第201話同盟 part2

201.同盟 part2





オレは村長の部屋を出ると真っ直ぐに執務室へと向かった。


「アルドです。至急、お話したい事があります」


少々、乱暴にノックをし扉越しに声をかけると直ぐに爺さんからの返事が聞こえる。


「入れ」


部屋には爺さんとセーリエが工事の件を調整しているようだった。


「お爺様、村長と話しをしてきましたが問題がありました」

「何だ?」


「エルフは僕達に重大な秘密を知られたと思っています。お互いの秘密を守るために同盟を申し出てきたようです」

「エルフの秘密だと?」


「はい、因みに僕は何も知りません……」

「知らない……セーリエ、エルファスを呼んでくれ。もう1人の使徒であるエルファスなら何か知っているかもしれん」


「そうか……サンドラでは別行動をしていたんでした。もしかしてエルの方のパーティなら何か知っているかも知れないのか……」

「そう言えば、そう聞いていたな」


爺さんと話しているとノックの音が響きエルが入ってくる。


「お呼びと聞いて、参りました」


オレは爺さんに説明したように、エルフはオレ達が何か秘密を知っていると思い込んで、同盟を申し込んできた事を説明した。


「……って事だ。エルの方で何か秘密を知るような事はあったか?」

「秘密ですか……僕はそれらしい事は特には何も……」


やっぱりエルも知らないか……こうなると本格的にマズイ気がしてきた。

エルフの秘密……どうしよう……


オレが爺さんを見ると、そっと眼を逸らされてしまった。

おいいぃぃぃぃ!オレに押し付ける気だろ、ジジイ!!


「お、お爺様、本当にどうしましょう」

「……精霊様なら何か知ってるのでは無いか?」


「アオですか……確かに何か知ってるかもしれませんね。直ぐに呼んで見ます」


オレはそう言うと直ぐにアオを呼びだした。


「アルド、どうしたんだい?」

「アオ、エルフの秘密って何か知ってるか?」


「エルフの秘密?何の事だい。それは」

「エルフが種族全体で秘密にしてる事らしいんだ」


「エルフが種族全体で……うーん、あれかな?」

「「「どれ?!!」」」


オレ、エル、爺さんが物凄い勢いで食いつく。


「な、何だよ。ビックリするだろ……ほら、もっと離れろよ。もっと……」


オレ達はアオからゆっくりと離れていった。


「で、エルフの秘密って?」

「僕が知ってるエルフの秘密は種族の特性だよ。“エルフの魔力総量は全種族で一番高い”んだ。その代わり“身体強化の適正は一番低い”んだよ」


「そうなのか?」

「ああ、今はドライアドが教えた秘薬に執着してるみたいだけど、本来は魔法技術に優れた種族なんだ」


「なるほど。で、それがエルフの秘密なのか?」

「ん?僕が知ってる秘密はこれぐらいだよ」


「そうか……」

「何だよ、その眼は。何を期待していたのか知らないけど、エルフの秘密を聞かれたから教えたのに。もういいよ。僕は帰らせてもらう」


アオは不貞腐れて消えてしまった。流石に今の扱いは酷かったかもしれない。

精霊が食べるかどうか知らないが今度、果物でも差し入れしてやろう。


「って事でアオからの情報で“エルフは全種族中、一番魔力量が多い”事と“身体強化の適正が一番低い”事が秘密みたいです……」


エルと爺さんの眼が露骨に疑っている。

しょうがない……もう一回、村長の所に行ってカマをかけてみるか……


「すみません。アルドですが……もう一度、お話をさせてもらえませんか?」

「御使い様。きた……ささ、どうぞ中へ」


アナタ、この部屋をどうしても“汚い”って言いたいみたいですね。


「村長、さっきのエルフの秘密の件なんですが……」

「はい。何かありましたか?」


「一応、まあ、アオにもエルフの事を色々と聞いてみたんです……」

「何と!精霊様にエルフの事を聞いてもらえたのですか!な、なんと仰っておられましたか?」


「え、エルフは……」

「エルフは……」


「ぜ、全種族中……」

「全種族中……」


「一番、魔力総量が多い……」

「!!一番、魔力総量が多い……それは誠ですか?」


「え?あ、アオが言ってました……」

「そうですか。精霊様がそうでおっしゃるのであれば本当の事なんでしょう!そうですか、エルフは一番 魔力総量が多いのですか……」


あれ?エルフの秘密って……これ、エルフ“も”知らない秘密なんじゃ……


「御使い様、少し待っていてください。直ぐに宰相を呼んできます。いやー、凄い事ですよ、これは……」


あれー、これ絶対違うヤツじゃね?

直ぐに嬉しそうな村長と驚いた顔の宰相がやってきた。


「アルド様、何でも精霊様にエルフの秘密を聞いて頂けたとか……」

「えぇ……折角なので……」


「他には何かおっしゃられていたんでしょうか?」

「あー、そうですね“身体強化の適正は全種族で一番低い”と……」


「……なるほど。これはエルフの教育方針を考え直す必要がありますね」

「そうですか……」


「で、他には……」

「あー、ドライアドから教えて貰った秘薬に執着しているが……本来は魔法技術に優れた種族だと……」


ドライアドを呼び捨てにした所で、すげー睨まれてしまった。


「いや、オレが言った訳じゃないんです。アオが言ったんです……」

「……」


「アオを呼びます!」


オレは宰相からのプレッシャーに耐え兼ね、再びアオを呼び出す。


「何だよ、まだ文句があるのかい?本当にアルドは……」

「アオ、さっきは悪かった。すまない」


「まぁ、謝るのなら僕もそこまで言うつもりは無いけど……」

「こちらのエルフの方に、さっきの件を教えてあげてくれないか?」


「さっきの件ってエルフの適正の話かい?」

「ああ、そうだ」


「まあ、良いけどね。ドライアドの系譜だけあってエルフは魔法技術に優れた種族なんだ。今はドライアドから伝わった技術としての秘薬が盛んみたいだけど、本来のドライアドの祝福である魔法技術を磨くのが良いと思うよ」


お前、オレに教える時はもっと適当じゃねぇか!

オレに話す時もそれぐらい丁寧に話してほしいんですけど?


「「おお……5番目の精霊様……ありがとうございます……」」


アナタ達も言い方が違うだけで、オレがさっき言った事と内容は一緒なんですが?

ハァ……何か疲れてきたなぁ。もう、なんか適当で良い気がしてきたぞ。


村長と宰相がヒソヒソと話している。


「せ、精霊様、お聞きしたい事があります」

「ん?何だい?」


「ここにいる村長が以前に、精霊様がドライアド様へ伝言を届けて頂けると、聞いたのですが……」

「ああ、そんな約束をしたね。まだドライアドに会って無いけど、「感謝している」って伝えればいいんでしょ?」


「おお、ありがとうございます……」

「そこまで嬉しいなら、僕の領域でなら今度ドライアドを連れて来てあげるよ。マナの流れが壊れるから領域の中であるブルーリング内だけになるけどね」」


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………我らエルフ、6番目の種族と友誼を結ぶ事を誓います」

「そうかい、頼むよ。そこにいるアルドは頼りなくてね」


何かアナタ達、凄く嚙み合ってますね。伝承が伝わってればこんな感じで話が進んでいたのだろうか?

その場合、オレがアオにひれ伏す事になるんだろうが……





暫く宰相とアオが話をして毎年、夏に数日間だけドライアドをブルーリングに招く事になった。

どうやらドライアドは植物の精霊らしく、植物が一番活性化する夏が良いらしい。


放っておくとエルフが大挙して訪れそうだったので、受け入れるエルフの人数は5人と制限させてもらった。

宰相は血の涙を流さんばかりに悔しがっていたが、独立した暁には人数を増やしても良いと言うと、取り敢えずは納得してくれたようだ。


アオが帰ると、村長と宰相は「ここブルーリングがエルフにとっての聖地になる」と不穏な事を言っているが、前の世界のエルサレムみたいな事になるのだけはごめんこうむりたい。


「この地は新しい種族の国が出来るんです。土地を奪おうなどとは考えないでくださいね……」


自分達の発言がかなり危険な事に気が付き、村長と宰相はしきりに謝罪を繰り返している。

オレとしては余計な争いが無ければそれで充分なので、追及はせずに謝罪を受け入れる事にした。


「御使い様、本当に申し訳ありませんでした」

「アルド様、申し訳ありません」

「いえ、他意が無いのは分かりますので。しかし、エルフの方は精霊が大好きなのですね……」


オレの言葉に村長と宰相がお互いの顔を見合わせ、微妙な顔をしている。

また何か余計な事を言ってしまったのだろうか……


「アルド様、人族には別の信仰があるとは聞いていますが、我々エルフの信仰は最初の使徒である始祖様とドライアド様に向いています。しかし、既に始祖様は眠られていますので、実際にはドライアド様へと向けられているのです」


エルフの信仰は最初の精霊であるドライアドに向いているらしい……だから“様”を付けなかったオレに怒ったのか……


「そうだったのですか、知らない事とは言え申し訳ありませんでした」

「いえ、その意味で言えば6番目の種族の信仰はアルド様とアオ様……それと、もう1人の御使い様の3名に向く事になるのでしょう」


「オレに信仰とか……」

「差し出がましいとは思いますが1つだけ……新しい種族が生まれる時は苦難がある物です。我らエルフの伝承にもありますが、難題が幾つも降りかかり先祖は苦難の連続だったそうです。そんな苦難の時に“種族”として結束するには、どうしても信仰が必要となります。そして、その対象は自然と始祖様と精霊様に向けられるのです。これは、どの種族も同じ事、国の名にも表れています。我らエルフはドライアド様からドライアディーネ、ドワーフは精霊様の分身として原初の炎ゲヘナフレア、獣人族は精霊様の名からグレートフェンリル、魔族は始祖様の名からティリシア、と」


「マジか……」

「アルド様方は始祖様が2人と初めての事ですので、どうなるか分かりませんが、6番目の種族も同じように始祖様方と精霊様へ信仰を捧げるはずです」


「……」

「……」


「ハァ、分かりました」

「余計な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」


「いえ、使徒や精霊の立場がどういった物なのかが分かって助かりました。このままだと知らずに失礼な事を言っていたと思います」


宰相は最初にした右手で輪を作るエルフ式の礼で、頭を下げて答えていた。






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