第169話プレゼン part2

169.プレゼン part2





昼からは女性陣が風呂を体験して貰う番だ。

急遽、オリビアとマールとアシェラが話をして、案内役にアシェラも入る事に決まった。


結局、案内役:母さん、マール、アシェラ サンドラ家:オリビア、第1婦人、オリビア弟、第2夫人、の7人で入る事になったのだが、弟君がマールとアシェラを見て恥ずかしそうにしている。

弟君よ、最後の桃源郷を楽しみたまえ。後2年もしたらムサイオッサンばかりの風呂にしか入れなくなるのだから。


「オコヤ。だからオレと一緒に入るか?って聞いただろ……」

「ルイス兄さま……だって……」


さっき自己紹介があったはずだが、殺気事件のインパクトのせいで聞いていなかった。

どうやら弟君はオコヤと言うらしい。


「まあ、最後の役得だと思って一緒に入ってこい。オレらは入りたくても入らせて貰えないからな」


そう言ってルイスが笑っていると第2夫人がやってきた。


「そうかい?アタシはいつでも一緒に入ってやるよ?ルイスベルちゃん……」

「ば、何言って……しかもちゃんとか……」


「オコヤを揶揄うからさ。オコヤ、私が一緒に入ってやる。それなら良いだろ?」


第2夫人はルイスを揶揄った後、オコヤ君に向き直って話しだす。

オコヤ君は顔を赤くして、第2夫人と手を繋いで風呂へ向かって行った。


オレはルイスと顔を見合わせ、何とも言えない顔をしあう。


「オコヤ君かぁ。中々良い趣味してるなぁ……」

「そうか?アイツのこれからが心配になるぜ」


またまたルイスと苦笑いをしあうと、後ろのサンドラ伯爵も同じく苦笑いをしていた。

それから30分ほどでオコヤ君が1人で風呂から出てきたが、女性陣が出てくるのは2時間もの時間が経ってからであった。


実は昼食後のデザートをすぐに出さずに、女性陣が風呂から上がってから出すように、変更してあったのだ。

冷えた牛乳を飲んだとは言え、女性陣は頭から湯気を出している。


すかさずメイド達が小さなカップに入ったシャーベットを渡していった。


「昼食後のデザートです。冷たいのでこのタイミングで出させて頂きました」


オレがそう言うと全員が恐る恐るシャーベットを口に運んでいく。

今回はオレが好きなハチミツレモン味だ。


皆、驚いた顔でシャーベットを食べている。


「お口に合いましたか?」


オレの言葉に驚いた顔をして、最初に氷結さんが口を開いた。


「アル。アンタ、どれだけの物を隠し持ってるのよ……」

「アルド。ボク、これもっと食べたい」

「アル兄さま。私も食べたいです」

「アルド コレ オイシイ デス」


何も言わなかった女性陣も眼で”もっと寄越せ”と訴えている。

第1夫人と第2夫人までもが、そんな眼でオレを見ていた。


「夕食のデザートはプリンです。それで勘弁して貰えれば……」


プリン……その言葉を聞いた女性陣は満面の笑みを浮かべ、やっとオレを開放してくれた。

プリンを知らない第1夫人、第2夫人、オリビアにはアシェラとマールが説明をしている。


時刻は16:00ほどだ。オレはこれ以上、女性陣を刺激しないように厨房へと素早く逃げ込んだ。

さて夕食はフランクフルトと唐揚げの予定だが少し重すぎる。


唐揚げは昼も出したタルタルソースで食べるのと半分は醤油と酢と砂糖でタレを作って油淋鶏にしよう。

きっと酒が美味しく飲めるはずだ。出来ればオレも日本酒でご一緒したい……


これも作り出すと思ったよりも時間がかかる。プリンのカラメルを作り、冷す時にはアシェラを呼び手伝って貰った。


「よし、後は油淋鶏のタレと大根おろしだけだ。オレはタレを作るからアシェラは大根をおろしてくれ」

「分かった」


アシェラは皮を剥いておろし器で大根をおろしていく。

因みに、このおろし器はオレの自家製だ。ボーグに錆び難くて固い、料理で使う素材と言ったら黒皮鉄と言われた。


おろし用の形を作ってから1000℃以上に熱したら黒くなって錆び難くなるらしい。

良く分からないが貰った鉄板を加工して熱したら出来たのでこれで良いと思う。


17:30頃に何とか全ての料理が完成した。

昼と同じようにメイドの後を付いて行き、皆に料理の説明をしていく。


「昼食と同じように、このフランクフルトにもクズ肉を使いました。この料理は豚の腸に味付けしたクズ肉を詰めた物で、味だけで無く保存食としても優れています」


料理の説明をすると半分ほどの人が苦い顔をする。

どうやらクズ肉より一部でも内臓を使っている事が気になるのだろう。


「これは上品に食べても良いのですが、フォークで刺して齧るのが一番美味しい食べ方です」


早速、母さんやアシェラは言われたように齧りついている。元々、迷宮でも食べていたしブルーリング家の食卓にも上る事がある。

残りの人も、先に食べている人が美味しそうに齧っているのを見て、試しに齧ると中から肉汁を溢れて驚いている。


「アルド、美味しいわ」

「喜んで貰えて嬉しいよ。オリビア」


オリビアの言葉に最後まで躊躇っていた第1夫人が、皆と同じようにフランクフルトに齧りつく。

想像より美味しかったのだろう。眼を見開いてフランクフルトを見つめている。


そこからは唐揚げタイムだ。何も付けずに食べたり、タルタルソースを付けて食べたり、油淋鶏をつまんだりと、思い思いに好きな料理を食べて行く。

爺さん、父さん、サンドラ伯爵、第2夫人と酒を飲む者には油淋鶏が売れていた。


勿論、料理長がサラダやスープも作っているので、そちらも一緒に頂いている。

1時間ほど経ちデザートのプリンが運ばれてきた。


「お待ちかねのプリンです。スプーンで掬って食べてください」


オレがそう言う前に母さんやクララ、アシェラは食べ始めている。

オレがゆっくり食べようとすると既に食べ終わったアシェラとクララ、母さんがオレのプリンをガン見してきた。


オレは肩を竦め一口だけ自分で食べてから、まるで3匹のヒナにエサやりをするようにプリンを食べさせてやる。


「そんなに好きなんですか?」


オレの質問に母さん、アシェラ、クララが大きく頷く後ろで、オリビア、第1夫人、第2夫人までもが頷いている……解せぬ。

食後、懇親のために僅かだが自由時間を取った。


母さんは第2夫人と冒険者時代の話で盛り上がっている。

お互いに二つ名を持ち、それなりに有名だった2人だ。共通の知り合いもおり、昔話に花を咲かせていた。


恐ろしい事に2人は今度一緒に依頼を受ける約束をしている。

きっとオレやルイスも強制参加なのだろう……オレ達はお互いに苦笑いを交わして溜息を1つ吐いた。


ルイスと話しているとアシェラに呼ばれたので断りを入れてアシェラの元へと向かう。

案の定と言うか、そこにはアシェラだけで無くオリビアも当然のようにいた。


「アルド。迷惑でしたか?」

「いや。オリビアと話せて嬉しいよ」


アシェラはニコニコとして怒る様子は無い。ナーガさんやローザには警戒したりヤキモチを焼くのにオリビアは良いのか……線引きが分からないのだが。


「アルドは私との婚姻は気が進みませんか?」


いきなり直球だが、あまりはぐらかしたりはしたくない。オレの思う事を正直に言おう。


「サンドラ伯爵に言った事が本音だ。本当にオリビアに不満は無い。ただ責任を取れないんだ。アシェラは石に齧りついてでも幸せにするつもりだ。だがオレに2人は荷が重すぎる……」

「そうですか……」


「すまない……」

「では私が自分の事を自分でして、尚且つ生活力があれば良いと言う事ですね?」


「は?何でそうなる?」

「アルドの言う事を纏めるとそうなりますが?」


「え?んー。確かにそうなんだが……言うほど簡単じゃ無いだろ……」

「そうですね。今は正直、平民になって自分の事を全て出来るとは言えませんが2年後、学園を卒業する時には平民の伴侶として、一通りは出来るようになっておきます」


「オリビア……何でオレなんだ?ダンスを始めて踊ったからか?オークの群れから助けたからか?」

「何で……ではアルドへ逆に聞きます。何でアシェラなのですか?何で私じゃダメなんですか?」


「それは……アシェラが好きだからだよ……」

「私も一緒です。アルドが好きだからです……」


「本気なのか?」

「冗談で言えるほど、私は強かでは無いと思っています」


オレはアシェラを見る。

アシェラは笑みを浮かべ頷いている。オレはアシェラにも聞きたい。


「アシェラ、何でオリビアなら良いんだ?ローザやナーガさんと何が違う?」

「真剣にアルドを好きだから」


「それだけ?」


オレは正直、驚いた……アシェラのオレへの気持ちが軽い物のように思えてしまう。


「アルドはボクが独占できる人じゃない。それならアルドを本当に好きで、ボクとも上手くやっていける人が良い……」

「独占すれば良いじゃないか……」


「本当にそう思う?」

「……」


「今だからじゃない、昔からそう思ってた。アルドは誠実だからきっとボクだけの物になろうとする。でも平民になったとしても将来きっと名を残す。その時には周りが放っておかない。でもボクの気に入らない人を連れてこられるのは嫌。ボクのワガママなのも分かってる。これはボクの精一杯の譲歩……」

「……」


「……」

「……オリビアなら良いのか?」


「うん。オリビアが良い」


オレは溜息を吐いてオリビアの方を見る。確かに昔なら兎も角、今は”新しい種族”の件がある……

実際にアシェラ1人で良いとも言えないのが現実なのだ。


オレが死んだ後、新しい種族が10人に満たない数だったら……恐らくは他種族に飲み込まれる。

”新しい種族”と言うのがどんなチカラを持ってるか知らないが個のチカラは所詮、小さなチカラでしかないのだ。


強いと言われているオレですら、今すぐ一切の人との関わりを無くして1人で生きていけ、と言われたら、どこかの山の中で野垂れ死ぬのが関の山だ。

色々な事を考えて、アシェラの言う事は恐らく現状での最適解なのだろう。


しかし、アシェラが気に入った人を妻にする……オレの思っていた形とは違い過ぎて、直ぐには答えを出せない。


「分かった。真剣に考える。ただ今はすぐに答えを出せそうにない……」

「うん……」


「少し時間をくれないか?アシェラ、オリビア……」

「分かった」

「分かりました。ただ私は本気ですので」


「ああ。オレなんかを好きになってくれて、ありがとう」


オレは絞り出すように礼を言うのが精一杯だった。





サンドラ伯爵一行が無事に帰っていく。

ルイスは空気を察してか、あれから声をかけてはこなかった。


オリビアは気丈に振る舞って笑顔で過ごしていたが、ふとした瞬間に悲し気な顔を浮かべていた。

オレは自室で1人ベッドの上で寝転がり、これからの事を考える。




煮え切った頭で”エルが100人娶れば良い……”と鬼の様な事を考えたが、口に出した瞬間マールとアシェラに殴られる未来しか見えない。

これもアシェラ、エル、マールと相談しよう。そこに何時かオリビアも入るのかもしれないが……





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