第325話修羅?

325.修羅?






海を渡って直ぐに、ブルーリングへ帰るための大きな手掛かりを得る事が出来た。

この情報を手に入れるために尽力してくれたハクには感謝してもしきれない。


「ハクさん、アナタに会えて良かった。本当にありがとうございました」

『アルド様、止めてくだされ。お互い様です。それにこの数日間は、久し振りに楽しくすごせました故、お礼を言いたいのはこちらの方ですぞ』


「そう言ってもらえると……僕達は明日の朝から、ジックリ腰を据えて川を探そうと思います」

『そうですか。であれば我はこのまま森へ帰ろうと思いますぞ。あまり長く森を空けて、良からぬ者が入り込んでもつまらんですからな』


「分かりました。ハクさん、本当にお世話になりました」

『なんのなんの。何かあれば直ぐに我を尋ねてくだされ。アルド様の頼みであれば、出来る限りの事はさせて貰いますぞ』


「はい、またいつか会いましょう」

『そこの者達も、何かあれば我を尋ねるが良い。このハクがチカラを貸してやろう」


いきなり話を振られたカズイ達は、驚きながらも思い思いに返事を返していく。


「あ、ありがとう……ございます。でも白蛇様に頼む事は思い付かないかなぁ……」「わ、私はアルドの弟子ラヴィだ!い、いつか手合わせを頼む……でも手加減はしてくれよ。ぼそ」「キキとククを食べないでくれて助かった。でも口の中はもう少し洗った方が良い……正直、生臭いぞ」


メロウさん、いきなり人の口臭をケチつけるのは良くないと思いますよ?


「ハッハッハ。面白い者達だ。縁があればまた会おうぞ。サラバだ』


そう言ってハクは海へと泳ぎだしていく。

改めて思う事だが、ハクは間違いなく土地神として祀られるだけの懐の深さを持っていた。


証をオレが持っている以上、きっとマナスポットの解放のために、再びこの地へやって来る事になるのだろう。

その時には是非オレの自慢の嫁達を紹介したいものだ。


ハクとの別れの後、次の日から海岸を北に向かって進んで行くと、8日が経った頃に大きな川が現れた。

ハクが精霊に聞いてくれた川は、恐らくこれなのだろう。


この川の上流に人がいる……思わず駆け出したい気持ちを押さえ込みながらも旅を続けていった。






川を遡り出して4ヶ月が経った頃。

4ヶ月が経って分かった事は、この川は最初こそ西へ向かっていたが、今ではほぼ北を向いて伸びている。


であればフォスタークやティリシアは北にあるのだろう。

どこかで北か南に向かう必要があるとは思っていたが、北が正解だったようだ。


思わぬ幸運に、改めて心の中で少しマヌケな白蛇に感謝するのだった。

そんなどこか浮つきながらも、人の痕跡を捜しながら川を遡っていたある日の事。


川の畔に小屋らしきを見つけたのだ。


「カズイさん、あれ!」

「え? 何? どうしたの?」


「あそこを見て下さい。あれって小屋じゃないですか?」

「え? あ、本当だ」


オレが指差す方向には、だいぶ年代物の建物が山と川の合間に建っている。あれは間違いなく人の建造物に違いないはずだ

ゴブリンやオークの物であるならば、少々作りが複雑すぎる。


このレベルの建物をオークやゴブリンが建てられるなら、街でも作ってしまいそうだ。

オレとカズイはお互いの顔を見て頷いてから、警戒しながらも小屋へ近づいていく。


慎重に外から中を覗うが、どうやら中に人の気配は無い。少しだけ躊躇したが”中に入らない”と言う選択肢は取れなかった。

緊張しながらもゆっくりと扉を開けていく……


小屋の中にはやはり人はおらず、代わりに大きなナイフやノコギリ、鉈やロープなどの道具が沢山置いてあった。

どうやらこの小屋は猟師が獲物をここまで運んで、解体するために使っているようだ。


改めて外に出ると川までの簡単な道があり、川の畔には動物の骨や毛皮の切れ端などが捨ててある場所があった。


「どうやらこの小屋は猟師が使っているみたいですね」

「そうみたいだね。ウサギやキツネ程度なら良いけど、ボアやディアなんかの大物は運ぶのが大変だから。きっとここで解体してるんだね」


「ここに居ればいつかは人に会えるのでしょうけど、問題はそれがいつかって事ですよね……」

「そうだね。もしかして数年に1度しか来ない可能性もあるしね」


もう一度小屋の中に入り、道具の状態を調べてみる。

鉄製のナイフや鉈は錆びが浮いており、少なくてもここ最近に手入れした様子は無い。


「うーん、この辺りを調べてみるのも手ですか……でもなぁ……行き違いがあってもなぁ」

「取り合えず今日はこの小屋を借りて休もうよ。これからの事はそれから考えれば良くない?」


「そうですね。ここで焦って答えを出す必要は無いですか」

「うんうん。今日は久しぶりに屋根のある建物で眠れるからね。明日からゆっくり考えよう」


「分かりました」


カズイの言うように、ここで焦っても良い結果に繋がるとは思えない。

であれば、まだ昼を回ったばかりなので、美味い物を食べてリフレッシュするためにも狩りに行こうと思う。


荷解きをカズイ達に任せて、早速オレは森の幸の採取に出かけていった。

季節は春なのだが、川を遡ってだいぶ北にやってきたからか山の中は少しだけ肌寒い。


「カズイさんたちからだいぶ離れちゃったな……ここらで良いか」


独り言を呟くと、最大の1キロで範囲ソナーを打った。

ソナーに反応は……動物と……お、オークの群れの反応が……む? これはマズイんじゃ。


オレは瞬時に身体強化をかけると、空間蹴りで空へ駆け出していく。

暫く空を駆けて、1本の大きな木の枝へと降り立った。


「この辺りのはずだけど……」


詳しく場所を調べなおすために、もう一度範囲ソナーを打とうとした所で、視界の端に必死で走っている魔族を見つけた。

そう、先ほどの範囲ソナーには、オークの群れから2人の魔族が逃げている反応があったのだ。


オークの巣が近いのか、眼下には10匹前後のオークが2人の魔族を追いかけている。

”カズイ達と会った時もこんな感じだったなぁ”と軽く思い出しながら、オークと魔族の間に降り立った。


『助太刀します!』

「fgふいおp;:@」


おっと、つい獣人語で話しかけてしまった。カズイ達は普段、ベージェの街の公用語である獣人語で話している。

つい癖で同じように獣人語で話しかけてしまった。


「助太刀します!」

「言葉が通じるのか?! た、頼む、助けてくれ」


「分かりました」


魔族の2人を見ると恐らく猟師とその子供なのだろう。弓と鉈を持った中年の男と荷物を背負った少年が疲れ果てた様子でこちらを見ている。

良かった、2人に怪我は無さそうだ。オレは直ぐさまオークへと振り返った。


ぱっと見で10匹前後……この程度であればどうとでもなる。

オレは心の中のスイッチを“戦闘“へ切り替えると、短剣二刀を抜いてオークの群れへと弾けるように突っ込んでいく。


走りながらウィンドバレットを10個纏い、魔力武器(大剣)を出す……すれ違いざまに先頭のオークの首を刎ねてやった。

そのままの勢いで群れの中へと入り込み、魔力武器を解除してオークの心臓、喉、頭部に短剣を突き刺していく。


群れの数が半分になった所で、待機中のウィンドバレットを残りのオークに撃ち込んでやった。

この間およそ3分。オークの死体が転がり、辺りにはオレ達の他に動く者は誰もいない。


さて、オークは全て倒した。第一印象は大切である……警戒させないように友好的に接しなければ!

返り血や飛び散った内臓にまみれたオレが満面の笑顔で振り返ると、何故か猟師の親子はオバケにでもあったようにその場で気を失ってしまうのだった。






カズイ達のいる小屋から近い事もあり、キキとククを使って猟師親子を小屋へと運ばせてもらった。

今は小屋の中に毛布を敷き、2人を寝かしている所だ。


本当は夕飯用に何か獲物を狩りに行きたい所ではあるが、あの2人が起きてカズイ達と何かあってもマズイ。

しょうがないので少なくなった干し肉でスープを作り、川で魚を獲って焚火で焼いている所である。


料理が良い匂いを出し始めた所で、小屋の扉がゆっくりと開いていく。


「おはようございます。気分はどうですか?」


極力、友好的に話しかけたと言うのに、何故か親子は青い顔で小屋にあった鉈を構えている……何故だ。

2人共、手を震わせていたが、父親の方が悲壮感を漂わせながらオレに向かって口を開いた。


「お、お前は何者だ?! お、オレ達をどうするつもりだ!」


いきなりの魔族語だったのでカズイ達は一瞬??を浮かべたが、直ぐに意味を理解して言葉を返す。


「ここにいるアルドがオークからアタナ達を救ったんです。僕達は敵じゃないので武器を降ろしてください」


親子はカズイ達の中に同族であるラヴィの姿を見つけると、少しだけ安心したらしく鉈は降ろしてくれた。

それから色々な話をしたのだが、いきなりアルジャナの事を話しても話がこじれる未来しか見えない。


結果、オレ達は中堅に差し掛かる将来有望な冒険者で、武者修行のために世界を旅してる、と言う設定で話をさせてもらった。

種族がバラバラなのは旅の途中で仲間が増えていったから、と親子には説明してある。


「………………と言う訳でティリシアに向かう途中で道に迷ってしまいました。そんな時、この小屋を見つけて腰を据えた所で、夕飯の獲物を探してたらお2人を見つけたんです」

「そうだったのか……疑ってすまなかった。オークを倒した後の君の姿が伝え聞く鬼のように見えてしまったんだ……」


「鬼ですか?」

「ああ……返り血と内臓で真っ赤に染まりながら、愉悦の表情を晒す……我らに伝わる『修羅』と呼ばれる鬼にソックリだった……」


…………ソウデスカ。修羅デスカ。ソウ、ヨバレタコトモ、アリマシタネー


「そ、そうですか……な、なるほど……修羅……それは怖かったでしょう……」

「ああ。失礼を承知で聞くが、ほ、本当に人で間違い無いんだよな?」


「はい。僕はフォスターク王国、ブルーリング領出身の人族です」

「ブルーリングは聞いた事は無いがフォスタークか。随分、遠くからやって来たんだな」


「はい……色々ありまして……こんな所まで来てしまいました。今は帰るために旅をしています」

「そうか。その年では親御さんも心配しているだろう。早く帰れると良いな」


「はい。ありがとうございます……」


フォスターク王国の名を出しても、普通に会話が出来る。その事にオレはどうしようもなく嬉しくなってしまう。

先ずは街に出て、フォスタークのお金をティリシアのお金に両替しなくては。


白金貨を1枚もっているので当面の資金にはなるだろう。

しかし所詮は10万円程度の価値なので、ティリシアでも冒険者登録をして路銀を稼ぐ必要はあるだろうが。




地図でゲソ(●^o^●)

直近の位置を追加しましたので、見てやってくだされー

https://kakuyomu.jp/users/bauo01/news/16818093073922288242

https://kakuyomu.jp/users/bauo01/news/16818093073922472554

https://kakuyomu.jp/users/bauo01/news/16818093073922544496


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