第266話嫁達
266.嫁達
アシェラに続いてオリビアと過ごした夜。
やはりオレはペロリストであり、もはやペロキングと言っても過言では無いのかもしれない。
ゆっくりと覚醒していくと布団の中から上目遣いでオレを見るオリビアと目が合った。
「おはよう、オリビア」
「……お、おはよう」
頬を染め涙目のオリビアへ更に話しかける。
「綺麗だった。オリビアと結婚できてオレは幸せ者だ」
「わ、私もです……」
珍しくもじもじしているオリビアだったが、意を決したのか布団から真っ赤になった顔を出して言い放った。
「あ、アルド!あ、あんな事は……ごにょごにょ……」
「え?ごめん、聞こえない」
「だ、だから……ごにょごにょ……」
オリビアの声がどんどん小さくなっていくのと反対に、オレの中のイタズラ心が徐々に膨らんでくる。
「なんやて?大きな声でおじさんに話してみー」
「アシェラから聞いてはいましたが、あんな所をな、舐める……ごにょごにょ」
「おじさんは耳が遠いんや。大きな声で言うてくれんと聞こえへんでー」
「だ、だから!舐めるのはどうかと思います!」
想像以上にオリビアは嫌だったようだ……本気で嫌がっているなら、これ以上はオレの本意では無い。
「そうか、ごめん。少しでも気持ち良くなって欲しかったんだ。だけど、オリビアには迷惑だったんだな……」
オレはそう言い、落ち込んでみせるとオリビアは少し焦った様子で口を開いた。
「そんな……怒っているわけではありません。き、気持ち良かったのも事実ですし……ごにょごにょ」
「なんやて?おじさんは耳が遠いんや。もうちょい大きな声で話してくれへんか?」
こうしてアシェラに引き続きオリビアとも無事、1夜を過ごす事が出来た。
会話も冗談を交えて、お互いに以前より身近に感じられるようになったように思う。
こうした時間や経験の積み重ねで、徐々に家族になっていくのだろう。
因みにオリビアもアシェラと同じように、朝にはオレを部屋から追い出し、シャワーを浴びてからリビングへとやってきた。
「改めておはよう、アルド」
「おはよう、オリビア」
「名残惜しいですが、そろそろ迎えが来る時間です」
オリビアに言われ時計を見ると10:00を過ぎている。
「直ぐに用意するから、朝食ぐらい摂っていってくれ」
「分かりました。では一緒に作りましょう」
「体は大丈夫なのか?」
「少し違和感がありますが、大丈夫です」
「無理はしないでくれよ?」
「本当に大丈夫ですよ。アルドは心配性ですね」
そう言って笑うオリビアは素直に綺麗で、思わず見とれてしまう程だった。
2人で簡単な朝食を作り食べていると、アシェラとライラ、マールが護衛の騎士を2人連れてやってきた。
「「おはよう、アシェラ、ライラ、マール」」
「「「おはよう、アルド、オリビア」」」
一気に人が増え賑やかになる中、ライラだけが緊張した面持ちで口数も少ない。
「ライラ、大丈夫か?」
「え?だ、だ、だ、ダイジョウブデス!」
壊れたロボットのような口調で話す姿はとても大丈夫とは言えず、オレも含めて呆れた顔で話かけた。
「ライラ、急ぐ事は無いんだ。覚悟が出来ないなら今回は止めておこう」
「嫌!私は大丈夫!」
オレが話す言葉に、食い気味で返すライラは真剣そのものである。
「そ、そうか。それなら良いんだ。でも無理だけはしないで欲しい。約束してくれ」
「……うん、分かった。無理はしない」
しかし、ライラの緊張は解れる事は無く、結局、途中でマールを呼びに来たエルも含めてオレ、ライラ、アシェラ、オリビア、エル、マールの6人で夕食をいただく事になってしまった。
「エル、マール、すまない。自分達の結婚の準備もあるだろうに」
「大丈夫です、兄さま。殆どローランドがやってくれて、僕達は自分の衣裳を決める程度ですから」
「うん、それより義理の姉になるライラの方が大事よ」
当のライラはと言うと、マールの言葉の”義理の姉”の部分に眼を見開き、マールを凝視している。
「ら、ライラ、そんなに見つめられると穴が開いちゃいそうだわ」
緊張しっぱなしのライラにはマールの冗談にすら満足に返す事が出来ず、涙目で謝る事しか出来なかった。
「ご、ごめんなさい……」
そんなライラにアシェラとオリビアが話しかける。
「ライラ、ここには身内しかいない。もっとリラックスすると良い」
「アシェラの言う通りです。ここにはアナタをイジメる人はいませんから安心してください。尤もアルドがベッドの中でイジワルをするかもしれませんが?」
オリビアの言葉にアシェラとマールが食いつき、3人で部屋の隅に集まっていく……どうやら今日の朝、オレがオリビアに恥ずかしい言葉を言わせようとした事を話しているようだ。
3人からの視線が、虫ケラを見る眼に変わっている気がするのは、オレの気のせいなのだろうか?
そんなこんなで時間は過ぎていき、夕食の時間は終わりそうになっていた。
「ライラ、本当に大丈夫ですか?」
オリビアからの問いに、ライラはしっかりとした返事で返す。
「うん、だいじょうぶ……」
ライラはそう返事を返しているが、実はオレの中では一抹の不安があったりする。
その不安とは、ライラの裸にオレのパオーンは反応するのだろうか……
アシェラは秘薬を飲む前の姿を思い出せるし、オリビアは日本で言う高校生ぐらいで、何とか反応できた。
しかし、ライラは……可愛らしいとは思うが、どう見ても中学生ぐらいの見た目である。
元々オレにはロリ〇ン属性は無いのだ。むしろ年上趣味と言っても良い。いざという時にパオーンしなかったら……
その瞬間を想像するだけで、縮こまりそうになってしまう。
そんなオレの心配をよそに、アシェラ達は帰り支度を始めだしている。
どうやらアシェラ、オリビア、マールの3人は一緒に領主館で泊まるらしい。
このタイミングでの話題は1つしかないはずだ……3人からオレの夜の生活には一体どんな評価が下されるのか……
まるで死刑宣告を受ける受刑者のような気持ちで、アシェラ達を見送るしかなかった。
そしてライラはと言うと、皆に心配されながらも最後まで“大丈夫“と言い張り、予定通りオレと同衾する事となった。
「ライラ、風呂に入ってくるよ」
「わ、私も……い、一緒に入る……」
「うぇ、あ、うーん……き、今日は一人で入るよ。また今度、一緒に入ろう」
「分かった……」
オレは一人、風呂場に向かうが、ライラはいきなり何を言い出すんだ。
びっくりして変な声が出ちゃったじゃないか!
風呂につかりながら、改めて考えてみると、オレはライラとキスもしていなければ、“好きだ“と言ってすらない。
ライラにとっては全てが一度にやって来て、どう対処して良いのか分からずにパニックになっているのかもしれない……
ライラのおかしな行動は、オレにもかなりの割合で責任があるような気がしてきた。
思えば、ミルドから帰ってきたら科学について教える、と言ったのに、何も教えていない。
ライラは元々、口数が少ないので言わないだけで、本当は色々と言いたい事があるのではないだろうか。
もう少しライラを、大切に扱わないといけない気がしてきたぞ……
自分なりに反省して自室で待っていると、ライラの部屋への直通扉がゆっくりと開いていく。
ライラの寝間着はアシェラの可愛らしいパジャマやオリビアのネグリジェとも違い、フリルをふんだんに使ったロリータファッションであった。
この格好で寝れるのか?と考えてから、オレの話だけでどんどんラインナップが増えていく、王都の女店員恐るべし!と、戦慄しているとライラがおずおずと口を開いた。
「あ、アルド君、入っても良い?」
またもやライラを軽く扱ってしまった。
服の事なんて今はどうでも良いだろう、それよりも緊張で震えているライラに優しい言葉をかけないと!
「勿論、入ってくれ。ライラ、とっても可愛らしいよ。まるで人形みたいだ」
お世話では無く、本当に人形のような可愛らしで、美少女と言うのがピッタリだ。
「あ、ありがとう、アルド君……」
「ライラ、こっちへ」
オレが座っていたベッドへライラを座らせると、オレは椅子へと座り直した。
「話をしよう」
ライラは訝しげな顔をして、体を固くしている。
「何の話?」
「そんなに警戒しないでくれ。本当に話をしたいだけなんだ。そうだな……じゃあ、以前に教えるって約束した雷撃の魔法の事なんてどうだ?」
「雷撃!」
ライラは現金なもので、さっきまでの警戒は消え去り、好奇心を隠そうともしないでオレの話に集中しだすのだった。
「電気は光に匹敵する速さで流れるんだ。雷撃を躱そうとするなら光に近い速さで動く必要がある。大気圏内でそんな速さで動けば空気との摩擦で燃え尽きるし、その前にこの世界が壊れてしまう」
「……アルド君の言ってる事が全然分からない」
「そうだろうな。そこで、まずは数学だ。いや、算数かな。分数、小数を覚えたら方程式。そこまで覚えたら物理や化学を勉強しよう。恐らくは何年もかかると思う。嫌になったら言ってくれ、中止するから」
「絶対に私からは諦めない!」
「そうか……頑張れ、ライラ。それとオレが教えた事は、信用出来る者にしか教えないでくれ。危ない知識もあるからな」
「使徒の叡智!絶対に秘密にする」
「使徒の叡智か……」
つい日本の事を考えてしまったオレを見て、ライラが心配そうな顔でオレを覗き込んでいた。
「ごめん、少し昔を思い出したんだ」
「ううん……」
「どうした?」
「私はアルド君にもらってばかり……今まではずっと一人だったのに……今では隣にはアルド君にアシェラ、オリビアまで。直ぐに子供も出来てもっと賑やかになるはず。おまけに普通は絶対に知り得ない”使徒の叡智”まで……」
「ライラ……」
「こんなに沢山もらってばかりで、私はアルド君に返せる物が無い……」
「ライラはそう言うが、オレの方こそ助けてもらってばかりだよ。最初はサンドラで魔力酔いになって空間蹴りが出来なくなった時、身を挺して助けてくれた。次の風竜の時だってそうだ。オレの身代わりになって風竜の気を引いてくれた。オレは少なくとも2回は命を救ってもらっている」
「……」
「夫婦になったんだ。返すとかじゃ無くて、お互いに持ってる物で補い合えば良いんじゃないかな?」
「……うん、うん。そうだね、アルド君」
そう言って涙を零すライラはとても儚げで、思わず言葉が零れ出てしまった。
「ライラ、綺麗だ。愛してる」
感極まったのか、いきなりライラがオレに飛びついて胸の中で泣いている。
「あ、アルド君、アルド君、アルド君、わ、私……私本当は……」
「ライラ、大丈夫だ。大丈夫……」
こうして考えて見るとライラと膝を付き合わせて話をしたのは始めてかもしれない。
小さな体を丸めてオレにしがみついている姿は、庇護欲を搔き立てられると言う物だ。
優しく背中を撫でていると、ライラも少しずつ落ち着いてきたようで、ゆっくりと顔を上げてくる。
ここはキスだろ!と準備をした瞬間、ライラの顔が目に飛び込んできた。
泣き過ぎで眼は腫れており、眼も鼻も真っ赤……”仕切り直し”頭の中にその言葉がよぎったが、女性に恥をかかせるわけにはいかない。
オレは早々に眼を閉じ、ライラと始めてのキスをしたのだった。
キスの時、少し鼻水のぬちゃっとした感覚があったのは、オレの勘違いでは無いのだろう……
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