第103話王国騎士団 part1

103.王国騎士団 part1



スカーレッドの森で死にそうになった次の闇曜日


オレ達はシレア団長からお誘いを受け、王国騎士団の皆さんと王都の演習場で修行をしている所だ。

王都の演習場はブルーリングの演習場より数倍の大きさがあった。


流石は王国騎士団。この国で一番の騎士団を自負するだけの規模はある。

人数の総数は2万を超えると聞く。普段は辺境の砦の防衛や領主からの依頼で、救援や応援に王国中を飛び回っている様だ。


目の前のシレア団長を見る。


(この人が騎士団を総括しているのか…能力良し。人柄良し。柔軟性良し。個の武力も良し。全てが高い水準で纏まっているが…何だろう。この言い様の無い残念感は)


思ってる事が漏れでもしたかの様にシレア団長が話しかけてきた。


「アルド君、エルファス君、ルイスベル君、ネロ君、今日は無理を言ってすまなかった。ダメだとは判っているのだが自分の気持ちを抑える事が出来なかったんだ」

「いえ、騎士団の修行に混ぜて貰えるなんて光栄です。今日は1日よろしくお願いします」


シレア団長とルイスの挨拶が済んだ。


「どうだろう。まずは普段の騎士団の演習のメニューで始めようと思うんだがどうだろうか?」

「はい。それで構いません」


ルイスの返事にオレはワクワクを隠せなかった。王国騎士団…どんな修行をしているのだろうか。




1時間後-------




オレとエルは騎士団の修行に微妙な不満を感じていた。

素振りをしていきなり模擬戦を行い出した時には流石は王国騎士団だと感動したのだ。これはキツイ修行になるぞ。っと覚悟したのだが…


実際は1対1で模擬戦をするのは1組で他の人は見学だ。確かに見取り稽古と言うのも重要なのは判る。しかし、これは温すぎなのでは無いだろうか。

オレの気持ちが表情に出ていたのだろう。1人の騎士がオレに向かって話しかけてくる。


「ブルーリングの修羅殿だろう?噂は聞いてるよ」

「はぁ。お恥ずかしいかぎりで…」


「どうだい?1戦」


周りの騎士は興味深そうにオレ達の会話を聞いていた。止め無いと言うのは受けてもいいのだろうか。シレアさんを見てみると眼には好奇心を全開にしている。


「…では胸をお借りします」

「話が判る。向こうでやろう」


オレは騎士と一緒に少し離れた足場の悪い場所に案内された。


「ここはわざと足場が悪くしてあるんだ。いつも万全の状態じゃ訓練にならないだろ?」


騎士はそう言って少し嫌らしい笑みを浮かべたが、オレとしては”どんどんオレが有利になる”としか思えない。


「判りました…」


有利過ぎるのでモニョっていたら、騎士は怖気づいたと思ったらしく更に話しかけてくる。


「判った。”参った”と言ったら終了にしよう。その代わり宣言しないといつまでも攻撃される事になるぞ」


この騎士はMなんだろうか…自分で自分を追い詰めている…いたたまれなくなったオレは早く始める様に促した。


「判りました。それでお願いします」


オレは元々ワイバーンレザーアーマーを装備して来たので武器を抜くだけだが、騎士がハーフプレートメイルを装備しだす。

心の中で”装備してから言って来いよ”と悪態をつきながら騎士を待つ。


「待たせてすまないね。やろうか」


そう言って騎士は言葉だけの謝罪を吐き盾を構える。


「じゃあ行きますね」

「いつでも良いよ」


オレは身体強化をかけて吶喊した。

動きが想像以上だったのだろう。騎士が驚きの眼でオレを凝視する。


騎士の右へ移動すると見せかけて左へ移動すると、自分の盾が邪魔でオレを見失った様だ。

オレは後ろから足をかけて騎士を倒すと左の短剣で首を、右の短剣で騎士の左脇に当てた。左脇は勿論、鎧の隙間になっている場所だ。


さき程の騎士の言葉通り、降参の宣言が無ければ攻撃は継続する…

申し訳ないと思いながらも木製の短剣を突き入れた。


「がふっ」


小さい呻き声を上げると騎士はオレを振りほどきゆっくりと立ち上がる。


「ガキが…もう手加減しねぇ」


オレは十分手加減してるんだが…少し困った顔をしてると怖気ずいたと思った騎士がここぞとばかりに攻め込んできた。

どこまでなら良いのだろう…そう思いシレア団長を見ると子供の様に模擬戦に熱中している。


リアクティブアーマーは流石にマズイ。空間蹴りも爺さんに3歩の制限を受けた。本当は何も使わなくても勝てるがオレも舐められっぱなしは気分がヨロシクない。

ここは魔力武器を使わせて貰う。


いきなり使うとすぐに勝負が付きそうなので、振り下ろしを躱すついでに後ろへ飛ぶ。

距離を取ると顔に怒りを浮かべてオレを睨みつけているのが判る。


先程の短剣を突き入れたのがよほど頭にきた様だ。

ルールを決めたのは相手なのに…自分がやられるとは考えなかったのだろうか…謎だ。


切り替えて、短剣を大剣に変化させる。

魔力武器を見て騎士が驚きの表情を見せるが流石は王国騎士、すぐに落ち着きを取り戻す。


オレは大剣二刀を構え騎士へと真っ直ぐに走り出した。

魔力武器はブルーリングの模擬戦で使った柔らか仕様だ。当たっても怪我をする事は無いだろう。


正直、オレは7割ぐらいのチカラなのだが実力差は明白だ。

しかし騎士は何度、有効打を受けても降参しない…流石にこれ以上はイジメになってしまう。


これでは他の騎士からのオレの印象は最悪だ。オレの気分もとても良いとは言えない。

とは言え騎士は肩で息をしながらもオレへの攻撃を執拗に続けている。


あまり恥を欠かせない様に負けを認めさせる方法…気絶させてもボコボコにしても禍根を残しそうだ。

関節技…高校の柔道の授業でやった以来。ダメ元でやってみるか。


魔力武器を解除し短剣二刀を構える。

騎士へ向かって走ると片手剣を横薙ぎに振るってきた。


本当なら上へ躱したいが爺さんに空間蹴りは禁止されている。

上がダメなら下、地面を這う様な姿勢で片手剣を躱し騎士の懐へ潜り込む。


普通は首筋に短剣を当てると”参った”と降参するのだが…

この騎士は絶対に負けを認めないだろう。しょうがないので短剣は使わずに相手の右腕に飛びつく。


片手剣を奪いそこらに転がしてから、相手の体に足をかけ”腕ひしぎ十字固め”で関節を極める。

最悪、折っても回復魔法がある。オレは容赦なく関節を極め続けた。


「降参しないと折りますよ」


少し殺気を込めて脅すと、ようやく騎士は”参った”と降参の意思を示す。

退場する騎士に回復魔法をかけようと近寄ると露骨に嫌な顔をされた。


「回復などいらん!どけ」


無理やりかける訳にもいかない…この場には微妙な空気が漂っている。

すると1人の騎士が前に進み出た来た。


「すまない。後からアイツには強く言っておく。気を悪くしないでくれ」


決して愛想がある訳では無かったが、実直そうで信用できそうな騎士だ。


「いえ、気にしてません」

「それならいいのだが…」


しかし、どこかで見た様な気がするが…顔に出ていたのだろうか騎士が話出す。


「御前試合の時に一度、会った」


御前試合…シレア団長と戦った時…あ、もう1人の騎士か!


「マリクだ。副団長をさせて貰っている」

「アルドです」


「知ってるよ。血濡れの修羅殿」


その通り名をフルネームで言わないでほしい…オレのライフが0になりそうだ。


「気を取り直して1戦どうだろうか?1本勝負で」


マリク副団長は笑みを浮かべているが眼の奥は笑っていない。


「判りました。よろしくお願いします」


マリク副団長と模擬戦の準備しているとシレア団長が首を突っ込んできた。


「アルド君、2対2なんて興味ないかい?」


2対2…敵だけじゃない、味方の動きも見ながら動く必要がある。


「あります!」


シレア団長は”してやったり顔”、対するマリク副団長は”おもちゃを取られた子供”の様な顔をしていた。

大丈夫だと思うがエルに模擬戦の参加を聞いてみると心良く”了承”してくれる。


これからシレア団長&マリク副団長チーム 対 オレ&エルチームの模擬戦だ。

シレア団長とマリク副団長の武器は片手剣と盾、予備武器として右の腰に短剣を差している。


オレ達は準備を終え、2対2で向き合う。


「ルイス君、合図を頼むよ」

「わ、判りました。シレア団長」


ルイスを審判に指名したのは”先程の騎士の様な事はしない”と言うシレア団長なりの気遣いなのだろう。

何故かルイスが緊張の面持ちで全員の様子を見る。準備が出来たと判断したようだ。


「始め!」


2戦目の模擬戦が始まった。



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