第18話9歳 part2

18.9歳 part2





オレ達は目的の場所に到着した。

そこは現代日本の様に商品が陳列されているわけではないが、10人いれば10人が商店と答えるだろう。


店には店番はいないが奥から人の気配はする。丁度、人が出払っているタイミングで来てしまったようだ。


「すみませーーん」


奥にいるだろう人に聞こえる様に大声を出す。


「はーーーい」


遠くで男の声が聞こえ、足音が近づいてくる。

男が店に顔を出すと人の多さに驚き、一通り見回した後でオレを見つけると更に驚いていた。


「アルド様!どうしてここに!」

「すまない、タブ。頼みがある」


いきなりで悪いとは思ったが、今日 起こった事の全てをタブに細かく話して聞かせた。

タブは身動きせずに話を聞いてくれているが、表情はかなり厳しい。きっとオレのお願いに想像がつくのだろう。


一通りの話を終え、いよいよ無理なお願いをする事になる。


「タブ、リバーシの利益でオレの取り分は幾らになる?」

「……」


無言でお互いの顔を見つめ合う。


「……」

「申し訳ありません。執事のローランド様に利益の30%はお支払いしてあります。アルド様個人に支払う予定はありません……」


「……」

「……」


「……」

「……」


タブは正当な商売をしている。情に訴え無理を言ってるのはオレの方だ。


「そうか、無理を言ったな……」

「いえ、こちらこそ……申し訳……ありません」


万策尽きたと席を立とうとした時、いきなりアシェラが前に出てきた。


「ボクは許していない」

「アシェラ?」


「この人、誕生日の時の人だよね?」

「ああ……」


「ボクは、あの時の事を許していない……」

「おまえ、何を……」


「アルドに助けて貰ったくせに……自分の子供は助けて貰ったくせに!他人の子供は知らん顔。そんなヤツをボクは絶対に許さない!!」

「アシェラ……」


この場の空気が変わったのを感じる。


「……タブ、金を貸して欲しい」

「アルド様……」


「教会を孤児院にして5人……いや10人が毎月食べられる金を、出して欲しい」

「……」


「ただとは言わない。オレとエルが保証人だ」

「……」


「どちらかが将来の領主だ。これ以上の保証人は無いぞ」

「……」


「……」

「アルド様、参りました」


タブは両手を上げて、降参のポーズを取った。


「毎月ローランド様へお支払いしている金額の10%を教会にお支払いしましょう。その代わりにローランド様への根回しはお願いします」

「タブ!」


「急いでらっしゃるのですよね?これから急場の食料と衣類を持って教会へ向かいましょう」

「出来るのか?」


「お任せください。それではすぐに支度をして参ります」

「助かる。これはオマエへの借りだな」


オレの言葉を聞いてタブはアシェラの方を見た。


「私も借りがあったのでした。とても大きな借りが……そこのお嬢さんに言われるまで忘れていたようです……恩知らずにならずに済みました。お嬢さんありがとう」

「借りは返す、当たり前の事」


「そうですね……その通りです!」


そう言ってタブは準備に向かった。




そこからのタブは凄かった。食料や衣類、毛布、簡単な薬、を1時間程で集めてしまう。


「ではアルド様、向かいましょうか」

「ああ、場所は分かるか?」


「大体は。近くになったら道案内をお願いします」

「分かった」


タブの店の従業員が2人とタブ、マールの計4人が馬車で荷物を運ぶ。

道程は順調で問題なく教会に到着した。


「皆はここで待っててくれ」

「ダメだ、オレも一緒に行かせてもらう」


「分かった……」


ガルとオレは一緒に教会の中へと入っていく。


「ごめんください」


返事がない。


「誰かいませんか?」


返事がない……ただの屍のy……げふんげふん

どうしたものか、と考えていると物音がして扉が開いた。


「はい、何か御用でしょうか?」


先程、ベッドに臥せっていたシスターだ。


「突然すみません。少しお話をよろしいでしょうか?」


9歳で身なりの良いオレがいきなり現れて、話をしたいと言う……眼に見えてシスターは狼狽していた。


「分かりました……中へどうぞ」


狼狽しながらも、シスターは中へとオレ達を通してくれる。

するとローブを着た子供が、目の前に現れオレに叫ぶ。


「オマエ!さっきのヤツだな!アポの実なんかもう無いぞ!さっさと帰れ!!」


子供の様子とオレの様子を見てシスターはオレが仕返しに来たと思ったようだ。


「アポの実をこの子に盗まれた方でしたか。本当に申し訳ありませんでした」

「いえ……オレは別に……」


「私がこの子達の責任者です。代わりに私が罰を受けます」

「違うんです。オレはあなた達に救われてほしくて」


うまく言葉が出てこず、説明が出来ない……


「あー、少しいいか?」

「ガル……」


「シスター聞いてくれ。こいつは別にアンタ達をどうこうしようと思ってない。それどころか食料と衣類を提供しようとしている」

「食料ですか?」


「ああ、外の馬車に積んである。続きをいいか?こいつは身分のある方の子息でな。とびっきりの甘ちゃんだ。そんな甘ちゃんがアンタ達に施しをしようと言ってるんだ」

「施しですか……」


「ああ、後はアンタ達が施しを受けるかどうかだ。申し訳ないが、即答してくれると助かる」

「ほ、本当に施して頂けるなら、これ以上の事はないのですが……子供達、特にさっきの子ヤマトに何もしないで頂けるのでしょうか?」


「それは騎士のオレが保証する。子供達には一切の危害を加えない」

「そうであれば……よろしくお願いします」


「よし、決まったぞ。アル坊」

「ありがとう、ガル。助かった」


一度、ガルと一緒に馬車まで戻り、今話した事を説明をする。


「ではとり急ぎ、簡単な料理を作る事にします」

「僕も手伝います」


マールとエルは料理を作ってくれるようだ。


「タライあったよね?」

「あったはずだ」


「じゃあ、ボクはお湯を作って子供達を洗う」

「わかった。頼むよ。アシェラ」


アシェラは唯一の魔法使いだ。魔法でお湯を作り子供達を洗ってくれるらしい。


「では私達は荷物を中に運びこんで、掃除や建物の応急処置を致します」

「頼んだ、タブ」


タブと従業員の2人が歩いていく。

ベレットとガルは作業はしない。オレ、エル、アシェラを見張れる場所で護衛に徹する。


今回の事で思い知った。結局、オレはまだまだガキなんだと。

身体強化もできる。短剣も習い始めた。だけど、それだけだ。


戦闘能力が少し高いだけのガキだ。

子供1人助けるのに何人の助けを借りたの…か…


みんなが忙しく動き回る中で、そんな事を考えていた。

オレの様子が気になったのか、ガルが隣にやってきて話しかけてくる。


「どうした、アル坊」

「いや、結局オレは何も出来なかったなぁって、皆の助けが無ければ何も出来なかった」


「当たり前だろ……9歳のガキが何言ってやがる。生意気なんだよ」

「当たり前か……」


「ああ、当たり前だ。1人で出来る事なんてそんなに多くねぇ。でも、これだけの人間を動かしたのはオマエだろ。もっと胸を張れ」

「そっか……そうだよな。ありがとう、ガル」


ガルは無言で片手を上げて、また護衛に戻っていく。




そろそろ日が暮れる時間----------




「本当にありがとうございました」

「みんなのお陰です。オレは何もしていない」


シスターがオレにお礼を言うが、オレのチカラなんてたかがしれている。


「皆さんも本当にありがとうございました。これで子供達も飢えなくて済みます」


安心したのだろう。シスターの眼に光る物が見えた。


「じゃあ後は任せた、タブ。定期的に詳細を教えてくれ」

「かしこまりました」


敢えてオレの名前は言わずにタブが返してくる。


「じゃあ、帰ろうか」


オレがそう言うと1人の子供が前に出てきた。先程と違って綺麗になったヤマトだ。


「おい!アポの実わるかったな……ありがとう……」


小さな声で呟いて、すぐに逃げてしまった。


(デレるの早かったな。ツンデレやまと)


オレは笑いながら帰路につく。



帰りの道中、エルとマールの距離が近い……マールはオレ達と同じ9歳で金髪にちょっと眼がキツイ美人さんだ。

同年代の女の子はアシェラとしか話した事がないからなのか、エルの方から積極的に話しかけている。


その様子をオレ達は興味深そうに、タブは心配そうに見ていた。

タブ達との別れ道に差し掛かり、今日の無理を言ったお礼を伝える。


「タブ、今日は本当にありがとう」

「いえ、私は借りをお返ししたまでです」


「それでもだ。ありがとう」

「また何か困った事があれば、何時でもお声を掛けてください」


タブには感謝してもしたりない。今回はオレが世話になったが、アイツが困ったらオレがチカラになってやろうと思う。

気分良くのんびり歩いていると、直に屋敷へ辿り着いた。


「ガル、ベレット、休みに連れ回して済まなかった。今日は本当に助かった、ありがとう」

「ガル、ベレット、ありがとう」

「ありがとう。とっても助かった」


屋敷の前でガルとベレットに今日の護衛のお礼を伝える。


「あーなんだ。また護衛してやっても良いぞ……」


昼間の事を気にしていたのか、ガルがこんな事を言いだした。


「オマエもデレるのか。また護衛を頼むよ。できれば護衛はガルとベレットが良い」

「でれ? ま、いっか。 おう、護衛してやるよ」


その言葉にベレットも笑っている。


「フフ。私も今日の護衛は楽しかったです。またよろしくお願いします」


屋敷へ戻り今日の出来事を話さなければ。父さんとローランドにリバーシの利益の10%を教会に払う事も言わなければいけない。


「「「ただいま」」」

「おかえり3人共」


オレ達3人を母さんが迎えてくれた。

直ぐに夕食という事だったので食堂へ向かう。


父さんはすでに食堂でオレ達を待っていた。


「おかえり3人共、楽しかったかい?」

「はい、父さま。とても楽しかったです」

「はい。今日はありがとうございました。ヨシュア様」


エルとアシェラは父さんの質問に楽しそうに返した。

オレの様子を見た父さんは“また何かあったのか”と微妙な顔をしている。


「ハァ……アル、何があったんだい?」

「実はお願いがあります」


「僕は何を言われるのか、怖くてしょうがないよ……言ってみて」

「はい、実は………」


オレは今日あった事を隠さずに全て話した。途中でオレが思った事、感じた事も全て隠さずにだ。

父さんは、オレの話を何も言わずにじっと聞いてくれている。


「………というわけで、リバーシの利益の10%を教会に寄付したいのです」

「なるほど、話は分かった。確かにリバーシはアルが考えた物だ。利益に関して差配する権利もあるだろう」


「じゃあ!」

「ただし、それは9歳の子供のやる事じゃあない。ある意味、僕や父さんに対する越権行為でもある」


「越権だなんて、そんなつもりは……」

「そんなつもりは無かったかい?アル、今回は領内の事だ。家族で話せば話は終わる。ただし他領ではそうはいかない。最悪は争いになる」


父さんはさらに語る。


「アル、君はチカラが有り過ぎる。普通の人は思っても実行に移すチカラが無いんだ。領主の子供であってもそれは同じ。領主になって初めて出来る事を君はやってしまった。君が弱い者を助けるやさしい人間だというのは親としてとても嬉しい。ただし、チカラを持っている事を自覚して謙虚な姿勢で物事に対して欲しい」

「分かりました。すみませんでした。父様」


「それと動く前に相談してくれると、もっと嬉しいかな」

「はい、もっと父さんに甘えるようにします!」


「うっ、、ほどほどに頼むよ……」


なんとか許してもらえたようだ。


「ローランド、今の話を聞いてたと思う。教会の件よろしく頼むよ」

「かしこまりました。ヨシュア様」


今回はなんとか丸く収まったようだ。


しかし、いつか誰かを見捨てる日が来るんだろうなぁっとボンヤリとその日を思っていた。




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