第323話ハク part3
323.ハク part3
ハクからオーガの主を忘れていた、と爆弾発言をされて、驚きながらも直ぐに主を探しす事になった……結果から言うと、驚いた事に主は生きていた。
主を見つけるのは簡単で、1000メードの範囲ソナーを打つとコンデンスレイの着弾点でかなり弱いが生物の反応があったのだ。
ハクと一緒に移動すると、まだ所々で煙が上がる森に真っ黒に焦げた”何か”が転がっていた。
”何か”は原型など残ってはおらず、手も足も無くなっており頭すらもどこか分からないほどである。
無いとは思うが、いきなり襲ってくる事を想定して、ゆっくりと近づいていく……
”何か”にソナーを数回打って分かった事は、やはりこいつは主であり証は牙であった。
オレは右の脛からミスリルナイフを取り出すと、魔力武器(片手剣)を出し超振動をかけていく。
恐らくソナーを打たなければ、どこがどの部位か分からなかっただろうが、ソナーを使ったオレにはしっかりと分かる。
敵とは言え、いたずらに苦しませる趣味は無いので、そのま牙に魔力武器(片手剣:超振動)を振り下ろす。
証を失った主は加護を失ったからだろうか、周りの熱気に当てられ端から灰になっていく。
こうして当初は計画に無かった証を奪う事に成功したのだった。
今回の戦闘で驚くべき出来事が1つあった。
あのオーガの主は、瀕死とは言えコンデンスレイに耐えてみせたのだ。
恐らく直撃であれば証も残さず気化していたとは思う。しかし、この事実はオレの仮説を裏付ける格好となってしまった。
それは魔力を纏えばコンデンスレイにも耐えうる可能性があると言う事である。
正直な所、コンデンスレイの攻撃力がどれぐらいなのか、未だに判断が出来ていない。
エルにコンデンスレイを撃ってもらって、オレが全力で魔力を纏えば耐えられるのかもしれないが、耐えられなかった場合は死ぬ以上、しっかりとした検証は出来ていないのが現状だ。
これまでコンデンスレイに耐えた敵がいなかったので、少し気が緩んでいたかもしれない。
やはり初心を忘れずに、場合によっては耐えられる可能性を考慮しておかねば。
一通り今回の反省を終えると、次はこれからの事である。
オーガの証を奪ったのは良いが、使徒でない今のオレでは持て余してしまう。
結果、オレは知り合ったばかりの気の良い白蛇へ任せようと話しかけた。
「ハクさん、この証要ります?」
『いえ、実は我には、ここのマナスポットでさえ手に余っていましてな。その証はアルド様がお持ちくだされ」
「そうですか……」
『確かアルド様は他にも証を持っておられませんでしたか?』
「まぁ、持ってはいるんですが……魔物は寄ってきますし、今はマナスポットの解放は出来ないし、で正直、持て余してるんですよ」
『なるほど。使徒様でも持て余しますか。であれば我ではとても無理ですな。しかし、証は証。既に持っているのであれば、2つも3つも手間は変わらないのでは?』
「どうなんですかね? 僕が持つ証はこれで3つになるんですが……持ってる数で何か違いはあるんですか?」
オレが頭を捻っている様子を見て、ハクは笑い声を上げだした。
『ハッハッハ。本来は魔物の主を屠り証を求めるべき使徒様が、その証を持て余すとは。何とも皮肉な事ですなぁ』
ハクの言う事は尤もなので、オレは苦笑いを浮かべ肩を竦めておいた。
スマートとは言い難いがオーガの主も無事に倒し、慌ただしかった一連の騒動もこれで一段落した事になる。
オレは事前に話していた約束の件も含め、これからの事をハクに話しかけた。
「ハクさん、これで終わったって事で良いんですよね?」
『勿論ですぞ。アルド様のお陰で、鬱陶しかったオーガのヤツも始末する事が出来ましたからな』
「じゃあ、前に約束してた件、向こう岸まで僕達を運んでもらえますか?」
『我はいつでも良いですが、向こう岸までは少なくとも半日はかかりますぞ。アルド様や御友人の準備はよろしいのですかな?』
「そうですね。これから皆に話してくるので、明日の朝からお願いしても良いですか?」
『分かりましたぞ。明日の朝、あの洞窟を訪ねましょう」
「ありがとうございます。では僕は戻りますね。それと、森を燃やしてしまってすみませんでした」
『我も少し感情的になってしまいました。森はまた気長に手入れします故、お気になさらずに。この度の件、本当にありがとうございました。次に来られた際には我の秘蔵の酒をふるまわせてくだされ』
こうしてハクと別れたのだが、秘蔵の酒……手も無いのにどうやって……もしかしてサル酒のように、果物を木の窪みに入れて発酵させているのだろうか?
せっせと果物を運ぶハクを想像して、少しほっこりしたのは秘密だ。
洞窟に戻るとカズイ達は嬉しそうな顔で迎えてくれた。
「アルド、お帰り。怪我は……無さそうたね。本当に無事で良かったよ」
「心配かけてすみません。全部、無事に終わりました」
そう言うとカズイは呆れた顔で口を開いた。
「アルドならそう言うとは思ってたけど……あんな大きな白蛇を味方につけてオーガも倒したんだよね?」
「まぁ、はい、そうですね……」
カズイだけで無くラヴィとメロウも呆れた顔でオレを見つめてくる。
「そうなんだ……なるべく驚かないようにしてるんだけど、アルドはいつも僕の想像を軽く越えちゃうからね」
「なるべく穏便にしようとしてるんですが、上手くいかないです」
考えている事は正反対だろうが、お互いに苦笑いを浮かべてこの件は終わった。
こうなると後はいよいよ海越えを残すのみである。
「後は海越えだけですね」
「そうだね。それで海はいつ越えるの?」
「それなんですが………………」
それからはハクと話した内容を説明していった。
「じゃあ、明日の朝、あの白蛇に乗せてもらって海を越えるんだね?」
「はい。ハクさんの話では半日ぐらいかかるそうです」
「半日か……」
「何か問題でもありますか?」
「いや、僕達は良いんだけど、馬達が大丈夫かなって……」
「あー、キキとククですか……」
先回の時はハクの口から首だけを出して、白目を向いていたんだった。
あれを半日以上か……キキ、クク、お前達は強い子だ、きっと耐えらえる!頑張れ、応援してるぞ!
2頭には心の底からエールを送ろうと思う。
それからは明日の海越えの準備である。
一度は片付けてしまった防寒着を出し直したり、荷物の整理をして海水が入らないように雨具で覆ったりと海越えの準備を行っていく。
恐らくだがハクの背中に乗って海上を移動すると、風の影響で体感は5℃から10℃ほど寒くなるはずである。
オレはエアコン魔法があるので問題無いが、流石に半日もの間、耐えさせるのはカズイ達が可哀そうだ。
ラヴィなど「山越えでもあるまいし防寒着なんていらないだろ?」と言ってサボっていたので、いかに海上が寒いかを詳しく説明してやった。
頬を引きつらせて自分の分の防寒着を用意していた姿は、思い出すと笑えてくる。
こうして夕飯の時間になるまで、手拭の準備や食料を片手で出せるようになど、細々とした事まで出来る準備を念入りに行っていった。
「後は明日の朝、ハクさんの背に荷物を乗せて、キキとククを咥えてもらえば完璧です」
オレの言葉に3人は眉を潜めている……そんな中、メロウが心配そうに口を開いた。
「アルド、あの白蛇は本当に信用出来るんだよな? 間違ってキキとククを食べっちゃったりしないよな?」
「大丈夫です……たぶん……」
「おぃぃぃぃぃぃぃ!たぶんって何だよ!!向こう岸に着いたらキキとククがいなくなって、代わりに白蛇のお腹が膨れてるとか。私は許さないぞ!」
「明日、ハクさんに釘を刺しておきますから大丈夫……のはずです」
「本当か? 信用しても良いんだよな? 本当に信用するぞ」
「大丈夫です。任せてください……」
心配そうなメロウに返事を返すと、キキとククも縋るような眼で見つめてくる。
アナタ達、人の言葉分かってませんか? 何でそんな眼で見つめてくるんですかね?
こうして一抹の不安を残しながらも海越えの準備を終える事ができたのだった。
次の日の朝、朝食の準備が終わると、全員を起こしていく。
「皆さん、起きてください!朝ですよ!ほら、メロウさん、それは食べ物じゃありません。カズイさんの髪ですよ」
何を寝ぼけているのか、メロウはカズイの髪を毟って食べようとしていた。
「いたっ!何? え? 痛い痛い!」
あーあー、カズイの髪が一部だけ毟られて、可哀そうな感じになっている。
「メロウ!その毛って僕のだよね? うわ、どれだけ毟ったんだよ!」
当のメロウは手に持ったカズイの髪を見ると、興味無さそうに捨てていた……ひでぇ。
朝食の時間もカズイの怒りは収まらずメロウに文句を言っていたが、メロウはスープの肉を頬張り目を細めて完全に無視している。
カズイもその様子に毒気を抜かれたらしく呆れた顔で溜息を吐くとオレに話しかけてきた。
、
「アルド、白蛇さんはいつ頃来るの?」
「朝って言ってたのでそろそろだと思います。それと白蛇さんは”ハク”って名前があるのでそっちで呼んであげてください」
「……分かったよ。人以外と話すのは初めてなんで慣れてないんだ」
それはそうだろう。オレもアオ達上位精霊以外となると、ハクが初めての人以外の種族である。
「僕も似たような物ですよ」
「そうなの? それにしては妙に慣れてる感じがしたけど……」
「そんな事ないですよ。あ、話してたら丁度、ハクさんが来ましたよ」
「ほ、本当だ……改めて見ると大きいね……」
遠くにハクの姿が見えるが、近くの木とハクの頭の高さが同じぐらいに見える。気を抜くと遠近感が狂いそうだ。
『アルド様、約束通り伺いましたぞ』
「おはようございます、ハクさん。今日はよろしくお願いします」
『いえいえ。約束通りオーガのヤツを倒して頂きましたからな。次は我が約束を果たす番ですぞ!』
「では申し訳ないんですが、早速荷物を積ませてもらっても良いですか?」
『どうぞどうぞ。我は寝そべっているのでどんどん積んでくだされ。それと荷物はしっかりと縛ってくれて構いませんぞ。海で落とすと諦めるしか無いですからな』
こうして1時間ほどかけて、ハクの背に荷物を縛っていく……そんな中、コッソリとハクに聞いてみた。
「ハクさん、咥えてもらう2頭の馬なんですが、食べちゃったりしないですよね?」
『大丈夫ですぞ、たぶん……」
「え? 本当に? いやいやいや、食べちゃダメですよ!絶対に」
『我も口の中に馬を入れて移動した事が無いので……因みに昨日は地面の凸凹で、2度ほど飲み込みかけましたぞ」
「マジか……」
それからハクには、こんこんと『食べちゃダメ、絶対』と言い聞かせたので大丈夫だと思う。
キキ、クク、万が一があったら、墓だけは作ってやるからな!
「それじゃあ、準備完了ですね。出発しますよ?」
「いつでも良いよ」「新しい世界へ!」「キキ、クク……無事でいてくれよ」
『我はいつでも良いですぞ』
「では向こう岸へ向かって出発です!」
「「「おーーー」」」
こうして向こう岸を目指して進んでいく。
因みにキキとククが口の中にいるのに何故ハクが話せるのかと言うと、どうもテレパシー的な何かで話しているらしい。
どうりで口から舌をチロチロと出しながら会話できてたはずだ。妙な所で納得してしまったのだった。
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