第283話嫁デート
282.嫁デート
エルの結婚式の次の日の朝、アシェラと一緒に食堂へ降りるとオリビアが既に朝食を作って待ってくれていた。
「「おはよう、オリビア、ライラ」」
「おはよう、アルド君、アシェラ」
「おはよう、アルド、アシェラ。もう少し早く起きてもらえると助かります」
「「こめんなさい」」
そう、オリビアが言うようにオレ達は寝坊してしまったのだ。
今の時間は9:00を少し回った頃である。実は昨日の夜、アシェラとのレスリングにハッスルし過ぎてしまって寝るのが遅くなってしまったからだ。
頬を染めて恥ずかしそうに謝るアシェラを見てニヤけていると、オリビアの雷がこちらに向いてくる。
「アルド、他人事じゃありません。むしろアルドが原因ですよね?」
「申し訳有りません……」
こうして朝からオリビアに怒られてしまった。ここは素直に反省しないと、いつかオリビアに我慢の限界がきてしまう。
オレはこんな事でこの幸せを手放したくは無いのだから。
それからノンビリと朝食を楽しんでいると、ライラが今日の予定を聞いてきた。
「アルド君、今日はどうするの?」
「今日?何かあったっけ?」
「え、今日は防具屋へ行くって……」
そうだ。今日はボーグの所でオレのドラゴンアーマーを受け取って、ついでにライラの採寸をしてもらうんだった。
「ごめん。うっかりしてた」
「思い出してくれたなら大丈夫……」
どうせ出かけるのなら全員で街を散策するのも楽しそうだ。オレは早速3人に聞いてみた。
「ボーグの店に行った後、どうせなら皆でブルーリングの街を散策してみないか?」
「楽しそうですね。私は勿論、付いて行きます」
「ボクも行く。ブルーリングのお店は良く知らないから楽しみ」
「私も行く……新しい服が欲しい……」
こうして全員の賛成でブルーリングの街の散策に出かける事に決まった。
ライラの欲しい服が、着ぐるみでは無い事を祈りながら残りの朝食を食べていく。
「準備完了だ。ブルーリングの街の散策をしようー」
「おー」「楽しみです」「私も楽しみ……」
オレはボーグに借りたレザーアーマーを着ているが、3人は例の王都の店で買ったお気に入りの服を着ている。
アシェラは明るめのスカートに薄いピンクのシャツを着ており、とても可愛らしい。
オリビアは初夏らしい淡い青のワンピース姿でいつもより大人っぽく感じる。
そして最後のライラはネタなのか、例のネコちゃんで出てきやがった……3人で遠回しに着替えるように促して、何とか部屋に戻ってもらったのが今さっきの事である。
オレ達が次は犬だったらどうしようとドキドキしていると、今度はロリータファッションを着て現れた。
白を基調にしたワンピースで上も下もフリフリのフリルが沢山付いている。オレとしては人形のようでとても可愛らしいと思うのだが、アシェラとオリビアの顔は渋い。
どうやらスカートが短すぎるらしいのだ。ライラのスカートの丈はくるぶしから10センドほど上であり、ほんの少しだけ綺麗な足首が見えている。
現代日本であればロングスカートの部類に入るのだが、この世界ではミニスカートでかなり攻めていると取られるらしい。
ライラが一番年下であり子供に見えると言う事で、アシェラとオリビアからは一応の許可が出た。
大体の基準を聞くと、子供はくるぶしをだしても良いが、大人の女性はダメと言うのが2人の見解だ。
嫁達の服装が決まり、本当はオレも平民の服を着ていきたいのだが、全員が丸腰で万が一があると怖い。
ドラゴンスレイヤーにーなった今でさえ、人込みの雑踏から背中を刺されれば、運が悪ければ簡単に死んでしまうのだから。
どうにかして防刃の布でも作れれば良いのだが、難しいか……
こうしてお気に入りの服を着た嫁3人と鎧を着たオレと言う、如何にもどこかの令嬢達と護衛と言う図式が出来上がったのである。
嫁達は平民の服を着て歩いていると度々ナンパされていた。これが貴族の服であれば警戒して声などかけてはこないのだろうが。
「君、カワイイね。見ない顔だけど、ご飯でもどうかな?」
「あ、アナタのように綺麗な人初めてみました。お、お名前を教えてもらえないでしょうか」
「直ぐそこの酒場で働いてるスーカってもんだけどよ。店に来いよ、奢ってやるぜ」
ウチの嫁達がモテ期に入ってる……何かの間違いでオレが捨てられたりしなか心配でしょうがない。
ここぞとばかりに声をかけてくる男共に、殺気を当ててやると大抵は逃げていくが、向かって来る者も極僅かではあるが確かにいた。
「な、なんだテメェ……お、オレはここらを仕切ってるメロウさんの舎弟だぞ!め、メロウさんはあのブルーリングの英雄とも話した事があるんだぞ!」
「あ、そうなんですか。オレはちょっと知らない人ですね。エルの知り合いなのかな?」
オレがそう返すと訝し気な顔をした後、眼を見開き小さく呟いている。
「う、嘘だろ……本物のブルーリングの英雄だと……お、オレ……もしかして殺されるのか……」
止めてください。こんな事で人を殺していたらオレは殺人鬼になってしまうじゃないですか。
「では妻達と買い物に行くので失礼しますね」
無駄な争いは好まない。オレは平和主義者なのだ。直ぐに暴力に訴えるどこぞの氷結さんとは違うのである。
こうして4人で歩いているととても楽しい。アシェラもオリビアもライラも楽しそうに話している。こんな時間が永遠に続けば良いのに……オレは嫁達の顔を見ながら1人、幸せを感じていたのだった。
ボーグの店に着いてからライラはボーグの嫁さんに採寸をして貰っている。アシェラとオリビアも付いていくようだ。
オレは引いてきたリヤカーから風竜の素材をボーグへと渡していく。
「風竜の皮と鱗か。地竜ほどの固さは無いが、何だこの軽さは。地竜の半分以下の重さだぞ」
「そんなに違うのか?」
「ああ、これは前衛より後衛用だな。さっきのお嬢ちゃんは純粋な魔法使いだろ?」
「そうだ。空間蹴りやバーニアは使えるが武器は使わないな」
「それならこっちの方が良いな。それでも竜の素材だ、防御力はワイバーンなんかでは比べ物にならねぇよ」
「それだけ軽いなら、オレやアシェラにも良さそうに聞こえるんだが」
「うーん、どうだろうな……もしそのドラゴンアーマーが風竜の素材の鎧だったら、その風竜戦でお前は生きて帰れなかったかもしれんぞ」
「マジか?」
「ああ、お前の鎧、結局、全部分解してみたんだが、鱗や皮の部分はそうでも無いが、繋ぎ目や金具なんかは軒並みダメになってた。恐らく風竜の素材じゃあこうはいかねぇ」
オレはメンテナンスが終わって帰ってきたドラゴンアーマーを、改めて眺めてみる。
(紙一重だったんだな。何か少しでも違えば死んでいたのかもしれない……)
「この地竜のドラゴンアーマー以上となるとオリハルコンを使うぐらいか」
「うーん、ただなぁ、金属鎧は重いからな……」
「全部を金属にするわけじゃない。急所や肘、膝なんかへ部分的に使うんだ。噂だがドワーフの研究ではミスリルとオリハルコンを混ぜて、両方の良い所だけを引き出す研究もされてるらしいぜ」
「オリハルコンとミスリルの合金か……ミスリル並みの魔力伝達性にオリハルコンの固さ。本当に出来るなら恐ろしい性能になるな」
「ああ、但し混ぜる比率が難しいらしい。失敗した材料はダメになるらしいからな。流石のドワーフもそう簡単には手が出せないみたいだ」
「オリハルコンとミスリルがゴミになるとか……ぞっとする話だな」
ボーグと話しているとライラの採寸が終わったらしく、アシェラとオリビアも一緒に戻ってきた。
改めてボーグはオレ達4人の手を交互に見つめて、何かに納得したように口を開く。
「その指輪は魔法具か……絆の指輪だな?」
「ああ、良く知ってるな」
「迷宮では良く出る物だからな。但し4個ってのは少し珍しい」
「そうなのか?」
「ああ、大抵は2つだ。恋人同士や夫婦が付けていた指輪が迷宮に飲まれると、絆の指輪に変わるって言われてる」
「……4つって事は4人パーティで恋人同士だった?」
「心から信頼している友人でも、同じように変わるらしいからな。信頼しあっているパーティなら不思議じゃない」
「なるほど。少し安心したよ」
「そいつはどんなに離れていてもお互いの安否が分かる魔法具だ。嬢ちゃんの事を思いながら指輪に魔力を注いでみな」
オレはボーグの言うように目を閉じてアシェラを想いながら指輪に魔力を込めた。
「光ってる」「綺麗ですね」「綺麗……」
3人が言うように指輪が淡いピンクの光を放っている。
「次はこっちのお嬢ちゃんで試してみな。その次はこっちの姉ちゃんだ」
ボーグの言うようにライラ、オリビアで試していくとライラは黄色、オリビアは青色に指輪が光った。
「想う相手によって色が違うのか……」
オレの後ろではアシェラ、オリビア、ライラも同じように指輪を光らせており、最終的にオレが赤、アシェラがピンク、オリビアが青、ライラが黄色と言う事が分かった。
「お前等ならよっぽど無いと思うが、迷宮なんかではぐれた時の安否確認用に着けるヤツが多い魔道具だ」
「そうか、そんな実用的な物とは知らなかった。てっきりそんな言い伝えがある程度の物だとばかり」
「一応は魔法具だからな。値段も相当な物になる筈だ。大事にすればいざって時に役に立つかもな」
「そうだな。教えてくれてありがとう、ボーグ」
それからはライラの鎧の仕様を決めていった。空間蹴りが使えるライラは当然のようにバーニアも使える。魔力盾もあった方が良いので、どこに付けるかなどを細かく決めていく。
「じゃあボーグ、オレ達は行くよ。鎧が出来上がったら領主館に連絡してくれ。それと、これは領主への販売許可書と領主館への通行許可書だ」
「おま!いつの間に……」
「無いとオレだけじゃなくて、次々代の領主であるエルも困るんだ。当然だろ」
ボーグは苦笑いを浮かべて小さく溜息を吐いた。
「ありがとよ」
「こっちこそだ、助かったよ。また何か素材が取れたら真っ先に持って来るからな」
こうしてドラゴンアーマーを受け取り、ライラの採寸を終えたオレ達はボーグの店を後にしたのだった。
「じゃあ散策を再開しよう!」
「うん!」「楽しみですね」「カワイイ服あるかな?」
それからも嫁達がナンパされオレが追い払いながら目的の服屋までの道のりを歩いていく。
どうも嫁達はオレがヤキモチを焼いてナンパ野郎を追い払うのが嬉しいらしく、ワザとナンパ野郎を引き寄せている節がある。
本来ならオリビアは兎も角、ナンパ野郎程度アシェラやライラが殺気を込めて睨めば逃げだして行くはずなのだ。
それが馴れ馴れしく肩に触れても嫌な顔をするだけで、自分で追い払う様子は無い。
いっそ放っておくか……一瞬、頭をよぎったが、ここで面倒臭くなって知らん顔でもした日には、間違いなく飯の味が分からなくなるまで殴られるのは確実である。
結局、オレはお姫様達とのデートに全力を尽くすべく、ナンパ男達に殺気をぶつけていくのだった。
服屋に到着すると店の店員が、3人の服について根掘り葉掘り聞かれてしまった。
その女店主の眼にはうっすらと狂気が滲んでいるかと思うほどの、食いつきっぶりである。
「なるほど。王都の服屋の女性店員のデザインですか」
「は、はい。これは全部そうです」
「お店の名前と女性店員の名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
「服屋はミール服飾店で店員の名前は知りません……」
「では特徴を………………」
結局、1時間ほどの尋問の末、オレはやっと解放された。
ここの女主人は王都の女性店員が痛く気に入ったらしく、部下に直ぐにでもスカウトに行くよう指示を出していたので、このブルーリングにあの女性店員がやって来る日が来るのかもしれない。
そしてオレが女主人に尋問されている間、アシェラ達は服を見てはいたのだが、やはり王都の服屋ほど食指が動かないようだ。
幾つかの小物や下着を買って、お店を後にさせてもらった。
因みに買ったものは領主館に届けてもらい、ついでに王都の女性店員を呼ぶ事に成功しても声をかけるように話しておいたので、その暁には是非セクシー系の服も注文したいと思う。
途中で買い食いをしながら街を歩き、気が付けば空は赤く染まっていた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん」「はい」「うん……」
オレ達4人は長い影を作りながらゆっくりと我が家への道を歩いていく。
ある秋の日の幸せな1日の出来事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます