第123話アオ part1

123.アオ part1



青いキツネ?が指輪から飛び出してきた。

いきなり”名前を付けろ”と言われたが正直な所、オレの頭はこの事態に追いついていない。


少しの間、フリーズしていたら”青いキツネ?”が話出した。


「おいおい。初対面だから可愛さを全面に出したんだぞ?使徒さんよ。しっかりしてくれよ」


さらにこの”青いキツネ?”は猫かぶってやがった……さっきの可愛らしい声から2オクターブは下がった気がする。

尚もフリーズしていると”青いキツネ?”が露骨に溜息を1つ吐いた。


空中を何でも無い様に歩いてオレの目の前までやってくる。フリーズして動けないオレの額を短い右足でタシタシと叩いてきた。


「おーい。聞こえますかー。もしもーし」


額をタシタシと叩きながらバカにした様に声をかけてくる。

流石に少し”イラッ”として右足を払いのけようとしたが体が動かない。


「おっ。やっと反応した。じゃあ、まずは名前を付けてくれよ」

(体が動かないから声も出せないんだよ!)


「あー。周りに人がいたから、取り敢えず時間を止めておいたんだ」

(時間を止めた?何言ってるんだこのキツネは……)


「お!キツネってのが僕の名前なのか?」

(え?キツネは動物の名前だが…)


「何だよ。早く名前を付けてくれよ」

(ちょっと待ってくれ…何で普通に意思疎通出来るんだよ……時間止めるとか……しかも使徒……そもそもお前は何なんだ……一気に詰め込み過ぎなんだよ!)


「君、使徒なのに何も知らないのか?」

(知らねぇよ!そもそもオレは使徒なのか?)


「使徒じゃ無かったら僕と会話出来ないだろ。何言ってるんだ」

(それも分からないんだよ!)


「今代の使徒はちょっと頭が足りないのか……最悪は種を残すのに専念させるしか……でも瘴気をどうにかしないと……」

(今は何も分からないんだ。順番に教えてくれ)


「その前に名前をつけてくれよ」

(なんで、そんなに名前に拘るんだよ!)


「何で?そんなの契約する為に決まってるじゃないか。ちょっとこの足りなさはマズイかもな……」

(名前を付ければ色々と教えてくれるのか?)


「ああ。良い名前を付けてくれよ」

(ハァ。分かったよ……青いキツネ…ドイツ語でブラウフォックス フランス語でブルルナァ…ブルナ。ブルマみたいだなぁ。却下。スペイン語でアズルスォロ…アズルス…難しく考えすぎか……)


改めてこの青いタヌキを見つめてみる……青い……あお……アオ。


「決まったか?」

(ああ、お前の名前は”アオ”だ。シンプルで良いだろ?)


「アオ……うん。良い名だ。」

アオは突然光りだしたかと思うと”青い光”そのものに変わっていく。

そして動けないはずなのにオレの右手が勝手に持ち上がり、”青い光”の前に差す出される。


ワイバーンレザーアーマーの手の部分はいつの間にか脱がされ今は床に転がっていた。

ゆっくりとアオだった光はオレの右手へと近づいて来る。


”青い光”は右手全体に纏わり付いてたとおもったら中指に集まっていき、最後には”青い指輪”へと姿を変えた。




アオが”青い指輪”へ変わると同時に母さん達の声が聞こえ出す。どうやら時間が動き出したらしい。


「アル!」


母さんが辛そうな顔をしながらオレの肩をつかんだ。

振り向くと母さんだけじゃない。アシェラとエルも辛そうな顔でオレを心配している。


「すみませんでした。取り敢えず出ましょうか」


そう言うオレに母さんとエルは頷いたが、アシェラだけはオレの右手の指輪を凝視していた。

母さん達が辛そうなので取り敢えず廊下に移動する。


「すみません。僕はどうしてましたか?」


オレの質問に母さんが怪訝な顔をして答えてくれた。


「覚えて無いの?ハァ、フラフラと指輪に歩いて行くから止めようとして何度か呼びかけたのよ。それでも聞こえて無いようだったから肩を掴んで振り向かせたの……」

「そうでしたか……」


「ちょっと危険かも知れないわね。指輪はまた今度にしましょうか…」


母さんがそう言うとアシェラが緊張した顔で聞いてくる。


「アルド……その指輪どうしたの?」


アシェラ以外の全員がオレの右手の指輪を凝視してきた。


「これか。オレにも夢か現実か良く分からなくてな……」

「その指輪は急に現れた。お師匠が肩を掴む瞬間、急に強い光を放って現れた……」


オレは誤魔化すのは無理だと判断して全てを正直に話す。


「これから言う事は夢みたいな話でオレ自身も本当の事かどうか分からない。それでも聞くか?」


アシェラの眼を見て話すとゆっくりとだが頷いている。母さんとエルも同じ様だ。


オレは先程のアオとの出会いから指輪になるまでの事を正直に話す。

途中の”時間が止まる”と言うのは理解が出来ないと思われるので”心の世界”で話した。と嘘を吐かせてもらった。


「……っと言うわけでアオが言うにはオレは使徒なんだそうだ」


母さんが渋い顔でオレを見る。


「自分で言っておいて何だけど……本当に使徒だったなんて……ハァ、それで使徒様はブルーリングの窮状を救ってくれるのかしら?」


オレはゆっくりと首を振った。


「この指輪のチカラが分からないんです。アオは名前を付けたら色々教えてくれる。と言っていたんですが、やっぱり畜生なんですねぇ。何の役にも立たない」


オレがアオの愚痴を言うと指輪が薄っすらと光出す。


「おい。誰が畜生だ。全く今代の使徒は頭だけじゃなくて口も悪いとは……」


いきなり指輪になったはずのアオが目の前に現れたかと思うと、怒ってますとポーズを決めて文句を言い出した。

正直、意味が分からないのだが驚くのにもいい加減、疲れた。


「おう、さっきぶりだな。今度はちゃんと口で話せるな」


アオにそう返すと母さんに肩を掴まれた。


「アル、それ、何?」

「え?あれ?見えるんですか?あの青いキツネモドキが……」


「見えるわよ!浮いてるじゃないの!何者なの?」

「あ、これがさっき言ったアオです。何者……そう言えば僕もコイツが何者なのか知りません」


「知りませんってアンタ……」

「ちょっと聞いてみますよ。何か驚くのに疲れちゃって」


母さん、アシェラ、エルに呆れた眼で見られながらオレはアオに聞いてみる。


「さっきの話の途中だが、色々と教えてくれるって事で良いんだよな?」

「ああ、少しでも賢くなって貰わないと、こっちも困る」


「まずはお前は何物だ?」

「は?本気で言ってるのか?」


「ああ」


アオはオーバーなリアクションで天を仰ぐ。


「僕は自信が無くなってきたよ。ここまでとは……」

「それでお前は何なんだよ!」


オレを一瞥して露骨に溜息を吐きやがった。そろそろ切れそうだ。


「精霊に決まってるだろ。精霊王様の分体でもある」

「精霊……」


「使徒って何の使徒だと思ってたんだよ。”精霊の使徒”だろ。だったら精霊に守られてるのが当たり前じゃないか」

「オレを守ってくれるのか?」


「当たり前だろ。ただし僕には戦うチカラは一切無いから。僕は頭脳労働派なんだ」

「……じゃあ、どうやって守ってくれるんだ?」


「まず僕のチカラが及ぶのは……そうだな。人間の分かる範囲だと……メード。1万メードって所かな」

「1万メード」


「そう。その中なら魔力は減らないって言うか、減ってもすぐに補充してあげるよ」

「!!魔力を!」


「ああ。後は……やっぱり今はそれだけかな」

「それだけでも十分だ。これでブルーリングを守れる」


オレが喜んでいると母さんが口を挟んでくる。


「他には何をすれば、どんなチカラを貸して貰えるのかしら?」


アオが母さんを一瞥して話はじめた。


「何で関係無い人間が首を突っ込むのか分からないけど教えてあげるよ」

「……お願いするわ」


「他のマナスポットを開放すればマナスポット間を繋いであげる」

「マナスポット?」


「そんな事も知らないなんて……人はこの1000年何をやってきたんだい?」

「……教えて貰えると助かるわ」


母さんの額に青筋が浮かび出す。コイツ一々煽って来るんだよなぁ


「マナの吹き出す場所じゃないか。ちなみにここもそうだ。昔、精霊王様がマナを指輪の形に変えて人に託したんだ」

「伝承は本当だったのね……」


「そのマナスポットはどこにいくつぐらいあるのかしら?」

「うん?ちょっと待ってよ。今は大きいのは50個ぐらいかな。場所は世界中だよ。海の中にだってある」


「マナスポットを繋ぐって具体的にどうなるのかしら?」

「は?繋ぐんだよ。自由に行き来できる様になるんだよ。頭大丈夫?」


あ。ダメだ。氷結さんの周りにウィンドバレット(魔物用)が15発漂ってる。本気なヤツじゃないですかーやだーー


「精霊はもうちょっと言葉使いを考えた方が良いと思うのは、私だけかしら?」


アオが滝の様な汗を流しながら硬直している。





「スンマセンデシタ!!」


10分後、氷結さんに教育されたアオが”腹”を見せて謝罪の言葉を叫んでいる。本人曰く服従の証なんだとか。


「おい。アイツは何なんだ。逃げても追いかけられて捕まる未来が見えたぞ」

「未来?」


「あ?ああ、僕はたまに未来が見えるんだよ。自分で制御出来ないし、変わる事もある未来だけどね」

「未来……ブルーリング。この街の未来が見えるか?」


「無理だね。制御出来ないって言っただろ」

「そうか……」


そう簡単にズルはさせてくれないらしい。


「そう言えば、さっき言ってたマナスポットの開放って何をすればいいんだ?」

「マナスポットには大抵”主”がいる」


「”主”…」

「ああ。マナスポットは善も悪も無い。ただのマナの噴出孔だ。そこに生き物が触れるとマナスポットと繋がりが出来る。動物ならそれだけなんだけど問題は魔物が触れる場合だ。魔物は瘴気を持ってるからね。マナスポットを瘴気で汚染するんだ。正直、”使徒”が生まれたって事はこの世界の半分以上のマナスポットが瘴気で汚染された事になる」


「瘴気……」

「ああ。これを放置すれば大地は枯れ、海は干上がり、この星の生き物は死に絶える」


「使徒の仕事って言うのは世界中のマナスポットの主を倒して代わりにオレが主になる事なのか?」

「その通りだよ。やっと少しだけ賢くなったね」


こいつは……母さん以外には相変わらず毒を吐く。


「さっきから出て来る瘴気って何なんだ?」

「瘴気……元は人が持つ”負の感情”だね。少し長くなるけど良いかい?」


「ああ……」


そこからアオは瘴気と人、マナストリーム、精霊王、の関係をはなし始めた。



正直、話が大きすぎて付いていけなかったのだが。

それでも自分なりに理解しないといけない。オレ自身のこれからの事だろうから……




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