第84話Fランク part2
84.Fランク part2
少し開けた場所で昼食を摂る。昼食と言っても調理など出来る訳が無く、干し肉を齧って水を飲むだけだ。
「上位薬草はどれぐらい溜まったんだ?」
ルイスの言葉にネロが反応する。
「5本で1セットだから4セットだ。それと半端が少し」
「上位薬草の採取は問題ないな」
ルイスは敵に遭遇するのが少ないと思っているのだろう。確かに今日はいつもより敵が少ない。
常時依頼の報酬や魔石の売却益も大きな収入源なのだ。
「範囲ソナーで探ってみようか?」
極力オレやエルの専用魔法や戦闘力を使わない方針だが、やっぱりどうせなら稼ぎたいのも本音だ。
「今日はしょうがないか。アルド、頼む」
「判った」
範囲は1km最大出力での範囲ソナーを打つ・・
ちょっと待て・・なんだこの魔力・・ダメだ見つかった。
「マズイ、でかい魔力が1つ向かってくる。見つかった!」
オレの慌てぶりから何か問題が起こった事を感じたのだろう。エル、ルイス、ネロが瞬時に戦闘態勢を整えて敵の襲来に備える。
さっきの範囲ソナーでの動きの早さならもう見えてきても良い頃だ。
森の中は普段より静かで逆に恐怖を感じさせる。
さっきからネロがしきりに上を気にしている・・ネロが叫んだ。
「上だ!」
全員で上を見ると空にはワイバーンと呼ばれる竜種の魔物がこちらを狙っていた。
オレがすぐに思い至ったのはルイスとネロにはワイバーンに攻撃する方法が無いのだ。
ハッキリ言うと足手まとい・・ここは心を鬼にして2人に告げる。
「ルイス、ネロ・・逃げろ。オレとエルで何とかする」
「ふざけるな!オレ達だけ逃げろって言うのか!!」
「ああ・・」
「オレは逃げない!」
オレは心の中で舌打ちをする。
「ハッキリ言うぞ。お前たちではワイバーンを攻撃する方法が無い」
図星を突かれたからだろう・・ルイスが悔しそうにワイバーンを睨んでいる。
「もう時間が無い。頼む、逃げてくれ・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・足手まといなのか?」
「・・・ああ」
「・・・そうか」
ルイスは悔しいだろうに逃げてくれるらしい。
「ネロ、逃げるぞ・・」
「判ったぞ・・」
2人は武器を構えたまま徐々に離れていく。
さて、あれを倒せるかどうか。
「エル。倒せると思うか?」
オレの言葉に苦笑いをしながら答える。
「倒すだけならコンデンスレイで行けるかと」
「まあな、ただ黒焦げどころか死体も蒸発しちゃうよな」
「それは・・そうですね」
「知ってるか?ワイバーンって高く売れるらしいぞ」
「そうなんですか?」
「綺麗に倒せば1匹で神銀貨2~3枚になるらしいぞ」
「神銀貨・・」
「マール、エルの隣にいるには服や装飾品がみすぼらしいって言ってたもんな」
「兄さま・・」
「どうした?」
「コンデンスレイは禁止です!なるべく綺麗に倒しましょう!」
「おま、、、判った・・」
エルの急変に思わず突っ込みそうになる。
「まずはソナーで弱点を調べるぞ!」
「はい!」
オレ達2人はワイバーンが突っ込んでくるのを待った。ワイバーンは鷹が獲物を狩るような姿勢で突っ込んでくる。
オレ達は攻撃寸前に空間蹴りで空に飛び出しワイバーンの攻撃を躱す。すれ違いざまにソナーを打つのも忘れない。
(1回では判らないな。判るまで打つか)
そこからは正に空中戦だった。
ワイバーンが飛行種独特の大きな直線で動くのに対し、オレとエルは小刻みな直線で動き回る。
正直、ワイバーンの攻撃を躱すのはそんなに難しい事じゃない・・何度目かのソナーで敵の強さもだいたい判った。
オレやエルの攻撃でも傷はつけられる。ただし首を一刀両断とは行かない。
要するに逃げに回られると追いつく事が出来ないのだ・・中途半端に攻撃すればきっと逃げを選ぶ。
「エル、勿体ないが・・多少傷つくが翼を狙って飛べなくするぞ」
「しょうがないですね・・」
この時点でオレもエルもワイバーンを獲物としか見ていなかった。
後はどう傷つけずに狩るかを考えていた・・要するに舐めていたのだ。
オレを狙って向かってくるワイバーンをギリギリまで引き付けて躱す。
その瞬間に上空からエルが右側の翼の根本に切りつけた。
翼は真っ二つとは行かないまでも上から1/4程を斬る事に成功する。
ワイバーンは上手く飛べないようでフラフラとしながら徐々に高度を下げていく。
オレは追撃とばかりに短剣を大剣に変化させて、傷付いた翼に大剣を振り下ろした。
飛ぶ事が出来なくなったワイバーンは錐揉みしながら落ちて行く・・落ちた場所では土埃が上がっていた。
落ちた高さは10m程だと思う。もう少し高い場所から落とせば倒せただろうが、10mでは恐らくは倒しきれていない。
土埃が晴れるのを待っているとエルがオレの横に降りてきた。
「兄さま、倒せましたか?」
「多分、まだ生きてる。落下のダメージはあるはずだから瀕死って所かな」
もっと離れるか魔力を纏えば良かったのだろう・・結局は己の慢心からの行動だ。
土埃の中から風の魔法が飛んでくる。考えてみれば範囲ソナーでこちらが見つかったのだ。
魔法を使えるのは当たり前だ。範囲ソナーに気が付けるのは魔法使いだけなのだから。
エルは盾で魔法を防いでいる。しかしオレは攻撃を躱す前提のスタイルなのだ。
オレは風の魔法の直撃を受けた。衝撃で吹き飛んで、そこからの記憶は無い・・
エルに揺らされて起こされた。周りにはオレが流したであろう血が広がっている。
ワイバーンを見ると額にエルの予備武器の短剣が刺さり、胸には片手剣が刺さっていた。オーバーキルだろう。と突っ込みたくなる光景だ。
改めて周りを見るとオレの流した血の量は完全に失血死を起こす量に見える。自分のブリガンダインを見ると左肩と右の脇腹の部分が無くなっていた・・今は自分の皮膚が露出している状態だ。
「エル、お前が治療を?」
地面に横たわって上半身だけを起こした状態でエルに話かけた。
「兄さま!良かった・・本当に良かった・・」
エルはオレに抱き着きながら泣き出してしまう。
きっとオレは死にかけたんだろう・・エルには悪い事をしてしまった。
前にエルと話していた魔力で盾を作るのを本気で考えた方が良さそうだ。
「エル、何となく状況は判るが説明してくれると助かる」
オレが思ったより元気なのに安心したのか気絶した後の事を話してくれた。
どうもオレが気を失ってすぐに回復魔法をかけて応急処置をしてくれたようだ。
回復魔法をかけている間は盾を構え亀の様になってワイバーンの魔法を防いでいた。そして応急処置が終わったと同時に切れたエルがオーバーキルでワイバーンを倒す。
オレの元へ戻ってきて改めて出血の量に驚き、輸血魔法と傷が完全に治るまで回復魔法をかけ続けていた。
しかし、いつまで経っても眼を覚まさないので怖くなってきた所でやっと起きたそうだ。
「そうか。ありがとう。助かったよ、エル」
「いえ、本当に良かったです・・」
「前に言ってた魔力で作る盾。あれを研究しないとな」
「そうでした・・盾があれば・・」
「今回の事は少し戦闘を舐め過ぎていた。範囲ソナーに反応したって事は魔法を使えるって事だ・・そんな当たり前の事も見逃すのは気が緩んでる証拠だ」
「そうですね。僕も少し緩んでいた気がします・・」
「魔力の盾と戦闘時は少しでも良いから魔力を纏ってた方が良いな」
「向こうも必死のはずですし・・今回の事で思い知りました・・」
負傷したとは言え戦闘の全般的には圧勝と言える。しかし2人はお通夜の様な雰囲気でワイバーンの元へと移動する。
「さて、こいつをどうやって持って帰るかだが・・」
ワイバーンは翼を広げれば10m程、高さは3m程だ。身体強化をしてたとして、とても持てる物では無い。
幸いにしてワイバーンが墜落したのは森から出た外縁部ではあった。
しかし持ち上がらないのであれば同じ事。
2人してどうした物かと考えていると遠くからかなりの数の人が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
先程の事もあり警戒しながら顔が判る距離になるのを待つ。先頭にルイスとネロ、ジョーの姿が見えたる。
オレ達は警戒を解き、手を振って自分たちの無事を知らせた。
「アルド、エル、無事だったか!」
ルイスの声にオレとエルは苦笑いを浮かべる。
「ルイス・・死にかけたよ」
オレとエル以外の人は腐ってもワイバーン、流石の修羅も苦戦したか。と何やらそんな空気になっていた。
皆が聞きたがったので戦闘の様子を細かく話してやると周りの反応が徐々におかしくなっていく。
終いには小さな声で
「嘘だろ・・ワイバーンだぞ。化物か・・」
「あいつら本当に人か?」
「ワイバーン相手に舐めプとか・・無いわ・・」
「最低とは言え竜種だぞ・・子供に倒せる物なのか?」
「そもそも、どうやって地上に落としたんだ?」
「アイツの血って本当に赤かったんだな・・」
全部、聞こえてるって言うか、お前ら絶対に聞こえる様に言ってるだろ!!
最後のヤツ、オレは魔物か何かか!!
酷い言われ様だったが少なくとも、ここに来てくれた全員がオレとエルを心配してくれたのは判る。
「皆さん、ご迷惑をかけました。本当にありがとうございました」
オレとエルは貴族式の礼で皆に感謝を表した。
そこからはワイバーンを解体して運ぶ準備だ。皆、戦闘の準備で解体も簡単なナイフしか持っていない。
一度、王都まで戻って馬車や解体道具を持ってくる必要がある。
オレはエルに魔力を貰い満タンにまで回復すると王都へと走りだした。
普通に歩いて1時間なら10分もあれば到着するだろう。
走りながら門を越え冒険者ギルドに到着する。オレがギルドに戻るとナーガさんが眼に涙を溜めて喜んでくれた。
ワイバーンを倒したと報告すると、その眼から光が消えレ〇プ目になっていたが。
ナーガさんに解体出来る道具と人、あとは運搬用の馬車の手配をお願いした。
サブギルドマスターだけあって有能なナーガさんは、あっという間に全ての手配を終了してしまう。
それからスカーレッドの森と王都を何度か往復し、ワイバーンの素材を徐々に回収していく。
駆けつけてくれた冒険者にはオレからボーナスとして1人当たり金貨3枚を渡す事にした。
今は手持ちが無いのでワイバーンの素材が売れたらギルド経由で払って貰えるように手配をする。
今日一日バタバタしたがギルドでルイスとネロにお礼を言って別れた。
「ルイス、ネロ、じゃあな、今日はありがとう」
「ルイス、ネロ、今日はお疲れさまでした」
オレとエルの言葉に返答する。
「ああ、また明日な」
「アルド、エル、今日はありがとな」
オレとエルはそのままブルーリングの屋敷へと帰って行く。
屋敷に戻ると明らかに裏庭の辺りが騒がしい。
オレは風呂に入ってくつろぐつもりだったのに・・オレの風呂に何かあったのか。
風呂に向かおうとするとノエルが立ち塞がった。
「ノエル!何かあったのか?」
オレがそう声をかけると何かノエルがいつもより綺麗に見える・・髪のツヤもそうだが全体的に綺麗になってるのだ・・
「お前が女性に風呂を貸してくれたんじゃないのか?まだ希望者がいるから当分は通せない」
オレは何を言われたのか意味が判らなかった。確かにファリステアやユーリ、マールやノエルには入っても良いと言った。しかし女性全員なんて言って無い。
「オレはお前達に入って良いと言ったんだ。全員なんて言って無い」
「むう、言ったじゃないか。”女性陣は入っていいぞ”と」
「女性陣・・え?そう取ったの?え?オレの風呂は?」
「まだ当分かかると思う」
「マジか・・風呂入って、夕飯食べたら速攻で寝ようと思ったのに・・」
「1日ぐらい風呂に入らなくても良いだろ?」
「・・・・」
オレは空を見上げた・・星が出始めて綺麗な空だ・・オレは明日の朝、この世界で初めての朝風呂に入る事を決めた。
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