第348話命の洗濯 par1
348.命の洗濯 par1
父さん達に報告を終え、自宅に帰ってきた。
「ただいま」
「アルド、遅い。またいなくなっちゃったと思って心配した……」
「お仕事も大事ですが、私達の事も忘れないでくださいね。お願いします」
「アルド君……」
昨日3年ぶりに帰ったと思えば、今日は朝から出かけて連絡もしなかった事で心配をかけてしまったようだ。
アシェラは少し不安そうな顔で怒り、オリビアはジッと我慢している様子だ。ライラだけはオレの背中に抱き着きながら顔を埋めているが。
「ごめん。今日で報告は終わったから、明日からはこんな事は無いようにするよ。埋め合わせじゃないけど、明日はドラゴンアーマーの修理でボーグの所へ行こうと思うんだ。ついでに保存食も作りたいから街へ買い物に行かないか?」
お出かけの誘いで、一応の鉾は降ろしてくれるらしい。3人は嬉しそうにOKの言葉を返してくれた。
それから全員で夕食を食べながら、オレがいなかった間の生活を聞いていく。
オリビアはエルやマールと一緒に、父さんから執務を学んでいたのだとか。きっと将来 独立して国になってから大きなチカラになってくれるはずだ。
そしてライラはオレが書き溜めていた科学についてのノートを見つけ、そこから独学で学んでいたのだと聞いた。
「ごめんなさい。勝手にアルド君のノートを見てしまいました……」
そう言って謝る姿は小動物のようで実に可愛らしい。
「いや、良いよ。元々は忘れないためのメモ書きだったけど、あれはライラが使ってくれ」
「良いの?」
「ああ。不用意に広めなければ問題無いよ」
「ありがとう、アルド君!」
しっかり科学を教える過程で、本としてまとめてもらえるとオレとしてもありがたい。
そして最後のアシェラだが、驚いた事に魔の森の開拓に従事していたそうだ。
しかもクリスさんを筆頭にグラン家が主導になっているなど、全く想定外の出来事だった。
「え? クリスさん達が主導してるの? 何で?」
そこからは父さんがカシューを脅してヴェラの街を奪い、今は魔の森の中に街道を通してヴェラの街へ行き来している事や、アシェラの母親であるルーシェさんやハルヴァも開拓に参加している事を聞いた。
「何それ……父様、幾ら何でもやりすぎだろ……王家は介入しなかったのか?」
「そこは『王家の影』の功績と『ブルーリング家が子爵へ陞爵される件』を白紙にされる事で調整したらしい」
「じゃあ、この3年でブルーリングにはヴェラの街と開拓村が増えたって事なのか?」
「うん。ヴェラの街は元々いたカシューの騎士爵家がそのまま治めてるみたい。お義父様は最悪 焼き払えば良いって言って、反乱が起きても良いように対応してる。今は開拓村にブルーリングの全力をつぎ込むって」
「焼き払うって……コンデンスレイでか? 父様……あの人の血は青いんだな。改めてオレには貴族は絶対に無理そうだ」
「アルドはそのままで良い。そのままじゃないとダメ」
「そうか。ありがとな、アシェラ」
「うん」
それからも色々な事を聞いたが、3人共オレがいなくともしっかりと自分の足で立って生きていたようだ。
「アルド……ボク頑張ったよ。アルドに褒めてほしくて頑張った……」
「アシェラ、凄いな。良く頑張った。流石はオレの嫁だ」
「うん……」
するとオリビアも同じように口を開く。
「アルド、私も頑張りました。お義父様から街の運営を一生懸命学んだんです。アルドの妻として恥ずかしくないように……」
「そうか。オリビア、勉強お疲れ様だった。お前はオレの誇りだよ。良く頑張ったな」
「はい。ありがとう、アルド……」
こう来れば次は当然ライラの番なわけだが、確かにライラも勉強を頑張ってはいたのだろう。
しかし、それはオレのノートを盗み見て勝手に勉強してたわけで……
「わ、私は……その……」
何と言っても褒められるような事をしていないライラは、俯きながらボソボソと話すだけである。
「ライラも頑張ったよ。今日、父様達と話して頼みたい事が出来たんだ。勉強をしてくれてた事が凄く助かる。ライラは自慢の嫁だ」
その瞬間 ライラは花が咲いたような笑顔でオレに抱き着いてくる。
「ボクも!」「ズルイですよ、2人共!」
こうして、それからも嫁達の話を聞いていたのだが、そんな楽しい時間も時計を見ると21:00を回っていた。
「そ、そろそろ、寝ようか?」
極力 自然を装って声をかけたつもりだが、少し声がうわずっていたかもしれない。
3人はそんなオレに笑みを浮かべながら風呂へ入っていき、最後のオレが風呂を出た時にはリビングに人の気配は無かった。
ここからは官能の世界がオレを待っている!既にオレのグレイトなファイアがマキシマムになって爆発寸前だ!
オレは逸る気持ちを押さえながら、ゆっくりと自室に入っていく……しかし、昨日とは違い誰の姿も見えないのは何故?
え? どーゆー事? オレ、もしかして1人で寝るの? マジ?
あまりの絶望に呆然と立ち尽くしていると、アシェラの部屋へと続く扉がゆっくりと開いていく。
「アルド……今日はボクの番……」
カワイらしい寝間着を着て、上目遣いでそんな事を言われた日には……バーーーーニング!!!
オレはこの日 理性を捨てた。
扉をノックする音で、徐々に覚醒していく。
「アルド、アシェラ、そろそろ起きてください。もう9:00ですよ」
「あ、直ぐ起きるよ。ごめん」
オリビアにそう返すとアシェラも今 起きたらしく、布団の中からオレを上目遣いで見つめてくる。
「アシェラ、おはよう。着替えて朝食にしよう」
「うん……恥ずかしいからアルドは先に行ってて……」
昨日はバーニングがファイアでかなりハッスルしてしまった……アシェラに無理をさせたかもしれない。
こんな事で不満を持たれて出て行かれでもしたら、オレは間違いなく世界を救わなくなってしまう!
「アシェラ、昨日はごめんな。3年ぶりだと思うと我慢が出来なかったんだ」
「ううん、大丈夫。これでサナリスみたいな赤ちゃんが出来るかもしれない。ボクは今 凄く幸せ」
「そうか。ありがとな。愛してるよ、アシェラ」
「うん……ボクも」
そう言ってお腹を撫でるアシェラを尻目に、軽くシャワーを浴びてからオレは1人で食堂へと向かった。
食堂には既に朝食が並べられ、オリビアとライラはオレが来るのを待っていてくれたらしく、まだ手は付けられていない。
オリビアから小言の1つでも言われるかとも思ったが、何も言う気配が無いのは何故なのか。
こうなると逆に不安になってくる……もしかして昨晩はウルサクし過ぎて怒ってらっしゃるのでしょうか?
そんな思いでオリビアを見つめると、悪戯っぽく笑いながら逆に見つめられてしまった。
「ふふ、アルド。今日は私の番ですからね……どんな夜になるのでしょう? とっても楽しみです」
や、止めてください。そんな事を流し目で言われたら、パオーンがパオパオーンになってしまうじゃないですか!
「お、オレも楽しみだよ、オリビア。出来ればお手柔らかにお願いします……」
そう返すとオリビアは小さく笑い、嬉しそうに朝食の白パンを頬張り始めた。
どうやらアシェラを待つ事はしないらしい。確かに事後の後始末を待たれるとか、かえって意地が悪いと言うものだ。
改めてオレはオリビアの挑発するような流し目に、心の中でバンザイして降参するしか出来なかった。
そんなしてやられた空気の中でふとライラを見ると、オレの横にくっつきながら小動物のように白パンを頬張っている。
ライラは見られている事に気付くと、恥ずかしそうに頬を染めて食べるのを止めてしまった。
「ごめん、ライラ。そんなつもりじゃなかったんだ。皆オレがいない間も仲良くやっててくれたんだと思うと嬉しくて……な」
それからは何時の間にか降りてきたアシェラも交ざり、楽しく会話をしながら朝食を摂っていった。
本来 この状況はオレの取り合いになってもおかしく無い状況なのだ。元々アシェラの許しがあったからとは言え、人の気持ちは変わっていく。
きっと3人は少しずつ我慢をしているのだろう。オレはそれを絶対に忘れちゃいけない。
改めて3人への愛情を均等に注ぐ事と、それぞれに配慮をする事を誓ったのだった。
朝食を終え、昨日話したボーグの店へ行くために嫁達はお着換え中だ。
ここで『遅い』と言えば、高確率で機嫌が悪くなるのは火を見るよりも明らかである。
であればオレの役目は修行僧のように、ただジッと待つのみだ。
平民の服を着てドラゴンアーマーの入った箱を持ち、庭でひたすら待ち続ける……途中 暇すぎて、エルと魔力共鳴をした成果を確かめるために、単一分子の魔力武器を出して修行していたのは秘密である。
「おまたせ、アルド」「お待たせしました、アルド。どうですか?」「アルド君、お待たせ」
3人は春らしく少し軽い感じの出で立ちで現れた。
「3人共 凄く似合ってる。惚れ直したよ」
オレの言葉に3人は嬉しそうに笑って抱き着いてくる。
「おい。人に見られるぞ」
「ボクは気にしない」「見せつけてやれば良いですよ。私達は夫婦なんですから」「私はアルド君以外どうでも良い」
嫁達がカワイイ!オレ、こんなに幸せで、もしかして今日ぐらいに死ぬんじゃないですかね?
そんなバカな事を考えていると、領主館から出ていくルイスの姿が見えた。
嫁達に断りを入れてルイスの下へと向かって行く。
「おーい、ルイス。どこに行くんだ?」
「ん? アルドか。冒険者ギルドでドライアディーネの情報が無いか聞きに行こうと思ってな」
「あ、そうか。リーザス師匠はまだドライアディーネにいるんだったよな」
「ああ。半年遅れと考えると、まだ国境まではだいぶあるはずだ」
リーザス師匠の配慮のお陰でオレはこんなにも幸せを感じているのに……絶対に無事で帰ってきてほしい。
そんな事を考えているとルイスが話しかけてくる。
「お前は……嫁さん達とデートか?」
「あー、ドラゴンアーマーをボーグに出しに行く。3年でだいぶガタがきてるからな」
「は? ボーグのオッサンはブルーリングにいるのか? 王都じゃなくて?」
「あ、お前は知らなかったのか。王都の店は畳んで今はブルーリングで店を出してるぞ」
「マジか!ちょっと待ってろ、直ぐに戻る!」
そう言ってルイスは領主館へ走っていった。
かなり急いだのだろう、5分ほどでルイスは戻り、オレと同じように木箱を持っている。
「オレのワイバーンレザーアーマーも修理に出したかったんだよ。店の場所が分からねぇからな。連れてってくれ」
ボーグの店に向かう途中 ルイスはオリビアから「夫婦の邪魔をするな」とお叱りを受けていたが、オリビアも本気で言っているわけでも無く、最終的には仲良く一緒にお出かけとなったのだった。
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