第177話エルフの郷防衛 part3

177.エルフの郷防衛 part3





4人で夕飯を食べ終わった。

食事は想像していた通り、木の実や大豆っぽい物に肉が少々付いているだけの質素な物だ。


味は全体的に薄味で、あまりオレの好みではない。

しかし、なけなしの食料を振る舞ってくれたのだ。感謝して有り難く頂いた。



食事が終わった次は、村長と少しばかり腹を割って話がしたい。

オレ達の部屋の前に立っている見張り……じゃない、護衛に村長へのアポ取りをお願いした。


護衛は20代に見えるのだが、全体的な動きにバネが無いと言うか……年長者のような雰囲気で村長の元へ歩いていく。


「さっきの村長の話では年寄りと子供ばかりと言っていたが……見た目が若いだけで年寄りなのか?」


オレが独り言を呟くと、タメイが反応した。


「確かにッスね。ただ村長だけが見た目通りの年ってのが、どうにも腑に落ちないッスけどねぇ……」

「エルフ特有の何かがあるのかもな」


「……悪い癖ッス。斥候なんかやってると秘密が気になってしょうがねぇ。秘密なんか暴いても良い事なんかそんなに無いんッスけどねぇ」


そう言うタメイは酷く達観した表情で、そんな事を呟いている。


「エルフの秘密より今は生き抜く事だな。さっきの皆の役割と人族語の通訳の件を頼まないとな」

「そうッスね。生きて帰ったらアルド様が王都へ連れてってくれるッスからね。今から色街が楽しみだ」


タメイの言葉にベレットが露骨に眼を細めている……ガルに。


「お、オレは関係ないだろう。タメイが言ったんじゃねぇか」

「この前あった新人騎士の歓迎会の後、どこに行ってたの?部屋にいなかったよね?」


「そ、それは何度も話しただろう。新人騎士の部屋で朝まで飲んでたって……」

「……」


おうふ。ガルが尻に敷かれているぞ。ブルーリングの女は最高だが最強ってのは嘘じゃないらしい。


暫くすると村長にアポを取ってくれたようで、先程の護衛と一緒に村長の部屋へと向かう事になった。

ガルが小さく”助かった”と零したのは聞かなかった事にしておいてやる……武士の情けだ。


暫く歩くと村長の部屋へ到着した。


『村長。客人をお連れした』

『入って貰ってくれ』


村長の言葉を受け護衛がオレの方を向く。


『お客人、中へどうぞ』

『ありがとう』


「ガル、ベレット、タメイ、中へ入らせて貰おう」


そう声をかけ、村長の部屋へと入らせてもらった。


『どうされましたか?”王家の影”殿』


それからは先程、ガル達と話していた配置の件をエルフ語で伝えた。


『おお、それはありがたい。助かります』

『それで1つ問題があるんです』


『我々で出来る事であれば何でもさせて貰います』

『時間もありませんので単刀直入に話ますが、人族語の通訳を付けて欲しいのです』


『……』

『事、ここに至っては腹の探り合いをしている時間はありません。どうしても聞き届けて頂けない場合、我々は撤退も考えています』


「……ハァ。最初に全てのカードを出してくる。”王家の影”殿は交渉が上手いのかヘタなのか分かりませんな」

「……ありがとうございます」


「この件は一応は他言無用で願います。決まりで”信用に値する”となってから打ち明ける事になっているので」

「はい」


「では、お三方に通訳を付ければ宜しいか?」

「いえ、通訳はこの2人だけ、回復役のベレットと前線のガルにだけお願いします。こっちのタメイは遊撃で動きますので勝手にさせて貰います。建物の中を自由に動き回る事になるかと」


「そうですか……」

「全ての事が終わり次第、改めて謝罪をさせて頂きます。先に報告だけ……」


「分かりました……まずは明日の朝日を見る事が先決ですな……」

「はい」


こうして村長の元をお暇させてもらった。

これでエルフと最低限の連携は取れるはずだ。


本当はどれだけの戦力があるのか?個の戦闘力はどうか?建物の強度は?食料の備蓄は?独自の魔法体系と言われる秘薬は何がどれだけあるのか?聞きたい事は色々とあるが、通訳だけでこれだけ渋られるのだ。時間の無駄だと思われる。


「3人共、頑張って欲しいのは確かだが、一番は自分と仲間の命を考えてくれ。そこが最低条件だ。それが確保できないなら撤退も視野に入れる」

「分かった」

「はい」

「分かったッス」


窓の外を見ると夏ではあるが陽は沈み空がだいぶ暗くなってきていた。

外のマンティスを見ると徐々に一ヵ所に集まり出している。


「ああして夜明けを待つのか……主から解放されても、ああしてくれてると助かるんだけどな……」

「難しいだろうな。本来のマンティスは夜でも活動する」


「そうか……」

「ああ……」


ガルに現実を突き付けられ、暗い気分になった。

それと全く違う話だが1つ気になる事がある。


「そう言えばサンドラから乗って来た馬はどうなった?」

「アル坊の乗ってきた馬以外は3頭共、家の中にいるぜ。夕飯を貰いに行った時に、馬の背に積んである荷物を使って良いか聞かれたからな」


オレはタメイの方を向いて話しかけた。


「……タメイ、馬を外へ離してマンティスの気を引かせる事は出来るか?」

「馬の走り抜けられる道があれば可能ッスね……馬の方が足は早いはずッス」


「そうか。たぶん馬も時間稼ぎで使う事になると思う」

「しょうがないッスね」


タメイは馬の世話を率先してやるほどの馬好きだ。囮にして時間稼ぎをする事に良い気がするはずがない。

しかし今は使える物は全て使わせて貰う。


こうして少しでも生き残る確率を上げる努力をしていく。

この積み重ねが大きな物になると信じ、一つ一つを確実にこなしていった。




時間をかなり遡り、アルド達と別れたばかりのエルファス一行--------------




エルファス、アシェラ、ラフィーナはサンドラの街の西門を出て大蛇の森への道を進んでいた。


「母さま、作戦はどうしましょうか?」

「そうねぇ。本当はエルとアルに大蛇の森の外からコンデンスレイを撃ち込んでもらうのが一番早いんだけど。それをするとマナスポットが壊れちゃうらしいから」


「アオが以前、言ってましたね」

「ええ、迷宮と違ってマナスポットはポンポン壊して良い物じゃないみたいだし……主を倒すしか無いわね」


「問題は主を倒す前に証を先に手に入れないと、他の魔物が新たな主になりかねない事ですね」

「そうね。アオの話では主を倒すと、証だけ残る場合もあるらしいけど……」


「それも確実な話では無い……」

「まあね。エルにソナーを打って貰って証の場所を調べてもらうのが確実ね」


母さまと話して思ったのは”やはり僕がソナーを使い証を主から切り離す”。アシェラ姉と母さまにはその間の露払いをお願いしたい。

そのまま伝えるときっと反対されそうだ。


まずは2人にどうやって伝えるかを考えないと……

兄さまは、この2人を本当に上手く丸め込む……ゲフンゲフン、説得する。


兄さまならどうやって話すかを考えながら話しかけた。


「母さま、アシェラ姉、これから無茶を言います」

「なあに?」

「エルファス、何?」


「僕が主にソナーを使って証の位置を特定します。そして証を奪うまで他のマンティスを抑えてもらえませんか?」


2人はお互いの顔を見合わせている……しまった間違えたか?


「まあ、妥当な作戦ね」

「分かった」


合ってたらしい!良かった!

そこから更に詰めた話をしていく。


「エルは証を奪うのに超振動を使うつもりなの?」

「アオの話では何の能力に加護を割り振るかは個体次第らしいので、必要に応じて使おうかと思ってます」


「そうね。恐らくは時間がカギになるわ。出し惜しみは無しよ」

「はい」


母さまの言う通りだ。マンティスが寝静まってる中での夜襲と言っても、戦闘になれば当然のように起き出すはずだ。

如何に素早く証を奪い退却してエルフの郷で兄さまに合流するか……


証さえ奪えば主はチカラを失う。

後はゆっくりマンティスを掃除していき、全てが終わってからマナスポットを開放しても良いのだ。


問題はやはり、証を奪った瞬間に雑魚のマンティスが全て解放される事だろう。

こう考えるとゴブリン騒動の時は、ある意味キングが何体か生きていてくれて助かった。


あれだけの数のゴブリンが無秩序に動いたとしたら、周辺の被害は恐ろしい事になっていたはずだ。

今回、このサンドラの騒動に恐らくは逃げたゴブリンキングが関係しているので、あまり大きな声では言えないのだが……


「証を奪ったら直ぐにでも離脱ですよね?」

「そうね。イメージとしては、この前のゴブリン軍の真ん中にいるのと変わらないはずよ。長居しても良い事はないわ」


「分かりました。後日、仕切り直してマナスポットを開放する……」

「ええ。証さえあれば、いつ解放しようと自由だわ。ただ、証を狙って魔物が寄って来るのは必要経費として割り切るしか無いわね」


「はい」


これで大まかな作戦は決まった。後は僕が如何に素早く証を手に入れられるか……

僕の戦闘スタイルは防御向きだ。恐らく今回は兄さまのようなスタイルが理想だと思われる。


「母さま。今回は片手剣とナイフで行こうと思います」

「……そうね。それが良いかも知れないわね」


「はい」

「先日のアルと武器を入れ替えた模擬戦を見て無かったら、絶対に止めてたと思うわ」


「僕もあの模擬戦があったから、兄さまの戦闘スタイルで行こうと思えました」

「そう、アルもたまには良い事をするわね」


母さまはそう言って笑っていた。


「因みに盾はどうするつもりなの?」

「背中はバーニアやリュック、魔力盾があるので馬に置いていこうと思っています」


「ダメよ。馬なんて逃げるかマンティスにやられちゃうじゃないの」

「そうですね……」


「私が背負ってくわ」

「母さまが?」


「ええ、ついでに背中も守れるし一石二鳥でしょ」

「見た目より重いですよ?」


「私だって魔法師団員だったのよ。盾ぐらい背負って戦えるわ」

「でも盾を背負って空間蹴りですよ?大丈夫ですか?」


「エルは心配性ね。大丈夫よ。それに本当にキツかったら、ちゃんと捨てるから」

「……分かりました。無理はしないでくださいね。キツかったら本当に捨ててくださいね」


「分かったわ」



こうして大蛇の森に向かって歩いていった。

大蛇の森に近づく程マンティスとの戦闘は増えていく。マンティスの数は想定していた数よりもだいぶ多い。


結局、兄さまの作ってくれたサンドイッチと言うホットドッグに似た昼食を摂ってからは、馬を捨て空間蹴りで空を進んでいく事になった。

一抹の不安を覚えながらも大蛇の森へ確実に近づいていく……





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る