第202話同盟 part3
202.同盟 part3
わざと見つかる為にも
宰相に種族の始祖と精霊についての講義を聞いてから、丁重にその場をお暇させてもらった。
ドライアドが来るとか勝手にアオが言ってたが、爺さんに話しを通さないと流石にマズイ。
オレは爺さんの執務室へと急いで向かった。
「アルドです。よろしいですか?」
「入れ……」
爺さんの声が段々と疲れていってる気がするのは、気のせいじゃないだろう。
執務室にはエルとセーリエもおり、宰相との話を伝える。
「………と言う事でアオと宰相が話を進めてしまいました。毎年、夏の数日間ですがドライアドが来る事になりそうです」
エルとセーリエは呆然とし、爺さんは疲れた顔で天井を眺めていた。
そんな空気からも1~2分で復活し、爺さんは目元を揉みながら話始める。
「精霊様がエルフの国の宰相と話して決めたのだな?」
「はい。僕がアオを呼んだらトントン拍子に決まってしまい……」
「それはエルフの精霊様だけなんだな?」
「その筈です」
「因みにブルーリングじゃないと、ダメなのか?」
「アオの話では領域内じゃないと、マナの流れが壊れるとか何とか……」
「そうか……」
「はい……」
何とも言えない空気が流れる。
「……まぁ、これでエルフの秘密どうこう関係無く“同盟”は結ばれるだろうな」
「そうでしょうね……むしろ同盟を結ばないと、この地を奪いに攻め込まれそうな気がしますよ」
「そこまでか?」
「はい、その時は流石にコンデンスレイで焼き払いますがね………すみません、冗談です」
「……」
「少し疲れてしまいました……エルフに悪意がある訳では無いのですが、ほんの少し僕達と価値観が違うようで……」
「そうだな。あの信仰心はワシ達には無い物だな」
爺さんに可哀想な眼で見られてしまった。
その眼は将来、新しい種族からの信仰の対象になる事への憐れみなんでしょうか?
「では同盟を結ぶ件は、お爺様にお任せしてよろしいでしょうか?」
「……領主の立場としてはワシだが、エルフはお前達でなくとも納得するのか?」
「エルフ達にとってアオが出てきた時点でそんな事は、どうでも良くなってると思いますよ」
「……そうか」
申し訳無いがここから先の処理は爺さんに任せるつもりだ。
当主の爺さんを、あまり蔑ろにするのはオレ達にとっても良くない。
オレ達にだけ話を通せば良い、と思われては色々とマズイからだ。
ここは面倒だと思うが爺さんにエルフと同盟の密約を、しっかりと締結してもらおうと思う。
結局、エルフの秘密は分からず仕舞いだったが、今さら掘り返してエルフの秘密を調べる度胸はオレ達には無かった。
爺さん、エルとも話したが10年か15年誤魔化せば、こちらの弱みは無くなるのだ。
最悪は何かあってもアオに頼みこんで、ドライドの滞在日数をもう2~3日増やして貰えば、誤魔化されてくれるんじゃないかと思っている。
これが2日前の事だ。今日までの2日間で宰相と爺さんの協議の結果、ドライアドが来るのは7/1~7/3の3日間。人数はオレが前に5人と言ったが、爺さんの方がチカラがあると見せるために、7人まで増える事となった。
ブルーリング側としては、来年の夏までの間に人目から隠せる場所を用意しなければいけない。
ブルーリングでエルフと精霊が会っているなどと噂されようものなら、残りの3種族が大挙してやって来る事になるだろう。
1年の時間があるので何とか出来るとは思うが、エルフの逗留場所も考えてしっかり決めないといけない。
場所は戻ってファリステアの送別会---------------------
ファリステアはDクラスの1人1人に声をかけ、2年間のお礼を告げている。
両親はファリステアの姿を愛おしそうに見て、この2年間が辛いだけの物では無かった事に心から嬉しそうにしていた。
送別会もそろそろ終わる、という頃合い、珍しい事にユーリがオレへと話しかけてきたのだ。
「アルド、色々と世話になったな。最初にお前がお嬢様と引き合わせてくれなければ、きっと私は屋敷に忍び込んで掴っていただろう」
「何だ?らしくないぞ、お前はギャーギャー文句を言ってる方が良い」
「……それに攫われた時の事もだ……私はまともに礼も言っていなかった……」
「……」
「エルフの国へ帰れば、恐らく2度と会う事は無いだろう……アルド、2年間、本当に世話になった。私はこの恩を生涯忘れない事を誓う……本当にありがとう」
ユーリはエルフ式の礼で頭を下げる。
「気にするな。どっちも運が良かっただけだよ」
オレの言葉にユーリは少し呆れた風を見せ、小さく笑っていた。
ユーリと別れの挨拶が終わると、ファリステアがこちらに歩いてくる。
「アルド、コノ2年間、本当ニアリガトウ。アナタガイナカッタラ、私ハキット死ンデイマシタ。アナタハ私ノ命ノ恩人デス……」
「ユーリにも言ったが、気にするな」
最初に会ってから2年以上になる……エルフ語を習う切っ掛けになったのは間違い無くファリステアだ。
当初は打算もあって助けたが、今となってはファリステアを助けて本当に良かったと思っている。
“情けは人の為ならず”とは正に、こういう事なのだろう。
オレが出会った頃の事を思い出し感傷に浸っていると、眼が合ったファリステアは急に俯きだし、小さく震えだしている。
「どうした?大丈夫か?」
『す…き……』
「は?」
『好き……』
「……」
『私は……アルドの……ハチミツレモンとシャーベットが大好きでした……アレが食べられなくなるのなら、エルフと人族はずっと喧嘩してれば良いのに……』
ファリステアはそれだけ言うと、踵を返して両親の元へと歩いていってしまう。
オレは突然の事に呆けていると、隣からアンナ先生が話しかけてきた。
「アルド君……ファリステアさんの胃袋を完全に掴んでたのね……」
「……」
この中でエルフ語を話せるのはアンナ先生とオレだけの筈だ。
ファリステアは途中からエルフ語で話していたので、周りには意味が伝わっていない……と思ったのだが女性陣の眼は冷ややかである。
「アルド君、きっと皆、絶対に誤解してると思うわ……」
「……そうですね」
オレはガックリと肩を落とすしか出来なかった。
今はファリステアと両親が馬車に乗り込み、馬車が動き出す所である。
馬車の窓を開けファリステアが皆を見回して、ゆっくりと話し出した。
「皆サン、本当ニアリガトウゴザイマシタ。エルフノ国ニ来ル事ガアッタラ是非、訪ネテ下サイ」
「ファリステア、寂しくなるな」「オレはお前を絶対に忘れないぞ」「ファリス、またね」「ファリス、お元気で」「ファリステアさん、アナタのお陰で素敵な体験が出来ました」「ファリス、ありがとう」
「ファリス姉様、お元気で」「ファリステア、ありがとな」
ファリステアに様々な声がかけられる中、馬車はゆっくりと動き出す。
色々な思いが駆け巡っているのだろう。ファリステアの眼からは大粒の涙がポロポロと零れだした。
馬車から身を乗り出して手を振る姿に、オレ達も全身を使って手を振り返す。
しかし徐々に馬車が小さくなっていく……手を振る事を1人止め、2人止め……最後のネロが手を振り終えた時には馬車は微かに見えるだけであった。
ファリステアが旅立ち、Dクラスも全員が帰路についた後、アンナ先生が大きく伸びをしている。
「じゃあ、私も行きますね」
いきなりの言葉にオレ達は驚いてアンナ先生を見た。
「そんな驚かないでください。元々、ファリステアさんの通訳として私はいたんですよ。本当はファリステアさんが、人族語を話せるようになった時点で出て行かないといけなかったんですが、甘えてしまいました」
そうだ。確かにアンナ先生はファリステアの通訳としてブルーリング邸に来て貰っていたのだ。
「アンナ先生はどこに行くんですか?」
「学園の寮に帰ります。ちゃんと部屋はありますから、心配しないでください」
「そうですか……」
「正直、ここのトイレとお風呂、アルド君の料理が食べられないのは寂しいですが、しょうがありません」
「……寂しくなりますね」
「そうですね……でも、その気持ちを忘れないでください。出会いと別れの喜びと悲しみがアナタの心を強くするはずですから……」
「……はい、ありがとうございます……先生」
そう答えた時のアンナ先生の笑顔は教え子の成長を喜ぶ“先生”の笑顔だった。
ファリステアが去り、ユーリも同様だ。役目は終わったとばかりにアンナ先生も去っていった。
オレは自分の部屋で一人窓から外を眺めている……
日本での頃はここまで出会いと別れに心を揺さぶられただろうか……
きっと張り巡らされた交通網、その気になればいつでも取れる連絡……そうした物があの別れの感覚を鈍くしていたのだろう。
日本でも“またな”そう言って別れた後に連絡を取った者はどれだけいたか……あの時に別れた同級生は正しく今生の別れであったのに……
別れを正しく認識できないのは幸福なのか不幸なのか……
今回の別れは正しく痛みを感じられたと思う。ファリステアやアンナ先生、ユーリサイスがどうこうと言う事では無く、これからのオレの人生で人とかかわる時に生かされてくるのだろう。
最近ではこんな気分の時には、屋根の上で空を見るのが日課だ。
オレが空間蹴りで屋根の上に出るとエル、マール、アシェラ、の先客がいた。
「お前らもかよ……」
オレの言葉に3人は呆れた顔を浮かべた。
「兄さま……」
「ん?どうした?」
「ファリステア、ユーリ、アンナ先生……いきなりいなくなって、なんだか心に穴が開いたような気がします……」
「そうだな……でもなエル。昼間にアンナ先生が言ってたが……その別れの辛さと出会いの喜びがお前の心を強くするらしいぞ……」
「心を強く……」
「ああ、オレと違って貴族……独立してからは王族か……目指すならお前は人より何倍も心を強くしないといけない。それこそ別れで心を乱す事が無いほどに、だ」
「……」
「オレには無理そうだ……悪いがエル。任せても良いか?」
「……僕に出来るか分かりませんが」
「どうしても無理そうなら2人で逃げ出して辺境で小さな村でも作ろう。子孫には出来損ないの始祖と言われるだろうが、しょうがないだろう?」
「フフ。そうですね。逆に親しみを持って貰えるかもしれませんね」
「ああ、そもそもいきなり始祖だとか使徒だとか意味が分からん。オレはオレの生きたいように生きる。エルも遠慮なんか絶対にするなよ」
「分かりました」
オレ達の会話をアシェラとマールが呆れたように見ていたのだった。
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