第11話エアコン

11.エアコン


7歳のある夏の日


「あ、、、あづいぃぃいい、、、、」

「母様、、、言わないで,ぐだ,ざ、い、、、よ、げいに、、あづい、、」

「母さまも兄さまもシャキっとしてください」

「お師匠もアルドもエルファスの言う通り」


オレと母さんは暑さで死にそうなのに何故かエルとアシェラは普通だ…解せぬ


「だってぇ あついんですものぉ。あづいぃ…」


母さんはやっぱり暑いらしい。


「エル。アシェラ良い事を思いついた」

「いい事ですか?兄さん」

「アルドが良いことって…怪しい」


「氷結の魔女に頼めばいいんだ」

「氷結の魔女?」

「ボク、トイレにいってくる…」


アシェラは素早く部屋から逃げ出した。


「ア~ル~…その名前はど~こ~で聞いたのかしら~?」


青筋を立てた母さんがこちらを睨む。


「氷結の魔女さん。氷をつくって」

「だ~か~ら~!ど・こ・で・き・い・た・の・?」


「アシェラが弟子になる時にハルヴァが言ってたのが聞こえました」

「あの時か…」


「じゃあ氷を作ってください。氷結さん」

「誰が氷結じゃい」


母さんの二つ名は”氷結の魔女”。どんな由来なのかは知らないが、氷ぐらいは出せるはずだ。


「氷結の魔女なのに氷も出せないのですか?」

「氷か…出せない事はないわねぇ。ただし、その名前は二度と使わないでくれるかしら?」


アイアンクローでオレの頭を掴みながら、氷結の魔女は青筋を浮かべた。


「い、いだい…です。かあさま…」

「これでよけいな事は忘れたかしら?」


「も、もう何も…おぼえていません。があざま…」


オレの言葉に納得したのか、やっと手を離してくれた。


「母様。氷を作ってください」

「もう、わかったわよ…じゃあ外に行くわよ」


母さんの言葉に皆で外に移動する。どこに隠れてたのか、ちゃっかりアシェラも混ざっている。





「外は一段と熱いわねぇ…」


うんざりとした顔でつぶやきながら魔力を操作しだした。


「じゃあ行くわよ、スノウストーム」


母さんの周りが吹雪になる。雪が舞いだし視界がほとんど無い…


(ちょっと待ってくれ。オレ、氷を作ってほしいって言ったよな?なんで吹雪の魔法使ってるの??母さんの顔、真剣だしふざけてる様子はないんだけど??)


「母様。質問です」

「なに?この魔法は結構、集中力がいるんだけど」


「ちょっと魔法を止めてもらってもいいですか?」

「なに?氷が欲しいんじゃないの?」


母さんは魔法を止めてこちらを向く。


「そうです。氷がほしいのですが、なぜ吹雪の魔法なんですか?」

「あら。アルは知らないのねぇ~♪」


ニチャっと氷結さんが笑い出す。とても悪い顔だ…


「教えてあげるわぁ~氷はね、雪が固まって出来る物なのよ~物知りなアルでも知らなかったのねぇ~♪」

「なるほど。だから吹雪で雪を積もらせて氷を作ろうとしたと」


「そうよ、じゃあ雪を降らせるわね。スノうs…」

「待った!」


オレの言葉に母さんは魔法を止める。


(この辺りは真冬でもほとんど雪も降らない地域だ。もしかして温度が下がると水が凍るって判ってないんじゃないか?)


「母様。ちょっと僕の言う通りに魔法を使ってください」

「なに、なに?どうしたの?まあ、別にいいけど…」


微妙に不満そうな母さんの前に水汲み用にバケツを用意した。


「まず水を出してください」

「良く判らないけど…はーい、水ね。アクア」


「はい、それぐらいで止めてください」


水がバケツの半分ぐらい貯まる。


「次に温度を下げてください。できますか?」

「誰に言ってるのよ。私は氷結の魔女と恐れられ…」


「わかりました。氷結さん、温度を下げてください。」

「いや、今のは言葉のあやと言うか…」


「さあさあ、温度を下げてください。氷結の魔女さん」

「くっ、わかったわよ。クールゾーーーン」


母さんの魔法によりバケツの水が凍っていく。


「氷ができた。そうか冬の朝に水たまりが凍ってるのは…」


母さんがぶつぶつ一人で考え出す。

オレは氷を抱えて居間に運び込んだ。


「エル、アシェラ、氷で布を冷やして首と足に巻こう」

「兄さん!布を取ってきます」

「ボクは氷が溶けて床を汚さないようにタライを持ってくる」


3人は思考をめぐらし、最適の涼しさを探求する。


「冷たい布は気持ちいいが持続性に問題が…」

「タライに水を張って、氷をいれると冷たすぎます」

「ボクは重ねた布に氷をいれるのが一番かと」


無駄に魔法使いらしい研究心を発揮しだす3人。

あーでもない、こーでもないと、氷結さんに氷を補充してもらいながら試行錯誤を繰り返すのだった。


(もうエアコンみたいに空気を冷やせばいいんじゃね?)


試行錯誤の果てに正解にたどりついたようだ。


「母様。空気を冷やしてください」


アルの言葉にラフィーネは頭に?を浮かべる。


「くうきって何?」

「くっ、そこからか…」


タライの中の水に、手で空気を貯めて泡を出した。


「これが空気です。息を止めると苦しいですよね?それは人間が空気を吸って生きているからです。何も見えないので何も無い様に感じますが、僕達の周りは空気でいっぱいです」

「なんとなく判るわ…」


母さんは、ほっぺたを空気で膨らませて何かを考えている。


「では空気を冷やしてください。凍っちゃうのでゆっくりとです」

「判ったわ。クールゾーン…」


母さんは集中してゆっくりと空気を冷やしていった。

すると、部屋の温度がゆっくりと下がっていく。


「涼しいです。母様」

「おー母さまありがとうございます」

「お師匠。ありがとうございます。とっても涼しい」

「涼しいわね。これはお昼寝に最適ね」


母さんが振り向いた方には、メイドにウチワで扇がれていたが、寝苦しそうにしているクララがいた。

お昼寝ちゅうのクララ…かわええ


こうしてエアコン魔法は完成した。





その日の夜。


いつもならヨシュアとラフィーナ、クララだけのはずの寝室にアルドとエルファスも一緒に眠っている。

かわいい息子が同衾を頼んでくれば、嬉しいはずなのだが思惑が透けて見え苦笑いしか出てこない。


なぜなら、本来は熱帯夜で寝苦しいはずが寝室は快適な温度に保たれていたからだ。

エアコン魔法(アルド命名)が完成してからラフィーナの周りには人が絶えなかった。


アルドやエルファス、アシェラだけなら判るが、ヨシュアにローランド、メイドたちまで理由を付けてラフィーナと同じ部屋に居ようとする。

果ては、メイド同士で口喧嘩を始める者まで出る始末だ。


「気持ちは判るだけにねぇ…」


自分の独り言に苦笑いがでた。


ラフィーナは2つの事を考える。

1つはアシェラの事だ。弟子になり1年とちょっと経つ。弟子になる前はいつも一人でいたためか、年齢に対して言葉使いが幼く無口であった。

しかし、この1年で明るくなり言葉も年相応になってきた。アルとエル、男の子とばかりいるからか、言葉が男の子っぽいのが気になるくらいか。


(一人称が”ボク”だし…年頃になったら変わるとは思うけれど…アシェラだし判らないわねぇ)


ラフィーナにとって息子以外の初めての弟子とあり、かなり可愛がっている。



もう1つはアルドの事だ。

今までも習ってない算術を解いたり、年齢に対して聡かったりしたが、今日のは格別に異常だ。

確かに冷静に物事を観察すれば”水を冷やせば氷になる”というのは判る”空気”もそうだ。


ただし全てが 観察し、考察し、仮説を立て、また観察する。そんな積み重ねの果てに体系化されてこそ”空気を冷やして部屋を冷やす”と答えが出るはずなのだ。

7歳の子供が考えつくものでは断じて無い。


この調子で全ての事象に知見があったとしたら…

例えば”冷やす”とは何なのか、”空気”とは何なのか…

魔力変化は、その事象への理解が深い程、使う魔力が減り威力も上がる。


ラフィーナはアルドが10歳になり魔力変化を覚える時が、楽しみであり恐ろしかった。


アルドの寝顔を見ながら思う。


(チカラはチカラ、アルの本質を見る物ではないわ。どんなにチカラがあろうと心が伴わなければただの暴力になる…アルは優しい子きっとチカラの使い方を間違えたりしない)


もう何度目かの自問自答をし、ラフィーナはアルド、エルファス、アシェラそれぞれの幸せを祈るのだった。



こうして熱帯夜は過ぎて行く。しかし、ラフィーナが寝れば魔法が切れ暑さが襲ってくるため、何度か起こされて魔法を使わされるのだった。




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