第383話氷結さん専用魔法 part2

383.氷結さん専用魔法 part2






氷結さん専用魔法のコンセプトから一夜明けて、オレと母さんは魔の森のスライム側へやって来た。


「母様、ボーグにはローランドから話は通してもらってます。先ずは鉄で色々な形状を頼んでありますので、後は母様が圧縮した風の弾を作れるかどうかです」

「分かったわ。でも、この感覚……この年になって新しい魔法を覚えるなんて……クククッ……任せなさい! 最強の魔法使いの一角たる私が、この魔法を完全な物にしてみせるわ!!」


こうして漲った母さんと共に、新たなウィンドバレットの開発を始めたのであった。






期待に胸を膨らませた時が、オレにもありました。

ヤツは確かに最初の30分だけは、真面目に魔法を開発していた。


しかし、1時間が経とうとした頃から、目に見えてサボり出したのである。


「母様、真面目に魔法の開発をしてくださいよ」

「分かってるわよ。ただ、ちょっとだけ魔力の調子が悪いんだからしょうがないでしょ。少し瞑想して魔力を調整するから。その間はアルがやっておいて」


そう言ってコイツは、ハンモックに揺られながら目を閉じやがった……

お前……いい加減にしろよ? それで魔法の開発が出来るのかと、小一時間問い詰めたい。


「覚悟していたとは言え、真面目に開発したのが1時間とか……流石に無いだろ……」


魔の森にオレの嘆きが響いた瞬間である。

それからは、何故かオレが必死に圧縮した風の弾を作ろうと頑張っている。


クソッ、空気の圧縮がこんなに難しいなんて……

例えるなら、意識を全方位に向けつつ、針の穴に糸を通すような……


まるでコンデスレイみたいじゃないか! ん? コンデスレイ? 

コンデスレイは光を圧縮して放つ魔法だ。普段のウィンドバレットのようにでは無く、渾身の一撃の要領でやれば、或いは?


試しに、先ずは集中するため瞑想状態に入り、魔力を自分の周りに薄く広げていく。

それを魔力変化で風の魔力へ変え、一点に集める!


魔力が暴れる……瞑想していてもこんなに難しいなんて……

この魔法は緻密な魔力操作と、強引に纏めあげる力強さが必要だ。


瞬時に発動出来るようになるには、相当な修練と時間が必要になるに違いない。

今は取り敢えずの形だけ……そうすれば、後は母さんにも理解出来るはずだ。


ひたすらに魔力を集める事にだけ集中し、強引に魔力を纏めあげていく。

集中を切らさず、ゆっくり瞑想を解くと……オレの目の前には、圧縮熱で陽炎が立ち上った風の弾が、恐ろしい存在感を撒き散らせながら浮いていた。


「アル、出来たみたいね。それが新しいウィンドバレット? 凄く熱そうなんだけと大丈夫なの?」


何時の間にか起きていた母さんが話しかけてくるが、オレに返す余裕などあるわけもなく……そのままハンドサインで伝えて、ゆっくりと風の弾から遠ざかっていった。

この状態の弾を動かすなんて、今のオレには絶対に無理だ!


動かす処か、気を抜いた瞬間 はじけ飛んでしまうだろう。


陽炎が立ち上るほどの圧縮空気……解放された瞬間、大爆発が起こるに違いない。

どうやら母さんも冷や汗を流すオレを見て、訝しげな顔をしながらも従ってくれるようだ。


そうして50メードほど離れた所で、強引に押さえつけていた魔力を解放し、同時に最速で魔力盾を球状に展開した。


ドォォォォォォォォォォォン!!!


腹に響く爆音と共に、大爆発が巻き起こる。

凄まじい爆風の中、爆発地点の周りでは、木は薙ぎ倒され、地面も抉れて、辺りは土埃に覆われてしまった。


「ふぅ……あ、危なかった。やっぱり今の僕ではアレを扱うのは無理そうです……」


そんな感想を漏らしながら隣の氷結さんを覗き見ると、目を一杯に開き呆けた顔で佇んでいたのだった。






今は再起動した氷結さんと、先ほどの魔法についての考察中である。


「アル! あれは何よ! 開発するのは風の魔法じゃなかったの?!」

「え? 風の魔法ですよ。母様も見てたじゃないですか」


「何で風が爆発するのよ! さっきのって本当は火の魔法でしょ?!」

「火……あー、なるほど。母様の言いたい事はなんとなく分かります。でも、あれは間違いなく風の魔法ですよ」


「だから、何で風が爆発するのよ! おかしいじゃない!!」

「うーん……じゃあ、母様は爆発って何だと思いますか?」


「む、何だか誤魔化されてる気がするけど……良いわ、爆発ね……火が凄く良く燃える事よ!」

「うーん……それでも爆発は起きますが、もっと根本的な事。普通に火を使っても爆発なんて起きないですよね? 固体……物が燃えると、大部分が気体……空気になって、体積が何百倍にも増えるんです。それが瞬間的に起こるのが爆発です。さっきの魔法は空気を圧縮させて、一気に解放したので爆発が起こったんです」


「……アンタが何を言ってるのか、これっぽっちも分からないわ! 要は空気を一点に集めてから一気に解放すれば、爆発が起こるって事?」

「あー、うん……まぁ……それで良いです」


「何よ、アルのクセに! アンタはもっと私を敬うべきだと思うわ!!」


何だよ、アルのクセにって! の〇太みたいな扱いしないで貰えますかね?

それからは、冷静になって先ほどの魔法についてを話し合った。


「やっぱり僕では圧縮空気……空気を集めるのが精一杯で、とても自由になんて動かせません。ここからは母様が自分で開発する必要があります」

「分かったわ。さっきのアレを作って、形も動きも自由に操れるようになれば良いんでしょ? 簡単よ!」


こうして、母さんの猛特訓が再開したのである。






特訓を始めて2日が経った。

先ずはウィンドバレットの開発の前に、魔力盾を覚えてもらっている。


圧縮空気を扱うのに、鎧だけでは安全を確保出来ないと判断したからだ。

それに、氷結さんのドラゴンアーマーは、手の部分も含めメンテナンス中であり、今は借り物のレザーアーマーなのも大きい。


「母様、もっと早く盾を出して下さい。それだと、いざって時に間に合いません!」

「しょうがないでしょ! この鎧は盾の仕込みが入ってないんだから!」


「僕もエルも最初は仕込みなんて無しでしたよ。素の状態で素早く発動出来るようになった方が修行の効率が良いんです」

「分かったわよ! アルは変な所で細かいんだから……」


ひたすらに魔力盾を出したり消したりを繰り返し、最終的に球状の魔力盾を出せるようになった所で一応の修行を終えた。


「何とか及第点ですかね。毎日の魔力操作と一緒に、魔力盾の修行もセットでやって下さい。良いですね?」

「はいはーい」


「はいは1回です。じゃあ、本来の目的であるウィンドバレットの修行を始めましょうか。先ずは先日 僕が出した風の弾を出せるようになって下さい。それが自由に出せるようになったら、次に進みましょうか」

「やっとね! ここから私の覇道が始まるのよ!! 見てなさい、アル!」


覇道とか……コイツは何処に向かっているのか、誰か教えて下さい。






「はい、もっと集中して! 違います! そこは力尽くで纏めあげるんです! そうじゃなくて、弾の方にも意識を割いて。ほらほら、集中を忘れてますよ! それでも『氷結の魔女』なんですか? あー、そうじゃなくて……」

「うるさーーーーーい!!!」


何々なんなの? 手取り足取り、親切に教えてたのに。


「黙って聞いてりゃ言いたい放題! アンタ、私が誰だか分かっての発言なの?!」


どうやら氷結さんには少し厳し過ぎたみたいだ。

確かに日頃の鬱憤を少ーーし込めてはいたが、そんなに怒らなくても……


「か、母様、そんなに怒らないで下さい。ほら、風の弾が不安定になってますよ?」

「風の弾がなんぼのもんじゃい! そんな事より、アンタの態度が気に入らないのよ!」


母さんは風の弾を強引に纏めあげた後、オレへ文句の嵐をぶつけてきた。

ん? 纏めあげる? あれ?


風の弾は圧縮熱で陽炎が立ち上り、その場で存在を主張している。

これ……出来てるんじゃね?


未だに文句をぶつけてくる母さんへ、思った事を聞いてみた。


「あの……母様?」

「何よ! まだ何か言うつもりなの?! アンタはもっと私を敬いなさい!」


「あ、いえ……その風の弾、出来てるんじゃないかなって……」

「また、そうやって誤魔化して! 風の弾が何だって言うのよ!」


そう言って母さんが乱暴に風の弾へ振り向くと、頭に???を浮かべ出した。


「……アル、これってアンタが出したのと同じよね?」

「あー、まぁ、はい……そうですね」


今の今まで怒り狂っていたはずなのに、母さんは頬を染め鼻の穴を膨らませながら高らかに宣言した。


「流石 私ね! ちょっとコツを掴めばこんな物 簡単じゃない!」

「あ、そうですか……因みに、その状態で動かせたり出来るんですか?」


「ん? そうね。やってみるわ」


そう言うと母さんは風の弾を自由自在に動かし始めた。

おま、そんな乱暴な! 万が一、それが暴発したらオレ達死んじゃうんですが!


すかさず母さんを含めて球状に魔力盾を展開するも、風の弾は非常に安定しており、暴発する気配すら無い。


「むふふふ。完璧ね! これはもう、最強の魔法使いの一角じゃなくて、私がNO1よ! この私こそが、魔法使いの王! 略して魔王よ!」


……アナタ、何処かで頭でも打ったんですか? 自分で魔王を名乗るとか……その内、世界征服とかしそうで怖いんですが。

万が一、そんな時が来るのなら、オレとエル、アシェラとライラで四天王を名乗らされるんだろうか……


思考が逸れた。頭を振って考えを振り払う。


「か、母様、自由に動かせるのは分かりました。形の方はどうですか? 自由に変えられますか?」

「形……やってみるわ」


母さんがそう返した途端、風の弾の形が変わっていく。

平ぺったくなったり、太くなったり……終いには細長いハリガネムシのような形でウネウネと動き始めた。


うげっ……気持ち悪! それが相手の体の中に潜り込んで大爆発するんだろ……自分で考えたとは言え、何て凶悪で醜悪な魔法なんだ!

こんな恐ろしい魔法を使うなんて……この人は本当に魔王なのかもしれない!!


「か、母様……後は撃ち込む速さだけですが、出来れば回転させながら打ち込めると……恐らく貫通力が上がるはずです……」

「そうなの? ふーん……」


ふーんと気の無い返事をしながらも、凶悪な顔で薄っすらと笑っている……オレ、この人にこの魔法教えて、本当に良かったのかな?

もしかして、今この瞬間、主より恐ろしい存在が爆誕したんじゃないでしょうか?


オレの気持ちなど気にした様子も無く、氷結さんはハリガネムシを高速回転させ始めた。

うげーー、更に気持ち悪くなったじゃないか!! おま、本当に魔王だろ!!!


「行くわよ!」


その瞬間、真っ直ぐににハリガネムシが飛んでいく。途中にあった木を数本貫通したと思ったら、100メードほど向こうで大爆発を起こして辺りの木をなぎ倒していた。

な、何だこの威力は……


「か、母様……これ……」


あまりの威力に驚き、上手く言葉を発せない。

そんなオレに、一転、難しい顔をした母さんが振り向いて、ゆっくりと口を開いた。


「……これは切り札ね。私の魔力量でも3発……は無理。魔力が満タンの状態でも、2発も撃てば魔力枯渇で倒れるわ。現実的な所だと、精々1発が限界ね」

「あ、そうか……魔力量……そりゃ、そうですよね……」


こんな魔法を好きなだけポンポン撃てるのなら、オレやエルより よっぼど強くなってしまうわけで……


「今日はここまでね。後は弾頭が出来たら色々と試してみましょう」

「……は、はい」


そうだった……弾頭を付けたら更に威力が上がるんだった……本当にこんな魔法を開発して良かったんだろうか……分からない。


終わってみれば、自分自身の手で新たな悩みの種を作りあげてしまっていたのである。



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