第407話ドラゴンスレイヤーpar2

407.ドラゴンスレイヤーpar2






副団長からの謝罪を受け、早 2週間が過ぎた頃。

あれからオレ達は直ぐにググの街に戻り、次の日には狗神の森のマナスポットを解放してブルーリングへ帰ってきた。


それからは、2ヶ月ぶりの我が家でノンビリと過ごさせてもらっている。

やはり自宅は最高だ。久しぶりにアシェラのお腹を撫でたり、オリビアといちゃついたり、ライラと勉強したりと、毎日 幸せを噛みしめている。


こんな不抜けた生活を送っていたオレだが、実は特大の悩みがあったりする……そう、団長達の件だ。

実はググの街を発つ際に、2週間ほどで王家へ話を通すので、戻ってきてほしいと頼まれている。


ブルーリングへ帰って直ぐに、エルと父さんへ今回の一連を説明した所、ググ領での権力闘争については、これ以上 首を突っ込まないようにと釘を刺されつつも、やはり王族への伝手は欲しいと言われてしまった。

そもそも獣人族や魔族、ドワーフの王族には、数年後ではあるだろうが、機を見てエルフの王族経由で使徒の件を伝える手筈になっていたのだ。


しかし、今回オレ達が身分を明かした事から、急遽 獣人族の王家と話をする必要が出てきてしまった。

エルフに仲裁を頼むか……そんな話も出たのだが、本音の話で言えばエルフに借りを作り過ぎるのも後々問題が出てしまう。


為政者である2人からすれば、エルフを頼らず他国の王族への伝手が手に入るなら、願っても無いチャンスなのだ。

オレも気持ちは分かるだけに、無下にも出来ずにいる。


一度、「エルが代わってくれても良いんだぞ? オレ達は双子だから、入れ代わっても分からないだろう?」と話してみたが、「先方との会話で、細かい経緯や辻褄が合わなくなります。それに王族への謁見で替え玉なんて、敵意ありと取られかねません」と返されてしまった。


父さんからも当然のように苦言を呈されてしまい、どうやらエルに押し付けるのは無理そうだ。

やっぱりオレが行くしか無いらしい……憂鬱だ。


王族への謁見とか……そんな面倒事が嫌で貴族籍を抜けたのに!


「行きたくない……」


オレの言葉に、アシェラとオリビアは呆れた顔を見せ口を開いた。


「アルド、我が儘 言っちゃダメ。ボクも本当はずっと家にいて欲しいけど……獣人族の王家と親しくなれる機会なんて滅多に無い。この子の将来のために頑張る……パパ」


!!! パパ! パパかぁ。しょうがないなぁ、パパ頑張っちゃうか!


「アシェラの言う通りですよ。私に出来る事なら何でもしますから、アルドは務めを果たして下さい。因みに、今夜は私の番です……」


オリビアは挑発的な笑みを浮かべながら、流し目でオレを見つめてくる。

ま、マジですか? じゃ、じゃあ、この前 断られた〇〇や××をお願いしちゃっても良いんですかね? ほ、本気にしちゃいますよ、オリビアさん?


オリビアは少し恥ずかしそうにしながらも、拒絶する様子は無い。

よっしゃーーーー! み、な、ぎ、っ、て、来たぜ!!!!


こうして、オレは憂鬱さと満足感を抱きながら再びググの街へと向かったのであった。






狗神の森に飛んだのは、オレ、ルイス、ネロ、カズイの4人だけだったはずなのに、何故かフェンリルが嬉しそうに舌を出してネロの隣に座っている。

お前って自由だよな? アオからの話では、常識人枠って聞いてたんだけど……


まぁ、どちらにしてもフェンリルは領域であるこの森から出られないわけで。コイツは放置で良いだろう。

それと、実は今回 再びググの街へ戻るに当たって、母さんとライラが付いてくると主張した。


しかし、いきなり仲間が2人増え、その人物が正式に貴族籍を持っているなど、怪しさ100%を超えて120%である。

諸々の話し合いの結果、母さんとライラは父さんとエルに止められて渋々 同行を断念した。


結局、予定通り以前のメンバーでの移動に落ち着いたのである。


『ふぅ、これで休暇は終わりか。しょうがない、グレートフェンリルの王族の顔でも拝みに行くとしようぜ』

『そうだな。因みに3人は、この2週間 何をしてたんだ?』


オレの問いに、ルイスはニヤケ顔を、ネロは良くぞ聞いてくれたとばかりに満面の笑顔、カズイは2人を見て楽しそうに笑っている。


『オレは娼館に入り浸ってたな。しかし、流石はブルーリングだぜ。綺麗処が揃ってやがる。流石に人数は少ないが、質は王都とタメを張れるんじゃないか?』

『オレはフェンリル様と修行をしてたんだぞ。だいぶウィンドバレットに乗れるようになってきたんだぞ!』

『僕はドライアド様と一緒にオクタールの復興を手伝ってたよ。でも最近、僕を従者様って拝む人が出てきてね。少し困ってるんだ』


どうやら、それぞれ充実した休暇を過ごしていたようだ……因みにルイス君、次は私を誘ってくれても構わないのだよ? 期待して待っていようでは無いか!

万が一 バレる事でもあれば、ルイスのせいにして逃げられるしな!


『ネロ、頑張ってたんだな。今度 修行の成果を見せてくれ。カズイさんはオクタールの復興を手伝ってたんですね。本当は僕も行きたいんですが……任せっきりになってすみません』

『分かったぞ。今度 模擬戦をして欲しいんだぞ』

『アルドはやる事が沢山あるからしょうがないよ。それに暇だったからドライアド様に付いて行っただけだからね。そんな風に言われると恐縮しちゃうかな』


ネロはフェンリルと嬉しそうにじゃれあい、カズイは照れた顔で謙遜している。

そんな中、ルイスは目を細め、頬をポリポリと掻いて口を開いた。


『おい、オレの話は無視かよ』


ルイス君や、君とは後で個別に話があるのだよ。この場には眩しいくらいの善行を行っている者が2人もいるのだ。

闇に潜む我々には眩しすぎる。


『あー、ルイス君や。その話は後程 じっくりと聞こうじゃないか。いや、使徒として市井の生活をだね、把握するのも仕事と言うか……』


ルイスは何かに思い至ったように、ニチャっとした笑みを浮かべている。


『なるほどな。確かに使徒様は市井の民の生活も知らないとな……特に女体の神秘なんて、是非知っておくべきだろ?』


ルイス君、君は私と言う人間を良く分かっているようだね。

後でじっくり、みっちり聞かせてもらおうじゃないか。


ニチャっとした顔で笑うオレ達を、カズイは苦笑いを浮かべながら肩を竦めていたのだった。






バカな話を終え、ググの街へ向かおうと歩きだした所で、フェンリルがいきなり立ち止まった。

何だ、コイツ……まさかマーキングでもするつもりなのか?


上位精霊に対して、かなり失礼な考えがよぎったが、フェンリルの前には何かの骨が散らばっている。

骨は見える物だけでもかなりの大きさで、生きていれば2、3メードはありそうだ。


犬だけに囓りたいのか? とも思ったが、その横顔はいつもの飄々とした物とは違い、悲しみを含んで寂しそうに佇んでいる。

フェンリルの態度から思い至ってしまった。


もしかして、これはウィンドウルフの主の前の主……狗神の物なのだろうか。

ジッと骨を見つめるフェンリルの姿は、まるで死者を悼むかのようだ。


「フェンリル、その骨は前の主……狗神の物なのか?」

「……くぅーん」


オレはイヌ語を話せない。しかし、フェンリルが「そうだ」と言ったのは何となく分かってしまった。

獣人族の国で犬の主……フェンリルからすれば、古巣に住んでいた自分の眷属って事か……


もしかして何百年も前に、獣人族の礎を築いた際、フェンリル自身が狗神を主にしたのかもしれない。

オレがウィンドウルフの主を倒して、1年半ほど……その1~2年前に狗神は倒されたはずだ。


フェンリルが狗神と最後に会ったのが数百年前……後たった数年生きていれば再会出来たのに……

勿論 その場合には、このマナスポットに飛べるようにはならなかったのではあるが。


何百年単位での出会いと別れ。オレにはスケールが大きすぎて いまいちピンとこないが、フェンリルの様子から察するに、悲しみが大きいのは理解できる。


「フェンリル、狗神に会えなかったのは残念だと思う。せめて墓だけでも作って丁重に葬ってやらないか?」

「わん!」


フェンリルは目に寂しさを秘めながらも、吹っ切るように元気な声で吠えたのである。

全員で狗神の骨を集め、墓穴を掘っているとそれなりの時間が過ぎてしまった。


しかし、骨を埋めて木の棒を刺しただけの簡単な墓であるにも関わらず、フェンリルは嬉しそうに尻尾を振っている。


「じゃあ、オレ達は行ってくる。父さん達が心配するから、あんまり暗くなる前に帰れよ」

「わぉーーーん!」


分かっているの甚だ不安だが、フェンリルは満足そうに太陽へ向かって吠えていたのだった。






狗神の墓を作っていたせいで、ググの街へ着いたのは日も暮れ始めた頃だった。

うーん……この時間から団長を訪ねるべきか、それとも宿を取って明日の朝に訪ねるべきなのか……


悩んだ末、今日は宿を取ることにした。

勿論 前回 攫われた件がある事から、夜は全員で交代して見張りをするのは当たり前の事である。


『ふぅ、あの大きさの穴掘りはキツかったな。流石に疲れたぜ』

『でも、フェンリル様、喜んでたんだぞ』


『まぁな。フェンリル様も何百年振りにグレートフェンリルへ里帰りが出来たし、後は王族との面会だけなわけだが……アルド、王との謁見の件、どうするつもりだ?』

『うーん……団長の出方次第にはなるだろうけど、なるべく地味に話せる場にしてほしいって頼むつもりだ。正直、謁見の間でとか考えたくも無い』


『そりゃそうだな。確かにオレ達は鎧姿で謁見のための服すら持って無い。謁見の間へこの格好のまま入ってみろ。笑われるのがオチだぜ』

『笑われる……あー、そうか。オレは良いとしても、相手の態度次第では後々 問題が出るかもしれないのか』


『まぁな、何時かは使徒だってバラす時が来るわけだし、今回 相手に侮った態度を取らせ過ぎると、後で禍根を残しかねない』

『知らない事とは言え、使徒に失礼な態度を取ったって事で、後々 罰を受けたりするって事だよな?』


『ああ。獣人族がどこまで他種族の使徒に礼を尽くすかは分からないが、軽く扱う事だけは無いと思うぜ。しかも、こっちにはフェンリル様がいるんだ。そこらの貴族程度じゃ、態度次第では首が飛ぶんじゃないか?』

『こんな事で人死にが出るとか……いっそ最初から使徒だってバラすか……そうすれば余計な心配は無くなるわけだし』


『それはどうなんだろうな。話がフォスタークにまで広まれば、エルファスやヨシュア殿の苦労が水の泡になる。先ずはドラゴンスレイヤーとして、舐められない程度に武威を知らしめるのが先だろうな。その上で王族と親交を深める事が出来たなら、使徒の件を話すのが良いんじゃないか?』

『なるほど。それしか無いか……』


『ああ、お前の武威を見せても侮るようなら、ソイツは多分バカだろうからな。放っておいても良いんじゃないか?』

『……』


バカとか……酷いルイスの言いように、少しだけ肩の荷が下りたような気がしたのだった。




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