第79話新学期

79.新学期



今日から2学期が始まる。

オレ達は学園への道を歩いていた。


「ユーリ、どこまで付いてくるつもりだ?」

「お嬢様が学園に行くのなら私も行くつもりだ」


「学園に部外者は入れないぞ」

「私は部外者では無い。お嬢様の護衛だ」


「おい、ノエル。護衛は学園に入れるのか?」

「門の中へは入れない。門の外で待つ事になる」


「だそうだ。門の外で大人しく待ってるんだな」

「グギギギ・・」


ユーリは女の子がしちゃいけない顔をして悔しがっている。


「忍び込もうとするなよ。正直、微妙な立場なんだ。ファリステアにも迷惑がかかる」


今だにエルフと王国は話し合いを続けている。ファリステアの立場も宙に浮いた状態なのだ。

手紙のやり取りだけはお目こぼしして貰っているが目立つ行動は控えてほしい。


「判った・・」

「ユーリ ワタシ ハ ダイジョウブ マッテテ」


ファリステアもだいぶ人族語が上手くなった。文法は問題無く、後は発音が綺麗になれば完璧だ。

直に学園に到着する。学園の入口でエルと別れ、校舎の入口でマールと別れる。


「ファリステア、いくぞ」

「ハイ」


ファリステアと一緒にDクラスに移動する。ちなみにアンナ先生は、生徒と先生が同じ登校時間なわけが無く先に登校している。

2か月ぶりにクラスに入ると日焼けで真っ黒になったヤツや妙に大人びたヤツがいたりする。

きっと夏休みの間に大人の階段を登ったのだろう。オレも早く登りたい・・


「おはよう」

「オハヨウゴザイマス」


オレ達2人が挨拶すると顔見知りのクラスメイトやネロ、ルイスが挨拶を返してくれた。


「アルド、今度の闇曜日に冒険者ギルドで依頼を受けないか?」

「今度の闇曜日か・・用事があるんだ。その次じゃあダメか?」


「しょうがないな。じゃあ来週の闇曜日にエルやネロも誘って行こうぜ」

「判った。夜にでもエルには聞いておく」


「ネロ、来週の闇曜日行くよな?」

「おう、行くぞ」


基本ルイスとネロは早く1人前になりたいのか冒険者の依頼を受けたがる。

オレもランクを上げたいし問題は無いんだが・・気になるのは、ルイスとネロ2人がランクだけ上がって実力が伴わない状態にならないかである。


ランクだけが上がって無理な依頼を受けて死んだりしたら・・一度ナーガさんに相談しよう。





午前の授業が終わり昼食の時間


「アルド、ネロ、ファリステア、食堂に行こうぜ」

「おう」

「行くぞ」

「ハイ」


オレ達は4人で食堂に向かう。今日は何を食べるかネロとルイスが話している。ネロは相変わらず肉が良いようだ。

食堂に着くと多くの生徒がいた。


「アルド、場所取りを頼む」

「判った」


「昼食はオレと同じでいいか?」

「ああ、悪いな」


「じゃあ行ってくるぜ」


ルイスとネロ、ファリステアがそれぞれ食べたい物の前に並ぶ。食堂のシステムは小皿が並んでいるので好きな物を取り、その時にお金を払う。と言うよくある物だ。

ルイスは自分とオレの2人分を取っている。オレはその間に4人分の席を確保だ。確保した席のテーブルを拭き4人分の水を用意しているとルイスやネロ、ファリステアがやってきた。


「アルド、魚だけど良かったか?」

「ああ、ありがとう」


食事を受け取りルイスにお金を渡してから食べ始める。サンマっぽい魚の塩焼きだ。元日本人としては醤油がほしいと思ってしまう・・

オレは元々食事には五月蠅くない方だった。しかしこの世界に来て13年ちょっと・・やはり醤油の味が恋しい。


13年見たことが無いという事はこの世界に醤油は無いのだろう。もし将来に時間が余って暇になったら醤油作りに挑戦しても良いかもしれない。

醤油だけじゃない、忘れない内に覚えてるかぎりの知識を紙に残しておきたい・・

日本語で書いておけば読まれても問題無いだろうしな。





昼休みが終わり、午後の授業が始まる。午後は選択授業だ。


オレは相変わらず回復魔法を選択している。2学期では麻痺の状態回復を覚える予定だ。

地道だが一歩一歩進んでいる。ルイスとネロも2学期からは回復魔法を選択させた。


実際に依頼を受ける様になり万が一の場合を想定してだ。オレかエルが回復すればいいのだが別行動が無いとは言い切れない・・身体強化は自主練で頑張ってもらおう。

ファリステアは意外な事に身体強化を選択した。どうもオレ達を見て身体強化の有用性に気が付いた様だ。





午後の授業が終わると自主練習を始める。ルイスとネロは身体強化を、オレとファリステアはお互いの言葉を教え合う。ファリステアの人族語は前述の通りだがオレのエルフ語もかなり上達している。

元々エルフ語と人族語は文法的な所は非常に似ていた為に単語を覚えれば苦労する事なく習得できる。既に一般的な会話なら不自由しない程度にはエルフ語を習得できている 。


次は魔族語か獣人語を覚えたい。アンナ先生に聞いてみる。


「アンナ先生は獣人語や魔族語は話せないんですか?」

「話せるわよ」


「もしかしてドワーフ語も?」

「ええ、話せるわよ」


「アンナ先生、見かけによらず優秀なんですね」

「アルド君は私をどう見てるのかな?」


アンナ先生が額に青筋を浮かべて半笑いだ・・怖い


「素敵な先生だと思ってます」

「・・・・」


ジト目で見られている・・


「まあ、いいわ。他の種族の言葉を覚えるの?」

「はい、お願いしたいです」


「覚えやすいのは獣人語かしら」

「じゃあ獣人語を教えてください」


「判ったわ。明日からは獣人語を勉強しましょうか」

「ありがとうございます。ただ明日から1週間、授業が終わったら真っ直ぐに帰ろうと思ってるんです」


「何か用事があるの?」

「はい。屋敷の庭に風呂を作ろうかと思いまして」


「お風呂・・まあアルド君のやる事だから考えてもしょうがないか・・」

「何かすごい失礼な事を言われた気がするんですが」


「気にしないで。じゃあ獣人語は来週からでいいのかしら?」

「はい。来週からお願いします」


正直な話、アンナ先生は非常に優秀だと思う。言葉だけでは無く、色々な造詣にも深い。なんでDクラスの担任なのだろうか・・不思議だ。

それと毎日、放課後にオレ達の自主練習に付き合ってくれているのはどうやらオレ(ブルーリング男爵家)とルイス(サンドラ伯爵家)とファリステア(エルフ外交官)の圧力らしい


いくら学園では身分は関係無いとは言っても実際は色々なしがらみがある。まあ、無茶な事を言っている訳では無く、学生として勉強を見てほしい。とお願いしているだけなので他の先生にも概ね好意的に受け止められている。


ただし校長とSクラスの担任には”会議に出席しない”だとか”足並みが乱れる”等の嫌味を言われるようだ。

アンナ先生は10月の中旬にクラス対抗の競技会(日本で言う体育祭みたいな物らしい)があるらしく、そこでSクラスを出し抜くのを目標にしている。


Sクラスの担任に嫌味を言い返す為に今からどんな嫌味を言おうかノートに纏めているようだ。一度そのノートを覗いたら眼がチカチカするぐらいの小さな字でびっしりと嫌味が埋まっていた・・人の心の闇を覗いてしまった気がする。





自主練習は暗くなる前には終わる様にしている。校門までは全員で移動し、そこからは各自がそれぞれ帰路につく。

オレはアンナ先生とファリステアの3人+護衛での移動だ。今日の護衛はノエルだった。


「ノエル、待たせたな」

「いや、大丈夫だ」


4人連れ立って帰る。実はノエルとアンナ先生は年も近い事から以外にも仲が良い。この前もアンナ先生の部屋で2人揃ってお茶をしていた。

聞こえてきた内容はどこかに良い男はいないか。と言う物だ。この世界では25歳を越えると行き遅れになるようだ。


2人共もうすぐ30歳と言う事で色々あるんだろう・・ブルーリング領にいた時にガルやタメイを紹介してやれば良かった。

もし、またアンナ先生がブルーリング領に来る事があれば聞いてみようと思う。





他愛ない話をしていると直に屋敷に到着した。

そこからはいつもの通り夕食を摂り風呂に入るのだが、この世界の風呂は日本の風呂とは違全く違う。タライに5cm程お湯を張り、手拭いで体を拭いて終了だ。人によってはタライの中に足を入れて洗う人もいる。


貴族でこの程度なので平民は更に酷い。汚れたら手拭を濡らして体を拭くだけなのだ。

当然な事に臭いが気になるのだが、年頃の女性は匂い袋を持ったり香水を使ったりと努力をしている。


オレは今の風呂に我慢出来なくなっていた。屋敷の裏にオレ専用の風呂を作ろうと画策している・・・

前に桶屋で風呂用の桶の値段を聞いたら金貨10枚と言っていた。明日、学園の帰りに寄って発注するつもりだ。


爺さんは事後報告で良いだろう。実際に風呂に入って体験して貰えば撤去しろとは言わないと思う。

もし撤去しろと言うなら戦争も辞さないつもりだ。







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