第122話指輪

122.指輪




ミロク団長に先程の件と自分の考察を話す。


「……っと言う事でゴブリンは『エル』がコンデンスレイで薙ぎ払いました」


全てエルの功績の様に話したからか、ミロク団長がヤバイ眼でエルを見ている。許せエル。オレにはあの眼は耐えられないんだ。


「しかし街道の向こうには今だにゴブリンの大群と恐らく”キング”が複数。そして”エンペラー”以上がいると思われます」


オレの言葉にミロク団長は眼を見開きチカラ無く椅子に座り込んだ……

暫くの沈黙の後、ミロク団長が絞り出す様に話し出す。


「そ、それで…勝算は…?」


オレは心の中で”オレに聞くな!!”と叫んだがミロク団長のすがる様な眼に負けた…


「分かりません…コンデンスレイを当てる事が出来れば、もしくは…しかし30秒の溜めと1発で魔力枯渇なのを考えると現実的ではありません」

「そ、そう…ですか…」


オレはこの時、最悪は”オレが囮になってエルにコンデンスレイを撃って貰おう…”と柄にもない事を考えていた。

そんな空気の中で”氷結の魔女”がぶった切る。


「はいはい。ヤメヤメ。ミロク団長。私達は休養が必要だわ。屋敷にいるから何かあったら呼んで頂戴」


周りは唖然としてる中で”氷結の魔女”は続けた。


「アル…少し付き合って…」


泣きそうな顔で”氷結の魔女”が…いや、この顔は…”母さん”が話しかけてくる。


「分かりました。母様…」


オレ達は失意のミロク団長の元をお暇した。

ハルヴァは”母さん”の何かを覚悟した雰囲気と今にも泣き出しそうな眼に同行を辞退した。


しかしエルとアシェラは”絶対に付いて来る”と引かない。

母さんもエル達が引かないのを分かっていただろうに脅すように話し出す。


「エル…アシェラ…付いてきたらアナタ達でも容赦しないわよ…」


母さんは”本気の殺気”を込めてエルとアシェラに最後の警告をする。


「母さま。どうぞご自由に。ただし僕も反撃はさせて貰います」

「お師匠…アルドはダメ。お師匠でもボクは許せそうにない…」


母さんは溜息を一つ吐き話しだす。


「アナタ達が何を勘違いしてるか知らないけどアルドに危険は無いはずよ…」


母さんの言葉に一番ホッとしたのはオレだ…実は黒魔術的な何かでオレの心臓を取り出してゴブリンを一掃できる古代兵器か何かがあるのかと思ってしまった。

〇玉が縮み上がっていたのは秘密だ。


勿論、本当にそんな事だったら、いくら母さんの頼みでも逃げ出していたのだが。




母さん、オレ、エル、アシェラの4人で屋敷の地下への扉の前にやってくる。


「母様、ここは指輪があった地下通路の入口ですよね?」

「そうよ…」


母さんが一言そう呟くとウィンドバレット(魔物用)を扉にぶっ放しやがった。

扉は思ったより頑丈で、だいぶ変形してるが扉としての機能は依然として有している。


「アシェラ。壊して」


アシェラは母さんの言葉を受け、右手に風の魔法を宿して扉を思い切り殴った。

ウィンドバレットでは変形しただけの扉だが、アシェラの魔法拳が炸裂すると粉々になって吹き飛んでしまう。


アシェラは胸を逸らしてドヤ顔を向けて来る……そのお胸だいぶ育ってきましたね?

”エルは見るな!マールのを見るぞ!”と念を送るとエルは明後日の方向を見て決してアシェラを視界に入れようとはしなかった。


それから4人でゆっくりと地下へ降りて行く。

たしか8歳で指輪を見たはずだから5年ぶりか…


昔から15歳になったら指輪を見ろと言われてきたからなぁ。

このパターンって2種類あるよなぁ……っとくだらない事を思っていた。


2パターン。単純にパワーアップするパターンと何かに乗っ取られてパワーアップするパターン。

オレは後のパターンは嫌だなぁ…でもそれしか無いのかなぁ…と憂鬱な気分で母さんに付いて行く。


直に指輪の間の扉に到着した。


「鍵が無いのよねぇ」

「ここも壊すんですか?」


「そうねぇ。ただあまり騒がしいと少~しマズイかも知れないの」

「そうなんですか」


「だからアル何とかして」


3秒程フリーズしてしまった。


「ちょっと待ってください。中に何があるのか分からないと…」

「中にあるのは指輪よ。アルも昔、見たでしょ?」


「それは知ってますが…そもそもあの指輪はなんですか?いい加減教えてください」


オレが少し本気で怒ってるのが分かったのだろう。母さんは自分の知っている事を全て教えてくれるそうだ。


「私も詳しくは知らないの。それでも良い?」

「はい。分かる範囲で良いのでお願いします」


母さんは居住まいを正しポツリポツリと話だした。




創世神話


今から約10万年前、何も無い虚空に光が現れた。


その光は5万年かけて凝縮し、1柱の神になる。神の名は不明。ただ創造神とだけ伝えられる。


創造神はまず大地を作った。


しかし、荒れ果てた荒野を嘆いた創造神は次に水を作る。


まだまだ殺風景と次に植物を作った。


美しい大地が出来上がり満足した創造神はそこに自分に似た人を作る。


しかし、魂が入っていなかったので人は動く事が出来ない。


創造神は人に魂を入れる為に風を作る。


人は自由に動き回るようになったが食べ物が無く死んでしまう。


創造神は人を哀れと思い、次に火と動物を作った。


人はやっと幸せに生きる事が出来るようになる。



この世界に満足した創造神は世界を守る為に精霊を作った。


創造神は精霊に世界の管理を任せた後、次の世界を作る為に去って行く。


それが凡そ1万年前である。


そこから人はエルフ、ドワーフ、獣人、魔族と個別の特徴を持つ種に別れていく。


創造神の望みは美しい世界で人が豊かに暮らす事なのに人は違う種で、時には同種でさえ争った。


暫くすると世界に魔物が溢れ出す。


人の争う心に魔力が汚染されたのだ。


世界の管理を任された精霊は人が出す汚れた魔力を浄化するべく精霊の使いを世に放つ。


精霊の使いは魔力を浄化しながら、この世界の安定を司る。



「これが創世神話よ。知ってるわよね?」

「はい。学園の試験勉強で覚えました」


「そう。この精霊の使いなんだけど…」

「はい」


「多分アルよ」

「……」


「……」

「……」


「……」

「……え?」


「多分アルよ」

「…えー、あー、うん、、母様、この指は何本に見えますか?」


「私はボケて無いわよ!アンタが”精霊の使い”で”使徒”なのよ!!」

「……」


この創世神話の中の”精霊の使い”がオレだと”氷結の魔女”は言う。

ボケては無さそうだが”氷結さん”は元々少しアレだから……


「で、”氷結さん”はオレが”使徒”だと、そう言いたい訳ですね?」

「誰が”氷結さん”よ!!アンタ陰でそんな”あだ名”を付けてるんじゃないでしょうね!」


オレは顔を背けて話を続ける。


「”氷結さん”がそう思う根拠は何ですか?」

「アンタ……その呼び名を続ける気なの…」


「”氷結さん”は何か勘違いしていませんか?」


”氷結さん”が何も言わずにウィンドバレット(非殺傷型)を10個纏っている…

あ…その魔法1発でも余裕で骨折するんですよ?10発とか…死ぬんじゃないですかね?


オレがそんな事を考えていると”氷結さん”は有無を言わずにウィンドバレットを発動する。

オレは魔力盾を2つ発動してウィンドバレットの衝撃に備えた。


魔力盾は壊れると魔力をバカ食いする。オレは5発ずつそれぞれの盾で受けて10発のウィンドバレットをやり過ごす。

10発終わった後で魔力盾を解除し”氷結さん”に文句を言おうとすると……目の前にはさらに多い15個のウィンドバレット(非殺傷型)が浮いている。


オレは顔を引きつらせ速攻で土下座をするのであった。




土下座から起き上がり先程の続きを聞いてみる。


「母様。冗談は止めてください。オレが”使徒”だと言う証拠でもあるのですか?」


母さんはオレを一瞥してから話し出した。


「このブルーリング家には代々当主にだけ受け継がれた”伝承”があるの」

「伝承…」


「それがいつの時代から受け継がれてきたか…どんな意味があるのかは長い時間に失われている」

「……」


「”将来、指輪に選ばれた者が現れる。その者『精霊の使い』全てを置いて支援せよ”」

「それがオレだと?」


「ええ」


母さんはアシェラとエルに向き直る。


「アシェラ、エル、アナタ達が指輪を見た時にどう思った?」

「ボクは怖かった…とっても大きな存在を感じて…」

「僕も怖かったです…神や精霊がいたのならあの様な物なのかと…」


「私も昔、見せてもらった時にはアシェラやエルと同じ感想を抱いたわ」


母さんがオレを悲しそうな顔で見て話しかけてきた。


「ブルーリングの歴代の当主もそうだった…大人でも震えて跪く者もいるの。子供で”暖かくて懐かしい”って感想を言ったのは長いブルーリングの歴史でもアル、アンタだけよ」


オレは昔の事を思い出していた。指輪を見た時、確かに”暖かくて懐かしい感じ”がしたのを覚えている。

ただそれだけでオレが”使徒”と言う証拠にはならないと思うのだが…


「でも、それだけなんですか?」

「十分じゃない。それに小さい頃から大人びてたし。エアコン魔法なんて使徒じゃないと説明できないわ」


あー。オレの前世の知識がプラスされての誤解な訳か…

オレはやっと全ての事に納得して母さんに話かけた。


「母様。残念ですが僕は”使徒”じゃありません」


前世の事は誰にも言うつもりは無い。なぜなら言った所で誰も幸せにならないからだ。

それならオレが墓まで持って行けば良い。


オレは母さんに期待をさせて申し訳ない気持ちを抱きながら魔力武器(大剣)を蝶番の部分に振り下ろし叩き斬る。

すぐに扉が内側に倒れ、指輪が露わになる。


久しぶりの感覚だ…横を見るとエル、アシェラ、母さんは青い顔をして必死に耐えていた。

オレは心地良い魔力を浴びてゆっくり指輪へと歩きだす。


きっと転生者特有の現象なのだろう。と高をくくっていたら指輪から”青い何か”が飛び出してくる。


「やぁ。今代の使徒だね。まずは僕に名前を付けておくれよ」


青い色をしたタヌキ?キツネ?近いのは最後のファンタジーの召喚獣でカー〇ンクルが一番近い…


あれ?あれーー?オレって使徒??……えーーーー!母さん正しかったの?えーーーー!



格好を付けて”オレは使徒じゃない(キリッ)”っとやって実は使徒でしたとか…恰好悪すぎだろ!っと心の中で叫ぶのであった。





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