第291話ベージェの街 part2
291.ベージェの街 part2
2泊3日の道のりを順調にこなし、オレ達は無事にベージェの街へと到着した。
ベージェの街はヴェラの街をだいぶ発展させた感じであり、ブルーリングの街よりはかなり質素な街であった。
城壁は成人男性の身長の2倍ほどであり、4メード弱だと思われる。
石造りで厚みは2メードほどあるのだが、ブルーリングの街の城壁のように上を歩いたりは出来ない。
これでは大型の魔物が来れば、壊されてしまう可能性がある。
そんなオレの気持ちを察したのか、カズイが口をひらいた。
「ベージェは田舎だろ?皆、一人前の冒険者になると都会に行っちゃうんだよ。ランクが上がるとまた戻ってくるくせに」
「そうなんですか」
「アルドは暫く旅の路銀を稼ぐつもりなんでしょ?」
「基本は移動しながら稼ぐつもりですが、最低限1ヶ月ぐらいの生活費は持っていたいですね」
「このベージェは辺境だけあって、依頼だけは沢山あるから。アルドには丁度良いかもね」
「助かります」
ベージェに辿り着くと門には田舎故、訪れる人が少ないのだろう、誰一人として並んでいる者はいない。
そんな中、暇そうな2人の門番がカズイの姿を見つけて、人好きのする笑顔で話しかけてきた。
「カズイ、コボルトの調査はどうだった?」
「群れが出来かけてたけど倒してきたよ」
「群れって10匹ぐらいか?」
「いやいや、30はいたよ」
「30だと?お前等が倒したってのか?」
「違うよ。このアルドが倒してくれたんだ」
そう言ってカズイがオレを紹介すると、門番達は露骨に嫌そうの顔でオレを睨みつけてくる。
「人族がベージェに何の用だ?」
「待って。アルドはファーレーンとは関係ないんだ。転移罠を踏んで、フォスターク王国から飛ばされて来たんだよ」
「は?フォスターク王国だと?それってお伽話のか?」
「ああ、そうだよ」
門番達はお互いの顔を見合せると、大声で笑い始めた。
「カズイ、お前等、絶対に騙されてるって。悪いことは言わないから、そんな人族とは縁を切れ」
「本当なんだ。アルドはフォスターク王国から飛ばされてきたんだよ」
「分かった分かった。お前がそう思うのならそうなのかもな」
門番達はそう言いながら馬鹿にした笑いを続けている。
カズイはその門番を睨んで眉間に皺を作りながら、オレの入場税を払ってくれた。
「おいおい、フォスターク王国民には偉く優しいじゃねぇか。アルジャナ国民のオレにも何か奢ってくれよ」
「アルド、行こう」
こうして歓迎されない形ではあるが、何とかオレはベージェの街の中へ入る事が出来たのだった。
ラヴィはベージェに戻る途中、”ウチに来れば良い”と言ってくれたが、実際は親や親戚に了承をもらった訳では無い。
今はカズイ達と一緒にラヴィの家の前でラヴィを待っている所だ。
「ラヴィ、ちゃんと説得出来てるかな?」
「どうでしょう。僕はラヴィさんの親を見た事が無いので何とも……」
「そりゃそうか。ラヴィに似て直感で動くタイプかな」
「直感ですか……」
オレは非常に嫌な予感を感じながら待っていると、いきなり玄関が開き練習用の木剣を持った男がオレに怒鳴り出した。
「お前か!ラヴィを誑かした人族のガキは!」
誑かしたって何?ラヴィ……お前は自分の親に何をどうやって説明したのか……
それからカズイの仲裁もあり何とか会話が出来たのだが、ラヴィパパが何を怒っていたのかと言うと、ヤツはいきなりオレに弟子入りして、フォスターク王国へ行くと宣言したらしい。
いきなり自分の娘がそんな事を言い出す物だから、これは騙されていると確信し、冒頭に至ると言う事だ。改めてラヴィパパには、弟子入りと旅の同行は両方共に断った事を説明させてもらった。
「本当にスマン。帰ってくるなり「私はフォスターク王国へ行ってくる」と言いだしてな。しかも「師匠ともなれば家族のような物だ。この家に暫く滞在してもらう」と意味の分からない事を言いだしたから、これは騙されていると確信してしまった」
ラヴィパパ……それは誤解してもしょうがないとオレも思います。
「改めましてアルド=ブルーリングと申します。路銀が貯まるまでの間、泊めて頂けると助かります」
「ラヴィの父親のマハルだ。フォスターク王国の件は悪いが信じられん。ただカズイがここまで言うからには何かあるんだろう。当面はウチに泊まると良い」
「ありがとうございます」
何とか誤解も解け、路銀が貯まるまでの数日間は滞在を赦してもらえる事になった。
「アルド、じゃあ僕達は行くよ。明日は冒険者ギルドに案内するね」
「カズイさん、何から何までありがとうございます」
元々幼馴染みであるカズイ達は家も直ぐ近くらしく、3人並んで帰って行く。
「アルド、早速で悪いが稽古を付けて欲しい」
今の時間は夕方であり、ラヴィは夕飯までの時間に稽古を付けて欲しいらしい。
そんなオレとラヴィをマハルさんは興味深そうに眺めている。
「ハァ、分かりました。僕からは攻撃しませんので好きに撃ち込んで下さい」
「分かった!」
そう言うとラヴィは真っ直ぐに突っ込んできて、木剣を振り下ろしてきた。
やはり遅すぎる……オレは余裕を持って躱し、ラヴィの背後に回って肩を叩いてやる。
「後ろが隙だらけですよ。剣を振った後も集中を切らさないで」
「くそっ!」
ラヴィは必死になって大剣を振って、突いてくるがオレに掠る気配すら無い。
「段々と大振りになってますよ。もっとコンパクトに振って。振った後も次の動きを意識して下さい」
ラヴィはオレの言葉に返事を返す余裕すら無くなって、肩で息をしながら大剣を振っている。
「はい、ここで一端終了しましょう」
「ハァ、ハァ、ま、まだ、ハァ、やれる、ハァ、ハァ」
「僕の師匠から教わった修行方法です。模擬戦をして何が悪いかを話し合ってから、また模擬戦をします。意味も無く時間を費やすのは勿体ないですから」
「ハァ、分かった……ハァ、ハァ」
それからラヴィと模擬戦をし、悪い所と良かった所を話し合ってから、また模擬戦をした。
ラヴィの剣は大剣だけあって威力は申し分ない。
しかしそれも当たればの話だ。
赤い人の言うように「当たらなければどうと言う事も無い」のである。
「ラヴィさんの剣は中型か大型の魔物しか想定してないですよね?」
「む、それは大剣を使う以上しょうがないだろう」
「確かにそうなんですが、対人戦において大剣は必ずしも有効とは言えません。僕の得物である短剣の方が有効なくらいです。何故だか分かりますか?」
「それは相手が人であれば、短剣でも充分に殺せるからだろう?」
「その通りです」
「アルドの言う話だと、逆に短剣では魔物に届かないと言う事じゃないか。私は人を倒したいわけじゃ無い」
「僕が言いたいのはそう言う事では無く、武器には特性があると言う事です。短剣も大剣もそれぞれに得手不得手があります。であれは戦闘ごとにおのずと戦い方も変わってくるはずなんです」
「言いたいことは分かるが、具体的にどうすれば良いんだ?」
「そうですね。対短剣であれば絶対に懐に入らせてはいけません。そうなると大振りは無しで、小さく確実に当てるだけに専念するべきかと」
「なるほど!よし、もう一戦だ!」
ラヴィは嬉しそうに立ち上がると大剣を構えてくる。
オレは苦笑いを浮かべて、何度目かの模擬戦を始めるのだった。
「また負けた……アルドはズルイぞ。何だ、あの武器は……短剣が大剣になるなんて聞いて無い」
「それはそうでしょう。言ってませんから」
「短剣が大剣になるなら武器の弱点が無くなるって事じゃないか!」
「その通りです。これが僕が出した僕なりの答えです。ラヴィさんはラヴィさんなりの答えを出して下さい」
「その技を教えでも貰う事は出来ないのか?」
「この魔力武器は魔法を高度に扱えないと、使い物にはなりません。それにラヴィさんと僕では体の大きさから膂力、魔力、全てが違います。どこまで追い求めるのか、いっそ予備武器を持つのか……ラヴィさんの答えはラヴィさん自身が見つけないといけません」
ラヴィが難しい顔で考え込んでいるとラヴィの母親がやって来て、大きな声で終了を宣言した。
「何時までやってるんだい。夕飯の時間だよ。サッサと手を洗っておいで」
ラヴィママに促されて井戸で手を洗ってから、テーブルについた。
テーブルにはラヴィママであるナーニャさんとラヴィパパであるマハルさん、後はラヴィの弟だと思われる男の子が1人座っている。
「すみません、暫く厄介になるアルド=ブルーリングです。よろしくお願いします」
「お前が姉ちゃんの旦那か。もしかしてオレより若いんじゃないか?」
何かとんでもない誤解をされているのだが……これは強めに否定しておかないと!
「僕には既に妻がいるので、ラヴィさんとはそういった関係じゃありません」
「そうだぞ、ダローナ。アルドは私の師匠だ」
「そうなのか?オレ、兄ちゃん達に姉ちゃんが男を連れ込んだって言っちゃったよ」
「兄ちゃん達か……まぁ、放っておけば良い。説明するのがぶっちゃけ面倒くさい」
「良いんですか……それで」
こうしてラヴィ家で暫くの間、厄介になる事になったのだが、居候の身であるので夕飯の後もノンビリとしているわけにはいかない。
食べ終わると直ぐに夕飯の片付けを手伝い、その後は体を拭くお湯を魔法で出したりと、オレに出来る事は積極的に手伝わせてもらった。
そうして全ての手伝いを終えてから、オレに与えられた部屋のベッドに寝転がり明日からの事を考えてみる。
(明日はカズイに冒険者ギルドへ連れて行ってもらうとして、フォスターク王国のランクは引き継げないよな……そうなると最低ランクからか。旅立つには小金貨3枚は持っていたい。それだけ貯めるのに、どれだけの時間がかかるのか……)
未だにフォスターク王国への道すら分からない。アシェラ、オリビア、ライラの顔が浮かび、涙が溢れそうになるのを毛布を被って誤魔化した。
(明日、冒険者ギルドでお伽話を知っていそうな人物がいるか聞いてみよう。せめてフォスターク王国の方角でも分かれば空間蹴りで何とかなるかもしれない。焦るなオレ、先ずは1歩だ。街には辿り着けた。この1歩はとてつもなく大きい。後は情報を得て路銀を貯めて、腕を治せば旅立てる……)
逸る気持ちを押し殺してオレは無理やり眠りに着いていくのだった。
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