第54話試験結果
54.試験結果
試験結果発表の日の朝食。
「アルド、エルファス、マール、結果が悪くても落ち込むな。そんな暇があれば次に生かせ」
「はい、お爺様」
「はい、お爺さま」
「はい、バルザ様」
朝食が終わってから早速、学園に向かう。
学園には既に沢山の生徒が、結果発表を見に来ていた。
魔法学科では成績上位者からSABCDとクラスを振り分けられるようだ。
人数の一番多い商業科など、最後はKクラスまであるらしい。
「さてオレはどこのクラスかな……」
まずはSクラスを見る……マールとオリビアの名前を見つけた。
「マール、Sクラスだぞ。おめでとう」
「よかった……マール、おめでとう」
「ありがとうございます。これで恥ずかしくない経歴を残せます」
オレはちょっと気になった事を聞いてみる。
「恥ずかしくない経歴って何だ?」
「え?あ、、、タブ商会の娘として恥ずかしくないって意味です。はい」
「ん?何か怪しいなぁ」
「な、何も怪しい事などありません」
「……」
「な、何ですか……」
「あ!」
「な、何ですか!」
「エルの嫁としてか!」
「ち、ち、、、、違いますーー」
マールはどこかに走り去っていく。エルもそのあとを追っていってしまった。
「マールはエルに任せて、自分の分を……」
Sには無さそうだ。じゃあAか?とAクラスを見て行く……無い。
び、Bか……無い。C……無い。D……
なんとDクラスの一番最後にオレの名前があった。
「ビリでも良いとは言ったが、本当にビリとか…無いわ……」
流石のオレもこの結果は……一夜漬けとはいえ、あれだけ勉強したのに……
「アルドはどこのクラスです?」
いきなり後ろからオリビアが声を掛けてきた。
「Dクラスに……」
「アルドがD?何かの間違いじゃないのですか?」
「分からないがDクラスみたいだ」
「私、試験官に聞いてきます!」
「お、おい……」
オリビアは“私、怒ってます!”とオーラを滲ませながら、すぐに見えなくなってしまう。
(異世界転生の諸兄の成績はだいたいトップだったのになぁ。ビリとか泣けるわ)
空を眺めながら現実逃避でもしよう。
暫くしてオリビアが戻ってきた。
「アルド、試験官に聞いてきました」
「お、おう……」
内心ではビクビクしていたが、なるべく表に出さないように気を使っている。
「魔法の試験で魔法を撃たなかったのですか?」
「ん?ちゃんと撃ったぞ」
「おかしいですね。魔法学科志望で魔法を使えないのでビリになったようです」
「そういえば……」
オレは試験の時の試験官の態度を思い出と、エアカッターを撃ったのに“早く魔法を撃ちなさい”と訳の分からない事を言っていた気がする。
「あの試験官か……」
「アルド、変な事は考えてませんよね?その試験官は魔法学科の先生で、次のSクラス担任のようです」
どうやらあの試験官はそれなりの地位にいるようだ。今さら言ってもミスを認めてくれるか……認めてくれたとしても禍根が残る可能性もある。
空を見上げてから大きな溜息を1つ吐いた。
「今さら言ってもしょうがない。Dクラスでボチボチやる事にするか」
「中間と期末テストの出来でクラスの入れ替えがあるそうですよ。アルドならすぐにSクラスに上がれますよ」
「そんな制度もあるのか」
ただSクラスになるとあの試験官が担任か……それも、どうなんだろう。
こうなると、Dクラスになってしまった物はしょうがないと割り切るしかない。
暫くするとマールとエルが戻ってきて、マールがオレの方をチラチラと見てくる。
「マール、オレは応援するぞ」
応援されるとは思わなかったのか、オレの言葉にマールは見惚れる程の笑顔を返してきた。
やべぇ、マールはちょっとキツめの美人さんだから、こんな表情は破壊力が抜群だ。
振り返るとエルは眼を細めて心底、愛おしいそうにマールを見ている。
そんな2人を見ていると、何故かアシェラの顔が頭にチラついた……
いかん……軽いホームシックにかかったみたいだ。
「エル、マール仲良くしろよ」
ここに1人だけいない誰かを想ってしまうのは、体に引っ張られて心も若くなってるのだろうか……
もしそうなら、悪くないな、と心の中で呟いた。
少し切ない気分になったが、学園はまだ始まってすらいないのだ。
切り替えて行かなければ。
これから入学に対しての説明が、配属のクラスで行われるらしい。
上級生は制服を着ている事から、どこかで買う必要があるのだろう。
「じゃあ、オレはDクラスに行ってくる」
そう言い残してDクラスへと向かう。
向かう途中、ふと思った事は、Dクラスって事はあまり素行は良くないのか?
(これは……テンプレの予感がする。きっと教室に入ると不良がいっぱいいるんだ……オラ、少しだけワクワクしてきたぞ)
Dクラスの場所を職員や上級生と思われる人に聞きながら、やっと辿り着く事ができた。
クラスの前に立ってニヤニヤしながら、扉を開け教室に入る。
Dクラスの第一印象は……普通だった。
席は40人弱だろうか。正面には教壇があり先生と対面で授業が進むのだと思われる。
しかし、黒板は無かった。どうやってメモを取るのだろう。先生の話を速記するのだろうか……
生徒を見回すと、様々な種族がいた。
恐らくはドワーフだろうと思われる者、そし……なんとネコミミがいたよ!
心の中で“オレは犬派だ”と唱えつつも、ネコミミから目が離せない。。
ゆっくりとネコミミから視線を下げていくと……なんと、男だった……生意気そうな眼で周りを見回している。
(男のネコミミなんて誰得なんだよ!)
一時は振り切れていたゲージが一気に萎えてしまった。
オレは肩を落とながら、空いている席に崩れるように座ると、不意に声をかけられた。
いきなりの事で少し驚いて声の方を向く。
「オマエ、最下位のヤツだろ?」
ネコミミだった。
せめてそこは“最下位のヤツにゃろ?”だろうが!
「あぁ、そうだ」
明らかに落胆した声音で返してやる。
「そう落ち込むなって。オレが面倒見てやるぞ」
何か普通に良いヤツそうだ。心の中でイジリ倒してたのが申し訳無くなってきた。
「どうした?」
「あ、いや、何でも無い。よろしく頼むよ」
「そうか、オレは獣人族のネロだぞ。よろしく」
「オレは人族のアルドだ」
こうしてオレはネコミミの知り合いが出来た。
ネロと学園や試験等の当たり障りない事を話していると扉が開いて先生らしき人が入ってくる。
「おはよう。私が1年間、このクラスの担任になるアンナよ。よろしくね」
年は20代中盤から後半だろう。背は普通、顔も普通、この特に特徴の無い女性が担任のようだ。
アンナ先生は制服の買い方から教科書の買い方、必要な物を話していく。
どうやら食堂の横に売店があって、そこで大抵の物は揃うようだ。
今日から入学の前日までに揃えるのが普通らしい。
「入学式でまた会えるのを楽しみにしているわ。では今日は解散よ」
アンナ先生の話が終わり各自が帰り支度を始めた。
エルとマールと合流して屋敷へ帰るか。
騎士学科との分かれ道へ辿り着くと予想通り、2人がいた。
「兄さま、遅かったですね」
「ああ、友達が出来て一緒に校舎を見て回ってきたんだ」
「もう友達が出来たんですか。流石、兄さまです」
「何が流石なのか判らんが、普通の事だろ」
そこからは帰りながらネロの事を聞かれる。
エルもマールも獣人は見た事がないらしく羨ましがられた。
そういえば冒険者ギルドでエルフのナーガさんとも話したし、教室にドワーフっぽいヤツがいた。見た事無いのは魔族だけか。
魔族ってどんな種族なんだろうな。3年間の学園生活が楽しみになってきたぞ。
こうして色々な爆弾を抱えながらも、取り敢えずは試験結果の発表は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます