第321話ハク part1
321.ハク part1
なんちゃって風竜との邂逅から1時間ほどが経ち、今はハクと名乗った白蛇の前に立って話をしている所だ。
『お主、本当に使徒様なのか? それにしては証も持っておらぬようだが……』
「ですから魔族の上位精霊に証ごと腕を切られて、そのまま飛ばされたんですって!」
『だから何で魔族の精霊様が、新しい種族の使徒様であるお主に危害を加えるんだって話であろうが!全く……お主の言う事は意味が分からんぞ』
「で・す・か・ら、僕だって分からないんですよ!本当に頭の固いヘビだなぁ……」
『お主……本当に使徒様なのか……我をたばかっているんじゃなかろうな……」
「はぁ、何回、同じ事を言えば良いんですか? ですから魔族の上位精霊に飛ばされたって言ってるじゃないですか!」
こうして何回目か分からない事を説明しているのだが、この風竜モドキは証の無いオレをどうしても使徒と認めたく無いようだ。
「はぁ、じゃあ、もう良いですよ。はいはい、僕は使徒じゃなくて普通の人族です。これで良いんでしょ?」
『やっと本性を現しおったな。使徒様を語る不届き者め!我が成敗してくれるわ!』
「やっぱりこうなるのか……本当に、この世界は脳筋が多すぎる。強いか弱いかでしか人を判断できない野蛮人め……ハクさん、最低限のルールだけは決めますよ。殺しは無しで”まいった”と言った方が負けで良いですよね?」
『むぅ、まぁ良いだろう。無論、我が負けるなどあり得んがな!』
こうして何故か白蛇の主と、本当に無駄な戦いをする事になってしまった……解せぬ。
少しおバカではあるが先程の動きから見ても、この風竜モドキはナメプをして勝てる相手では無さそうだ。
最悪は向こうの攻撃が当たらない上空から魔法を撃てば良いのだが、それではこの風竜モドキは納得しないだろう。
であれば短期決戦でキツイ1撃を叩き込んでやるのが一番である。
オレは短剣二刀を抜き、右手に魔力武器(大剣)を発動しながら主に突っ込んでいく。
「行く!」
『来い、使徒様を語る不届き者が!』
主はオレを飲み込もうと大口を開けて突進してくるが、それはさっき見た。
躱しざまに右手を主に当て、ソナーを打つ……1回では分からないか。
それからも主は何度もオレに向かって来るが、バーニアを使えば余裕を持って躱す事が出来た。
結局5回のソナーを打って分かった事は、証の位置は右眼、膂力は風竜の半分、魔力も半分。恐らくだが前に倒したレッサードラゴンと同じぐらいの強さの気がする。
この程度の強さであれば恐れる事は全く無く、雑魚とまではいかないがオレからすれば楽な相手と言わざるを得ない。
改めてそんな主を見ると、まるでオレに胸を貸しているが如く大物感を醸し出している。
何とも言えない感情を持て余しながら何度目かの主の突っ込みをスレスレで躱し、がら空きの胴体に渾身の魔力武器(大剣)を振り下ろしてやった。
『がぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
相当効いたのだろう。主は絶叫を上げ地面をのたうち回っている。
ここで追撃しても良いのだが、これ以上やれば本当に殺し合いに発展しそうだ。
オレは肩を竦めると、空間蹴りで空を駆けて主の傷口へと降り立った。
淡い光が主の傷を癒していく……
そう、オレは回復魔法をかけてやり、主の傷を癒しているのだ。
痛みか引いていくのだろう。主がやっと大人しくなった所で話しかけた。
「僕の勝ちで良いですよね?」
主が不満そうな顔をしたので、再度、魔力武器を出した所で主は大声で叫んだ。
『参った!わ、我の負けだ!アナタ様を使徒様と認めましょうぞ!』
だいぶ遠回りした気がするが、これでやっと会話が出来そうである。
白蛇の主ハクと話をした所、あそこまでハクが頑なだったのには理由があった。
実は少し前からオーガの主がハクにちょっかいをかけているらしいのだ。
どうやらオーガの主の寿命が尽きそうらしく、ハクのマナスポットを狙っているのだとか……
そして、オーガの主と何度か真正面からやり合ったが、マナスポットの大きさもあってハクの方が少しだけ強いらしい。
ただし、オーガは群れの魔物である。
なりふり構わず配下も含めて全面攻撃をされたら、流石にハクでも厳しいとの事だ。
そんな中で他の土地の証を複数持ち、使徒の印である精霊との証を持たない人族の子供が現れた。
ハクからすれば、オーガの主などより余程怪しい存在に見えたそうだ。
「証はフォスターク王国まで帰らないと、再契約は出来ないんです。ここではどうやっても使徒である証明は出来ません。それでも信じてくれるんですか?」
『その圧倒的な強さ。証を無くされても使徒様でしか有り得ませぬ』
以前聞いたアオからの話では、過去の使徒は精霊と一緒に戦う事で、伝わっているような活躍が出来た、と言っていた気がするのだが……
ハクの物言いだと、やはり使徒自身も相当強かったように聞こえる。
「ハクさんは、過去に僕以外の使徒と会った事があるんですか?」
『ん? いや、初ですな。使徒様にお会いしたのはアルド様が初めてですぞ。しかし、やはり使徒様はお強い。我では手も足も出なかった。まぁ元々、我には手も足も無いのですがね。ハッハッハ。白蛇ジョークですぞ!」
この野郎……何故か日本で聞いた、上司のつまらないオヤジギャグを思い出してしまったじゃないか。
「そ、それでオーガは大丈夫なんですか?」
『その件……使徒様に頼むのは大変心苦しいのですが……アルド様、オーガの成敗を手伝っては頂けませぬか?」
「オーガの成敗ですか……」
『はい。敵はオーガキング。恐ろしく頑丈ではありますが、我の毒牙が効けば充分に倒せるはずです』
ハクの言う通りなら、ハクがオーガキングに手こずる理由が無いように見える。
「すみません。オーガとの戦いの様子を教えてもらっても良いですか?」
『心得ました。オーガのヤツはですな…………』
ハクの話を要約するとオーガキングは、どうやら加護を防御に全振りしているようだ。
向こうからわざわざハクの領域に来てくれていると言うのに、皮膚が固すぎて毒牙を撃ち込む事が出来なかったのだと言う。
かと言ってオーガキングの方もハクに効果的な攻撃オプションが無く、千日手のような状態になっていたらしい。
「なるほど。お互いに決定打が無かったんですか」
『そうですぞ。ただ1つアヤツも生物である以上、息をする必要がありますからな。我のもう一つの技である“毒霧“を嫌がったので、顔面に毒を吹き付けてやりましたわ。ハッハッハ」
どうやらハクは毒を使うようだ。しかしオレとの戦いでは一度も使ってくる様子は無かった。
『アルド様、どうされました? 我の顔をそんなにまじまじと見て』
「いえ、僕との戦いでは毒を使わなかったな、と思いまして」
『自分の毒ではあっても、我には解毒が出来ませぬ。使徒様の可能性が僅かにでもあった相手に、とても使える物では……』
どうやら本気を出していなかったのはオレだけじゃなかったようだ。
まぁ、本気の殺し合いをしても負けるつもりは無いが、ハクの在り方も話してみて良く分かった。
コイツは少しおバカではあるが、信用に足る蛇のようだ。そこらの盗賊なんかより、よっぽど信用出来る。
以前アオから聞いた話では、魔物が主になる場合は寿命がかなり縮むと言っていた。
しかし白蛇であるハクにはそんな様子は見られず、話の節々から既にだいぶ長く生きているように聞こえる。
まぁ、その代わりと言っては何だが、魔物の主よりは一段弱いような気がするがそれはしょうがない事なのだろう。
さて、こうなると白蛇であるハクが主であるのならば、ここのマナスポットをオレがどうこうする必要は全く無い。
オレとしてはオーガの主をサッサと倒して、残りの始末はハクに任せるのが良いのでは無いだろうか。
「ハクさんを助けるの決定として、その後がなぁ……」
オレの何気ない独り言が聞こえたらしく、ハクは怪訝そうに聞いてきた。
『アルド様、何かお困りですか? 我で出来る事であれば喜んでお手伝いしますぞ』
「あ、すみません……いえ、実は海を越えたいんですが、どうやって越えようかと悩んでるんですよ。向こう岸まで恐らく50~100キロぐらいあるので……ハァ」
『そんな事ですか。我は元々、向こう岸に成る果実を食べに海を渡る事があるのです。代わりと言っては何ですが、我が送り届けましょうぞ」
「え? 本当に? マジで? あ、でも僕1人じゃないんです。馬が2頭に仲間が他に3人いまして……」
『結構、結構、その程度の人数、我の背に乗って貰えれば問題無いですぞ。馬は我が咥えて運びましょう』
「おお、確かにハクさんの大きさなら、そんな事も出来るのか……」
『アルド様にはオーガの成敗も手伝って頂きますし、これぐらいはお返しさせてくだされ』
「ありがとう、ハクさん!これで海を渡る算段が付きました。そうと決まれば早速オーガを討伐に行きますか!」
『いやいや、ちょっと待ってくだされ。オーガのヤツは森の入口で配下を集めているようでして。このまま突っ込むのは流石にこちらの分が悪い。ここは森に誘い込んで個別に倒すのが得策かと』
「その言い様……もしかしてハクさんは、今現在の相手の様子が分かるんですか?」
『はい。我は自分の領域の中なら、アリ1匹の動きすら分かりますぞ』
「それは凄い!それなら僕に1つ策があるのですが。実は…………」
オレ考えた策はこうだ。
ハクの話では、どうやらオーガ達は森の手前の開けた場所で後続のオーガを待っているらしい。
後続と言っても、本体は既に到着しているらしく大した数では無いそうだ。
今のオーガ達は、開けた場所で敵が一ヵ所に集まっている状態……そう、オレのコンデンスレイであれば、オーガの主も一緒に群れごと一掃出来てしまうのでは無いだろうか?
早速、ハクにオレの考えた作戦を話してみる。
『なるほど。アルド様の極大魔法であれば、オーガ共を一掃出来ると言う訳ですな』
「はい。ただ少し問題があるんです」
『問題ですか?』
「その極大魔法を撃つと、僕は魔力枯渇で意識を失ってしまうんです。ですので魔法を撃った後は誰かに護衛をお願いしたいんです」
『うーん、魔法後は残敵を掃討したい所ですが……アルド様の安全には変えられぬし……そうだ、アルド様のお仲間にお願いしてはどうでしょうか?それならアルド様も安心でしょう」
「なるほど、カズイさん達ですか……どっちにしても海を渡るには、ハクさんを紹介しないといけない訳だし……うん、そうですね。カズイさん達に頼もうと思います」
『では急ぎましょう。アルド様、我の背中に乗って下され。案内だけお願いしますぞ』
「ありがとうございます、ハクさん。取り敢えずあっちの方向に向かって下さい」
『了解ですぞ。ではしっかりと掴っててくだされ!』
こうして巨大な白蛇の主の背に乗り、何も知らないカズイ達の下へいきなり向かっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます