第382話氷結さん専用魔法 part1

382.氷結さん専用魔法 part1






アシェラの妊娠が発覚してから2日が過ぎた。オリビアとライラは、アシェラの妊娠を驚きながらも自分の事のように祝福している。

まぁ、2人からは「自分も!」と、搾り取られる事になってしまったのだが……


当のアシェラは、体が鈍らないように最低限の基礎体力造り以外は、魔力操作と魔力変化の修行しかしていない。

1つだけ心配があるとすれば、ほぼ1日中 魔力を使った修行をする事から『石』を使って魔力を回復している事か……


何度かアオに、アシェラの体へ影響がない事を確認してもらってはいるのだが……心配だ。


「アシェラ、本当は『石』を使ってほしく無いんだ。どうしても使わないとダメか?」

「うん、魔力操作を鍛えるのに必要。アオも問題無いって言ってたから大丈夫」


「せめて魔力を回復する時 以外は外しててくれよ……」

「分かった。魔力が減った時だけ使うようにする」


こうしてオレは心配の種を残し、自宅を後にしたのだった。






自宅を出てオレがやってきたのは魔の森のもう1つのマナスポットである。

スライムに壊されかけてから既にだいぶ時間も経っており、辺りは一面の森が広がって魔法の開発にはうってつけなのだ。勿論 被害が広がらないと言う意味でだが。


「さてと、ちょっと試してみますかね」


今回 オレが試すのは新しいウィンドバレット。やはり使い慣れており、威力の調整が容易。更に風の魔法 故、見え難いと言うのが理由である。

早速 ウィンドバレットを起動して風の弾を作り始めるが、普段 使っている物と1つだけ違うのは、周りから弾へと強烈な風が吹いている事だ。


クッ、中々 難しいぞ、これは……ググッ……

必死に魔力を操作するも、思い通りの風の弾は出来ずに魔力が霧散してしまった。


「やっぱりオレが使えない魔法なんて、開発出来ないんじゃないか?」


思わず弱音が零れてしまう。

氷結さん専用魔法を開発するに当たり、今回 オレが考えたコンセプトは貫通力と爆発力の2つだ。


ウィンドバレットは元が空気の弾なだけあり、形は比較的 自由に変える事ができる。

であれば、地竜だろうとオーガの主だろうと、針の穴ほどの隙間を作る事が出来ればヌルっと体の中に潜り込ませられるのでは無いか?


更にそれが圧縮した気体であれば……特別な事をする必要など無く、解放さえしてやれば爆発が起き大抵の生物を死に至らしめるのではないだろうか?

この魔法を開発するに当たっての肝は2つ。1つは圧縮した風の弾を作り出し、形すらも自由に変える圧倒的な魔力操作。


もう1つは地竜の皮すら貫く貫通力なのだが、こちらは正直な話 風の魔法では難しいと思っている。

ではどうするか?


ズバリ、他の魔法と組み合わせるのだ!

先端に少しだけ固い石の魔法を発動させて、敵の装甲をこじあける。そこに圧縮空気の弾を潜り込ませれば完成だ。


後は好きなタイミングで解放してやれば、汚い花火の完成である。

……と、コンセプトを練ってはみたが、オレの魔力操作では圧縮空気の弾を作り出すのにも苦労している有様なのだ。


「これは無理なんじゃないかな? しかも土の魔法と組み合わせるとか……使えるヤツがいれば最強だろうけど、本当に人で扱えるものなのか?」


一応、コンセプトは考えたので、一度 この魔法の可否を氷結さんに聞いてみる事にした。

ヤツなら、もしかして……そう一縷の望みをかけながら、氷結さんがいる領主館へと向かったのだった。






領主館に着いて、早速 100メードの範囲ソナーを打ってみた……おかしい、ヤツの魔力が感じられない。

一体どこで遊んでいるのか。氷結さんはいつも、いて欲しい時にはおらず、いて欲しくない時にいる。


「母様は一体、何処に行ったのか……」


困ったオレはローランドに聞いてみる事にした。


「ローランド、母様がどこにいるか知らないか?」

「ラフィーナ様でしたら、「ゼリー? を食べに行ってくる」とおっしゃって、アルドぼっちゃまの自宅に向かわれましたが」


「マジか! クソッ、アシェラが果物なら食べられると言っていたから、確かに市場で寒天を買ってきて大量に作ったけど……何故 母様がそれを知っているんだ!」


こうしてはいられない! オレはローランドに礼を言い、急いで自宅へと戻ったのである。


玄関を乱暴に開けてリビングへ向かうと、ヤツはいた。アシェラ達を脇に追いやり、この家の主のような貫禄を漂わせながらゼリーを貪り食ってやがる!

あ! おま、何個 食ってるんだよ! 1,2……それ3個目じゃねぇか! 余裕を見て10個作ってあったのに!


「母様! それはアシェラ達のために作った物です! 何で母様が食べてるんですか! しかも3つも!」

「やーねー、ケチケチしちゃって。また作れば良いじゃない。ねー、アシェラ、オリビア、ライラ」

「お師匠、3個は食べ過ぎ? お腹が痛くならない?」

「お義母様であれば、私は何も言いません。お好きになさって下さい」

「お義母様……私の分はあげるから、アシェラの分は取らないであげて……」


くそっ、これは恐怖政治だ! 姑の立場を利用してオレの嫁達を弾圧しているんだ! オレは圧力には屈しない! 断固 戦うのだ!


「母様! もう用が無いのに、ここへは来ないで下さい! アシェラが妊娠して大変なのに、母様の面倒までみてられません!」


ヤツはオレの言葉を受け、ゼリーを大事そうにテーブルに置いてから、バレバレの泣き真似を始めやがった……うぜー、涙出て無いだろうが!


「ヨヨヨ……私はアルをそんな風に育てた覚えはないわ。実の母親に「出ていけ」なんて……良いわ。私なんて出て行って、そこらで野垂れ死ねば良いのよ……ヨヨヨ……」 


アナタ、ブルーリング男爵家の次期当主の奥方ですよね? 家に帰れば3食昼寝付きの生活が待ってますよね? 何でそんな態度が取れるんですか? 本気で意味が分からないんですが。

しかし、コイツは放っておくと、終いには逆ギレするに決まってる。ここはグッと堪えて大人の対応をせねば。


「母様……分かりましたよ。母様の分も作ります。だから、アシェラの分は食べないで下さい。それは果物しか食べられない、アシェラのために作ったんです。それを母様が食べてしまうと、アシェラは口に入れる物が無くなってしまいます」

「もぅ、分かってるわよ。私が食べてるのはアンタの分だけよ。アシェラのお腹にいるのは私の孫でもあるのよ? そんな事するわけないじゃない。それでも心配なら……私の分は多めに作っておいて頂戴。良いわね?」


なんでコイツはこんなに偉そうなんだ。泣き真似を止めた途端、いつもの態度に戻りやがった。


「分かりました……それと、頼まれてた母様専用魔法のコンセプトを考えました。可能かどうか、母様の意見を下さい」


魔法の話になった途端、急に真剣な顔になりやがった。勿論 ゼリーは大事そうに抱えているが……


「分かったわ。話してみて」

「はい。今回 新しい魔法を開発するに当たってのコンセプトは、貫通力と爆発力…………」


そこからは、どんな魔法を開発するのか、どれほどの破壊力があるのかを説明していく。


「…………ですので、爆発力には類まれな魔力操作。貫通力に関しては違う種類の魔法を融合する必要があります。母様の意見を聞かせてください」

「そうねぇ……先ず爆発力の方は何とかなると思うわ。正直 アルの言う圧縮? の意味が良く分からないけど、要は風を集めて弾の形状を変えられれば良いんでしょ?」


「その通りです。針の穴ほどの穴でも、敵の防御を抜く事が出来れば、そこから相手の体に風の弾を滑り込ませられるかと」

「ただ、その貫通力の方だけど、実際に地竜の鱗を抜くような弾を作れるとは思えないわね。そもそも、そんな弾を作れるのなら、ウィンドバレットに拘らず、そのまま土の魔法を使えば良いわけでしょ?」


「そうか……確かにそうですね。じゃあ、この魔法は無理って事ですか……」


折角 考えたのに、現実は無常である。また1から考え直しか。

オレが肩を落とす姿を見て、隣で聞いていたライラが口を挟んできた。


「アルド君……わざわざ土の魔法で先端を作らなくても、ある物を使えば良い」

「ある物? ごめん、ライラの言ってる意味が良く分からない」


「使うのは風の魔法。先端部分だけ予め何か固い物で作っておいて、それを包むように風の魔法を発動させる……」

「あ、そうか。風の魔法なら、そんな事も出来るのか……でも、硬い物……鉄とか?」


オレとライラの会話を聞いていた氷結さんは、獰猛な顔で口を開く。


「何ケチ臭い事 言ってるのよ。魔力の通りが良い、ミスリルの弾で良いじゃない。それでも防御を貫けないようならオリハルコンを使えば良いわ」

「み、ミスリルって、1発幾らになると思ってるんですか? きっと弾頭の回収なんて出来ないですよ? しかも、オリハルコンとか……」


「だからケチ臭い事を言わないでって言ってるでしょ! そんなの世界中から出させれば良いのよ。放っておけば世界が滅ぶんだから。最悪フォスタークは無理としても、他の4国には使徒の使命が伝わってるはずよ。きっと喜んで支援してくるに違い無いわ」

「そうですかね? でもオリハルコンとか……神金貨から5個の弾頭を作ったとして……1発2000まんえん!!!!」


「2000まんえんってのが何か分からないけど、それで敵を倒せるなら安い物じゃない。オクタールなんて街が1つ滅んだのよ? 復興にも、その何倍ものお金がかかるはずだわ。世界を救おうって言うのに、みみっちい事 言わないの!」 


みみっちい……オレがおかしいのだろうか? 2000万円をケチってみみっちいとは、これ如何に。

しかし、母さんの言う事は尤もだ。街1つの値段はこんな物じゃない……それに人の命がかかってる以上、金額では計れない物があるのも確かなのだ。


「分かりました。オリハルコンも視野に入れて考えてみます……」

「それで良いのよ。アル、何でも最適解でセコく何て無理なんだから。かかる物はかかる。腹をくくりなさい」


「はい……ただ、それは魔法がちゃんと開発出来てからの話ですよ? 先ずは鉄の弾頭を作ってそれで試しましょう。それ以上は出来てからです」

「分かったわ……」


結局 この後、数日前のネロの件に続いて父さんへ話を通したのだが、青い顔をして「ら、ラフィの安全が買えるなら安い物だよ……」と言われてしまった。

父さんの手が震えていたのは、見なかった事にしておこう。


これで根回しは済んだ。後は本当にそんな魔法が開発できるかどうか……

ボーグには鉄で色々な弾頭を作ってもらうとして、先ずは氷結さんに特訓だ!


オレでは満足に発動できないので、氷結さん自身で開発してもらうしか方法は無い。

オレは精々 後ろで鬼コーチとして激を飛ばさせてもらうとしよう!




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