第347話報告 弐

347.報告 弐






アシェラ達から幸せ成分を補充した後、今は領主館へ向かっている所だ。

何気なく見慣れた風景がとても懐かしく感じる。改めてここがオレの居場所なのだと実感しながら執務室へと向かっていった。


「アルドです」

「どうぞ」


執務室に入ると、中には父さんだけでなく、母さん、エル、ローランドが待っていた。


「おはよう、アル。ゆっくりと休めたかい?」

「おはようございます。はい。久しぶりの自宅は格別でした。やっぱりここが僕の居場所なのだと再確認してます」


「そうかい、それは僕も嬉しいよ。サナリスはさっき見たんだったね?」

「はい。驚きましたが、とてもカワイイ子でした。きっと将来はこのブルーリングを立派に背負ってくれるはずです」


「そうだねぇ。サナリスはカワイイんだよぉ。あの耳はきっと僕に似てると思うんだぁ。あんなにカワイイのはきっと………………」


え? あ、あれ? と、父さんってこんな人だっけ? もっと出来る文官って感じで、威厳みたいな物があったような気がするんですが。

これじゃあ、近所の孫を猫可愛がりする只のジジイじゃないですかー


父さんは放っておくとサナリス君の事を永遠に話してそうだ。


「アル、おはよう。ヨシュアは放っておいても良いわ。サナリスの事になるといつもああだもの」

「おはようございます、母様。そうなんですか?」


「ええ。毎日、執務の合間に5回はサナリスを見に行くわ。アナタ達の時はそこまでじゃなかったんだけど孫は違うのねぇ」

「5回ですか……だいぶ重症ですね」


母さんは肩を竦めて呆れている。


「アルドぼっちゃま、おかえりなさいませ。良く無事で帰ってきてくださいました……」


そう言いながらローランドはハンカチで目元を押さえている。


「ローランド、ただいま。帰ったら言いたい事があったんだ。いつも無理を言ってすまなかった。旅をしてみてローランドやセーリエにどれだけ世話になってたか実感したよ。本当にいつもありがとう」

「そ、そんな……あ、アルドぼっちゃま……わ、私などに……」


そう言くってローランドはハンカチで顔を覆い泣き出してしまった。

皆 歳を取っていく……3年と言う長い時間を空けると、それが嫌でも分かってしまう。


「ローランド、ほら、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます……アルドぼっちゃま……」


オレのハンカチを使って溢れた涙を拭ってやると、更に泣き出してしまう始末だ。

そんな中でもある種 変わらぬ覇気のような物を放っているのが、我らが母『氷結の魔女』こと氷結さんである。


氷結さんは2人を、困った子供のように見て呆れた顔をしている。


「アル、きりが無いから始めましょうか。昨日と同じ事になるかも知れないけど、最初から詳しく説明してくれるかしら」

「分かりました。最初に飛ばされたのは荒野だって言ったと思うんですが、恐らくそこは過去スライムにマナスポットを壊された土地です」


「スライム……なるほど。嫉妬に狂った者のやりそうな事ね。続けて」

「はい。そこはスライムの丘と呼ばれ、過去には森が…………」


収納は使徒の能力だった事、アルジャナから人族だけが独立して、ファーレーンと言う国を作った事、腕を修復する時に魔力操作が上がるように改造した事、アルジャナで魔方陣を習った事、ハクさんと言う白蛇の主と知り合った事、他にも色々と細かい事を説明していった。

時間は既に昼を周り、メイドにサンドイッチを頼んで説明を続けていく。


そして日が暮れ始め、あらかた終わろうと言う頃合いにオレは特大の報告を上げた。


「最後に、僕は旅の途中で合計4匹の主を倒しました。そして、1匹だけ逃げるしか出来なかった主がいます」

「4匹も? それにアンタが逃げるしか出来なかったって……」


「順番に説明します。最初はアルジャナのベージェの近くの森にいた…………」


オレは先ずベージェでファングウルフの主を、ハクさんを手伝ってオーガの主を倒した事を説明した。

次にグレートフェンリルに入って直ぐの場所でウィンドウルフを、ドライアディーネに入る寸前で懐かしのゴブリンエンペラーを倒した事を説明をしていく。


「待って。じゃあ証は? 証はどうしたのよ?」

「アオと契約し直してからは収納に入れてあります。もう干からびてミイラみたいになってますが……」


「その証はいつまで証としての効力を持つの?」

「それはボクも気になっていました。実は最初に奪ったアルジャナの証は、だいぶ嫌な感じが薄れてます。恐らくそう長くは持たないかと」


「そう。それは後でアオに見てもらいましょ。今更 1日や2日でどうなる物でも無いでしょうし」

「分かりました」


「後はアナタが逃げるしか出来なかった主ね」

「はい。場所はドライアディーネのグリドル領、オクタールの街です。この街はマナスポットに作られた街だったみたいです。僕が到着した時にはもう、オーガに滅ぼされてました」


「オーガ……わざわざマナスポットを狙ったのなら、他の土地の主が寿命で新たなマナスポットを狙った……そして、目論見通り寿命を延ばしたとみるべきね……」

「ルイスと相談して僕もそう推測しました。ハクさんと協力した時の主もオーガでしたが、そのオーガは直撃では無いもののコンデンスレイに耐えたんです。そんなオーガの主が2つ目のマナスポットを手に入れた以上 僕には手に余ると判断して、戦いもせず逃げ出したんです……」


オレの報告に沈黙が訪れ、誰もが何かを考えるだけで声を発する者はいない。

そのまま5分ほどが経ち、オレはゆっくりと話し出した。


「恐らく主はマナスポットからは出ないと思います。領域を出れば加護を失いますから。ただ他のオーガは違います。オクタールを基点に被害はどんどん増えていくはずです……しかも2つのマナスポットを得たオーガの主……エルフ達が毒や魔道具を使ったとしても、どれだけの被害が出る検討も付きません」

「そうね……でも、ブルーリングはエルフと同盟の密約を交わしてるわ。そうなると、遠くない内に救援の要請が来るでしょうね」


「はい。ですから、その前に小さなマナスポットを解放して、移動の手段を確保するつもりです。正直 今回の旅で世界の大きさに圧倒されました。これから闇雲に主を倒していっても……世界を救う前に僕達の寿命が先に尽きるはずです……きっと間に合わない……」

「そう……帰って来るだけで、3年もの時間がかかったって事はそう言う事なんでしょうね……」


「今は、アオが事ある度に子供を作れだとか、主を倒せって言ってた意味が分かったような気がします」

「アオが言ってたものね。ティリスって使徒は、旅をしながらマナスポットを解放していったって。恐らくどこかに定住して、使命を果たすなんて無理なのかもしれないわ……」


「でも、僕は絶対に嫌です!何年かに1度帰ってきて、子供だけを作って生涯を討伐に捧げるなんて……それじゃあ、僕はこの世界を愛せない……きっとどこかで全部 投げ出したくなる……」

「アル……」


「なので世界中にマナスポットの拠点を作ります。そうすれば長くても数か月の旅で済むと思うんです。それでも難しい時は……また知恵を絞り出します!」

「そう……分かったわ、アナタが決めたのなら、それで行きましょう。そもそも、人生が戦いだけじゃあ、本当に修羅になっちゃうもの。それで具体的な案はどうするの? アンタなら何か考えがあるんでしょ? 小さなマナスポットを解放するって言っても土地勘が無いと難しいんだから」


「そこは地図を作ろうかと思います。ルイスから聞いたんですが、アオが地球儀……あー、丸い世界の絵を出した事があるんですよね? それを元に協力してくれる人や国から、その土地の地図を提供してもらって、詳細な世界地図を作るつもりです。そうすれば今回みたいな事があっても安心できますから」

「地図……地図はどの国や土地でも最重要機密よ。そう簡単には提供してくれると思えないけど……それにあの球体をどうやって地図にするのよ」


「そこは実際にエルフの国でも主の被害があるわけですし、話し合いです。生きるか死ぬかの状況で、隠すような余裕があるとも思えません。それに球体を地図にするならメルカトル図法……あー、それはライラにやってもらいましょう。ライラなら計算も出来るので」

「地図に関してアルが何を言ってるのか、全く分からないわ。でも出来るのよね?」


「はい、大丈夫です」

「じゃあ、方針は決まったわね。先ずは世界地図を作って世界中にマナスポットのネットワークを張り巡らせるわよ!ヨシュア、エル、良い?」

「ああ。僕は先ず水面下でエルフに地図の提供を打診してみるよ。決して外に出さず、平和にのみ使う事を条件にね」

「に、兄さま……僕は具体的に何をすれば……」


「エルは当面 今までと同じで父様から執務を習ってくれ。将来の国の運営も同じくらい大切な事だ。でもこっちの手が足りない時にはチカラを借りるからな。毎日の修行だけはサボるなよ」

「分かりました!」


それからはアオを呼び出して、決まった事をお願いしてみた。

概ねは了解してくれたが、ライラがアオを呼ぶのにはマナスポットに話しかけるしか方法が無い。


父さんとも相談した結果、地図の保管の兼ね合いもあり、指輪の間の隣に厳重な鍵付きの部屋を1つ作る事が決まった。

その際には換気用の穴を作ってもらう事だけは口酸っぱく言うのは忘れない。


「後はアオ、これを見てくれ」


そう言って4つの証を出すと、アオが驚きながら口を開いた。


「これは凄いね。4つも集めたのか……でもこの証はそう遠くないうちに壊れるはずだよ」


アオがそう言ったのは、やはりベージェで倒したファングウルフの証だ。

改めて見ても干からびており、端の方は灰になっている。


「やっぱりそうか。因みに証ってどれぐらい保つんだ?」

「主にもよるから一概には言えないけど1年から持って5年ぐらいだと思う」


「そうか。ベージェを出て2年以上経ってるからな。この証は諦めた方が良さそうだな」

「そうだね。でもなるべく長く持ってれば新しい主が生まれるのが遅くなる。その土地に住む者にとっては助かるだろうね」


「そうだな。これは収納に入れておくよ」

「それが良い」


これで取り合えずの報告と相談は終わったはずだ。

明日からは先ず、細かい事をやって行こうと思う。ドラゴンアーマーも3年が経ってだいぶくたびれている……メンテナンスに出さないと。


それにアルジャナの魔法陣をローザに教えて……カズイさんにアドを紹介しないと……ネロやジョーの所にも顔を出したい。

後は何といっても子作りだ!同じ使徒として、エルだけに負担を押し付けるわけにはいかないのだ!


今日こそはめくるめく官能の世界を体験できるに違いない……ですよね? アシェラさん、オリビアさん、ライラさん?

期待でオレのハートはバーニングだぜぃ!


こうしてブルーリングに帰還しての2日目が過ぎていくのだった。




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