第324話ウーヌス大陸
324.ウーヌス大陸
向こう岸まで運んでもらうまでの間に、ハクへ気になる事を色々と聞いてみた。
ハクが最初にしっかりとした自我を得た時には、沢山の精霊と人が西を目指している所だったそうだ。
そんな沢山いる精霊の中に水を操る精霊がおり、『この地を守れ』と言われ主となったらしい。
それからは、気まぐれにやってくる小さな精霊達と会話をして知識を増やしていったのだとか。
そしてオレの最もほしい情報、フォスターク王国の位置をハクは知らなかった……と言うかハクのような存在からすると国と言う物が理解できないそうだ。
アルジャナやファーレーンの事も、山の向こうに人の群れが住んでいる、程度の認識であった。
当然のように海を渡った側の人の営みなど、考えた事すら無かったそうだ。
「そうですか……じゃあ、フォスターク王国の場所なんて分からないですよね」
『うーん……お役に立てず申し訳ありませぬ。我は人の営みには興味が無い故……」
「いえ、無理を言ってるのは僕の方なので。後は何でも良いのでハクさんの知っている事を教えて下さい」
『我の知っている事ですか……そうですな。では我が住んでいる大地はドゥオ大陸と呼ばれておりますぞ。海を渡った先がウーヌス大陸。後は遥か昔に魔物に飲まれたトーレス大陸と呼ばれる陸地もあるそうですが、我は行った事がありませんな』
「ドゥオ大陸、ウーヌス大陸、そして魔物に飲まれたトーレス大陸……他に大陸はあるんですか?」
『どうなのでしょう。我が精霊から聞いた事があるのは、その3つだけですぞ。春になるとおしゃべりな風の精霊がやって来るのですが、何も言わない所を見ると他には無さそうに思います』
「じゃあ、今から行くウーヌス大陸にフォスターク王国がある可能性が高いって事ですか……」
いきなりの情報に、思わず嬉しさが込み上げてくる……あ、ダメだ。笑みを堪え切れない。
『アルド様は自分の群れへ帰りたいのですなぁ』
「はい。あそこが僕の居場所です。何があっても絶対に帰ります」
強い決意でそう呟くと、ハクだけじゃなくカズイ達も優しい眼でオレを見つめてくるのだった。
それからもハクからは色々な事を聞く事が出来た。
特に興味深い所だと、動物の主であるハクは小さな精霊達が見え、望めば会話する事すら出来るのだそうだ。
「しかし、精霊ですか……もしかして、今も近くにいたりするんですか?」
『海の上ですからな。そこかしらに水の精霊が楽しそうに泳いでますぞ』
「おー、そうなんですか。僕には全然見えないですけど楽しそうですね」
『何をおっしゃいますか。アルド様には上位せい…………』
「あー!ハクさん!精霊が見えるなんてすごいなぁ!(棒)」
被せるようにハクの言葉を遮った所でオレが使徒だと言う事は内緒だったのを思い出し、ハクは身を固くした……キキとククが一瞬、ハクの口の中に吸い込まれて、見えなくなったのはきっと気のせいだと思おう!
ハクの話では、この世界には小さな精霊が満ちており、勝手気ままに漂っているのだとか。
そういった精霊でも纏まればそれなりのチカラはあるらしく、急な突風や通り雨などはこうした精霊が気まぐれで起こしている事があるそうだ。
「そうなんですか。じゃあ、精霊に頼めば雨を降らしてもらう事も出来るんですか?」
『そうですな。我も木々の水やりに、雨を降らせてもらう事がありますぞ』
少し込み入った事が気になったので、小声でハクに話しかけみた。
「ぼそぼそ……それはハクさんの能力なんですか? それとも動物の主は皆が持っているんでしょうか?」
『ぼそぼそ……どうでしょうな。他の主に会った事が無い故、詳しい事は分かりませぬが、恐らくは動物の主なら普通に持っている能力だと思いますぞ。人里に近いマナスポットの主は、人から守り神のように扱われるそうですからな。きっと人に頼まれ、雨を降らしたり止ましたりしているのでしょう』
「なるほど。アオも動物の主は土地神のような扱いをされてるって言ってました。きっとハクさんの言う通りなんでしょうね」
『ん?”アオ”と言うのがアルド様の精霊様なのですかな?』
「あ、そうです。名前はアオ。本人の話ではマナの上位精霊だそうです」
『マナの精霊……』
ハクは急に黙ってオレの顔をマジマジと見つめてくる。
「どうしました?」
『あ、いえ……新しい種族は上位精霊様の加護を受けて生まれてきます』
「そうみたいですね」
『であれば、マナの精霊の加護とは何なのか……新しい種族はどんなチカラを持っているのかと思いまして』
ハクの話はエルやアシェラ、マールとも何度か話した事がある事だ。
使徒になったばかりの頃、一度アオに聞いてみた事がある。
答えは「そんなこと僕にだって分からないよ。生まれれば分かるから早く子供を作りなよ」であった。
オレとアシェラ、エルとマールでそれぞれの顔を見合わせ、恥ずかしさから話はそこで終わってしまっている。
フォスタークに帰ってからにはなるが、その辺の事もアオに詳しく聞かないとなぁ……あ、帰る頃にはエルに子供が生まれている可能性が高いのか……
ここまでの旅で1年半、順調にティリシアを見つけられたとしても、同じぐらいの時間はかかるのだろう。
落ち込みそうな気持ちの中、思う事は……1歩ずつだ。アルジャナを越えて、難問だった海も無事に越えられている。残っている大きな問題は……ここが赤道付近として、北か南どちらにどのタイミングで向かうか、それだけだ。
それさえ分かれば……藁にも縋る思いでハクに頼み込んでみた。
「ハクさん、お願いです。向こう岸に着いたら、精霊に人が沢山いる場所を聞いてもらえませんか? 正直な所、ウーヌス大陸に着いてからの情報が殆ど無いんです」
『アルド様のほしい情報を知っている精霊がいるか分かりませぬが、その程度の事であればお任せ下され。我の出来る事であれば協力は惜しみませぬ。遠慮なく言って下され』
「ありがとうございます」
カズイ達はやはりハクが怖いらしく、基本的に会話に入ってくるつもりは無いようだ。
結局、向こう岸に着くまでの間、世間話と言う名の情報収集が続いていたのであった。
昼を少し回った頃、予定通りにウーヌス大陸へ降り立つ事が出来た。
ハクから荷物を降ろす事も後回しにして、全員が久しぶりの大地を満喫している。
カズイは体をほぐしている所をみると、ハクの上ではだいぶ緊張していたようだ。
メロウなどキキとククの体を必死になって拭いている……2頭はやはり口の中にいただけあってかなり生臭い……
最後にラヴィだが、新しい大陸に着いた事で辺りを見回したり、土を触ったりとせわしく動き回っている。
そんな中、改めてハクに向き直り、海越えのお礼を伝えた。
「ハクさん、本当にありがとうございました。ハクさんがいなかったらどうやって海を越えるか……きっと今でも途方に暮れてました」」
『いえいえ。こちらこそオーガのヤツを倒して頂いてますからな。お互い様ですぞ』
最初の出会いは最悪だったが、この気の良い蛇に出会えたのは本当に幸運としか言いようが無い。
お願いばかりで申し訳ないが、先ほど海の上で話した件を改めて聞いてみた。
「ハクさん、頼み事ばかりで申し訳ありませんが、さっきの件を精霊に聞いてもらっても良いですか?」
『人の群れの場所ですな。大丈夫ですぞ、とは言っても肝心な風の精霊が……お、いましたぞ。少し待っていてくだされ』
そう言ってハクは虚空を見つめ出す。
恐らくハクの言うように、視線の先には風の精霊がいるのだろうが、オレには気配すら感じる事は出来なかった。
アシェラはドライアドを辛うじて見る事が出来ていたので、もしかして魔力視の魔眼であれば下位の精霊でも見る事が出来るのだろうか。
5分ほどが過ぎ、ハクがゆっくりとこちらに振り返った。
『アルド様、聞いてみたのですが、風の精霊達は人の群れの位置を覚えておりませぬ』
「覚えてない? 何とか方向だけでも分かりませんか?」
『コヤツ達は普段、風に揺られて世界を漂っているのですぞ。ずっと前に見たとは言っていますが、方向や距離は……』
「そうですか……」
『まぁ、元々、我も風の精霊には期待していなかった故。アルド様の聞きたい事は、恐らく水の精霊が詳しいかと思います』
「あ、そうか。川なら上流に人が住んでれば、精霊に聞けば直ぐに分かるのか……」
『そうですぞ。人かいる川を見つければ、後は遡ればいつかは人の群れに辿り着くかと』
「後はどうやって川を見つけるか、ですか……」
『川はいつか海へ出ます故、そこらの精霊に川の場所を聞きましょうぞ』
おお、オレはハクの事を少しおバカだと思っていたが、全然そんな事は無かったみたいだ。
むしろ切れ者だった!ハクの兄貴だ!これからは敬意を払ってハクさんと呼ばせてもらおう。
『アルド様、水の精霊によると、近くに川があるようですぞ』
「本当ですか? 人は、上流に人はいるんでしょうか?」
『ちょっと待ってくだされ……ふむ、そうか……」
まるで告白の返事を聞くかのように、ハクの次の言葉に集中する。
『アルド様……残念ですが、川の上流には人の群れは無いみたいですぞ』
「……そうですか」
『稀に猟師が獲物を川で捌く事がある程度だそうです。群れに帰りたいアルド様には意味の無い情報でしたな……』
え? ちょっと待って……その川って街には繋がって無くても、人の生活圏は通ってるって事? マジ?
「ちょっ、ちょっと待ってください!その川の上流には人が生活してるって事ですか?」
『む? アルド様は人の群れに帰りたいのでは無いのですかな? 1人や2人の人がいた所で意味は無いのでは?』
「人は1人では生きていけません。誰かに出会えるのなら、その人はきっと街の場所を知っているはずです!ハクさん、申し訳ありませんが、その川の情報を聞いて下さい。お願いします」
『なるほど。人とはそう言った生物なのですか。我などは1人でも問題無く生きていける故、良く分からない感覚ですな』
アオと話しても感じるが、やはり違う種と言うのは根本の在り方が違い過ぎるようだ。
こちらが常識だと感じる事でも、向こうからすれば意味の分からない行動に見えてしまうらしい。
それからハクは暫く海を見つめながら独り言を呟いた後、オレに向き直って話しかけてきた。
『アルド様、分かりましたぞ。その川はここから海岸線沿いに北へ向かうとあるようですな。人が歩く早さであれば、10日はかからないと言ってますぞ』
「おぉぉぉぉ、ハクさん、ありがとうございます。これで帰れる……帰れるんだ……本当にありがとうございます!!」
「アルド、これで帰る目途がついたね。本当に良かった」「先ずはティリシアか。私のルーツになるわけだな……」「保存食もそろそろ心許ない。ここから食料は極力、狩りで調達しないとな」
こうしてオレ達は、特大の希望と共にウーヌス大陸に降り立ったのだった。
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