第396話解放 弐 part3
396.解放 弐 part3
冷たく固い感触を感じ、徐々に意識が覚醒してくる。
いつもなら眠気を感じながらも寝起きは悪くないのだが、今日の目覚めは最悪だ。
宿のベッドで寝ていたはずなのに、気が付くと何故か石造りの床に毛布も敷かず直接 寝かされたいた……意味が分からない。
更にフザケタ事に、何故かオレの首には「魔食いの首輪」と呼ばれる魔道具が着けられており、寝起きだと言うのに魔力は2割を切っている。
魔食いの首輪……この世界では古来より魔法を使う者をどうやって無力化するかを考えられてきた。
魔法と言う超常のチカラを封じる……答えはあっけないほど簡単であった。魔法を使うには魔力と呼ばれる生き物に内在するエネルギーが必要である。
では魔力が無ければ? 当然ながら魔法は使えない。
そして生まれた物が「魔食いの首輪」と呼ばれる魔道具であった。
構造は至って単純であり、取り付けられた対象の魔力を使い光りを放つだけの魔道具……効率化などまったくされておらず、むしろ如何にして無駄に魔力を消費させるかに心血が注がれた外道の産物である。
その「魔食いの首輪」がオレの首に付けられているのだ。
(一体どうなってるんだ……宿で寝てたはずなのに……もしかして寝てる間に攫われたのか?)
この部屋の大きさは4畳半ほどで、3面は石の壁で塞がれている。残りの1面は案の定 鉄格子で出来ていた。
(これは……間違いなく何処かの牢だな……敵の目的も理由も皆目 見当もつかないが、状況から見てオレは攫われたんだろう……)
魔力枯渇で回らない頭を振って、自分へ冷静になるように言い聞かせる。
(焦るな、冷静にだ……装備は……くそっ、何も無しか……)
今の姿は何時の間にか七分丈のパンツとシャツを着せられており、完全な丸腰だ。
まぁ、収納の中にはミスリルナイフが入っているので、使おうと思えば直ぐにでも使えるのではあるが。
(ルイス達は無事なのか? あー、もぅ、頭が回らない。先ずは魔力だ。この「魔食いの首輪」を何とかしないと……)
コイツの構造は簡単だったはず……魔力を強制的に奪って光るだけの魔道具だ。こちとらエアコンに給湯器、コンロに冷蔵庫を作った新進気鋭の魔道具職人だぞ。この程度の魔道具、簡単に改造出来る。
早速 収納からミスリルナイフを取り出し、核の部分に見えないほどの小さな切れ目を入れてやった。
(後は中の魔法陣を弄ってやれば……ここの回路をこっちに繋いでっと……よし出来た。これでコイツはオレが魔力を込めれば光るだけの魔道具になったはずだ。後は少しでも魔力を回復しないと……)
少しでも情報を得るために辺りを見回すと、石壁の一部に換気用の小さな窓があり、少しだけ外が見える。
(外は薄っすらと明るいのか……恐らく完全に夜が明けるまで1、2時間って所だな。ルイス達が心配だが、魔力の厳しい今はオレに出来る事は少ない)
安全な場所まで逃げて、魔力を回復するべきか……いや、先ずはルイス達の無事を確認しないと……いやいや、2割の魔力があるなら、敵を倒せるんじゃ?……
色々な考えが頭を過る中、オレは賭けとも言える方法を選択する事にした。それは、このまま魔力の回復に専念する事である。
何故そんな危険を冒すのか? オレが逃げた場合ルイス達の安全が確保されるか分からないし、強行突破してルイス達を見つけても、そのまま脱出できるとは思えないからだ。
恐らくルイス達も装備を奪われ魔食いの首輪が着けられているのだろう。
空間蹴りの魔道具が無く、魔力切れでは直ぐに制圧されるのが関の山だ。その場合は危険と判断されて殺され兼ねない。
であればチャンスは1度だけ……そこに出来る全てを持って挑むべきだ。
こうしてオレは「魔食いの首輪」を密かに壊し、自分に「睡眠」の状態異常をかけて眠りに落ちていったのである。
因みに「睡眠」の状態異常は、アシェラに散々撃ち込まれて自然と身に付きました……ぐすん。
自分にしか使えないが、オレには の〇太なみの寝付きが約束されている!
「おい、起きろ」
男の声にゆっくりと意識が覚醒していく……
「ここは?」
「早く起きろ」
寝ぼけた頭ではあったが、再度の声で徐々に頭が働いてくる。
そうだ、攫われて「魔食いの首輪」を壊して、魔力の回復に眠ったんだった。
今の残りの魔力は5割って所……これだけあれば大抵の事があっても対処できる。
問題はルイス、ネロ、カズイの安否。先ずは魔力の無いフリをして情報を得なければ。
「こ、ここは何処なんですか? 僕は確か宿で寝てたはずなのに……」
我ながら白々しいとは思いつつ、驚いた風を装い鉄格子の向こうに立つ男達へ聞いてみた。
「話は後だ。首を見せろ。良し、「魔食いの首輪」は光ってるな。そのままここから両手を出せ」
「……」
男達は全部で3人。全員が同じ鎧を着ており、どこかの騎士のように見える。
一方的な言葉に苛立ちが募るが、グッと我慢して男の言う通りに鉄格子から両手を出した。
「そうだ、オレ達も手荒な真似はしたくない。取り調べて何も怪しい所が無ければ直ぐに出してやる。今は黙って従え」
男は少しだけ憐れみを含んだ目でオレを見つめると、そのまま手錠をはめて鉄格子の鍵を開けた。
「場所を移動する。こっちだ、付いてこい」
そのまま牢を出され、2人に挟まれた形で言葉を発した男に付いていく。
少し歩いて分かった事だが、ここは完全に牢屋であり、横並びで沢山の牢が並んでいた。
ルイス達もここの何処かに囚われているのだろうか……牢の中には何人かの囚人の姿も見えたが、全員が「魔食いの首輪」を付けられ、眠っているか気だるそうに座っている。
全くわけが分からない状況に、焦燥感だけが募っていく。
「僕達が何をしたって言うんですか? これだけの施設……ここは騎士団かそれに準ずる場所でしょ? ちゃんと説明してください」
「黙れ、後で説明してやる。今は何も言わず歩けば良いんだ」
有無を言わせぬ口調に、それ以上の言葉をかけるのは躊躇われてしまう。
くそっ、今は我慢だ。先ずは情報、それからルイス達の安全を確保してからだ……
焦れる心に何度目かの言葉を思い、男の後を付いて行った。
どうやら牢屋は地下にあったらしい。男に付いて階段を上ると、騎士団の宿舎のような場所へ出た。
男はそのまま暫く歩き、1つの部屋の扉を開ける。
「ここだ、入れ」
「……」
尚も2人の男に挟まれながら部屋に入ると、数人の男とカズイの姿が見える。
「カズイさん! 無事だったんですね」
「あ、アルド! 良かった……無事だったんだ……」
「ルイスやネロは? 無事なんですか?」
「僕もいきなりここに連れてこられただけで……ごめん、分からないよ」
「そうですか……」
オレとカズイの会話が一段落したのを待って、男達の中でも一番 階級が高そうな犬耳の男が口を開いた。
「良いかな? 先ずはいきなり攫うような真似をしてすまなかった。悪いとは思ったが、色々ときな臭い噂があったので強引な手を取らせてもらったよ」
そう言って謝罪を口にするが、この男は悪いなんて欠片も思っていないのは明白である。
「そんなに睨まないでほしい。こうして仲間にも引き合わせただろう? 勿論 逃げられては困るので、残りの2人には別の場所で同じようにお話を聞かせてもらっているがね」
「僕達が何をしたと言うんですか……何が目的なんですか……」
「まぁ、先ずは座ってくれ。こちらとしては少し話をききたいだけなんだ。友好的にいこうじゃないか」
「攫っておいて友好的も何も無いじゃないですか……」
男は薄く笑うだけで何も返そうとはしない。
先ずは向こうの目的を知らないと……そう心の中で呟いて席についたのである。
それからは犬耳の男の話を聞く事が出来た。話を纏めると受付嬢の話とほぼ同じ内容である。
違いと言えば、オレ達が混成種族のパーティなので、何か国をまたいだ組織のような物があって、良からぬ事を企んでいるのでは? と為政者が怪しんでいるのだとか。
もっと言えば、2年ほど前からウィンドウルフが増えた件もオレ達が関わっているのでは? と疑っているらしい。
なるほど……向こうからしてみれば、代々 狗神に守られてきた森に、いきなりウィンドウルフが大量に発生して街の存続すら危ぶまれた。
そこに、これまたいきなりウィンドウルフが殲滅され、調べてみれば獣人族、魔族、エルフ、人族の混成パーティが倒したと……
しかし、その者達は名も告げない処か、報酬すら求めず逃げるように去ってしまった。
こんな真似をするのは、どこかの聖人か何かとんでもない事を企む者しかいないと言う結論に至っていたのだとか……
そして、その記憶も朧げになった頃、明らかになにがしらの関係があるだろう集団が現れた……まぁ、オレ達の事なのだが。
一部の者は平和的に接触するべきと主張したが、オレ達が頑なに秘密にしようとした事で何か悪巧みがあるのでは? と警戒させてしまったそうだ。
そして昨日の拉致に発展したと言うのが事の全容らしい……
あー、なるほど……確かに相手側からすると怪しさ満点の行動を取っていたのは理解できる。
しかし、実際に攫われてみると、「しょうがないですね」と流せる話では無い。
今の時点でも、相手は武力をもって接してきているわけで、ルイスとネロの安全も確保出来てはいないのだから。
「話は理解しました。怪しい行動を取ってしまったのはこちらの落ち度だとしても、この扱いは流石におかしいでしょう。直ぐに僕と仲間を解放してください」
「まぁ、待て。それでウィンドウルフを倒したのはお前達で間違いないんだな?」
この質問にどう答えれば正解なのか……一連の経緯は分かったものの、向こうの求める物が分からない。
ウィンドウルフを倒した者を取り込みたいのか……若しくはそんな存在は危険として排除したいのか。
取り込みたいのであれば交渉の余地はある。しかし排除したいのであれば、このまま殺そうとしてきても不思議では無い。
結果 オレは何も言葉は発さず沈黙で返す事しか出来なかった。
「なるほど。何も話さないと言う事か」
「先ずは僕達の安全を約束してください。話はそれからです」
「この状況で対等の交渉が出来ると? お前達の生死はこちらの気分次第だと言う事を忘れるな」
悔しいが、犬耳の男の言う事は正しい。オレとこの場にいるカズイは別にして、ルイスとネロはどこにいるかすら分からないのだ。
もういっそ使徒である事をバラすか? そうすれば少なくともオレ達のやった事の意味は理解してもらえる……
しかし、その決断をすれば、最悪の場合 独立が早まってしまうわけで……
答えの無い難問を解くように、オレは沈黙を貫くしか出来なかった。
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