第107話撲殺少女 part2
107.撲殺少女 part2
まずはどんな依頼があるか見ていると、アシェラがおもむろにギルドカードを取り出した。
ドヤ顔でオレに見せつけてきたカードには”E”の文字が見える。
「お前、Eランクになったのか!」
「ぶい」
満面の笑みでのVサインだ。
話を聞いてみると、天気の悪い日は別に週に1~3回程のペースで依頼をこなしていた。
しかも、母さんが暇を持て余していたらしく2回に1回は依頼に付いてくる。
母さんが一緒の時はCかDの依頼を受け高額の報酬を貰っていたらしく、そのお金でドラゴンローブを新調したらしい。
そして一度だけBランクの依頼も受けた。その依頼はオレ達にも縁がある”魔の森”の生態調査。
騎士団と一緒に泊りがけで移動し1日調査の計3日の依頼だ。
ハルヴァが調査の当日、冒険者の顔を見に行くと自分の娘とラフィーナがいて1分程フリーズしたらしい。
すぐに依頼を破棄する様に言うが2人は頑として首を縦に振らず、最終的にハルヴァも渋々同行する事になった。
父さんには母さんから事前に話がしてあった様で疲れた顔で”頼むよ。ハルヴァ…”と呟かれる。
そこからは騎士団と合同での調査だ。2人共、魔法使いと言う事で野営の設置から水の確保とかなり重宝され、後方支援に回されそうになる。
しかし、この2人がそんな命令を聞く訳も無く…勝手に魔の森を探索しだした。
しょうがなくハルヴァは大きな溜息を吐いて2人に付いて行く…
そうして調査の結果、前回の遠征軍から3年経過し予想よりも魔物の数が多い事が判った。
このまま放置すれば冬には食料が無くなり人里に降りてくる可能性が高いそうだ。
結果、早急に遠征軍が編成される事になった。出発はちょうど今日か明日のどちらかの様で、王都に来なければアシェラと母さんも参加していたらしい。
オレとしては”黒ゴブ”を思いだすのでオレのいない所で魔の森へは行って欲しくないのだが…
しかし、オレより強いアシェラにそれを言うのは、きっとオレのエゴなんだろう。
実際、今のオレが”黒ゴブ”に会ってもそれほどの脅威は感じないはずだ。強さだけならワイバーンと同格か少し強い程度なのだから。
アシェラなら魔法と格闘、状態異常で完封勝利もありえる。
オレがアシェラと話している間にルイスがDランクの依頼を受けてきた。
「アシェラのカード使わせて貰った。ありがとな」
「うん。大丈夫」
ルイスがアシェラにカードを返しながら礼を言う。
Dランクの依頼…ルイスに限って無茶な物は選んでいないと思うが、何の依頼を受けたのかルイスに聞いてみる。
「何の依頼を受けたんだ?」
「前から受けてみたいと思ってたんだが…”スライム捕獲”を受けた」
「スライムって、あのスライムか?」
「あのスライムがどのスライムか判らんがスライムだ」
オレは日本で有名な某ゲームの可愛らしい雫形のスライムを想像していた。
「スライムなんて何に使うんだ?」
オレの言葉に全員が驚いた様な顔をする…解せぬ。
「アルド、本気で言ってるのか?」
「ああ」
「…どこの街でもゴミを処分するのにスライムを使っている」
「スライムにゴミを…」
「そうだ。ブルーリングにもあったはずだ」
「知らなかった」
オレの言葉にエルが反応してフォローしてくれる。
「兄さまは僕達が基礎の勉強をしている時に、身体強化の修行をしていたので教えて貰って無いかもしれません」
ルイスはエルの説明に一応の納得をしてくれた。
そこから移動しながらスライムと都市のゴミ処理の話を聞く。
どうやら街だけじゃなく、それなりの村でもスライムは利用されている様だ。
大きめの穴を掘り、壁を垂直に2メード以上の高さにすればスライムは登って来れないらしい。
そこにゴミを捨てるとスライムが消化してくれると言う訳だ。
ただし、ある程度の大きさになると穴から出てきてしまうので定期的に殺して新しいスライムと交換する。
王都程の街になると”スライム捕獲”の依頼はほぼ毎日あるらしい。
それなりの危険はあるが確実で実入りの良いこの依頼は、中級冒険者への登竜門として認識されている。
「この依頼を達成すれば中級冒険者と胸を張れる」
「そんな依頼なのか。ちなみにスライムってどうやって捕まえるんだ?」
そこからはルイスが具体的な捕まえ方を話してくれた。
まずスライムは体がジェル状の酸だそうだ。素手で触れば火傷を負い、剣ではダメージを与えられない。
しかしスライムの中には5センド程の球体が浮かんでいる。これがスライムの核だ。
この核を抜き取るとジェル状の体は崩れ、触っても問題が無くなる。この核がスライムの本体なのだろう。
核を1日放置しておくと徐々にジェルが染み出してきて、2日目には辛うじて動く事が出来るようになる。
そこからはエサを溶かして放っておいても増殖していく。
オレは1つ疑問が出来た。わざわざ野良スライムを捕まえなくてもゴミ処理場のスライムの核を抜いて、そこら辺に放置すればいいんじゃないか?
ルイスに思った事をそのまま聞いてみると、昔はオレが言った事をやっていたそうだ。
しかし、人に近いからなのかエサが悪いのかゴミ処理場のスライムは徐々に狂暴化するらしい。
結果、安全マージンも考えてゴミ処理場のスライムは1度使うと殺す事となった。
「っと言うことだ。判ったか?」
ルイスが少し自慢げに聞いてくる。
「ああ、判りやすかった。ありがとう」
オレの答えが意外だったのかルイスは肩を竦めて、次の説明を始めた。
「次はスライムの生息地だが…」
ルイスが懐からメモを出して見せてくれた。そこには落書きだが地図が書いてあり、王都から街道を1時間程歩いた川の上流に巣がある事が判る。
「相変わらずルイスの仕事は抜け目がないな」
オレの言葉に本人は照れ隠しなのか肩を竦めて返してきた。
王都を出て街道を走る。歩いて川までが1時間、上流までが1時間として往復だと倍だ。移動で4時間も使う事になる。
川を遡るのに急ぐと事故があるかもしれない。一番、短縮し易いのは川までの移動との判断だ。
身体強化をして走ると15分程で川に到着した。
「じゃあ川沿いを上流に移動するぞ」
ルイスの指示に全員が従い、川沿いを縦1列で進む。先頭は斥候も兼ねたネロ、2番目は何かあっても”俊敏に動ける”と言う事でオレ、3番目が本来はルイスだが今日はアシェラが3番目だ。4番目がルイス、そしてシンガリの5番目が一番、防御力があるエル。
この列で川沿いをどんどん移動して行く。12月と言う事で草は枯れ、道は歩き易い。
たまに動物の気配がするが、オレ達の前に出てこないで逃げてしまう。
そうして1時間ほど経った頃、川の源泉なのだろう大きな湖に到着した。
「ギルドの資料には湖の中や傍にいて人や動物が近づくと襲い掛かってくるらしい」
「擬態してるのか…」
「一応はDランクの魔物だからな。不意打ちされるとBやCランクでも危険な相手だ」
「なるほど」
ルイスは小石を2~3個拾って水辺に投げ始める。
「音に反応して襲ってくるらしいからな。こうやって何か投げてやると…お、そこ動いたぞ」
ルイスの指差す方向を見ると石を取り込もうとしているヘドロの様な物が動めいていた。
「うげ、、雫型じゃなくてリアルタイプの方か…」
オレの言葉を全員がスルーする…するーする。なんかカワイイ…
「ルイス、どうやって核を抜き取るんだ?」
「ジェルの部分をそこらの木の枝で散らしてやって核が露出しだしたら抜き取るのが一般的らしい」
「木の枝?」
「ああ、武器でやると酸ですぐダメにされるって書いてあった」
「なるほど」
オレはそこら辺に落ちている木の枝を拾いスライムを叩いてみた。
すると枝が当たった場所のジェルが飛び散り、確かにスライムが一回り小さくなる。
このスライムは1メード程の大きさだから何度かやれば核が露出してくるのだろう。
正直、面倒臭い…もっと簡単な方法は無いのだろうか…
「ちょっと全員離れてくれ」
オレは皆に離れてもらってからスライムにウィンドバレット(非殺傷型)を撃ち込んだ。
ウィンドバレットは非殺傷型にもかかわらずスライムの体を貫通していく。直に核に当たり核を体の外に吹き飛ばした。
オレは”成功”を確信して核を拾うと見事に潰れている。
「アルドは適当すぎる」
オレの後ろからアシェラが覗き込み、潰れた核を見て呆れた様に呟いた。
「もう1回だ」
オレはそう宣言し次のスライムを探す。スライムは沢山いるらしくすぐに次が見つかった。
「いくぞ。ウィンドバレット(そよ風バージョン)」
これは競技会で使った最弱のウィンドバレットだ。一般人が殴った程度の威力しかない。
オレのウィンドバレットがスライムに当たり先程と同じように貫通していく。
先程は核を吹き飛ばす様だったが、今回は体の外へ押し出す様な挙動だ。
今回は期待をしながら核を拾う。良く観察してみるが潰れたり、傷が入っていたりはしていない。
「ルイス、どうだ?」
ルイスに核を渡して確認して貰う。
「大丈夫だと思う…ただ、オレもスライムの核なんて初めて見るからな。正確な所はギルドに納品しないと判らん」
「それはそうだな」
「1人ずつスライムを狩ってみて問題無ければ声の聞こえる範囲で手分けするか」
「判った」
エルはオレと同じウィンドバレット(そよ風バージョン)で核を取った。ルイスとネロは枝を振りスライムを小さくしてから核を取っている。
ルイスが途中、手をスライムに取り込まれそうになったが素早く魔力を纏って大事にはならなかった。
一応、回復魔法をかける前にソナーで状態を見たが、軽い火傷程度で放っておいても2~3日で治る程度だ。
そして最後のアシェラの番だがルイスの手を見たからだろう、腕に魔力を纏いスライムの体に突っ込みやがった。
そのまま核を掴むと体の中から抜き取る。装備が痛むので篭手は外し、ローブは腕まくりをしての凶行だ。
オレはあまりの事に口を開け呆然と立ち尽くすのみだった…暫くして我に帰り、急いでアシェラの腕にソナーを打つ。
まったく問題ない…傷1つ無い綺麗な腕だ。
「お、お前は何をやってるんだ!傷でも付いたらどうするんだ!」
オレが本気で怒っているのが判ったのか珍しく素直に謝ってくる。
「ごめん。大丈夫だと思ったから…それに傷が付いてもアルドが治してくれる」
「治せない怪我もあるんだぞ!」
「傷が残ってもアルドに貰ってもらうから大丈夫」
「お、お、お、、おま、、、、」
周りは砂糖を吐きそうな顔で2人を見つめていた。
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