第83話Fランク part1

83.Fランク part1



オレとエルは少し早めの朝食の後で完全装備に着替える。

鎧のブリガンタインは同じだがオレは短剣二刀、エルは片手剣に盾だ。


身体強化のお陰で装備の重さは感じない。

全ての準備が完了したので待ち合わせ場所である冒険者ギルドへ向かい歩きだす。


実はサブギルドマスターであるナーガさんに相談したい事があるのだ。待ち合わせには少し早いが冒険者ギルドに到着した。

早速ギルドの中を見回してナーガさんを捜す・・今日も受付嬢の1人として仕事をしているのを見つけた。


早速、列に並ぶがナーガさんの列には異常な程に人が少ない・・他の受付嬢の前には朝だけあって長打の列が並んでいる。しかし、ナーガさんの前には2人しか並んでいないのだ。

聞き耳を立てているとナーガさんの前に並んでいる2人の冒険者は問題児であるらしく、ナーガさんしか受付業務をしてくれないらしい。


ここに並んでいるオレはもしかして周りから問題児だと思われているのではないだろうか。

しかし、ルイスやネロの事で相談がある。しかし、本当にこのまま並んでていいのか。


1人で”考える人”のポーズを取っていると何時の間にかオレの番になっていた。


「アルド君、久しぶりですね。ブルーリング領に里帰りしていたとか・・最近では奴隷と親しくしていると聞きましたよ。前に私に”口説いてしまいそうだ”と仰っていたのでいつお誘いがあるかと待っていたのですが・・」

「それは失礼しました。では今度食事でも」


おい!だからなんで赤くなるんだよ!恥ずかしそうに俯くのもヤメロ。


「少し相談があるんですが」

「私は小さくてもいいので1戸建てが良いです・・子供はエルフになってしまいますが2人は欲しいです・・」


アンタ13歳に何、将来設計を語ってるんですかね?もう少し真面目にお仕事してください!


「すみませんルイスとネロの事なんですが」

「あらら、冗談はこれぐらいにして・・お聞きしますよ」


「実は実家のブルーリングで依頼を受けてオレ、ルイス、ネロ、弟のエルファス全員がFランクになりました」

「弟さんがいたのですね。そっくりです・・」


「双子ですから。戦闘スタイルは違いますが強さは同程度です」

「アルド君と同程度・・まさかソロでウィンドウルフの群れを殲滅できるとか?」


ナーガさんからの質問にエルが返す。


「群れがどの程度の数か判らないですが20匹や30匹であれば僕1人で倒せますよ」

「ソウデスカ・・判りマシタデゴザイマス・・」


なぜかナーガさんがバグりだした。


「エルはいいんです。無茶はしないし大抵の敵よりは強いので・・ルイスやネロの事です。オレ達と一緒に行動する事でランクだけが上がって身の丈に合わない依頼を受けないかと・・」

「なるほど。アルド君の言いたい事は判りました」


ナーガさんが真剣に考えてくれている。ギルドにそこまでの責任は無いだろうに。最初の時も思ったがこの人は本当にやさしい人だ。


「Cランクからは昇級試験があるので大丈夫・・問題は低ランクの間ですね」

「そうなりますか」


「ちなみにルイス君やネロ君の戦闘力はどの程度なんですか?」

「そうですね・・ジョーよりだいぶ弱いと思います。2人がかりで何とか勝負になるぐらいですか」


「ジョーってジョグナさんの事ですよね?」

「そうです」


ナーガちゃんがコメカミを揉みだした。


「ジョグナさんはCランクですよ・・ランク詐欺のアルド君は別にしても、普通はFランク程度が2人でかかっても勝負になるはずが無いんです」

「ジョーって強かったのか・・」


ナーガちゃんが特大の溜息をつく。


「ハァ・・アルド君達は学園の1年生でしたよね?」

「そうです」


「アルド君が卒業までに鍛えてあげてください。それで強さは問題ないでしょう」

「・・・・」


「後は冒険者としての知識ですね。こればっかりは先達から教えて貰わないと」

「なるほど」


「ちょっとジョグナさんに相談してみます」

「ジョーに?何を?」


「冒険者の先生役を。野営の仕方、敵の躱し方、敵の見つけ方、面白い所で食べられる野草の見分け方なんて物もあります。これ等の技術は一緒にパーティを組んで先輩に教えて貰うのが普通なんです」

「そうなんですか・・」


「戦闘以外の知識をジョグナさんから教えて貰える様にお願いしてみます」

「ありがとうございます」


ナーガさんはオレが礼をするのを微笑みながら見ていた。



ルイスとネロの件を相談し終わったオレとエルは1Fにある酒場へと移動した。

酒場は朝早くと言うのにまばらではあるが客が座っている。


勿論、朝から酒を飲んでいるのでは無くオレ達と同じで人を待っているのだろう。

オレは席に着くと大きな声で飲み物を注文した。


「ミルク2つくださいーーーー」

「・・・はい」


ギルドの酒場でミルクを頼まれるとは思わなかったのだろう。ウェイトレスは一瞬、放心したがすぐに返事を返してくれる。

しかしギルド中に響いたオレの声に反応した者が何人かいた。


「おいおい。ガキがギルドに何の用だ」

「ミルクなら家でママに貰ってろ」


他にも沢山のバカにした声が聞こえてくるが、すぐに周りの者から窘められている。中には殴られてる者までいた。


「バカ。死にたいのか」

「あいつは修羅だぞ。オレ達を巻き込むな」

「オレは逃げるぞ。バカ共が・・」


オレ・・ミルク頼んだだけなんですけど・・泣いていいかな・・

半泣きになってミルクを飲んでいるとルイスとネロがやってきた。


「一部始終、見てたけど、お前は朝から何をやってるんだ」


朝一番にルイスからの厳しいダメ出しだ。


「ミルクを頼んだだけなんだ・・」

「だから見てたよ。まったく」


そんなやり取りをして改めて挨拶だ。


「おはよう、ルイス、ネロ」

「おはようございます。ルイス、ネロ」


オレとエルの挨拶にルイスとネロが返してくる。


「おはよう、アルド、エル」

「おはようだ。アルド、エル」


4人共お揃いのブリガンダインを着こみ、エルは片手剣に盾、ルイスは両手剣、ネロは片手斧と片手剣の二刀、オレは短剣の二刀を持っている。

まずは4人でボードに張られた依頼を見に行く。オレ達はFランクなので受けられる依頼はEランクまでだ。


Gランクの依頼は王都の中の雑用、Fランクの依頼は薬草採取や王都の外での雑用だ。

ここは折角なのでEランクの依頼を受けたい。


Eランクの依頼は・・ワイルドボアの採取、上位の薬草採取、面白い物でゴブリンの生け捕りなんてのがあった。ゴブリンなんて何に使うんだろう・・

受ける依頼は他のメンバーに任せてオレは常時依頼を確認する。


今現在の常時依頼は3つだった。ゴブリンの駆除、オークの駆除、ウィンドウルフの駆除の3つだ。

討伐証明部位はゴブリンとオークが右耳、ウィンドウルフは尻尾。


オレはルイス達の元に戻り何の依頼を受けるか聞いてみた。


「ワイルドボアの採取は肉だからな1匹倒す毎に戻って来ないといけない・・ネロもいるし上位薬草採取を受けようと思う。後は常時依頼だな」


前から思っていたがルイスはリーダーに向いていると思う。他人の得手不得手を良く見ているし、感情的になる事も少ない。

まだ13歳と言う事で甘い所は多々あるが物事を冷静に対処しようとしている。


このまま曲がらずに成長すればどこかの騎士団の上の方でも狙えるのでは無いだろうか。


「上位薬草か。生えてる場所をナーガさんに聞いてみるか」

「ああ、そうだな」


オレとルイスはナーガさんの元に向かう。相変わらずナーガさんの前には人が少ない。

オレ達の番になり剥がしてきた依頼用紙を渡した。


「ナーガさん、上位薬草はどこに生えてるんですか?」

「上位薬草・・少し魔物が多くても良いなら前にアルド君に説明したスカーレッドの森が良いと思いますよ」


「スカーレッドの森・・あそこに薬草なんかあったかな・・」

「ありますよ。森の外縁部には下位の薬草があって奥に入ると徐々に上位の薬草が取れるんです」


ナーガさんは手元の資料を見ながら説明してくれる。


「まあ、誰かさんはいきなり森の奥に入ってウィンドウルフの群れを倒してきましたけどね」


笑いながら最初の依頼の話を蒸し返してきた。


「ルイス、場所ならオレが判る。行くぞ」


オレは逃げる様にその場から離れようとする・・


「お前、最初の依頼でウィンドウルフ倒したのか?」


ルイスが何か言ってるが”あーーーあーーーー聞こえなーーーーい”

スカーレッドの森なら徒歩で1時間だ。焦らずに向かおうと思う。



ギルドを出て歩く事、1時間。オレ達はスカーレッドの森の外縁部に到着した。

外縁部を良く見るとギザギザのアロエモドキが生えている。前は見つけらずに依頼失敗になったんだ・・こんな所に生えていたのか。


「上位の薬草は奥って言ってたな。形は調べてあるのか?」

「ああ、オレ達が依頼を受けてる間にネロとエルが本で調べてるはずだ」


「エル、上位薬草はどんな形なんだ?」

「形はそこの薬草と一緒ですが色が違うみたいです」


「色が?」

「はい。そこの薬草は緑ですが森の奥に行く程、緑から黄、黄から赤と変わって行くそうです」


「判りやすいな」

「薬草の形は同じでも含まれてる魔力の量で色が変わるみたいですね」


「なるほど。森の奥は魔力が濃いから色が違うって事か・・」


そこからは皆で薬草を探しながら森の奥へ入って行く。

草が胸辺りまである。本当は空間蹴りを使って移動したいのだがルイスやネロは空間蹴りが使えない。今度、教えてみよう。


森の歩き方も最初に比べて随分上手くなったと思う。しかしジョグナから見たらまだまだなんだろう。今日は我流ではあるがオレ達なりの歩き方で探索を進める。

途中で何度か戦闘になった。しかし全員が落ち着いて対応し特に危なげなく進んでいく・・・


今日、戦闘になった一番大きな群れがウィンドウルフ7匹の群れだ。

オークとの戦闘中に包囲されてしまい一瞬、本気を出して殲滅しようかと考えた。


しかしネロがオークを相手しながらもウィンドウルフに気が付いてルイスに伝える。


「ウィンドウルフに囲まれた。数は5匹以上」

「判った。全員密集だ。背中合わせで各個撃破!」


正直、オレやエルなら1人で殲滅出来るが、それでは個の戦闘力しか磨けない。

オレはルイス達との戦闘で集団の戦闘方法も習得したかった。


申し訳ないが戦闘自体は手を抜かせて貰い、集団での動きを学んでいく。

ルイスやネロもその事は理解しているのだろう。


極力、オレやエルの戦闘力を当てにせず集団としての戦闘力で対処しようとしていた。

そうは言っても手こずる様な敵が出たてきたら、オレやエルが戦うつもりだ。


そろそろ昼食だ。一度、休憩を挟もうとルイスに話しかけた。



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