第6話誕生日 part1
6.誕生日 part1
今日は闇の日、休日だと言うのに自室で魔力操作の鍛錬をしている。
千里の道も一歩から。ローマは1日にしてならず。犬も歩けば棒に当たる。
ふと不思議な感覚があった。
体の中で魔力が集まると、その場所の力が強くなる気がするのだ。
(ふむ。ママンに聞いてこよー)
居間に向かうとお茶を飲みながら、エルと一緒に本を読む母さんを見つけた……しかし母さんの顔を見て考えが頭をよぎる。
(もしかして危険だと言われて、教えてくれないかもしれないな……母さんはエルに本を読んでて意識がこっちを向いてない。何でも無いふうを装いながら話しかければ……ポロっと教えてくれるかもしれない)
オレは気配を殺し、何気ない風を装って母さんに話しかけた。
「母様、魔力を腕に集めるとどうなるんでしょうか?」
かる~く、かる~く話しかける。
「ん?魔力を腕に集めるの?それは力が強くなるんじゃない?」
母さんはエルと本を読みながら、当たり前だと言わんばかりに答えた。
オレの眼が妖しく光る。
「そうなんですかー。防御も上がったりするのですか?」
軽く、軽~く。
「バカねぇ、防御は表面に魔力を纏わないと~」
母さんは本をめくりながら答える。
(なるほど、表面で防御が上がる。筋肉だと力が上がるのか。もうちょっと情報を吐かせたい)
「前衛には喜ばれそうですねぇ」
少しでも情報がほしい。
「そうねぇ 身体強化は前衛向きの技術ねぇ。ただ魔法使いも使えたほうが良いわねぇ……え?」
お茶に口をつけたまま、固まった母さんは“ギギギ”と音がしそうな動きでこちらを向く。
「母様!“身体強化”教えてください」
オレの声が部屋中に響いた。
母さんは蛇に睨まれた蛙のように、固まったまま脂汗をかいている。
「ま、魔法は、10歳にならないと」
母さんの掠れた声が響く……
「身体強化は魔法なのですか?魔法とは違って魔力を使った技術のようですが?」
先程の答えと母さんの態度で、身体強化は魔法の範疇から外れているはずだ。
「ま、魔法じゃないけど、魔力を使うし……限りなく魔法と言えるんじゃないかしら?」
眼が泳ぎまくった母さんを見て、オレは勝ちを確信した。
「魔法じゃないのなら大丈夫ですね。身体強化を教えてください!」
勝った……オレは満面の笑顔で答える。
「はう……」
敗者の溜息が部屋に響いた。
居間の一角------------------
「ハア、本当は教えたくないのよ?しょうがないから教えるけど、軽はずみには使わない事。これだけは約束して頂戴」
溜息を吐きながら、最後の抵抗とばかりに小言を言ってくる。
「軽はずみに使いません」
「つかいません」
きっと状況が判っていない、オレの真似をしてるだけのエルと一緒に答えた。
2時間後------------------
【アルドは身体強化を覚えた!てれてれってれーーーーーーーー♪】
身体強化は簡単だった。魔力操作で強化したい個所に魔力を集めれば良い。それだけだ。
魔力操作を習得しているオレは、すでに身体強化を使えていたのだ。
母さんも身体強化が使える様になるのは時間の問題だと思っていたからこそ、文句を言いつつ教えてくれたのだろう。
身体強化を覚えたアルドにラフィーナは呆れていた。
(ふぅ……アルにはかなわないわね。魔力操作を覚えれば、身体強化は使える。確かに間違いではないわ。ただし、実際には“筋肉だけ”を強化すれば骨や靭帯が持たない。身体強化を習熟させるには魔力を使いながら体を動かし長い時間をかけて少しずつ慣れていくしかないのよね)
身体強化は魔力操作により体の各所を魔力で強化する“技術”である。
それには筋肉、骨、じん帯、神経等に的確に魔力を配分する必要があり、魔力操作を覚えたばかりの子供が使えるようなものではない。
まさに“技術”と呼ぶに相応しい緻密な操作を必要とするものであった。
身体強化を覚えてしばらく経った頃の朝食。
「アル、エル、来週の闇の日は2人の誕生日だよ。2人が僕達の子供に生まれてきて5年。とても嬉しいよ」
朝食のパンを食べているといきなり父さんが話し始めた。
「誕生日!4歳の時に食べたケーキ、また食べられる?」
「たんじょうび?ケーキの日?」
「ケーキだけじゃない。ご馳走もあるよ」
「やったー」
「やったー」
「あと貴族は5歳の誕生日にお披露目があるからね。領民にもお祝いしてもらおう」
「お披露目って何?いつ?どこで?何するの?オレだけ?エルも?父様や母様は?」
「ちょ、ちょっと待ってアル。お披露目と言うのは領主の直系が5歳の誕生日に、このブルーリングの街の広場で顔を見せる事だよ。もちろんアルとエル、僕とラフィも一緒だよ」
「街の広場で顔を見せるだけかぁ それぐらいなら」
オレは安心して胸をなでおろした。その様子を見て父さんは笑い出す。
「アルは何を想像したんだい?」
「貴族のお披露目って言うから、みんなの前で自己紹介やダンスを踊らされるのかと思った……」
「ぷっ!あはははh……さ、流石に5歳児にダンスや自己紹介はさせないよ」
「……」
オレは無言の圧力で父さんを睨む。
「ごめん、ごめん、もう笑わない。本当にごめんよ」
「分かった……」
「じゃあ、予定通りに次の闇の日は広場でお披露目だよ。昼食の後ぐらいかな?。自分の名前ぐらいは言って貰う事になると思うから、心の準備はしておいてね」
結局、自己紹介するんじゃないか、と父さんに心の中で悪態をついた。
誕生日当日------------------
朝食が終わった頃
「じゃあラフィーナ、アル、エル、僕は先にお客様と一緒に広場へ向かうよ」
父さんがオレ達を見回して話し出した。
(街かぁ一度見てみたかったんだよなぁ。オレも行きたいなぁ。聞いてみるか)
「父様。僕も一緒に広場に行きたい。街を見てみたいんだ」
「うーん、ラフィーナどう思う?」
判断を母さんに投げるようだ。
「1人では流石に無理よ。誰か護衛は付けられるの?」
「そうだね……ちょっと聞いてくるよ。待っててくれるかな」
それだけ言うと執事に護衛の予定を聞きに父さんは席を外した。
「エルはどうする?アル達と行きたい?」
エルの方を向きながら母さんが聞いてみる。
「僕は母さまといる……」
「あら、エルは私と一緒がいいのね。じゃあお披露目まで一緒にいましょ」
母さんは微笑みながらエルの頭を優しく撫でて、頭に顔を埋めている。
暫くすると父さんが戻ってきた。
「騎士団の小隊長が、非番で娘さんとお披露目に来るそうだ。そこになら同行させて貰える事になったよ。アルどうする?」
身内が誰もいない状態になるためか、父さんはもう一度聞いてくるが、答えは決まっている。
「行きたい」
即答するオレの顔を見て、父さんと母さん呆れた顔で苦笑いを浮かべた。
そこからは直ぐに出かける事になり、父さんの後に付いて行くと30歳ぐらいの男が立っているのが見える。
男は180cmはありそうで、鎧こそ着ていないがザ・騎士!という見かけだ。父さんが近づいていくと男は敬礼で出迎えた。
「今日は急に無理を言ってすまない。これが息子のアルドだよ」
「いえ 私も娘と2人で持て余していましたから」
騎士は父さんに返事を返してから、オレの方に向き直る。
「第2小隊長のハルヴァだ。よろしく頼むよ。そしてこっちが娘のアシェラ、7歳だ」
「アルドです、今日はよろしくお願いします」
オレがハルヴァに挨拶を返すと驚いた顔を浮かべ、自分の娘へ挨拶を促した。
「アシェラ、お前も挨拶をしなさい」
「よろしく……」
7歳だと小学校2年生ぐらいか……しょうがない。
「よろしく!アシェラちゃん」
オレはアシェラに笑顔で話しかけた。
馬車での移動中--------------
オレは馬車の中から街の様子を眺めていた。
隣には父さん、向かいにアシェラ、斜め向かいにハルヴァの4人での道中だ。
「アシェラちゃんはどこに住んでるの?」
何気ない会話のつもりだったが、アシェラは話しかけられると思っていなかったのか、驚いた眼でこちらを見つめている。
「……もうちょっと先を曲がって、また曲がった所……」
スゴイ。同じ人族語なのにまったく分からない。
オレは笑顔が固くならない様に、気を付けながらも会話の糸口を探した。
そうして馬車の中の時間は過ぎていき、直に広場に到着する。
「じゃあ、アル。ハルヴァに迷惑かけないようにね」
父さんはお客様の相手に忙しいのだろう。それだけ言い残して、足早に歩いて行く。
しかし、慌てた様子の騎士が父さんに走り寄り小声で何かを話しかけた。
何かトラブルなのか、父さんと騎士の表情は渋い。
騎士と父さんが話し込んでいると、他の騎士がハルヴァに声をかけてくる。
「すみません。予定に無いお客様が来られ護衛が足りません。非番なのは分かっていますが、なんとか……」
騎士からの言葉にハルヴァは父さんに近づき話しかけた。
「護衛任務に入るのは問題ありませんが、アルド様の護衛はいかが致しますか?」
父さんはオレをチラっと見てからハルヴァを見た。
「アルは気にしなくて大丈夫。申し訳ないけど護衛を頼めるかい?」
「了解しました」
こうして急遽、ハルヴァは護衛任務に就くことになってしまう。
護衛の任務に入る前に、ハルヴァはアシェラに優しく話し出した。
「アシェラすまない……父さん仕事に行かなきゃいけなくなった。ここからなら1人で帰れるか?無理そうなら誰かに付き添いを頼むが……」
「……ううん……だいじょうぶ……かえれる」
「今度、アシェラの好きなお菓子を食べにいこう。本当にすまない……」
アシェラを抱きしめながらハルヴァは謝り続けている。
オレはというと広場の一角に行政の建物があり、そこなら安全という事で缶詰になってしまった。
(まあ、しゃーないか。街の中見て回りたかったけどなぁ)
オレは暇に任せて窓を開け外をボーっと見ていた。すると、とぼとぼと小さな女の子が歩いている。アシェラだ。
一人で帰れると言っていたが辺りを見回し、不安そうに歩いている。きっとハルヴァに心配かけないように強がったのだろう。
(本当に1人で大丈夫か?家は近くって言ってたし送ってくか)
オレは職員の目を盗みアシェラの下へ走りだす。
「アシェラちゃん」
アシェラはオレが後ろから呼びかけると驚きながら振り向いた。
「アシェラちゃん家まで送っていくよ」
「一人で帰れる……」
速攻で拒否の言葉が返ってくる。
「オレ、アシェラちゃんと友達になりたいんだ。だから、お家までオシャベリして帰ろう?」(オレ必死すぎ。日本なら案件だな)
「……」
「じゃあ、とっておき見せてあげる。だから一緒に帰ろう」(ちょっとでも気を引かんと)
オレはすかさず魔力操作で光の玉を作りあげた。アシェラの周りをフワフワと光の玉が舞う。
「うわぁ……きれい……」
光の玉をくるくると動かしてアシェラの前で停止させる。
「どう?オレのとっておき!一緒に帰ろう」(これでダメならもうストーカーで送るしかない)
オレの願いが叶ったのか、楽し気な声でアシェラが話しだした。
「うん。一緒にかえろう」
「うんうん。帰ろう」(よっしゃ、魔力操作覚えてて本当によかった)
流石にこの年の女の子を1人で帰らせるのは……一緒に石畳みを歩き、たわいない会話をしながら帰りの道を進んでいく。
街の人達は2人が歩くのを遠巻きに、しかし興味深そうに眺めた後、足早に歩く方向を変える。なぜか?2人の姿が貴族の姉弟に見えたからだ。
アルドは別にアシェラがなぜ貴族に?その理由はアルドの案内役として屋敷で貴族の服を着せられていたのだ。
護衛も付けずに貴族の子供達だけが歩いている。
“やっかい事はごめんだ”とばかりに街の人達は2人の周りからそそくさと離れるのであった。
路地裏から2人の姿を眺める男がいた。
身なりは良いとは言えず浮浪者か盗賊……まっとうな者とは思えない。
男は何かの合図を出した。合図を受けたのは……1人……2人。
合図を受けた男が2人、ゆっくりとアルドとアシェラに近づいていく。
男達は懐からボロボロの布切れを取り出すと、何かで濡れているのだろうか、布切れから雫がポタリと垂れた。
急いだ素振りは見せないが、かなりの早さでアルド達との間合いを詰めていく。
男達がとうとうアルドとアシェラに触れられる距離まで近づくと、後ろから2人を羽交い絞めにしながら口元に布切れを押し当てる。
アルは咄嗟に暴れたが、しょせんは5歳児のチカラ、何の役にも立たなかった。それなら!と思い拙い身体強化を使おうとした所で意識が遠くなっていく……
(しまった!クスリか……)
それに気が付いた時と意識が落ちるのは同時の事だった。
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