第346話新しい種族

346.新しい種族






ブルーリングに帰った次の日の朝、オレは3人の嫁と一緒にベッドの中で目が覚めた。

まさか4人で? と思う者がいるかもしれないが、そんな事は無い……全く無かったのだ(血涙)


3人は夜のプロレスなどよりも、オレと一緒にいたがったのである。その姿は子犬が親犬に纏わりつくが如くであった。

ライラなど「心配」と言いながら、オレのお花摘みにまで付いてこようとしやがった。


何年かぶりに風呂へ入り体だけで無く心の垢も洗い流して、いざ官能の世界へ!と息巻いたものの3人が順番に風呂から出ると、オレのベッドで川の字になって寝る事が決まっていたのだ。

最初は4人でなんて、はしたない……と鼻息荒く喜んでいたオレだが、アシェラのお胸様に触った途端、いきなり3年ぶりの麻痺を撃ち込まれてしまった。


「アルド、今日は大人しく寝る」

「そうですよ。アルドのいない間は、毎日こうして3人で寝ていたのです。今日ぐらいは4人で寝させて下さい」

「私はアルド君が望むなら、今からでも……」


その瞬間、竜種でも逃げ出しそうな殺気がアシェラとオリビアから立ち上り、ライラは脂汗を流しながら大人しく寝る事となった。

危なかった……もしバーサクモードになってたら、今の殺気はオレに向いてたのか……


こうしてオレが飛ばされてからの3人の生活を聞かせてもらいながら、ベッドで横になっていると1人寝て、2人寝てと、いつの間にかオレも幸せな温もりの中で闇の中へ落ちていったのである。






次の日の朝 目が覚めると3人は既に起きており、オレを見つめながらニコニコと笑っていた。

どうやらオレの寝顔を3人仲良く眺めていたようだが、オレの顔などそこらにゴロゴロしているレベルである。


気恥ずかしい気持ちを顔に出さないように、3人へ優しく話しかけた。


「おはよう。アシェラ、オリビア、ライラ。そんなに見られると溶けてバターになりそうだよ」

「おはよう、アルド。朝起きてアルドがいるのが凄く嬉しかった。もうボクを置いていかないでほしい」

「ズルイですよ、アシェラ。おはようございます、アルド。私はどこへでも付いて行きますから、もう離さないで下さい」

「おはよう、アルド君。私はもう絶対に離れない。アルド君のいる場所が私の居場所」


おふ。朝から嫁達の言葉がオレのハートを撃ち抜いてきやがる。こんな幸せを手放すもんか。オレの居場所はここだ。ここが良い……


「3人共、寂しい思いをさせてごめんな。もうどこにも行かないから。愛してる、アシェラ、オリビア、ライラ」

「ボクも……」「私も愛してます、アルド」「私も愛してる。絶対に離さない」


3人と朝っぱらから愛を語り、幸せを感じていると……アシェラが頬を染め出してモジモジしだした。


「どうした? アシェラ」

「……それ」


アシェラはオレの下半身を指さしてくる。そのまま目線を下に移すと、そこにはパオーンになったパオパオーンの姿が……


「あー、スマン。これは生理現象で朝になるとどうしても……な?」


3人は恥ずかしそうにしながらも拒絶する様子は無い。昨日の夜は先ず温もりを確かめたかったのかもしれない。

であれば良いのだろうか? 狼になっちゃっても良いのだろうか? 彼方へ飛び立っても良いのだろうか?


徐々にオレの理性がマックスハートでバーサクモードになっていく中、我が家のノッカーの音が大きめに響いたのだった……

寝間着姿の嫁達に任せるわけにもいかず、オレは軽く着替えると玄関へと急いだ。


「はーい。今開けますよー」


めくるめく官能の世界を邪魔するオレの敵は誰だ!

そんな気持ちで少し乱暴に扉を開けると、エルと赤ちゃんを抱いたマールが立っているでは無いか。


「兄さま、すみません。朝早くに。どうしても顔が見たくて、来てしまいました」

「あ、え? いや、大丈夫だ……入ってくれ……」


そう言って2人を家の中に招き入れるが、オレの眼はマールが抱いている赤ちゃんに釘付けである。

そんなオレを楽し気に見つめながら、エルは嬉しそうに口を開いた。


「サナリス。サナリス=フォン=ブルーリング、兄さまの甥です」

「甥……オレの甥……エル!お前、父親になったのか!!」


家中にオレの叫び声が響き渡ったのであった。






オレの声に泣き出したサナリス君を、今はマールと我が家の嫁達が交代であやしている所である。

そんなマールの姿は、若いなりにもしっかりと母親をやっており、ブルーリングへ帰るまでの3年と言う月日を感じさせた。


思えばオレはもう直ぐ19歳、オリビアも同じだ。アシェラは若返りの霊薬を飲んだため見た目は17,18歳ぐらいに見える。

ライラも結婚した当時はパオーンするか不安なほどだったが、今は確か17歳になったはずだ。


エルは新しい種族の件もあり、子供を早く作らないといけなかったのだろう。

改めて全てを任せてしまっていた事に申し訳ない気持ちが湧いてくる。


「兄さま、僕は望んでサナリスを授かったんです。そんな申し訳なさそうな顔をしないで下さい」

「いや、そんなつもりは……ハァ、やっぱりお前に嘘は付けないか」


「はい。僕には何となく兄さまの考えてる事が分かりますから」

「エル、無理はしてないか? この3年 お前に全部任せる事になって悪いと思ってるんだ」


「止めてください。兄さまの方がずっと大変な思いをしてきたじゃないですか。それに僕は幸せですよ。サナリスが生まれて僕は本当の意味で誓ったんです。使徒の使命を全うして、この先もずっと世界を存続させてみせるって。絶対にあの子の未来を閉ざさせたりしないって」


そう語るエルは、もうオレの後をついて来ていた頃のエルとは違い、大人の……いや、父親の顔をしていた。


「父親の顔になったな、エル。お前が眩しく見えるよ……」

「そんな事無いですよ。毎日 一杯一杯で必死に生きてるだけです。今は少しだけ……兄さまに背伸びして見せてるだけなんです」


「そうか……そう言えるなら大人になったって事なんだろうな」

「大人ですか。自覚はありませんが、そうなんでしょうか」


「ああ。お前なら立派な当主にも父親にもなれるよ。オレが保証する」


久しぶりのエルはオレの想像を越えて、一人でしっかりと立つ事の出来る大人の男になっていた。

エルに子供がいる事を想像した事もあったが、実際に目にしてみるとインパクトが半端ない。


しかし、こうなると新しい種族の特性とやらが気になってくる。

実はサナリス君の額には、小さな青い石のような物が付いていたのだ。


きっと、これが新しい種族としての特性に関係しているのだろう。


「エル、この子をアオには見せたのか?」

「はい。生まれて直ぐに見せたんですが、額の石も種族の特性も分からないって言われてしまいました。ただ、アオが言うには、サナリスの周りに精霊が集まってるって言うんです。下級の精霊らしいんですが、少し怖くて……」


「下級の精霊……旅の途中で白蛇のハクさんって主にあったんだ。ハクさんが言うには下級の精霊でも集まれば、雨を降らしたり出来るぐらいのチカラはあるらしい」

「雨ですか? それってかなりのチカラじゃないですか?」


「そうだな。雨の量から考えると、オレ達が個人で出せる水の量なんか鼻クソみたいな物だ」

「そんなチカラが……下級の精霊……」


「取り合えずは、なるべく気を付けて見てた方が良さそうだな。異変があったら直ぐにオレにも教えてくれないか?」

「分かりました。少し気を付けるようにします」


一抹の不安を抱えながらも一緒に朝食を摂ってから、元気なサナリス君を連れてエルとマールは帰っていった。

きっと2人はサナリス君をオレに見せてくれるために、早起きして来てくれたのだろう。


そう言えばサナリス君の名前だけで、年も聞いて無い。あの様子なら生後半年ぐらいか? 首が座っているなら、また後で抱かせてもらおう。 

しかし、新しい種族……額の石……マナの精霊であるアオ……下級の精霊……やっぱり少し心配だ。


そもそもアオからしても初めての自分の眷属だろうに。何でアイツはそんなに適当なんだ。

オレは少しの苛立ちと共にアオを呼びしてみた。


「昨日は僕をポイ捨てしたくせに!呼ぶ時は勝手なんだから。本当にアルドは……」

「ああ、悪かったよ。少しお前に聞きたい事がある」


「ん? 何だい?」

「エルの子供のサナリス君を見せてもらった」


「ああ。新しい種族の最初の子だね。アルドも早く作ってよ。種族として定着するには数がいるんだから」

「そんな事よりエルから聞いたんだけどな。額の石とあの子にどんな特性があるか本当に分からないのか? それに下級の精霊が集まってるって……危ない物じゃ無いんだろうな?」


「特性はマナに関する事って程度、額の石もそれに関係するんだろうけど僕には分からないよ。それに下級精霊が集まってるって言ってもサナリスの周りに集まって遊んでるだけだ。あの子は精霊に好かれてるんだよ。危険なんてあるわけ無いじゃないか」

「そうなのか? オレは旅の途中で白蛇のハクって主とあったが、下級精霊に雨を降らしてもらってるって言ってたぞ。下級でもそれなりのチカラがあるんじゃないのか? 本当にサナリス君には危害が加わる事は無いのか?」


「アルドが何を心配してるのか、僕には理解できないよ。動物の主なら下級精霊と話すぐらい出来るだろうね。それでその動物の主は何か危害を加えられたのかい?」

「いや……そんな話は聞いてない……」


「アルドはグリムの件もあって、僕達 精霊を信じ切れて無いみたいだけど、僕達は下級であっても世界を守る存在だ。むやみやたらにチカラを使って誰かを傷つけるなんて事はしない」

「そうなのか……スマン。精霊をそんな風に思ってるわけじゃないんだ。ただ分からないチカラはやっぱり少し怖いんだよ」


「分かったよ。僕も最初の眷属だしね。サナリスの様子はちょくちょく見るようにするよ。これで良いかい?」

「ああ。ありがとう、アオ」


そう言ってアオは少し名残惜しそうに消えていった。

そうか……精霊は世界を守る存在で、危害を加えたりしないのか。だったら逆に守られていると考えても良いのかもしれない。


少し気が楽になってオリビアに淹れてもらったお茶を飲んでいると、アシェラ、オリビア、ライラがオレの向かいに座りながら見つめてくる。


「ど、どうした? 3人共」

「ううん、何でもない。アルドを見てるだけ」

「私もです。アルドは少し逞しくなりましたね」

「アルド君を目に焼き付けてる……」


「そ、そうか。あまり見られると緊張しちゃうな……ハハハ……」


嫁達がニコニコと機嫌良さそうに笑っている。昨日までの殺伐として気持ちが解れていくのを感じる。

まるで乾いた大地に雨が降るような……そんな心地よい空気の中、アシェラが恥ずかしそうに話し出す。


「サナリス、やっぱりカワイイ……ぼ、ボクも赤ちゃんが欲しい……」

「アルド、子供は1人では出来ませんからねぇ。夫として協力してくれますか?」

「あ、アルド君!私は2人は欲しい。最初は男の子で次は女の子。名前は……」


「ちょっちょっと待って。ライラは先走り過ぎだ」


アシェラは少し恥ずかしそうに、オリビアは誘うような眼で、ライラは鼻息荒く……やる気だ。


「ああ。オレも3人との子供が欲しい。こっちからお願いするよ。オレの子を産んでほしい、アシェラ、オリビア、ライラ」

「うん。きっとカワイイ子が生まれてくる」

「その前に子供を作らないといけませんね。ねぇ、アルド?」

「私は2人はほしい。最初は男の子で…………」


こうして幸せを嚙みしめてから、領主館の父さんの下へと向かったのだった。




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