第365話伝説の技
365.伝説の技
母さんの頭が半分 剃り上がった次の日。
どうやらナーガさんの話では、エルフの秘薬の中には髪を生やす物もあるらしく、ブルーリングに帰ったらアドに作ってもらう事で母さんの怒りに一応の決着がついた。
しかし、良い事を聞いた……秘薬には発毛剤があるのか。なるほど、どうりでエルフにハゲがいないわけだ。
ブルーリングに帰ったら、アドから製法を聞き出す事を固く心に誓ったのだった。
エル、ルイス、ネロ、カズイも決意を秘めた目をしていたので、思いはきっと同じなのだろう。
これでオレ達の将来への憂いが、1つ確実に無くなるに違い無い。
男連中の希望に満ちた顔を見て、女性陣がアホを見るような眼で見てきたのはきっと気のせいだ。
そんな何処か緩い空気の中、改めて離れていた間の事を聞いてみた。
「母様、何か少しでも異変があったら教えて下さいね。それとナーガさん、パーティを分けてた間の事を聞かせて下さい」
「分かったわよ」
「はい。アルド君達と分かれてから…………」
ナーガさんからの話ではマナスポットまでの移動は順調だったが、主との戦闘の後でで少しだけ問題があったのだとか。
そんな主はオーク。小さなマナスポットだけあってエンペラーまでは至らず、オークキングだったそうだ。
オークキング程度、エルとアシェラ、更に母さんとナーガさんがいれば、そう苦労も無く倒す事が出来たらしい。
しかし、ここで問題が発生したそうだ。オークはファンタジーでもお馴染みの他種族を使って繁殖をする魔物である。主を倒した後、念のため巣を壊していた際に、人族とエルフの女性が数人囚われているのを見つけたのだとか。
直ぐに女性達を解放したのだが、全員がオークを1匹以上は出産したらしく、体以上に心が疲弊していた。
酷い者だと「殺してほしい」と願い出て、とても放っておいて良い状態では無かったらしい。
どれだけ説得しても、攫われる前の場所に戻る事を拒否した女性達は、秘密を守る事を条件にブルーリングへと飛ばし保護したそうだ。
今はブルーリングにいる、マールとオリビアが彼女達の世話をしているらしい。
「そんな事が……」
「はい。エルフが3人と人族が2人。人族の方はどうやら商隊を守っていた冒険者だったようですね」
「そうですか。マールとオリビアなら、任せておけば、きっと大丈夫です。じゃあ、次は僕達の方ですが…………」
ナーガさん達の話の次は、こちらの報告だ。
最初に拠点となる洞窟をコンデンスレイで作り、そこからはオクタールから出てくる雑魚を倒した事と、夜襲で消耗戦を仕掛けていた事を説明した。
「それで門まで主が出てきたんですか、納得しました」
「上位種も4匹中、2匹は倒してあります。主が出てきたのは、どうやら思った以上にオーガ達を疲弊させていたみたいです。分かっていれば、もっとオクタールから離れて合流したのに……母さんが負傷したのは僕のミスです。本当にすみませんでした」
「アルド君、反省は大切な事ですが、自分を責め過ぎてはダメです。冒険者はどうやっても、危険は付き物なんですから。今回は運良く助かった。そう割り切る事も大切な事ですよ」
「そうね。魔物とは言え、相手がいて命のやり取りをしてるんだもの。向こうも必死よ。アルもサッサと忘れなさい」
「はい……割り切れるよう、努力します……」
母さん達の言う事は正しいのだろう。しかし、オレはそう呟くしか出来なかった。
沈んだ空気を変えるように、改めてナーガさんが洞窟を見回して口を開いた。
「この洞窟を極大魔法で作ったのですか……話には聞いていましたが、凄いですね。この岩肌……溶けてる?」
「私も色々な魔法を見てきたけれど、アルとエルが使う、この魔法以上の物は見たこと無いわ」
「ラフィーナでもなのね。そんな極大魔法があるなら、いっそここからオクタールを狙撃するのも手ね……」
「待って下さい。マナスポットを壊すのは最後の手段です。出来れば壊さずに解放したいです」
「それは勿論です。ただ事ここに至っては、マナスポット以外の物は考えから捨てましょう」
「それはマナスポットが無事なら、オクタールの街に被害が出ても構わないと言う事ですか?」
「そうです。エルフは領軍だけで無く、国軍ですらオクタールを落とせませんでした。本来であればエルフはオクタールを放棄して、被害が広がらないように守りを固めるしか方法は無いはずなんです」
「なるほど。であれば街の被害は無視しても良いと……」
「幸いな事に、門は壊れていても城壁は殆ど無傷なようですし、極大魔法を撃ってもオーガが逃げ出す場所は限られます」
「確かにオクタールには、門が南と西と東に1つずつあるだけ……城壁が崩れている場所を無視すれば、イタズラにオーガが散らばる事は無いですか……」
「オーガがオクタールに籠城して地の利を使うのであれば、こちらもそれを利用するのが得策です」
「でもコンデンスレイを僕が撃つとして、3つの門には誰を配置するつもりですか?」
「本当は魔瘴石があると良いのですが、無いのであればパーティを3つに分けるのが良いと思います。アシェラさんと私、エルファス君とカズイ君、ルイス君とネロ君とラフィーナ。この3つ。最悪は空に逃げられるので、この配置が一番無難だと思います。流石にソロは何かあった場合、対処できませんから」
「魔法使いをそれぞれに配置するのは。前衛のサポートですね」
「そうです。エルファス君とアシェラさんに比べれば、ルイス君とネロ君は少々見劣りがします。そこは後衛で最強のラフィーナを充てます。アルド君の護衛がいないですが、この洞窟であれば問題無いかと」
ナーガさんの策は一見 穴が無さそうに見える。1つだけ気になるとすれば主が現れた場合だ。
空に逃げても母さんを攻撃した投石がある。
アシェラやエルであれば主とは言え投石程度どうとでもなるはずだ。しかし、ルイス、ネロ、母さんは……
オレが悩んでいると、ルイスとネロが眉根を下げて口を開いた。
「アルド、お前等に比べれば、オレ達は頼りなく見えるだろうけどな。それでも、やらせてくれないか? ここで引いたらオレはこの先、お前に追いつけなくなる。頼む、アルド」
「ルイスの言う通りだぞ。オレ達は対等なんだぞ。いつまでもアルドに守られてるだけじゃ無いんだぞ!」
2人の言う事は分かる。しかし、ほんの数時間前には、母さんの命が危なかったのは事実なのだ。
オレが尚も考え込んでいると、次に母さんが口を開いた。
「アル、アナタが心配する気持ちは良く分かるわ。ただ今回だけは絶対に引かないわよ。あのクソオーガ、絶対に私の手でグッチャグチャのギッタンギタンにしてやるわ……絶対によ!!!」
あー、ここまで怒った氷結さんを初めて見た……コレはオレが何か言えば10倍になって返ってくるに違い無い。
「分かったよ、ルイス、ネロ。その代わり約束してくれ。絶対に死なないって。母様もですよ」
「分かった、安全マージンは十分に取る。オレは絶対に死なない。これで良いか?」
「オレはアシェラみたいな嫁さんをもらうまでは、絶対に死なないんだぞ!」
「私が死ぬ? その前に、あのクソオーガをぶっ殺してやるわ!」
約1名、怒り心頭ではあるが、これで自分の安全を優先してくれるだろう。
攻めると決まれば、もう少し具体的に作戦を詰めたい。そこからは全員で『タイミング』と『攻め方』を相談していった。
そして相談の結果、オクタールを攻めるのは、オーガが寝静まった夜中に決まった。
やはり主の投石が脅威である事に変わりが無い以上、少しでも安全を取りたい。
今は半月なので、明るすぎず暗すぎ無いのも助かる。アシェラは魔力視の魔眼、ネロは獣人族だけあって夜目が利く。魔族のルイス、エルフのナーガさん、カズイも人族よりは夜目が利くそうだ。
こうなると夜襲で一番 不利になるのは、人族であるエルと母さんである。
しかし、母さんは後衛であるので、不利ではあるものの危険に直結はしない。
「エル、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。最悪はライトの魔法を浮かせれば良いだけですから。それより兄さまの護衛が無い事の方が、僕は心配です」
「この洞窟なら問題無いよ。でもライトの魔法か……エル、オレの知っている話ではな…………」
オレが話したのは宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いだ。
ライトで強い光を自分の背後に出せば、相手からは非常に見え難く、こちらからはハッキリと敵が視認出来る。
「兄さま、それ面白いです! それも『使途の叡智』ですか?」
「そんな大した事じゃない。大昔の人で一生を賭けて『勝つ』事に拘った人がいるって話だ。眉唾だけどその人は、生涯 風呂に入らずワザと臭くなって相手に隙を作ったそうだぞ」
エルだけじゃなく、全員が露骨に嫌そうな顔をしている。特に女性陣は嫌悪感を隠そうともしていない。
「さ、流石にそれは……僕にはちょっと……」
「そこまでやれとは言って無い。ただ、ちょっとした工夫で有利にも不利にもなるって事だよ。それに逃げる時にも、強いライトの光は有効かもしれないな」
「確かに……ちょっと試してみても良いですか?」
エルはそう言うと、思い当たる節があるのか、全員でライトの練習を初めてしまった。
オレはと言うと、1人もう1歩先を考えている。光……目くらましか……確かクリ〇ンの技で自分を光らせる物があったよなぁ。
「ルイス、ちょっと良いか?」
「ん? 何だ?」
「悪いがオレの前で大剣を構えてくれないか? ちょっとライトの魔法で考えた事があるんだ」
「良いけどよ……ただ来ると分かってて、流石に目くらましは食らわないぜ」
「ああ、分かってる。どれぐらい有効かを知りたいだけだ」
「分かったよ」
ルイスは不敵に笑いながら、オレに大剣を向けてくる。
「じゃあ、行くぞ。ライト!」
その瞬間、オレの頭が強い光を放つ!!
「うわっ! ちょっ、待て! 待ってくれ!!」
ルイスは大剣を取り落とし、必死に自分の目を擦っている。周りを見ると、ルイスほどでは無いが全員が目をシパシパさせていた。
1分ほどが経ち、視力が回復したルイスが呆れた顔で話し出す。
「お前……今のは反則だろ。未だに目がボヤけるぞ……」
「スマン、ちょっと魔力を込め過ぎたかもしれん。でも、この明るい中で、この効果なら主にも効きそうだな」
ルイスとの会話にナーガさんが入ってきた。
「今の魔法は視力に頼っている者であれば、人であれ魔物であれ十分に脅威です。因みにアルド君は今の魔法をどれぐらいの時間で発動できますか?」
「時間ですか……たぶん準備に10秒? ぐらいで撃てるかと。要はライトの魔法ですし……」
「そうですか……今のを10秒で……」
何故かエル以外から生暖かい目で見られてしまう。エルだけは嬉しそうな顔でオレの肩を掴み、魔力共鳴をしていたのだった。
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