第124話アオ part2

124.アオ part2



アオは瘴気と人、マナストリーム、精霊王、の関係を話始めた。


「まずは人は死ぬとどうなると思う?

「死ぬと……天国とかの話か?」


アオはバカにした顔を向けてくる。


「そんな”人の創作”はどうでも良いんだよ。人は死ぬと体から魂が抜けるんだ」

「魂……」


「魂はゆっくりとマナへと変わって行く。人によって1分だったり10年だったり。未練によってその長さは違う。ただ必ず最後はマナへと帰るんだ」

「マナ……」


「そして、そのマナは大きな流れへと帰る。マナストリーム。この星を流れる血の流れの様な物だと思って欲しい」

「マナが血でマナストリームが血の流れ……」


「そうだ。しかし、ここで問題が出て来る。生物の魂の中で人の魂だけが異常に悪意を含んでいるんだ」

「悪意……」


「その悪意に汚染されたマナを古来から瘴気と呼んでいる」

「瘴気……」


「瘴気は動物を魔物へ変え、土地を枯れさせるんだ」

「……」


「使途の役目は瘴気の浄化。魔物を滅し、汚染された土地を浄化して欲しい」

「魔物を倒すのは分かるが土地の浄化なんて出来ないぞ」


「そこは僕の出番だ。指輪をした手で汚染された土地に触れれば僕が瘴気を浄化するよ」

「それは助かる」


始めてアオと意識を共有出来た気がした。


「話は変わるけど、使徒は精霊王様をどう思う?」


アオは話をぶった切っていきなり話題を変えてくる。


「神話では神様から世界の管理を任されたんじゃなかったか?」

「それは正確じゃないな。精霊王様はマナストリームそのものなんだよ」


「マナストリームそのもの?」

「生き物の最後がマナ、そのマナの流れがマナストリーム、精霊王様は全生物の意識の集合体なんだ」


「スマン。想像が出来ないんだが……」

「まあ、そうだろうね。ここは聞いてくれればいいよ。瘴気が増えすぎれば意識の集合体としての精霊王様が病むんだ。それを放置すれば最後はマナストリームが壊れる。星の崩壊だ」


「さっきマナスポットの半分を汚染されたって言って無かったか?」

「ああ、マナスポットは噴出孔だ。すぐに全体に影響は出ない。ただ今、何とかしないと未来は暗い物になるだろうね」


「そうか……」

「最初に比べて格段に賢くなったんじゃないか?これなら繁殖以外にも希望が持てる」


「さっきから種を残すとか繁殖とか何を言ってるんだ?」

「ん?新しい種族の事じゃないか」


「新しい種族?」


少しはマシになっていたアオの眼がまた見下した物へと変わって行く。


「使徒の子供は新しい種族になるのは当然じゃないか」

「新しい種族ってのが分からないんだが……」


アオは溜息を吐いて話し出した。


「良いかい。最初は”人族”だけの世界を”使徒”が現れる度に新しい種族が生まれたんだ。”エルフ族””ドワーフ族””獣人族””魔族”と」

「ちょっと待ってくれ……」


「何だい?」

「オレの子供は”人族”じゃないのか?」


「当たり前だろ。さっきから新しい種族になるって言ってるだろ」


オレだけじゃない。後ろにいる母さん、エル………そしてアシェラもオレと同じ様に驚いているはずだ。

しかしオレは振り返ってアシェラの顔を見る事ができなかった。


驚きの後でどんな表情をされるか……喜び?悲しみ?……拒絶?

オレは言葉を発する事も出来ずに俯く事しか出来ない。


後ろから足音が近づいて来る。そのままオレは抱きしめられた。


「アルド。ボクは何があってもアルドに付いて行く……」


前に回された手を握り締め、絞り出す様に返した。


「ありがとう……アシェラ。愛してる……」

「ボクも……」


どうやらオレはとんでもない物に巻き込まれた様だがアシェラとなら……

アシェラの優しさに感動しているとアオが空気を読まずにぶった切ってきた。


「ちょっと待ってよ。”使徒”は種を残して定着させないといけないんだよ。1人で良い訳ないだろ。最低でも100人とは子を成してくれないと」


お、おま、そうだったとしても今、ここで言うか?


後ろから伸びていた腕が優しくオレを抱きしめていたはずなのに……いつの間にかベアハッグの様な圧力を感じる。


「アルド……浮気はダメ。良い?」

「はい!当然です!」


やっと腕の圧力が緩んできた。


オレはまだ13歳だ。子供の話は先延ばしにさせて貰おう。

大体、使徒については分かった。分からない事はまたアオに教えて貰えば良い。


取り敢えずはゴブリンの事だ。魔力を回復してくれると言うなら是非そのチカラを試させて貰おう。


「アオ。ここに来ればお前に会えるのか?」

「僕はその指輪が本体なんだよ。使徒が念じれば僕に届くに決まってるだろ」


「その使徒ってのは止めてくれないか。オレはアルドだ」

「アルド……頭が足りないくせに良い名だね」


「ありがとよ。じゃあ早速魔力を回復してくれ」

「ん?分かったよ」


アオがそういうと指輪から魔力が流れ込んできた。

これなら魔力を気にしないで戦える。


そう言えば、エルも魔力が減っていたはずだ。


「エル。魔力を回復するぞ」


そう言いながらエルの肩を掴んで魔力を渡した。その瞬間、アオが急に光出し”青い光”へと変わる。

”青い光”はエルの前まで移動すると何か戸惑う様な動きを見せた。しかし、エルがゆっくりと右手を持ち上げて行く……


オレはマズイと思い、エルを止めようとするが体がピクリとも動かない。

エルの籠手が落ちて行く……”青い光”はゆっくりとエルの手に纏わり付いてやがて指輪へと変わる。


エルの右手の中指にはオレと同じ青い指輪が光っていた。




30分後-----------




氷結さんが頭を抱えて座っていた。


「母様、そう気を落さずに」


氷結さんは顔を上げてジト目でオレに睨みつけてくる。


「ブルーリング領は助かってもブルーリング家は断絶するじゃない!」


氷結さんの言い分はこうだ。

オレとエルは2人共が使徒になった。


アオの言う事が本当ならオレ達の子供は”人族”では無い。

ブルーリング男爵領は人族の国の中の一つの領地である。


ここに他種族の領主が許されるはずも無く……

最悪はクララに婿を取らせると言う事になるのだろう。


こっちは最後の解決策があるとして……もう1人、頭を抱えている者がいる。


「エル。不用意に魔力共鳴をしてスマン……」

「いえ。わざとやった分けでも無いですし、兄さまがしなくても魔力の回復の為に僕がしてましたよ……」


エルの言う事はその通りだろう。しかしエルはオレが15歳で家を出る。と言ってからマールと相談しブルーリング家を継ぐ気でいた様だ。

思いっきりエルの人生設計を狂わせてしまった。


ブルーリングの街を救ったとしてもマールはどう思うのだろうか……不安だ。

アシェラが言うにはマールはエルに付いて行くらしいが……ハァ


オレ、エル、母さんが落ち込んでいるのに何故かアシェラとアオが意気投合し遊んでいる。

いや、あれは調教していると言うのが正しいのか……


アシェラはこの中でも個の武力は最強だろう。

アオはそれを感じているのかアシェラの言う事には逆らわない。


今も手拭いを丸めたボールを投げて取りに行かせている。アシェラ、そいつは精霊王の分体らしいぞ……

オレは背中に冷たい物を感じながらも見ないフリをする。




色々あり過ぎて疲れた。


「母様、エル、一度、自室へ戻って休憩しませんか?夕食も食べないと……」

「アルは魔力が回復してるんじゃないの?」


「魔力は満タンですが凄く疲れました……」

「とっても、分かるわ……」


「エルも休憩したく無いか?」

「はい。僕も魔力はアオが回復してくれましたが、何か凄く疲れました……」


そう言ってオレ達はそれぞれの自室へ戻って休憩に入る。

アシェラには客間を用意された。ブルーリングの町に自宅はあるが何があるか分からないので屋敷に居て欲しい。


当然だがハルヴァにも屋敷の客間が用意された。

心の中でハルヴァは自宅で良いのに……と思った瞬間、こちらを睨まれたので、どうもオレとアシェラの監視の為に客間に滞在するのを了承した様だ。


オレ達5人は休憩の後に夕食を摂った。久しぶりのまともな食事は問題が山積みの中で心が休まるひと時だった。

それと、こんな時こそ風呂に入りたかった。と思うが無い物はしょうがない。


こっそりローランドに浴槽用の桶とストーンプレートの魔法で出来る石板を200枚、衝立を大至急で頼んでおいた。

横で母さん、アシェラ、エル、ハルヴァが聞いていたが、オレを止めようとしなかったのはそう言う事なんだろう。





夕食の後、部屋で桶に入ったお湯で体を流しているとノックの音が響く。


「どうぞ」


オレは何気にそのままで声をかけるとゆっくりと扉が開いた。

入ってきたのはアシェラだ。部屋着を着てオレの裸を凝視している。流石にパンツは履いていたのはファインプレーだと自分を褒める。


「ど、どうした?」


まさかアシェラだと思わずに入れたがここで”やっぱり出ていけ”とは言い辛い。


「ちょ、ちょっと話したかっただけ……」


興味があるのかチラチラとオレの背中を見て来る。


「適当に座ってくれ。すぐに終わる」

「分かった……」


アシェラはガン見こそしないが終始チラチラと見て来た。

なるほど。”女子は男の視線に気が付いている”ってのはこう言う事かと変な所で納得する。


カラダも洗い終わり寝間着へと着替えた。

この数日、寝る時も鎧を付けていたから寝間着で寝られるのに幸せすら感じてしまう。


アシェラは椅子に座っているので、オレはベットに座り改めて話しだす。


「今日は色々あったな……」


オレがそう切り出すとアシェラも1つ頷いた。


「本当に……」


オレはさっきの事をもう1度聞きたかった。いや、怖いので何度でも確かめたかった。


「アシェラ、本当にオレで良いのか?子供が”新しい種族”って事は大変な苦労があるはずだ」

「ボクはアルドが良い。子供の事はアルドが何とかしてくれる」


「何とかって……お前」

「……種族には国が必要。当然、新しい種族にも新しい国が」


「ハァ、やっぱりそこだよな」

「うん、生まれて来る子供に国を用意しないといけない」


オレはアシェラに言われるまでなるべく考えない様にしてきた。

今ある種族。人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔族、全てに1つ以上は国があるのだ。


オレとエルが使徒で種族の”始祖”になるのであれば……使徒としてのチカラを使って国の礎を作るべきなのだろう。

これはゴブリン退治など、どうでも良いと言える程の大事だ。



オレはアシェラと話しながらアシェラ、エル、そしてマールと作る、国と言う物に想いを馳せた。





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