第395話解放 弐 part2

395.解放 弐 part2






「何で隠そうとするんですか!」


オレ達は今、ググの街にある冒険者ギルドで、受付嬢から尋問を受けている真っ最中である。

悪い事をしているわけでは無いので、本来は隠す必要は無いのだが……


しかし、この一連を説明するには、「使徒」と「マナスポット」と「主」の件を話すしかないわけで……結果 誤魔化そうとしては、受付嬢に叱られるという事を繰り返しているのだ。


「皆さんはググを救ってくれたんですよね? もしかして、そこまで隠そうとするのは何かやましい事でもあるんですか?」

「え、いや、その……オレ達はただの旅人で……人違いじゃないかなぁって……」


「そんなわけないじゃないですか! それに段々と思い出してきましたよ! そっちの魔族の人、前は変な仮面をつけてましたよね? それにそこのエルフの人、魔族と獣人族の女性の小間使いをしてたじゃないですか!」

「へ、変な仮面……オレ、そんな風に見られてたのかよ……」

「こ、小間使いって……ぼ、僕、そんな格下に見られてたの?」


受付嬢の言葉に、ルイスとカズイは背中にどんよりとした影を浮かべて項垂れてしまった……流石に今のはちょっと可哀そうだぞ。

変態仮面にパシリとか……少し言い過ぎじゃありませんかね?


「流石に言い過ぎですよ。確かに変態仮面に使いっ走りだとしても、言い方って物があるでしょうに!」

「え? ちょっ、ちょっと待って……私はそこまで言って無いって言うか……」


「問答無用です! ほら見て下さい! 2人共、こんなに落ち込んでるじゃないですか!」

「え? あ、ご、ごめんなさい……少し興奮してしまって……お2人共、印象に残っていたので、つい……」


ここまでルイスとカズイの事を覚えているのだ。

当然ながらオレの事も覚えているに違いないわけで……


「……で?」

「え?」


「で、僕はどんな風に見えていたのですか? あの頃は少し悩んでいたので影のある素敵な人とか、凛々しく立つ男らしい人とか、色々あるでしょう?」

「え? その言い様……もしかして、アナタもいたんですか?」


「は? ちょ、ちょっと待って。この2人は覚えていて、オレは覚えてないとか……嘘ですよね?」


受付嬢はオレ見つめては首を傾げてを繰り返している。


「マジかよ……」

「ぷっ、くくっ……」「クスッ……」


お前等……ついさっきまで落ち込んでいたのに、何で今は笑いを嚙み殺しているんですかね?

くそっ……目から汗が流れそうだぜ……


結局 受付嬢は最後までオレ達の詳しい事情を聞きたがったが、ネロのギルドカードが出来た時点で逃げさせてもらった。


「しかし、参ったな。まさかあの受付嬢、オレ達の事を覚えてたとは……まぁ、約一名は綺麗さっぱり忘れられてたけどな」

「悪かったな! 影が薄くて!」

「あの時は、主の偵察からウィンドウルフの群れの規模まで、アルドが一人で調べてたんだからしょうがないよ。僕達は路銀稼ぎで依頼を受けてたから顔を覚えられたんじゃないかな」


「そうでしょうね。そうじゃないと、コイツを覚えて無いとかありえませんから」

「ルイス、その言い様は少しだけモニョルんだが……」


「細かい事は気にするな。お前は嫌でも目立つんだから諦めろ」


何なんだろう、この扱いは……オレ的には至って普通のつもりなんだけど……



◇◇◇



結局、ヘタに出歩いて目立つのは悪手と判断し、宿へ引っ込んで余った時間は休息へ充てる事にした。


「不味くは無いんだけどなぁ」


こう呟くのはルイスである。

以前にも感じた事なのだが、グレートフェンリルの料理は全体的に薄味で、簡単な物が多い。


外に出歩けない事から、各々が好きに夕方まで時間を潰し、1階の酒場で夕飯を摂っている際にルイスが零したのである。


「きっと獣人族は薄味が好きなんだろう。他種族よりも感覚が鋭いって言われてるから。味覚も同様なのかもな」

「なるほど……それはあるか。オレはしっかりと味の付いた物の方が好きだけど、獣人族は違うのかもな」


ルイスの零した言葉に、ネロはすかさず反論した。


「オレはアルドの料理が一番好きだぞ! ここのご飯は少し薄く感じるんだぞ」

「獣人族のお前がそう言うなら、単純に土地の問題か……それとも育った環境なのかもな」


ルイスの言う事はよく分かる。日本でも土地によって味の違いはあったし、信長が三好を滅ぼした際には、京料理は味が薄くて「水っぽい」と言ったのは有名な話だ。


「料理の味付けは置いといて、明日は朝からマナスポットに向かうからな。夜更かしするなよ」

「宿から出られないのに、夜更かしも何も無いだろうが……これを食い終わったらとっとと寝るに決まってるだろ」


「そりゃそうか。それじゃあ、明日は昼までにマナスポットを解放できたら、昼食はウチの庭でバーベキューでもやるか?」

「バーベキュー! オレ、マッドブルの肉が食べたいんだぞ!」

「良いねぇ。マッドブルの肉をエールで流し込む……おっしゃ、気合が入ってきたぜ!」

「バーベキューってアルドの結婚式で食べた料理だよね? 凄く楽しみになってきたよ!」


「決まりだな。明日は朝一番でマナスポットを目指すぞ!」

「おーだぞ!」「エールとマッドブルのために!」「がんばろー!」


こうしてここ最近の食事の不満を爆発させるが如く、オレ達は気合十分でベッドに潜り込んだのである。



◆◆◆



アルド達が寝静まった深夜……宿屋の裏口には黒ずくめの衣を纏った者達が集まっていた。

一見すると賊が宿屋を襲撃しているかに見える……しかし、おかしなことに宿屋の主人 自らが扉を開け、賊を招き入れ始めたのだ。


そんな訳の分からない事態の中、黒ずくめの男の1人が口を開いた。


「隊長、相手はたった4人らしいじゃないですか。本当にこんな人数が必要だったんですか?」

「分からん。ただ1年前に起こったウィンドウルフ殲滅事件……どうやらソイツ等が関係してるらしい。上からは無傷で連れて来いとの命令だ」


「だったら明日の朝にでも呼び出せば良いでしょう。何でこんな手荒な真似を……」

「ギルドからの情報では、ほぼ露見しているにも関わらず、頑なに自分達の関与を否定し続けたそうだ。しかも、逃げるようにギルドを飛び出して、明日には街を発つらしい……本来、誇っても良い功績を頑なに隠す……しかも獣人族、魔族、エルフ、人族の混成パーティなど聞いた事も無い。それにな、1年前のウィンドウルフ殲滅。あれには人が空を飛んだとの報告もある……ティリシアでも同じ頃、似たような噂があるそうだ。色々ときな臭い話はあるが、万が一本当だったら事だ。であれば逃げられる前に捕らえて、全てを吐かした方が手っ取り早い」


「隊長の言う事は分かりますが……」

「何もいきなり殺そうってわけじゃない。先ずは捕まえて全てを吐かせる。これは上の承認も得た正式な作戦だ。ウダウダ言ってないでお前も配置に付け!」


「……はい、分かりました」


隊長と呼ばれた男は2個小隊10名の配置を終えると、ゆっくり宿の中へ侵入していくのであった。



◆◆◆



宿の手引きもあり、賊達は何の問題も無く最速でアルド達の部屋の前まで辿り着いた。

移動の間も、全員が驚くほどに音を出さない事から、男達はどこかで隠密の修行を受けた者達なのだろう。まるで諜報部隊のタメイのように……


全員の配置を終え、隊長と呼ばれた男が合図を出すと、黒ずくめの1人が扉の隙間へ何かを押し込み始め、小さな団扇のような物で扇ぎ始めた。

ゆっくりと静かに……しかし確実に何かを部屋の中へ漂わせていく……どれほどの時間が経ったのか、恐らく10分は経っていないと思われる。


隊長が更に合図を出すと、男の1人が懐から鍵を取り出し静かに開錠していく。

そのままゆっくりと扉を開けた先には、気持ちよさそうに眠る4人の姿があった。


「薬は効いてるようだな……全員、抗睡眠薬は飲んでいるな? 1班は4人に「魔食いの首輪」を装着後、手足を拘束、速やかに連れ去れ。2班は荷物の確保の後、コイツ等の痕跡を消せ。髪の毛1本も残すなよ」 


男達は1度だけ頷くと、全員が驚くほどの手際で事を進めていく。

アルド達は全員が「魔食いの首輪」を付けられ、手足を縛り上げられた後、ずた袋に放り込まれていた。


扱いは手慣れているのか、最低限の安全には留意しているものの丁寧とは程遠いものである。


「確保したな。1班は4人を連れて馬車で待機。絶対に見られるな。2班、残りの仕事、急げよ」


隊長は簡潔に指示を出し、自身はアルド達が入ったずた袋と共に部屋を後にしたのだった。



◆◆◆



素早く宿を撤収した後、黒ずくめの男達が乗る馬車は街の西側にある騎士団の詰め所へと走っていく。

建物の裏手に回った所で馬車がゆっくりと止まり、黒ずくめの男達が降りてきた。


「1班、対象を地下へ運べ。朝になったら尋問を始めるからな、2班は解散して休息を取れ」


男達は2つに分かれ、1つはそのまま建物へ入って行き、もう1つはアルド達が入っているだろうずた袋を担いで地下へと階段を降りていく。

そんな2班と呼ばれた者達の1人が、呆れた様子で口を開いた。


「全く……隊長は強引すぎる。まだあどけなさが残る子供じゃないか……」

「おいおい、めったな事を言うなよ。隊長に聞かれたら謹慎物だぞ」


「あの子達は何も罪を犯して無いんだぞ。怪しいって理由だけで、こんな事が許されるのか?」

「オレには分からんね。あの若造達が、本当に1年前のウィンドウルフを倒したってんなら、十分に脅威だと思うぜ。お前も覚えてるだろ……あれだけ強かった先輩達が、1匹のウィンドウルフの上位種に殺されたのを」


「お前はあんな子供達が本当に上位種を倒したと思うのか?」

「だから分からねぇって言ってるだろうが。若造達も薬のお陰で朝まで目は覚めねぇんだ。夜が明けたら尋問して関係なかったらそのまま釈放すれば良いだろ?」


「……分かったよ。悪かった」

「本当にアイツ等があの上位種を倒したのなら、オレ達程度に捕まるわけが無いんだ。ヤツ等はたまたま通りががった、ただの混成種族のパーティだよ」


「ああ、そうだな」


他の黒ずくめの男達も同じ意見なのか、男2人の会話を何も言わず聞いていたのだった。




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