第357話雑魚キング part2
357.雑魚キング part2
ファウルモール。アルドに雑魚キングと呼ばれた この魔物は、遥か昔にモグラが瘴気により変異した物である。
普段は土の中でジッと獲物を待ち続け、何かが通り過ぎた時に襲い掛かる魔物だ。
主食は主に小動物や虫、ミミズなどであり、土を掘るための爪を使って獲物を倒す。
これだけ聞けば隠密型の恐ろしい魔物のように聞こえるかもしれないが、雑魚キングと呼ばれる所以は唯一の武器である爪にあった。
土を掘る事に特化したその爪は、何と先が尖っていないのだ。しかも、モグラの体の構造上 爪を振りかぶる事も出来ず、襲われたとしても子供に殴られた程度の威力しか無いのである。
結果 酷い時には最弱と言われるゴブリンにも倒されると言う、悲しい魔物が爆誕したのであった。
「おーい、こっちは片付いたぞー」
「分かったー、次はそっちを頼むー」
「了解だー」
オレ達は今 順番に主へと向かって、ファウルモールを殲滅している所である。
ファウルモールは地上を歩くと襲い掛かって来る事から、安全を見てオレとアシェラが最初に降り立ち、襲ってくるファウルモールを殲滅して安全地帯をつくらせてもらった。
そこからはルイス、ネロ、カズイ、ナーガさん、母さんが、徐々に安全地帯を広げていっている。
「ナーガ、そろそろ休憩にしましょ」
「さっき休んだばかりじゃない。休憩はもう少し後よ。ほら、立って」
氷結さんが怠け者なのは言うまでも無いが、こうも母さんが疲れているのにはファウルモールの特性に問題があった。
ファウルモールは基本 頭上の物にか反応しない。当然ながら倒そうとすれば、頭上を歩いて襲われるしか方法が無いのだ。
結果 身体強化をかけて魔力を纏いながら、ファウルモールに襲われると言う愚行を続けているのである。
ネロやルイスは良い。前衛で近接戦は得意なのだから。
しかし、母さん、ナーガさん、カズイは目に見えて消耗していた。
「ナーガさん、ちょっと作戦を考えませんか? 無理してケガでもしたら意味が無いですし」
オレの言葉にナーガさんは少し考えてから、提案に頷いてくれた。
その返事を合図に安全地帯の中心で、それぞれが腰を下ろして体を休めていく。
「それで、アルド君。何か良い方法はあるのかしら?」
「そうですね……木の上から見てたんですが、ルイスとネロはファウルモールの攻撃ていど簡単に躱していました。であれば2人には囮になってもらって、地上に出たファウルモールを魔法使いで倒した方が良いんじゃないかと思うんです。きっとその方が効率も良いですし、何より安全です」
「それ良いわね! 出てくるモグラどもは私が叩き潰してやるわ!」
「僕もそうしてくれると嬉しいかな。あのモグラの1発ずつは大した事無いんだけど、何度も叩かれると地味に痛くて」
魔法使い組は賛成のようだが、問題は囮をするルイスとネロである。
「オレは大丈夫だぜ。問題無い」
「オレも良いぞ。正直 弱すぎて飽きてきたぞ」
どうやらルイスもネロも問題無さそうだ。しかし、一応は魔物であるので注意だけはしてかねば。
「分かったよ。じゃあ、ルイス、ネロ、頼むな。それと危ないと思ったらすぐに空へ逃げろよ。流石に囲まれて攻撃されたら危ないからな」
「ああ、分かってるよ」
「分かったぞ」
こうしてルイスとネロが走り回ってファウルモールを誘き出し、魔法使い組がモグラ叩きよろしく魔法で打ち抜いていった。
モグラたたきを初めて3日が過ぎた朝。
「皆さん、この調子なら昼には主の近くまで殲滅出来るはずです。50メードを切ったら悪いけどアルド君。ルイス君とネロ君の代わりに誘き出してもらっても良いかしら?」
「はい、大丈夫です」
「ナーガさん、ボクは?」
「アシェラさんは私達と一緒に待機で。アシェラさんの眼は、何かあった時のためにもギリギリまで索敵に当てたいの。それにアルド君に何かあっても、アシェラさんなら一瞬で移動できるでしょ?」
「分かった」
食事を摂り、各自が準備を終えていく。
「じゃあ、行きましょうか。順調に行けば、今日の夜はベッドでゆっくりと過ごせますよ」
10日も野営生活をしていると、ナーガさんが言うベッドが何よりのご褒美だ。
全員が気合を入れなおし、ファウルモールの主を目指していった。
「よし、ここらのは全部誘き出したぜ」
「ルイス! 少しマナスポットに近寄り過ぎだ。離れろ!」
「分かってるよっと」
そう言ってルイスは空間蹴りで空へと駆け出そうとした、その瞬間 マナスポットの横の地面が盛り上がり、ファウルモールの倍ほどの大きさの主が顔を出す。
「全員、退避! 空へ逃げて! アルド君、アシェラさん、お願い!」
「分かりました」
「分かった」
オレとアシェラはバーニアを吹かしてルイスと主の間に入り込んだ。
オレは短剣二刀を、アシェラは拳を構えて、先ずはルイスの逃げる時間を稼ぐ。
「絶対にここは通さない!」
自分に言い聞かせるように叫ぶが、主は周りをキョロキョロと見回してこちらを襲う処か、気にした様子すら無い。
「アルド、助かった。オレは大丈夫だ」
後ろからルイスの声が聞こえてくる。もうこれで移動しても良いのだろうが、主は未だにこちらを無視し続けていた。
「……」
どうすれば良いんだろう……攻撃しても良いのかな?
そんな焦れた時間を壊すかのようにアシェラが動いた。
アシェラは特に気負った様子も無く、トコトコと主へ歩いて行く。
「アシェラ、危ないぞ!戻れ!」
オレの言葉も聞かずに主の横まで移動して、何と前足の辺りを撫で始めたでは無いか。何やってるの? アシェラさん……
主はそのまま何故かアシェラに攻撃をしようとはせず、終いには顔をこすりつけている
「「「「……」」」」
本当に何してるんですかね? アシェラさん。アナタは魔物使いか何かなんですか?
全員が呆然とする中、更にアシェラは背中のリュックから干し肉を取り出し主へ食べさせ始めた。
「アルド、ソナーを打って」
「あ、ああ……触っても大丈夫なのか?」
「たぶん、問題無い。襲ってくるなら、ボクが責任を持って拳を叩き込む!」
「あ、はい……分かりました……」
アシェラに促されるままソナーを数回 打つと、どうやら右手の爪の1本が証のようだ。
「アシェラ、右手の爪の1つが証みたいだ。どうする?」
「ボクだと手ごとになっちゃうから、アルドがやって」
「分かったよ」
魔力武器(大剣)を発動し、最近 修行している単一分子の刃をイメージしていく……
「行くぞ!」
言葉と同時に魔力武器を振り下ろすと証は綺麗に切り落ち、くるくると空中を回ってオレの目の前に落ちた。
証が無くなった主はみるみる小さくなっていき、最終的には普通のファウルモールよりも2回りほど小さくなってしまった。
「こいつ……まだ子供だったのか……」
「そうみたい」
アシェラは主だったファウルモールの子供を抱き上げると、マナスポットから離して逃がしている。
主はその場で穴を掘りだし、数分もしないうちに見えなくなってしまった。
釈然としない気持ちを抱えながらも、次はマナスポットの解放をしなければ……
「……ナーガさん、範囲ソナーを打ちます。たぶん何もいないと思いますが、一応 警戒だけはしておいてください」
「分かりました。アルド君のタイミングに任せます」
ナーガさんの言葉を受けて100メードの範囲ソナーを打つが、辺りには魔物どころか動物の反応すら無い。
しっかりと安全を確認してからアオを呼び出した。
「アオ、証は奪った。これから解放するつもりだ」
「了解だ。いつでも良いよ」
左手に持ったファウルモールの爪をマナスポットに押し当て、魔力を込めて短剣を突き刺すと、みるみるうちに灰へと変わって行く。
オレは間髪入れず、使徒の証である右手の指輪をマナスポットへ押し当ててやる。
黒かったマナスポットは、綺麗な青に染まり出し、オレにとっては温かい光を放ちだした。
「解放しました、ナーガさん。後はアオがマナスポットの調整を終えれば、いつでもブルーリングに飛べます」
「はい……でも今回は何と言って良いのかわかりませんね」
ナーガさんの言葉は、全員の気持ちを表している……ナニコレ。
主と戦闘も無しに終わったと言うのに、この異常事態を起こした当の本人であるアシェラは、一仕事終わったような雰囲気を醸し出し、全く悪気は無さそうである。
「アシェラ、あのファウルモールが子供だって分かってたのか?」
「ううん。ただ周りのファウルモールが食料を運ぶのは、もしかしてと思った」
「なるほど……繁殖に加護を振って、周りの雑魚は自分の子供だったろうに……それでも当の本人はいつまでも子供だったって事か?」
「分からない。でも、あの態度は親を探す子供に見えた」
アシェラも全部が分かった上での行動では無かったと言う事だろう。
「次からは止めてくれよ。万が一 顔に傷でも残ったらどうするんだ」
「そうなってもアルドはボクを捨てたりしないから大丈夫」
「そりゃ、お前を捨てたりなんか絶対にしない! でも……お、オレはお前の顔が好きだから……ごにょごにょ」
「……うん、ありがと」
2人でモジモジとしていると、後ろから氷結さんの声が響く。
「アンタ達、こんな所で盛らないの。周りを見てみなさい」
母さんの声に驚きながらも周りを見てみると……あー、何かすみません。
ルイス、ネロはジト目で、カズイは呆れ顔、ナーガさんは何故かハンカチの端を噛んでいた。
ナーガさん……「キーーー」って声が聞こえてきそうです……
こうして何とも締まらない形ではあるが、オレ達は初めて主との戦闘無く、マナスポットの解放に成功したのだった。
アオはマナスポットの上で丸くなっており、マナスポットの解放にはまだ当分かかりそうだ。
オレ達は手持ち無沙汰で他愛も無い会話をしながら、暇な時間を潰していた。
「しかし、こんな事もあるんだな」
「流石に戦闘も無くマナスポットを解放したのは始めてだよ。オレもビックリしてる」
「そうなのか? いつも、こんなのばっかりなら良いんだけどな」
「まあなぁ。でも、中々そう上手くはいかないよ」
オレがルイスと話している間、ネロは会話に入るでも無く、マナスポットの上で丸くなったアオを見つめている。
「ネロ、どうした? アオが珍しいのか?」
「精霊様が薄く光ってて綺麗なんだぞ。フェンリル様もあんな感じなのかな……」
ネロの言葉に、つい先日 エルから聞かされた話を思い出した。
「そう言えばエルから聞いたんだけどな、フェンリルがネロに会いたがってるらしいぞ」
「え? フフェンリル様が? オレに?」
「ああ。どこかでアオが、ネロの事をフェンリルに話したらしいんだ。それからはちょこちょこネロの事を聞きにやってくるみたいだぞ。まぁ、マナスポットの中での話みたいだから、オレも良く分からないんだけどな」
「フェンリル様がオレに……アルド! オレもフェンリル様に会いたいぞ!」
ネロは嬉しくてしょうがないと言った感じで、オレに顔を近づけてくる。
「お、おお……アオが起きたら聞いてみるから……そ、そんなに顔を近づけないでくれ。もう少しでキスしちゃうだろ」
するとネロはオレから離れて嬉しさのまま、オレ達の周りを飛び跳ね出した。
「やったぞーー! フェンリル様に会えるぞーー!」
「あ、いや、会えるかどうかは、まだ分からないからな……って聞いて無いし……」
ネロはフェンリルが自分に会いたがっていると聞いて、今までに見た事が無いほど喜んでいる。
しかし、この喜びよう……本当に会えるんだろうか……もし、ダメだったら……チラッと母さんを見ると露骨に目を逸らされてしまった。
アドと言う実例もあるし、大丈夫だとは思うが……そんな不安と共にアオが目覚めるのを待つのであった。
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