第5話魔力操作

5.魔力操作




魔力操作の修行を始めた翌日。

これから毎日どのタイミングで魔力操作の修行をするのか。オレは母さんに聞いてみた。


「そうねぇ。お昼寝が終わって夕食までの間はどうかしら?」


どうやら夕食前の時間らしい。

確かにその時間は特にやる事も無く、毎日ボンヤリと過ごしている。


そして何事もなく勉強、昼寝が終わりいよいよ約束の時間。


「母様。魔法!」(修行の続きキターーーー!)

「母さま。まほう!」


エルも楽しみにしていたようで、オレに続き母さんに催促している。


「分かったわよ」


オレ達2人の勢いに、母さんは楽しそうに答えた。



眼を半眼にし力を抜く……昨日教わった通り、視界は無くかすかに光を感じるだけだ。

瞑想状態に入ると、直ぐに自分の中の魔力を感じる事ができた。


(おー、改めて感じると不思議な感じだ。なんか寝起きのまどろみの中にいるみたいで気持ち良い……)


思った以上の心地良さでそのまま眠りそうになってしまう。


(あかん!寝ちゃうん)


オレは自分自身に“活”を入れて魔力操作の修行を再開した。


(たしか母さんは魔力を動かすって言ってたな。うーん、こうか?違う。じゃあ、これは?むぅ、ゆっくりは動いてるけど自分で動かしてるわけじゃないよな。これは、いろいろ試してみるしかないな)


初めての魔力を試行錯誤で動かそうとしてみるが、どうにも上手くいかない。

時間にして30分程であろうか、自分なりに魔力の操作を試してみたがキッカケすら掴めないでいた。


(独学ではキツイかぁ。これは母さんに聞いてみた方が早い)


瞑想状態からゆっくりと覚醒していくと、目の前に母さんに抱かれたエルがいた。どうやら眠っているらしい。

昼寝が終わったばかりなのに?一瞬、不思議に思ったが先程の魔力操作を思い出して納得した。


(あれは、気を抜くと寝ちゃうよな)


エルの顔を見ながら苦笑いをし、先程の質問を母さんにぶつけてみる。


「母様、魔力は感じられるようになったんだけど、なんだか勝手に動いてるだけで自分の意思で動かせないんだ。コツとかあれば教えて……」

「アルはどんな風に魔力を動かそうとしたの?」


どんな?一瞬、思考が止まるが、ゆっくりと先程の魔力操作を思いだした。


(自分の中でゆっくりと動いてる魔力を、早く動かそうとしたり、魔力の動く方向を変えようとしたり……)


先ほど瞑想中にやってみた事を、思い出しながら話してみる。


「魔力の動きを“早く”しようとしたり“方向”を変えようとしたけど、ちっとも動く気配がないんだ」


オレの答えが想定通りだったのか、母さんは微笑みながら説明を始めた。


「それじゃあ魔力は動かないわね、じゃあ、お手本を見せるから、良ーく見ててね」


母さんは指を1本立てて見せる。指がぼんやりと光りだした。その光が徐々に指の先へ移動する。光はそのまま指から離れていく。

ポカンとみていると母さんの指先の上、指先から5cm程の位置に光の玉となって浮いていた。


「これを光の魔力に変えて……ライト」


母さんが一言、呟いくと、ぼんやりとした光の玉が突然強い光を放つ。

強い光にオレは思わず目をしかめた。


「どう?今の魔法“ライト”に使った魔力は爪の先程度よ。アルは全部の魔力を動かそうとしたみたいだけど、それは私でも出来ないわ。最初はほんの少しの魔力を動かしてみて。それから徐々に大きな魔力を動かせるようになりましょ」


母さんの言葉に納得し早速、実践してみる。


体の中の小さな魔力を動かす。本当に小さな魔力だ。塩か砂糖の一粒程度。

ゆっくりと魔力が動きだした。ただし、その動きは遅々としたものだ。


「母様、魔力は動いたけどゆっくりで小さいんだ」


オレの言葉に母さんは苦笑いを浮かべながら返す。


「アル、急いではダメよ。皆そうやって魔力の操作を覚えていくの」

「上手になるまで どれぐらいかかるの?」


「そうねぇ、母さんはさっきの“ライト”ぐらいの魔力、爪先ぐらいの大きさね。あれで1週間ぐらい?だったかなぁ」

「あれで1週間かぁ。結構、時間かかるんだねぇ」


「アル、母さんはね、お師匠から10年に1人の逸材って言われてたのよ?アルはもうちょっとかかるかもねぇ」


母さんがちょっとドヤ顔を浮かべている。

そんな会話をしていると、母さんに抱かれているエルが、ゆっくりと目を覚ます。


「僕、寝ちゃってたの?」

「そうよ、とってもかわいい寝顔だったわ」


母さんが寝起きのエルの髪を、指ですいている。

エルはゆっくりと起き上がりながら、オレに聞いてきた。


「兄さま、魔法の修行は進んだの?」

「ちょっとだけな。すごく小さな魔力だけど動かせた」


エルは魔力が動かせたのが意外だったのか、オレに魔力を動かしてる所を見せてほしいと頼んでくる。

昨日と立場が逆になった形だ。オレはそのお願いを心良く引き受けた。


先程と同じく砂糖の一粒程度の魔力を動かしていく。上下、左右、ゆっくりとだがオレの意思通りに動かす事ができる。

ふと右肩に手の感触を感じた。きっとエルがオレの肩に触れたのだろう。右肩から1人分の空間が広がり始めるのを感じる。


その広がった空間に魔力を移動させ、2人分の広がりの中で魔力を動かしていく……暫くすると魔力がもう1つ増えてるのに気が付いた。

もう1つの魔力はエルが動かしているのが分かる。これでは昨日と全く逆だ。


それからは2つの魔力が近寄ったり、離れたり、時にはぶつかったり、混ざりあったり……

最初と比べると魔力の動きは驚く程スムーズに、まるで舞うように遊びだす。


どれほど遊んでいたのか、そろそろ終わろうかと瞑想から抜け出していく。

ゆっくりと眼を開けると、心配そうにオレ達の顔を覗き込み、今にも泣きだしそうな母さんの顔がそこにはあった。


体の状態を昨日のように細かく聞かれた。

大丈夫か?、痛い所はないか?、おかしい所はないか?、昨日と同じだ。


何がそんなに心配なのか理解できないが、心配してる事は判るので出来るだけ母さんに無事をアピールしながら瞑想の中での事を話していく。

一通り、説明が終わると母さんが難しい顔で話し出した。


「瞑想状態だと様子が判らないから母さんやっぱり心配なの。2人共、もう魔力は操作できるから瞑想状態じゃなくても修行はできるわ。明日からは普通の状態で魔力操作をしましょう!」


母さんは反論は許さない!と謎の気迫で瞑想の禁止を宣言する。オレは魔法に一歩でも近づけば問題ないので黙って従うのだった。




次の日の昼食後-----------




「さあ!今日から瞑想は禁止よ!」


昨日と同じく開口一番、母さんは瞑想を禁止した。


「まずは瞑想せずに魔力を感じてみましょうか」


そう言うと修行の方法を説明してくれる。


「基本は一緒よ。眼は閉じないで体の中に意識を向けてみて」


母さんの言葉でオレ達は立ち上がり自然体になる。

気を許すと瞑想に入りそうになりながら、意識を中に向けた。


(お!なんとなく分かるような)


なんとなく魔力が感じられる。隣のエルを見ると目が合った、どうやらエルも何か感じるらしい。

オレはイタズラを閃いた子供の様に、エルの手を握りしめた。そのまま魔力を感じようと自分の中に集中する。


しばらくするとハッキリと魔力を感じる。そこからは簡単だった。オレは体の中で一粒の魔力を動かす。

自分の中で魔力が舞うように動いている……すぐにもう1粒の魔力を感じた。エルだ。


普段のエルの様にエルの魔力もオレの後を付いてくる。徐々にスピードが上がっていく……2つの魔力が体の中を駆け巡る。

エルの体の中からオレの体の中へ、またその逆へ縦横無尽に2つの魔力は駆け巡る。


母さんの声が聞こえた


「それじゃあ次のステップにすすむわよ」


魔力で遊んでいたオレ達は声を揃えて


「はい、母様!」

「はい、かあさま!」


2人で嬉しそうに答えるのだった。


「2人共、次はちょっと難しいわよ。今までは体の中で魔力を動かしていたけど、ゆっくりと外に出してみましょうか」


母さんの言葉は段々と魔法に近づいているのを感じさせる。


「じゃあ、お手本を見せるわね」


母さんは昨日と同じく指を1本立てた。

ボンヤリと指が光る、光は徐々に指の先へ移動していく…


そのまま指先から離れ、5cm程上で光の玉になっている。昨日と同じだ、ここで光の魔力変化を行えば“ライト”の完成だ。

しかし母さんはそのまま“光の玉”を動かし始める。


母さんは“光の玉”を縦横無尽に動かしてみせた。時には舞い散る花びらのようにゆっくりと、時には誰かの投げるボールのように素早く、自由自在に動かしている。

ふと気づくと光の玉が2つ、3つ、と増えていく。部屋の中はまるで夢の中にいる様な不思議な光景を映していた。


しばらくすると光の玉が消え、静寂が訪れる。


「母さん、ちょっと張り切っちゃった」


ちょっとお道化た、母さんの声が部屋に響く。


「2人はまず魔力を体の外に出して動かしてみて。そこまで出来れば魔力操作の基礎は終了よ!基礎ができれば応用は覚えるだけで済むわ。何事も基礎が一番大切なのよ」


とりあえずの終了と聞いて、心を引き締めた。


指を1本立てて、魔力を集めていくと指先が徐々に光り出してくる。

自分の光る指を見て……ふと、これどこかで見た覚えが……〇T!!昔、見たE〇だ!(くだらない事を考えていた)


何度か試したが、オレもエルも魔力を指先から更に先、空中にはどうしても魔力を移動できなかった。

そろそろ夕飯の時間、オレはエルの手を握った。


「エル、最後だ。2人でやろうぜ」


オレの言葉に一瞬、驚いたエルが


「うん」


大きな声で答えた。



2人で繋いだ方の指を立てると、徐々に2人の指が光りだす。光は徐々に指先に移動していくか、やはり指先から空中には移動しない。

やっぱりダメか……諦めかけた、その時に声が響いた。エルだ。


「まだ。もうちょっと!」


一瞬、思考が止まる。はっとした次の瞬間にオレは恥ずかしさが込み上げてきた。

自分が始めた魔法の修行、エルは半分以上は付き合わされた形だ。そのエルより先に諦めかけた……心で負けた。


(4歳児に負けた……くぅぅぅ、ごめんエル。諦めちゃいかんよな!)


集中しているエルを、一瞬だけ見て再び指先に集中する。すると、ゆっくりとだが確実に光が空中へと動いていく……

隣で見ていた母さんが、驚きながら立ち上がった。


「は、初めてで出来ちゃった……」


母さんが乾いた笑いを零している。


正直、かなり精神的に疲れてしまった。思わずオレとエルはソファに倒れ込んでしまう。

ソファの上で横になりながらお互いの顔を見合うと、やりきった満足感が顔いっぱいに広がっていく。


「やったな、エル」

「うん!兄さま」

「アルもエルもすごかったわ」


母さんは呆れた顔をしながらも、心の底からオレ達の成果を褒めてくれた。


「これで魔力操作の基礎は終了ね。これからは反復で使える魔力を大きくしていきましょう」


魔力操作もここからの応用は魔法を使う時に覚えるらしく、次は10歳になってからだ。

ゆっくり確実に覚えていこうと思う。




深夜-------------




ラフィーナはここ数日の事を考えていた。


(2人での魔力の受け渡し……低い方の能力を高い方まで引き上げる。まるで魔力が共鳴しているみたい。魔力共鳴……)


アルドとエルファスの使う魔力の受け渡し能力、それをラフィーナは“魔力共鳴”と名付ける事にした。


(特に害は無さそうではあるけど……きっと魔力変化にも応用できるわ。あの子達は2人でなら、どこまででも飛んでっちゃいそう。なんにせよ、魔力操作は終了ね。基礎さえしっかり極めれば応用なんて1回聞いただけで問題ないんだから)


アルドとエルファス、2人の固有の能力なのか……双子の固有能力なのか、魔力共鳴と名付けた能力にラフィーナは少しの羨望を感じるのだった。




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