第322話ハク part2

322.ハク part2






森を出て1時間ほどが経ち、今はハクの背中に乗ったままカズイ達の前に戻ってきた所である。


「な、な、な、なに? え?……ど、ど、ドラゴン??」「わ、私はアルドの弟子なんだぞ!わ、私に何かあったら師匠が黙ってないからな!!」「……こ、これは、無理だろ……キキ、クク、さ、下がってろ」


3人は悲壮な顔でハクに武器を向けるが、腰が引けていてとてもじゃないが戦えるとは思えない。

意地悪するつもりは無いので、3人にハクの上から声をかけた。


「カズイさん、ラヴィさん、メロウさん。僕です、アルドです。この白蛇さんは敵じゃないので安心して下さい」


オレの声を聞いて3人は、眼を見開きながら必死に辺りを探している。


「上です。この白蛇さんの上にいますよ」


そう言ってハクの上から手を振ってやると、3人は呆けたようにオレを見つめてくる。


「あ、アルドなの? こ、これは……」

「すみません。驚かすつもりは無かったんですが、少し急いでいて」


「い、急ぐ?」

「はい、申し訳ありませんが移動しながら説明するので、皆さんもこのハクさんに乗って貰って良いですか?」


「の、乗るって……このドラゴンに?」

「あー、ハクさんはドラゴンじゃなくて白蛇です。僕も最初は間違えちゃったんですが、本人が気にしているみたいなので、気を付けてもらえると助かります」


「本人って……あ、アルドは凄くこの白蛇の事を知ってるみたいだね……」

「はい、本人に聞きましたから」


「聞くって……」

『我は白蛇の主ハクだ。お前達、アルド様が言うように早う我の背に乗らんか』


ハクが話せると思わなかったのだろう、3人はまたもや眼を見広げて固まってしまう。


「カズイさん、順番に説明するので今は乗って下さい。お願いします」


それからオレの必死の説得に、挙動不審になりながらも3人は何とかハクの背に乗ってくれた。

因みにキキとククの2頭だが、ハクの口から首だけを出し白目を剥きながら大人しくしている……気絶しているとも言うが。


こうして何とも間抜けな恰好で、全員揃ってハクの住む森へと移動していくのだった。






ハクに運んでもらう途中の1時間で、オレが使徒であると言う事とハクがどう言う存在なのかだけは隠して一通りを説明させてもらった。


「あー、じゃあ、この白蛇のハクさんがオーガの群れに襲われてるから、アルドが極大魔法で助けるって事?」

「その通りです。ただ、その極大魔法を撃つと僕は魔力枯渇で気絶してしまうので、カズイさん達に僕を安全な場所まで運んでほしいんです」


「なるほど……そしてオーガを倒した暁には、ハクさんが海の向こうまで全員を運んでくれるって訳か」

「はい。流石カズイさん、理解が早くて助かります」


「そっかー、僕はこんな体験した事無いからねー、まるで何かの英雄譚でも読んでるみたいでビックリだよー(棒)」


カズイだけで無く、ラヴィとメロウも一緒に極大魔法を撃った後のオレを運んでくれるそうだ。

こうなると問題は逃げる場所だが……話し合いの結果、安全マージンを充分に取るために、先程カズイ達が待っていた海辺の洞窟まで、キキとククに乗って移動する事に決まった。


やはり山越えで2頭を見捨てなくて本当に良かったと思う。情けは人の為ならずと言うのは、こう言う事を言うのだろう。

そうしている間にもハクに運んでもらって1時間が経ち、森の手前まで帰ってきた。


「ハクさん、敵に動きはありますか?」

『どうやら向こうの後続も合流したみたいですな。そろそろ我の森に押し入って来そうですぞ』


「ではハクさんとキキ、クク、メロウさんはここで待機を。僕が極大魔法を撃って場が落ち着いたらハクさんは突っ込んでください。但し、辺りは物凄く熱くなってるはずなので充分に気を付けてください。メロウさんはキキとククを直ぐに出れるようにして、ここで待機です」

『分かりましたぞ、アルド様』「了解だ」


「ではカズイさんとラヴィさんは、僕の後に付いて来てください」

「分かったよ」「任せてくれ!」


オレ、カズイ、ラヴィの3人で、素早くオーガが一望できる場所へと移動していく。

すると普通よりも2回りほど巨大なオーガが、丁度、配下を引き連れて森へ入って行く所だった。


「マズイ、直ぐに撃ちますので、後は予定通りの行動でお願いします」

「任せてよ、アルド」「了解だ」


オレはオーガの主に向けて、真っ直ぐに人差し指を伸ばす……指先に小さな光が灯り、徐々に輝きが増していく。

30秒ほどで光が一際輝くと一言だけ呟いた。


「行きます!」


オレの言葉と同時に人差し指から真っ直ぐに光が伸びる……その瞬間、伸びた光の剣でオーガの群れを薙ぎ払ってやった。


----赤----


光の剣が走った場所では、オーガも周りの木も一瞬の内に気化され、次に来る炎の燃料になっていく。

数舜の後には森の入口は真っ赤に染まり、見える物を燃やし尽くさんと炎が全てを蹂躙している。


オレは真っ赤に染まった森を見ながら、魔力枯渇で意識を手放したのだった。






深い眠りから徐々に覚醒していくと、どこかの岩の上に毛布を敷かれ寝かされていた。

意識が覚醒していくにつれ、ハクの森での出来事が思い出されてくる。


ゆっくりと体を起こして周りを見渡すと、洞窟の外ではカズイ達が焚火をして何やら料理をしている様子が見えた。

未だに少し寝ぼけた頭ではあるが、あの後どうなったかを聞かなければ……オレは頭を振ってカズイ達へと近づいていく。


「アルド!」


ラヴィの言葉で、カズイとメロウは驚きながらオレへと振り向いた。


「アルド、起きたんだね。体は大丈夫?」

「はい。魔力枯渇で倒れただけなので問題無いです」


「良かった。聞いてはいたけど、いきなり倒れちゃうから心配だったんだ」

「心配かけてすみません。本当に大丈夫ですので気にしないでください」


オレの返事に3人は顔を見合わせて1度だけ頷いた。


「じゃあ、あの魔法の事を聞かせてもらおうかな」「アルド、あの魔法は何だ? オーガが消し飛んだぞ」「あれほどの魔法、お前は何者なんだ?」


ギャーギャーと3人からの質問が凄い。


「分かりました。簡単に説明しますから、ちょっと落ち着いて下さい」


何とか3人を落ち着かせてから、コンデンスレイに付いて軽く説明をしていく。

あの魔法はオレの技の中でも特に攻撃力が高く、恐らく当たりさえすれば耐えられる生物はいないと思われる事、あの魔法が使えるのはオレとオレの弟以外はいないだろう事を説明していった。


「そうか……僕も使えればって思ったけど、無理そうだね」

「すみません。カズイさんがどうって話じゃなくて、あの魔法は特別なんです……」


3人の中でもカズイは、コンデンスレイがどんな魔法なのかを知りたがり、残りの2人はどれほどの威力があるのかを聞いてくる。

少しでもイメージがし易いように、炎を凝縮して撃ちだす魔法で、威力は見える範囲を全て焼き尽くすと説明しておいた。


炎を凝縮って自分でも意味が分からないが、光の魔法と言っても更に意味が分からなくなるだろうからだ。


「僕からも質問があります。あの後、オークがどうなったか分かる範囲で教えてください。後はハクさんの事も」


オレの質問に3人は微妙な顔をしてから、言葉を選ぶように話し出す。


「あのアルドの極大魔法の後、森が燃えちゃってね……あの白蛇さんは半泣きになりながら魔法で火を消してたんだ」

「あー、やっぱり近すぎたか……ワンチャンいけるかと思ったんですが……後でハクさんに謝ります。それでオーガは?」


「ぶっちゃけ火を消すのにそれどころじゃ無かったんだけど、敵のオーガキング?どころか生きてたオーガはいないんじゃないのかな? まぁ、僕達はアルドを運ぶために森を離れちゃったから詳しくは分からないんだけどね」

「そうですか……一度、森を見てきます。皆さんはここで待っててください」


「僕は良いけど……」


そう言うカズイの後ろでは、ラヴィとメロウが絶対に付いて行くと言わんばかりに目を輝かせている。


「あー、メロウさん、キキとククに危険があるので待っててください。ラヴィさん、僕の移動速度に付いて来られないですよね? 付いて来られるようになったら、ちゃんと連れて行きますから。今回は我慢してください」


メロウはキキとククを見て渋い顔で諦め、ラヴィは悔しそうな顔で小さく頷いた。


「じゃあ、行ってきます」


そう言って空間蹴りを使って空へ駆け上がっていく。

何故、空からなのか? それは地上では雑魚の魔物が邪魔になったり、地形の関係で真っ直ぐ走れないからである。


空間蹴りの魔道具があり、見つかっても困る相手がいないのであれば、空を移動した方が非情に効率的なのだ。

それに空からなら森の状況も把握し易い。


地上では見えなかったが、空からであれば遠くの森から煙が上がっているのが分かる。

オレの魔力の回復に最低でも4時間はかかっているはずだ……であれば火災は最低でも4時間以上続いていると言う事になってしまう。


オレは少しおバカだが気の良いヘビの事を思い出しながら、煙の下へ真っ直ぐに向かって行くのだった。






森に近づくとハクが魔法で水の球を作り、何やら叫びながら必死になって火を消していた。


「ハクさーん!」


オレが大声で近づいて行くと、ハクは露骨に挙動不審になっている。


『あ、アルド様、いつからここに?』

「え? 今来たばかりですが、どうしました?」


ハクは露骨にホッとした顔で『良かった……聞かれて無いっぽい……』と呟いていた。

何かオレに聞かれてはマズイ事でもあったのだろうか?


「ハクさん、状況を教えてください」


オレの言葉にハクは、微妙な顔をして口を開くのだった。


ハクと一緒に森の火を消しながら聞いた内容は、オーガの事など一言も出ずに火事の被害の大きさばかりである。

曰く、森の1/5が燃えてしまった。この森は大切に少しずつ大きくしてきたのに……。戻すのに30年はかかる。終いにはハクを圧倒するオレの実力なら、こんな極大魔法を使わなくても普通にオーガ程度倒せたんじゃないか? と言われてしまった。


確かに超振動を使えばアッサリ倒せた気がしないでもないが……しかし、森を少し焼いてしまったが、結果はキッチリと出している。

悪かったとは思うが、先ずは感謝の言葉の1つぐらいあっても良いのではないだろうか。


オレは少しだけ不機嫌な声でハクへ話しかけた。


「ハクさん、確かに森を焼いてしまったのは僕のミスですが、オーガは全部倒せたんですよね? 少しぐらい感謝の言葉があっても良いんじゃないですか?」


ハクはオレを驚いた顔で見つめながら、爆弾発言を零しやがった。


『あ、アルド様……我、森にばかり気がいってしまい、オーガの事を失念しておりました。主が生きているのか死んでいるのか確認しておりませぬ……』

「え? マジ?」


ハクはバツが悪そうにしながらも、大きく頷いたのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る