魔力の伝達だけを見ればミスリルが一番だ。

爪牙の迷宮で手に入れたミスリルナイフは素材がミスリルで、尚且つ耐久については自動修復がある。超振動を使うアルドにとっては、正に”秘宝”と呼べる物だったのだ。



この事実に気が付くのは、いつなのか……その時に初めて”秘宝”に名が付けられる事となる。”不滅の刃デュランダル”と。



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