第261話結婚 part1

261.結婚 part1






ハルヴァが必死になって貴族の礼儀を勉強し始めて、9日目の事。そう、今日はオレ達の結婚パーティの当日である。

アシェラの家で夕飯をご馳走になった時に“改めて挨拶を……“と言ったのだが、“今更、他人行儀な事は必要ない“と挨拶を断られてしまったのだ。


アシェラもルーシェさんも頷いていたので、それ以上ははばかられてしまった。

酒の席でも良いので、ハルヴァとは何処かで話をしたいと思う。






そして、まだ住み始めていない新居ではあるが、ギーグに話して客間の家具だけは揃えて貰っている状態だ。


何故、客間?と思うかもしれないが客に体調不良者が出たり、お酒も用意してあるので酔い覚ましに使ったりと、どうしても客間の家具、特にベッドが必要だったのだ。

これで何とか最低限の準備が完了し、人を招く事が出来るようになった。


そして今日のパーティーの予定だが、全体のスケジュールとしては、10:00を目安に集まって貰い、歓談した後に昼食を振る舞う事になっている。

今日のオレは新郎であり、メインシェフであり、ホストであり、使徒でもある……正に八面六臂の活躍を要求されているのだ。


既に今日は早朝からミルドの街へ飛び、マッドブルの肉を仕入れ、漁師の村では旬の魚であるアジとカレイを買って来た。

アジは開いてフライにしてタルタルソースで頂き、カレイは煮つけにして出そうと思っている。


マッドブルの各種の肉に関しては、目の前で焼いて提供するパフォーマンスをする予定だ。

実は厨房のコンロが出来た時に、ついでに携帯用のコンロも作ってあった。


実演の際には換気に注意を払いながら、タン>ロース>カルビの肉祭りをメインディッシュに、各種料理を振る舞うつもりだ。

因みにオリビアはオレの後ろでサラダを作ったり、出来上がった物を盛りつけたりと、主にオレのサポートをしてくれている。


アシェラとライラにはテーブルを拭いて貰ってから食器を並べてもらったり、何か足りない物が無いかを確認してもらっていたのだが、どうやらスプーンの数が足りないらしく領主館まで借りに行ってもらった。


「さて、料理の下準備はこれぐらいで良いかな」

「そうですね」


「アシェラが戻ったら、服を着替えると良い」

「はい。ありがとう、アルド」


オリビアと話していると、直ぐにアシェラが帰ってきてライラと一緒にスプーンを並べ出した。

1つ1つ丁寧にスプーンを置いている姿は大事な物を扱うかのようで、2人がこの結婚を心から喜んでくれている事が分かると言う物だ。


オレはそんな2人と後ろに控えているオリビアへ声をかけた。


「そろそろ気の早いお客さんが来るかもしれないから、着替えようか」

「「うん」」「はい」


3人はそれぞれの寝室へと移動して行き、可愛らしい街娘の恰好に着替えてくる事になっている。

招待客の殆どが貴族なので、貴族の服にしようかとも思ったのだが、オリビアが「みすぼらしいのは論外ですが、素直に今の私達を見せるのが良いかと思います」と平民の服を着て出迎えるのを薦めてきたのだ。


オレだけでは無く、アシェラ、ライラも賛成し、平民の服の中でもお気に入りを着て出迎える事となった。

因みにライラには、ねこの着ぐるみだけは止めるように言い聞かせてあるのは秘密だ。






オレも含めて全員で着替えて、客を待っていると、最初にやってきたのはクララ、エル、マール、ルイスと何故かアドの5人?であった。


「アルドちゃん、沢山、子供を作るんだよ!」

「あぁ、ありがとう、アド……」


「兄さま、おめでとうございます」

「ありがとう、エル」


「アル兄様、おめでとうございます!」

「クララ、ありがとう」


かわいらしい格好のクララを抱き上げて、くるくると回って見せると、ライラ、アシェラから不穏な空気が漂ってくる。


「やっぱりアルド君は年下が好き……」

「もう少し秘薬を飲むべきかも……」


何を言っているかは聞こえないが、2人でボソボソと話している姿からは、何かとても不穏な空気を感じてしまう。

オリビアだけは苦笑いを浮かべながら、2人の会話を聞いていた。


取り敢えず全員を新居の中に招き入れると、クララが懐から小さな箱を取り出してオレの目の前に差し出してくる。


「どうした?クララ」

「お祝いです。エル兄様とマール姉様と一緒に選びました」


「開けても良いのか?」

「はい!」


オレはクララから箱を受け取り、ゆっくりと開けると、中にはかわいらしい指輪が4つ入っていた。


「綺麗な指輪だな」

「はい。その指輪は魔法具で“絆の指輪“と言われています。お互いに指輪を身に付けて相手を想うと指輪がうっすらと光るそうです」


「貴重な物じゃないか……ありがとう、クララ、エル、マール」

「「「ありがとう」」」


思いがけないクララからのプレゼントに驚いていると、ルイスがオレに手招きをしてきた。


「どうした?」

「ほらよ」


ルイスもクララと同じように、懐から小さな箱を取り出すと、コッソリとオレに渡してくる。


「……開けて良いのか?」

「ああ、クララちゃんみたいな、かわいらしい物じゃないけどな」


箱を開けると、紫色の液体が入った小さな小瓶が入っていた。


「何だこれ?」

「避妊薬だ。前にネロのカーチャンから譲ってもらった」


「おま、ミミルさんと!!」

「ば、声が大きい!」


オレとルイスは辺りを見回すが、女性陣は特に何かに気が付いた様子は無い。


「ふぅ、大丈夫そうか……」

「これは男でも女でも1滴飲めば、1月は効果があるらしい。ただ、アホかと思うぐらい苦いからな。水で割って飲むと良いぞ」


「その言い方……お前は使ったのか?」

「まあな、ネロの所に暫く入り浸ってたからな」


くぅ……羨ましい、妬ましい……

殺気さえ出かねない勢いでルイスを見ていると、当のルイスに言い返されてしまった。


「おいおい、今、結婚式を挙げているヤツに妬まれたくねぇよ。しかも今夜は初夜だろうが、3人なんてどうするのか知らねえけどな」


実はオレもそこは非常に気になっていたのだ……3人同時に?順番?順番なら誰から?1日で?3日かけて順番?

凄く気になっていたのだが、どうやって聞けば良いか分からず、一人で悩んでいたのだ。


「ルイス、どうすれば良いんだろ?」

「何がだよ」


「初夜の事、3人に何も相談して無いんだ……」

「マジか……」


「どうしよう……」

「ハァ、分かったよ。オリビアにコッソリと聞いてやるから、そんな顔するな」


「スマン、ルイス、恩に着る!」

「……オレはお前に世界の命運がかかってる事に、不安を感じる事があるぜ」


そんな事を言われても、オレだって成りたくて使徒になったわけじゃない、と声を大にして叫びたい所だ。

しかし、避妊か……使徒としては子供を直ぐにでも作った方が良いのは分かる……しかし、オリビアはもうすぐ16歳、アシェラはもう直ぐ18歳だが”若返りの霊薬”を飲んで体は13,14歳だ。


ライラに至ってはアシェラと同じか少し下程度……3人共、出産には些か不安を感じる年齢である。

それと特にアシェラに関してだが、出来れば使徒の仕事を手伝って貰えると、とても助かるのは事実だ……あの戦闘力は、使徒であるオレを完全に凌駕している。


結婚をすればこの辺りの話はとても大事な事になる筈だ……一度、腹を割って3人と話す必要がある。

勿論、初夜を終えて、落ち着いてからの事ではあるが。


初夜の前からそんな話をするほど、オレは朴念仁では無いつもりだ。

アシェラ達の体にしても、今のオレの状況にしても、当面は妊娠はしない方が良いのでは無いだろうか。


少し寂しい気持ちはあるが、今回はオレが避妊薬を飲んでおこうと思う……しかし、良かれと思ってやった事が「勝手な事を!」と怒られる可能性を否定出来ない……

もし怒られたらルイスのせいにさせて貰おう。許せ、ルイス、骨は拾ってやるからな……






そうして短いが濃厚な時間を過ごしていると、エル達から遅れて30分程が経った頃、残りの客が揃って現れた。

どうやら領主館で集まってから、皆でやって来たのだろう。


ブルーリング家からは爺さん、父さん、母さん、サンドラ家からはサンドラ伯爵、ミリア夫人、オコヤ君、リーザスさん、ハルヴァ家からはハルヴァ、ルーシェさん、それと先にやって来ていた、エル、クララ、マール、ルイスにアドの総勢13名が揃った事になる。

和やかに挨拶を交わしていく中、ブルーリング家の者以外からはアドに注目が集まるのは当然で、あの少女は誰だ?と目が語っている。


いっそ爺さんか父さんの隠し子とでも説明しようかとも思ったが、2人から殴られそうなので止めておいた。

そもそも何故、この場にアドがいるかと言うと、10日前の夕食の席でクララとエルに結婚パーティーの参加をお願いした所、偶然、アドが一緒に食事を摂っていたのだ。


アドがオレ達の所に入り浸るようになってからそろそろ1年が過ぎようとしており、最初の頃のような我儘も鳴りを潜め、何処かに出かけてはフラッと帰って来るを繰り返している。

今はアオの眷属になっているので解放した領域の中ならどこでも行けるらしく、普段は魔の森を始めブルーリングの街や漁師の村なんかにもフラフラと出かけて久しぶりの地上を満喫しているようだ。


そんな状況が日常になっており、オレも風景の1つ程度にしか意識していなかった……まさか「お祝いしてあげる!」と、結婚パーティーの話に食い付いてくるとは思いもしなかったのだ。

直ぐに遠回しではあるが「遠慮してほしい」とお願いしても、頑なに参加すると言って聞かず、終いには目に涙を溜め出して、オレを睨みつけ出した。


そんなアドの泣き出しそうな顔に焦ったのは父さんで、オレや母さんの反対も聞かず独断でアドの参加を認めてしまい、今回の結果に繋がっている、と言う訳だ。

父さんにしても爺さんにしても、アオやアドに対して配慮が過ぎる気がする……もしかして精霊に配慮する父さん達が一般的で、オレがおかしいのか?


こうして疑問を感じながらも、なし崩し的にアドが参加する事になってしまった……


「アルドちゃん、結婚?おめでとう。3人も一度に番いになるなんて、流石アルドちゃんだねーー」

「ありがとう、アド」


「アルドちゃんの番いには、私の祝福をあげるね!」


そう言うとアドから緑色の光が滲み出し、光の玉になってアシェラ、オリビア、ライラに向かって飛んでいく……

当の3人は最初こそ驚いた様子を見せたが、後で聞いた話ではアドの祝福は暖かく優しい魔力らしく、笑顔を浮かべている。


当人達に危険が無いのは直ぐに分かるが、問題なのはブルーリング家以外の者だ……サンドラ家、ハルヴァ家からの戸惑いが大きく、これを誤魔化すのは無理そうだ。

アドを連れてきた時から半分は覚悟していたとは言え、こうも早く問題を起こすとは……


オレは隠す事を諦め、小さく溜息を吐いてからゆっくりと話し始めたのだった。




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