第176話エルフの郷防衛 part2
176.エルフの郷防衛 part2
エルフの郷でマンティスを1/4ほど倒して、今はマンティスの攻勢は落ち着いている。
その理由はマンティスが同族を食べるのに忙しいからなのは、あまり考えたく無い。
この時間にオレは里長と会談をさせて貰うべく、今は案内のエルフの後を付いて行っている所だ。
どうやら里長の家は役場も兼ねているようで、人族で言う領主のような立場なのだろう。
エルフ達はこの家に防衛線を引いて立て籠もっているようだ。
『ここだ』
『案内、ありがとう』
オレを案内をしてくれたエルフにお礼を言い、扉を開けようとすると行く手を遮ぎられた。
『待て、武器を置いて行って貰う……』
オレが怖いらしく声が震えているが、武器を持っては絶対通さない、と意思を感じる。
争いに来た訳では無いのだが、この状況での武装解除は流石にしたくない。
『このまま通りたいのですが……』
『だ、ダメだ。そ、村長に何かあったら……』
扉の前でそんなやりとりをしていると、扉の奥から声が響いた。
『問題無い。そのまま通してくれ』
その声に「分かりました」と答えて案内のエルフは扉の脇へと下がっていく。
オレは作法により1人で部屋に入ろうとするがガルに止められた。
「ガル、大丈夫だ」
「……ダメだ。安全を確保できない。オレも同行させて貰う」
オレは苦笑いを浮かべてガルに向き直る。
「ガル、ありがたいが本当に大丈夫。実は今、無理を言って帯剣も許して貰ったんだ。これ以上は流石に無礼になる」
「……」
「頼むよ。ガル」
「……分かった」
ガルが引き下がり、オレはゆっくりと扉を開けて中へと入っていく。
扉の中には50代と思われるエルフが一人で座っていた。
『初めまして。サンドラの領主とフォスターク王家より依頼を受け、救援に伺いました。”王家の影”と申します』
『これはご丁寧に。私はこの郷の村長を務めております、ノークスと申します。この度は我らの救援依頼に応えて頂けて誠にありがたく思います』
『いえ、もう少し早く来れたら良かったのですが……』
『サンドラにも虫が向かったはずです。しょうがありません……』
『エルフはこれから、どうされるおつもりですか?』
『そうですな……かつては2000人いた郷の者もここにいるだけになってしまいました……500と少しと言う所ですか……殆どが子供と老人しかおりません。食料も厳しいですし数日、凌げれば御の字かと思います……』
『そうですか。実は……』
オレはエルフの村長に今日の夜、オレ達の別動隊が大蛇の森にいるはずのマンティスのボス(主)を攻撃する事を伝えた。
『無事に討伐すれば、これ以上マンティスの数が増える事は無いはずです』
『お、おお。そ、それでは郷の者は助かるのですか?』
『ただし今日の夜半からボスの支配から解放されたマンティスが、食料を求めて辺りを襲う事になるはずです……』
『な、なんと……』
『今、討伐しないと被害がさらに広がってしまう。私も戦います。恐らくは2日程を凌ぎ切れば何とか……』
『……』
『……』
『……分かりました。今さらどうしようもありません。郷のエルフはアナタ方を全力で支援します』
『ありがとうございます』
『こちらこそ。このような死地にアナタの様な子供が……申し訳なく思います』
オレは無言で頭を下げた。
『それと、この郷に人族がいるのですか?』
『……何故そのような事を?』
範囲ソナーではこの家に人族の反応があったはずだ……触れられたく無い事だったのだろうか。少しカマをかけてみる。
『いえ、本来は秘密なのですが、範囲索敵の技術を持つ者が我々の中にいまして……』
『ほう、先ほど感じた探る様な魔力は”王家の影”殿から発せられたのでしたか……』
『ええ。それでエルフの皆さんの位置と敵の位置を探らせてもらいました』
『なるほど。確かにこの家の地下に人族が1人いますが、その者は犯罪を犯して牢に幽閉しておるのです』
『なるほど。そうでしたか。犯罪者はその土地の領主が裁く権利を持ちます。踏み込んだ事をお聞きして、申し訳ありませんでした』
『いえ、同族の事。気になって当然です』
こうしてオレと村長の話は終わった。村長はエルフを数人呼び付け、決まった事を説明している。
さっきの村長の話だが、人族は確かに1人いるが……しかし地下では無く上、ソナーの反応では恐らく2階か3階にいるはずだ。
村長の話では犯罪者と言う事なので、オレが何かするのも違う気がする。元々、他種族の集落で殺されもせずに牢に入れられている、と言うのは大した犯罪ではないのだろう。
拗れるのも本位では無いので、見なかった事にするつもりだ。
あれから村長と別れたオレ達は、4人で1つではあるが3階に部屋を用意された。
部屋には仮眠用なのだろう、毛布が数枚と机や椅子が僅かにおいてある。
普段は倉庫か何かに使われていたのだろうか。何となくカビ臭い匂いがした。
「アル坊、寝て魔力を回復するか?」
「魔力を余らせるのも勿体ない。少しマンティスの数を減らしてくる」
そう言うとこの部屋の窓を開け、そこから空間蹴りで外へと駆けだしていく。
空から見るとマンティスは今だに共食いをしていたが、そろそろエサであるオレが殺したマンティスが枯れそうだ。
「今度はお前らが食われる番だ」
リアクティブアーマーを魔力盾にかけマンティスの群れに吶喊する。
爆発音と同時にマンティスの群れの一部が吹っ飛んだ。
オレは魔力盾を消し、魔力武器(大剣)を両手に出す。
ルイスの母親のリーザスさんに習った大剣術を両手で使いマンティスを斬る。斬る。斬る!
今回は魔力を温存するつもりも無いのでウィンドバレット(魔物用)も必要に応じて使っていく。
流石に超振動はオーバーキルになってしまうので自重した。
30分ほどの戦闘で100匹は倒しただろうか。
これ以上はマンティスが、1ヵ所に纏まっていなく効率が悪い。
魔力も1/3ほどになったので、そろそろ撤退させて貰う。
行きと同じように空間蹴りで窓から戻ると、ガル達だけで無く村長と案内をしてくれたエルフが、興奮した様子で待っていた。
『マンティスの群れを討伐して頂きありがとうございます』
『いえ、夜中までに数を減らしたかったので』
『アナタには精霊の加護があるのでしょう。ありがとうございます……』
確かに精霊の加護はあるが大した物では無いぞ。と喉まで出かかってしまった。
「アル坊、何を話しているか分からないが休息の邪魔になる。お引き取り願おう」
ガルがオレにそう話してくると、村長と案内人はお互いに目配せをして話し出した。
『大した物は出せませんが、夕飯もご用意しておきますので、時間になったら取りに来て頂けますか?』
『分かりました。夕方になったら取りにいかせます』
『はい……では、私共はこれで失礼致します』
『ありがとうございます』
村長と案内人が出て行きガルと話す。
「ガル、恐らく今の2人はお前の人族語に反応していたと思う。たぶん、あの2人は人族語が話せるな」
「だろうな。アル坊が帰って来る前にそれとなく「窓から出て行った」と話したら窓を見やがった」
「こんな状況でも腹を割らないんだな。エルフって種族は……」
「ああ、全種族の中で一番、排他的と言われているからな」
「まあ、そうは言っても、流石に何かしてくる事は無いと思うが……」
「そうだな。ただ、オレは全面的には信用しないぞ」
「分かった。多少の失礼は騒動が片付いたら一緒に謝ろう」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、オレは魔力を回復するので寝かせてもらう」
「分かった。その間の護衛は任せてくれ」
「ああ。それと村長が夕飯を用意するって言ってたな。時間になったら取りに行ってくれ」
「分かった」
それだけ話すとオレは部屋の隅に詰んであった毛布を敷いて寝る準備を始める。
準備が整うと、そそくさと鎧を脱ぎ睡眠薬を飲み込んだ。
「じゃあ、4時間は起きないはずだ。ガル、ベレット、タメイ、オレの命を預ける」
「はい!」
「任せて欲しいッス!」
「お前の命とか……世界の命運を任されたって事じゃねぇか……」
オレは3人それぞれの返事を聞きながら眠りについた。
微睡からゆっくりと覚醒していく。窓からの日差しはまだ明るいが夏と言う季節を考えれば、そろそろ夕方なのだろう。
「おはよう……今は……何時だ?」
「そろそろ17:00になります。ガルは少し早いですが、夕食を貰いに行きました」
「そうか」
ベレットはオレの護衛、ガルは夕食を取りに、ではタメイは?
部屋の隅で何かを石臼ですり潰し調合していた。
「タメイは何をやってるんだ?」
「これッスか?これは虫の嫌いな匂いを集めて袋に詰めてるんッスよ」
「何のために?」
「エルフの子供に持たせるッス。お守り程度にはなるッスよ」
そう言ってタメイが笑っている。その後ろ姿を見て聞いてみたい事があった。
「タメイは所帯を持たないのか?」
「相手にも選ぶ権利ぐらいあるッスよ」
「オレ達が王都に戻る時、一緒に来てくれないか?」
「ん?王都ッスか。一回行ってみたいとは思ってましたが……」
「どうした?」
「アルド様の顔を見てると、碌でも無い事を考えてそうで二の足を踏みそうッス」
オレは肩を竦めて会話を打ち切った。一度、タメイをアンナ先生に会わせてみよう。
ナーガさん?ナーガさんは迷宮探索に必要だ。もう暫く独身生活を満喫して頂きたい。
ベレットとタメイ、久しぶりに落ち着いて話をしているとガルが戻ってきた。
「おかえり、ガル。助かるよ」
「起きてたのか。今日は長い夜になりそうだからな。しっかり食っとかないと持たないぜ」
オレに言ったようで全員に言ったのだろう。
だからと言って食べ過ぎで動けなくなる愚か者はいないはずだ。
夕食を摂りながら戦闘での役割を決めて行く。
「オレはエルフと一緒に前線での戦闘が良いだろう」
「ガルは前線っと……ベレットはどうする?」
「私は騎士団では衛生兵ですので回復役でお願いします」
「分かった。残るタメイは?」
「オレっちは斥候なんで遊撃にして貰えると助かるッス」
「了解だ。オレは兎に角、数を減らすのと敵の混乱を誘うよ」
「混乱?」
「ああ、敵のど真ん中にエサを出してやるんだよ」
「共食いをさせて足を止めさせるのか……」
「味方の味を覚えてくれれば良いんだけどな」
「なるほど……主から解放された後ならもしかして……」
「望み薄だけどな。期待ぐらいはしても良いだろ?」
これで役割は決まった。後で村長に話をしよう。
その時にはガルとベレットの傍に人族語の話せる者を配置して貰わないとな。
そこでも白を切るようなら”オレ達は撤退する”と脅すつもりだ。
きっと快く言う事を聞いてくれるだろう。
後は頑張ったがどうにもならなかった場合……最悪の想定もしておく。
「後は、どうしようもなくなった場合だが……最悪は”領域”を作って撤退する」
「……エルフはどうする?」
「500人か……5人や10人ならな……申し訳ないが基本は置いて行くつもりだ」
「そうか。了解だ」
「……ガル、オレを冷たいと思うか?」
「いいや。冷静な判断が出来る、良い指揮官と思うぜ」
「ありがとう……ガル」
ガルはオレの頭を乱暴に撫でながら取って来た夕食を指差した。
「さあ、冷えちまうぞ。腹ごしらえだ」
オレ達4人はわざとらしい程に明るく夕食を食べる。
昔から、この3人には世話になってばかりだ。絶対に4人で帰る事を改めて心の中で誓った。
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